恵方巻きの隠された現実<売れ残り、食品ロス 経済損失12億円相当>
この投稿を読むとわかること
今年も節分がやってきました。毎年節分が近づくと、いたるところで恵方巻きの広告が目に入るようになります。恵方巻きとは、2月3日の節分に、その年の恵方(2024年は東北東)を向いて食べるとよいとされる太巻き寿司のこと。毎年大量に販売される恵方巻きの売れ残りが大きな問題となっています。昨年2023年には、256万本もの恵方巻きが食品ロスになったという見積もりもあるほど、食品ロスは膨大です。恵方巻きが抱える問題点とは。
推計256万本もの恵方巻きが食品ロスに?
恵方巻きの食品ロスについて調査を続けている食品ロス問題の専門家の井出留美さん。井出さんによると、昨年2023年には、全国のコンビニ・スーパーで調査対象と同様の売れ残りが発生したと仮定した場合には、全国で256万5,773本もの恵方巻きが売れ残った可能性があるといいます*。
2016年に恵方巻きの売れ残りが大きな話題になってから、2019年には農林水産省が需要に見合った販売、予約を推奨する等、業界団体に通知した*2ことも手伝って、恵方巻きの食品ロス問題は多くの人が知るようになりましたが、現在も大量の恵方巻きが食品ロスになっている現実があります。
恵方巻きがはらむ問題はフードロスだけではない
恵方巻きが大量に販売され、大量に売れ残るこの現象は、「経済」にも「環境」にも「社会」にも大きな影響を及ぼしています。2023年度の調査からは以下のような数字が割り出されています。
- 経済: 売れ残りによる経済損失はおよそ12億円以上
- 環境: 135人分の年間二酸化炭素を排出・25mプール570杯分の水の浪費
- 社会: ロスにならなければ約256万人が恵方巻きを食べられた
売れ残って廃棄される恵方巻きの処理には、売り手の企業が処理コストを負担するだけではなく、市民の税金が使われている場合がほとんどです。食事を十分にとれていない人が増えているなか、温室効果ガスを大量に排出し、大量の水を消費し、市民の税金を使って、誰かが食べられたはずの食品を廃棄している。それが現在の恵方巻き文化の悲しい実態です。
販売店も苦悩、扱いにくい商品
企業や売り手には不都合な事情があるようです。販売店としては、節分に恵方巻きを買い求めることが一般的である限り、商品を店頭に揃える必要があります。しかし、当日どれだけ売れるのかも見通しが立ちにくく、日持ちもしにくい食品であるため、ニーズに応えるためには食品ロスが避けられないというのです。
近年では農林水産省の予約販売の推奨があり、予約受付をおこなう販売店が増えています。また、スーパーなどでは、一定の時間帯から大幅値引きをおこなって売れ残りを防ごうとする取り組みも見られました*。しかし、1本あたりの単価が低い恵方巻きの予約販売効果が限定的であること、値下げ対応での売り切りには限界があることは明白です。
毎日お茶碗一杯のごはんをごみに捨てる
農林水産省が発表している日本の食品ロスは、年間523万トンに及びます。日本に暮らす人、一人あたり、1日にお茶碗一杯のごはんに相当する食糧を捨てている計算です。年間にすると、一人あたり、その人が一年に食べるごはんと同じ量が廃棄されています。
世界では10人に1人の8億1,000万人が飢餓に苦しんでいる*にもかかわらず、食べ物の30%は捨てられています*。飢餓の原因は、食糧が足りていないことではなく、公正に分配されていないことです。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、温暖化を進めるCO2排出の約10%は食品ロスに由来しています*。つまり食品ロスが多くなればなるほど、気候危機は深刻化するということ。
世界の200人近いの科学者や専門家が検証し、地球温暖化を「逆転」させる解決策を提示している「ドローダウンー地球温暖化を逆転させる100の方法」というレポートでは、食品ロスをなくすことは、気候変動対策として実現の可能性と費用対効果が高い方法の3番目に位置付けられています。
日本政府は、2030年までにサプライチェーン全体で食品ロスを半減する(2000年比)という⽬標*を掲げていますが、目標の2030年まであと6年に迫る今、効果のある削減策を国が主導する必要があります。
食品ロスを避けるために私たちにできること
食品を買い、ものを食べる私たちには、何ができるのでしょうか? 効果的な恵方巻きとの向き合い方はどのようなものなのでしょう。
・専門店、売り切りを徹底している店で買う
寿司専門店や、予約のみの販売を行なっている店舗、売り切りの努力をしている個人店などを探しましょう。そうした姿勢を応援する意図で、投票としての購入をおこなうことができます。
・自分でつくる
時間がある人は、家で作ってみましょう。好きな材料を選んで作ることができますし、野菜を使ったプラントベースの恵方巻きもいいですね。
・食べなくていい
四季折々、時節を楽しめる文化は素晴らしいですが、儲けを狙った企業の戦略が文化を利用しているに過ぎないイベントは少なくありません。伝統行事の由来や歴史を知って、それに敬意を払うことが大切です。
実は恵方巻きも、起源には諸説あるものの、地方の一部の人々に広まっていた風習を企業やマーケターがひろめたものといわれています*。「恵方巻き」という名づけ自体もその時に大手コンビニエンスストアが行なったといわれ、比較的近年できた風習、食べない選択が文化を尊重しないことにはなりません。
本当に必要なものを選ぶために
節分の「恵方巻き商戦」は今や、クリスマスのケーキやバレンタインのチョコレート、ハロウィンのお菓子などと同様に、高い経済的利益を狙ったマーケティング戦略となっています。
広告やSNSの情報があふれる社会のなかで、自分にとって必要なものを選び取るのはますます難しくなってきています。友人や大切な人との会話で、恵方巻きなど身近な例を使って食品ロスについて話してみるなど、対話の機会を作ることで、食品ロスを減らすアクションの輪を広げていきましょう。(2023年2月1日の記事をリライト、編集)
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