太陽光が差し込む教室

気候変動の影響は極端な気温のアップダウンをもたらし、室内室外にかかわらず対策が欠かせません。今、学校の対策はどうなっているのでしょうか。気候の変化への対策は進んでいるのでしょうか。「子どもたちの環境を後回しにできない」と、行動を起こした大人たちのストーリーです。

暑すぎ、寒すぎ、集中できない教室

気候が変わりつつある今、エアコンの適切な使用などの室温調節が欠かせなくなっています。しかし、日本の建物の断熱性能は先進国の中でずば抜けて低いため、空調システムを使っても、室温は暑さや寒さに左右されてしまいます。

2025年度からはすべての新築の建物に一定の「断熱基準」を守ることが義務付けられますが、今ある家のほとんど(8割以上)は最低限の断熱基準すら満たしていません。そして、それは全国の学校も同様です。住宅の省エネ基準ができたあとも、基準にあわせた学校の断熱改修が国主導で行われたことはありません。

太陽光が差し込む教室
地球温暖化や都市化によるヒートアイランド現象などの要因が複雑に重なり、猛暑日が増えている*。暑すぎる教室では熱中症の危険も大きい。

文科省は2013年度以降、学校の改修費の3分の1を補助する交付金(学校施設環境改善交付金)の支給を開始しており、断熱改修にも使えるとしています。しかし、まずは、耐震改修、次に天井がはがれ落ちる、雨漏りするといった老朽化による不具合の修繕が優先されており、断熱改修は行われていないのが実情です。断熱性能はおろか、安全性を確保する改修も間に合っていないのです。学校施設への公金投入が足りていないために「断熱」には手が回っていません。

実は、日本では学校へのエアコン設置が本格的に取り組まれたのも2018年からと、ごく最近になってからでした。現在は公立学校の95.7%まで設置が進んでいますが、エアコンが稼働していても断熱性能が低いために、教室は「暑くて、寒い」場合が多くなります。新しく建てられた学校に通う子どもたち以外は、外気温に大きく左右される環境で毎日を過ごしているのが現状です。

学校の暑さは後回し?

今、あなたはどんな環境で過ごしていますか? 室内にいるのなら、部屋の温度は何度でしょうか。大人は、自宅でもオフィスでも、体調不良を引き起こすほどの気温から、自分で身を守ることができます。一方、教室で学ぶ子どもたちはそうではありません。熱中症で搬送されるケースや、高温による体調不良が原因で早退する生徒も出ています。

実際にさいたま市にある小学校で、専門家が夏に実施したサーモグラフィー調査の写真を見てみると、教室はほとんど30℃以上を示す赤一色に(白く映っている箇所は赤より高温)。

東京大学の前真之准教授が、さいたま市の小学校の最上階教室でおこなった調査によるサーモグラフィ
東京大学の前真之准教授が、さいたま市の小学校の最上階教室でおこなった調査(写真:東京大学、前真之准教授の発表資料より。解説動画はこちら

驚くことに、設定17℃でエアコンをフルパワーで稼働させての調査です。それにもかかわらず、教室内は35℃を超え、屋上の太陽熱のせいで天井は40℃以上、窓際の気温も非常に高くなっています。この環境で授業を受ける子どもたちは熱中症の危険性と隣り合わせです。

冬場も同様に、室内の熱が外に逃げてしまうために 手がかじかむような寒さにさらされます。コートやジャケットを着たまま授業を受けなければならない場合も。今、学校では快適とはほど遠い環境で子どもたちが勉強しています。

「どうにかしないと!」横浜の女性が始めた署名

「こんな状況がずっと放置されていたの?」と、驚かれた方も多いでしょう。行動した大人がいなかった訳ではありません。保護者や市民グループ、自治体職員、地域の工務店の有志の方たちが、学校の「断熱ワークショップ」を行い、クラウドファンディングなどで資金を集めて、参加型DIYで教室の断熱改修を行うなどの取り組みがなされてきました**

しかし、市民によるボランタリーな取り組みでは、全国の子どもたち全員に快適な学習環境を用意することは困難です。「学校の断熱は国が予算をつけて取り組むべき問題」。そうした考えから、2023年7月20日に、国に対して学校の断熱改修を求める署名活動が始まりました。始めたのは、横浜の女性です。

発起人の一人、梶本寛子さんは横浜に住まい、二人の子どもを持つ母親。2021年から「ゼロ・エミッションを実現する会・横浜(以下、ゼロエミ横浜)※」の活動に参加してきました。寛子さんは、また、グリーンピース・ジャパンに継続的に寄付を寄せてくださるサポーターのお一人でもあります。

学校断熱を求める署名の発起人の一人、梶本寛子さんと2人のお子さん
学校断熱を求める署名の発起人の一人、梶本寛子さんと2人のお子さん

ゼロ・エミッションを実現する会って何?
グリーンピースが事務局を務める「ゼロエミッションを実現する会(通称ゼロエミ)」では、「自分のまちから気候危機を止めたい」という思いを持った市民たちが、自治体に働きかけをしたり地域から仕組みを変えようと活動しています。ゼロエミ横浜はその一グループ。横浜だけでなく、日本全国でローカルにつながることができる仲間を募集しています

学校を訪れ、驚いた教室の暑さ

寛子さんは断熱ワークショップ企画の一環で、2023年7月10日に横浜市の小学校を訪れました。昼前から34度ほどと暑い日で、校内でも空調のない廊下はうだるような暑さ。さらに最上階である4階の教室を訪れると、エアコンがついているにもかかわらず、ムッとする暑気を感じて驚いたそう。「心配になった」と寛子さんは話します。

緊急に立ち上げた学校断熱を求める署名には、なんと3日のうちに1万人以上からの賛同が集まり、子どもの安全を守りたいと考える人たちの強い危機感を感じたといいます。約ひと月の署名活動期間を経て、寛子さんらは8月29日に集まった署名2万7千筆を要望書とともに文科省大臣に直接手渡しました。

2023年8月29日、26,816人分の署名を仲間とともに永岡桂子文部科学大臣と井出庸生副大臣に手渡す
2023年8月29日、26,816人分の署名を仲間とともに永岡桂子文部科学大臣と井出庸生副大臣に手渡す。明確な回答はなかったが、子どもたちが置かれる環境、断熱の重要性をしっかりと伝えた。

温暖化、気候変動、気候災害。どうやって子どもを守るのか

寛子さんが、環境問題への関心を強くしたきっかけは、第一子を妊娠中に里帰りをしていた時に、実家の岡山県で遭遇した洪水被害でした*

西日本一帯を襲った2018年の豪雨による岡山県倉敷市真備町の洪水被害
2018年の7月、西日本一帯を記録的豪雨が襲い、特に岡山県の真備町では4つの川が決壊、甚大な浸水被害が起きた。岡山県倉敷市真備町(2018年8月)

深刻な自然災害を目の当たりにし、お腹に子どもがいた寛子さんは、家をなくした人、赤ちゃんを抱えて避難する人たちのことを考えていました。被害に遭ったのは自分だったかもしれないと感じたといいます。

気候による災害が増えている。気温の変化も大きい。「普通」が変わってきている……。寛子さんはその中で子どもを守るために「仕組みやシステム」を変えていく必要があると考え、ゼロエミ横浜の活動に参加するようになりました。

同じ想いの仲間がいるから

ゼロエミの活動から仲間や機会と繋がり、始まった学校断熱を求める署名は、子どもの学び場を守りたいと考える大人たちの賛同を集め、緊急性を広めました(署名は現在も継続しています。ぜひご参加ください)。

そして、現在、寛子さんと一緒にゼロエミ横浜で活動する仲間の小林悠さんが、子どもたちの未来のために「気候変動の原因と解決策を報道して」と求める署名を7月29日から始めています。

子どもと手を繋ぐ母親

「仕組みを変える」と聞くと、自分にできることなどあるのだろうかと尻込みをしたくなることも。しかし、今、「何ができるのか」を一緒に考え、行動するために繋がろうとする人たちが、変化を起こしています。

続けて読む

▶︎【9/26 (火) 20:00-】【環境のはなしシリーズ第6回】「断熱のはなし」〜日本の現状・気候変動とのつながり〜

▶︎【2023年8月】3分でわかる日本と世界の環境ニュース

▶︎日本の教室がめちゃ暑い 学校の断熱ってどうなっているの?