カナダ、ハワイ・マウイ島、ギリシャー森林火災はなぜ起きた? 2023年、世界中で森林破壊が記録を更新する理由
この投稿を読むとわかること
2023年、森林火災が世界中で記録を更新し続けています。カナダでは今年の前半だけで950万ヘクタールもの森林に火災が広がり、ハワイ・マウイ島では森林火災による猛烈な火の手で歴史ある街・ラハイナが全焼、ギリシャでもEU史上最大となった森林火災が猛威を奮いました。実際この20年で、火災による森林の喪失は2倍に増えています。その背景にある重要な要因の一つが、気候変動です。
2023年に記録を更新した世界の森林火災
最新の研究で、森林火災が、20年前と比べて約2倍の森林面積に被害をもたらすようになっていることが明らかになりました。米国のメリーランド大学の研究者によると、現在、2001年と比べて1年に300万ヘクタールも広く森林火災が広がるようになっています。
2021年に930万ヘクタール、2022年に660万ヘクタールと、今世紀最悪水準の森林火災が続いており、今年2023年も、カナダ、ギリシャ、ハワイ・マウイ島、ロシアなど、世界各地で森林火災が猛威を振るっています*1。
カナダ – 非常事態宣言発令「史上最悪のシーズン」
カナダ森林火災センター(Canadian Interagency Forest Fire Centre)によれば、今年1月から7月までの間に、950万ヘクタールもの森林に火災が広がりました*1(北海道は834万ヘクタール)。9月現在も火災は広がっており*2、この喜ばしくない記録がさらに伸びることが懸念されます。
8月には、西部のブリティッシュコロンビア州で400件近くの森林火災が発生し、州政府は「史上最悪の山火事シーズン」だとして、18日に非常事態宣言を発令*3、3万世帯に避難命令、3万6,000世帯に避難勧告を出しました*4。
200件以上の森林火災が発生したノースウエスト準州でも、州都イエローナイフや主要高速道路に火の手が迫り、準州の人口の約65%にあたる2万9500人以上が避難命令を受け、一斉に避難しました*5。
今年の火災で、消火活動にあたっていた消防士4名が命を落としました*4。さらに、森林火災による煙がアメリカ南東部まで広がり、特に北東部では数十年で最悪水準の大気汚染の被害に遭うことになりました*6。
カナダでは、例年森林火災シーズンがありますが、ここまでの広がりを見せることはなく、まさに「史上最悪のシーズン」となっています。
欧州の地球観測プログラム・コペルニクス大気モニタリングサービス(CAMS)は、カナダの森林火災がここまで広がったことには気候変動が影響しており、「気温が上昇し続け、乾燥状態が長期化するにつれ、カナダで発生したような壊滅的な森林火災に見舞われるリスクが高まっている」と声明を発表しています*6。
ハワイ – 米国近代史上最も被害者の多い森林火災に
ハワイ王国時代からの歴史を誇る古都ラハイナの2,200の建物を全焼させ、少なくとも97人の命(9月20日現在)を奪ったハワイ・マウイ島での森林火災の悲劇的なニュースは、世界中を悲しみで包みました*7。この火災は、近代のアメリカで、最も死者数を多くだした森林火災の一つとなりました*8。
火災の原因は現在でも調査中ですが、専門家は強風により落下した電線が発火させた可能性があると指摘しています*7。
ハワイ州では、1年間に森林火災が起きる面積が数十年で4倍になっています。気候学者は、気候変動による乾燥と高い気温、そして森林火災で燃え広がりやすい外来種の雑草の拡散によって、火災の被害が大きくなっていると指摘しています*7。実際に、米国干ばつモニター(U.S. Drought Monitor)によれば、火災発生時、マウイ島の南西部は中程度から重度の干ばつの最中にありました*9。
ギリシャ – EUで最大の森林火災
ギリシャで発生した森林火災は、2000年に欧州森林火災情報システム(EFFIS)が記録を開始して以来、EUで最大の森林火災となり、ニューヨーク市の面積よりも大きい8万1千ヘクタールに火災が広がりました*10。
北東部では、ダディア国立公園での大規模な森林火災により、20人が死亡しました。そのうち18人は、隣接するトルコを経由して入国した難民と見られています*10。
欧州委員会は、「森林火災は確実に悪化しています。過去の数年の数値を見れば、好ましくない傾向が見て取れます」と話しており、ギリシャ政府と専門家は、気候変動による影響を指摘しています*10。
ロシア – 東部の大規模な森林火災で非常事態宣言
ロシアでも森林火災が猛威を振るっています。最も大きな被害が出ている東部のヤクティア(サハ共和国)では、111件の森林火災が発生、18万ヘクタールもの広大な範囲に火災が広がり、非常事態が宣言されました*11。
ヤクティア政府は、「ここ数日強まっていた猛暑と雷雨によって、状況が複雑化した」と発表しました*12。
世界の森林の5分の1を擁する*11ロシアでも、近年森林火災の被害が加速しています。2021年には、ロシアでは540万ヘクタールもの森林が火災関連で失われました。これは過去20年で最大の面積となり、前年から31%も増加しています*1。
気候変動が森林火災を加速させている
このように世界各地で森林火災の被害が拡大している重要な要因の一つとして、気候変動があります。
産業革命後からすでに地球の平均気温は1.2度上昇しており*13、150年前と比べて極端な熱波*は5倍起こりやすくなっています*1。気温が高くなると、土地が乾燥し、森林火災がより起こりやすく、より広がりやすくなってしまいます。地球温暖化がさらに進むと、熱波が発生しやすくなると予測されています*1。
*熱波 地域の平均気温に比べ著しい高温が続く気象現象
過去20年間で起きた火災関連の森林喪失の約70%は北半球の北方地域で起きていますが、それには緯度が高いこの地域で他よりも早く温暖化が進んでいることが影響していると考えられています。北方林の森林火災は自然現象の一部であるとはいえ、それによる森林喪失は過去20年間で毎年11万ヘクタール(3%)のペースで増えています*1。
負の連鎖 – 森が燃えると、気候変動が悪化する
北方林は、地上の炭素の30%から40%を蓄えています。森林火災によって、樹木や地中の炭素が放出されると、温暖化が加速し、さらに森林火災が起こりやすくなります*1。温暖化を止めない限り、森林火災と温暖化は、負の連鎖を続けることになります。
北方林では、永久氷土を含む土壌の地下に多くの炭素が蓄えられているため、これまでは自然に起こる火災から守られてきました。しかし、温暖化と増加した森林火災により永久氷土が溶け始め、地中の炭素がより放出されやすくなりつつあるのです。*1。
例えばカナダでは、2023年に森林火災によって放出された二酸化炭素は、410メガトンと見積もられています。これまでの記録は2014年の138メガトンで、大差をつけてカナダ史上最大値となっています*6。
エルニーニョ現象による熱帯地域での森林火災に注意
気候変動によって火災が広がりやすくなっていることに加え、今年発生しているエルニーニョ現象による森林火災への影響も懸念されています。
エルニーニョ現象は、2年〜7年の周期で自然に発生する気候サイクルで、地球上の一定の地域で気温の上昇と降水量の減少を招きます。今年も6月に発生し、来年まで続くことが予想されています。
2015年から2016年にかけてエルニーニョ現象が発生した際には、東南アジアや南アメリカなどの熱帯地域で、火災による森林消失が10倍になった例があり、今年も森林火災への影響が懸念されます*1。
北方林と同様、熱帯林も重要な炭素の貯蔵源となっており、森林火災による炭素放出は温暖化に深刻な影響をもたらします。ブラジルのアマゾンは、森林火災による炭素放出により、炭素の貯蔵源から排出源に変わるティッピングポイントに近づいているとも指摘されています*1。
森林火災と温暖化の負の連鎖を断ち切る
過去20年で森林火災の面積が2倍に増えている一方で、世界の温室効果ガスの排出量は減るどころか、増えています*13。
森林と、そこで暮らす生きものたちの命、そして私たち自身の命を守るためには、気候変動と森林火災の負の連鎖を断ち切り、これ以上の悪化を止めなくてはなりません。
11月末から開催されるCOP28では、日本を含めた高排出国のリーダーたちは、森林火災や干ばつ、豪雨、海面上昇など、世界各地を襲う異常気象の実態とその責任から目を背けることなく、温室効果ガス削減について野心的な目標と実行を約束する必要があります。
グリーンピースは、世界55の国と地域で活動する国際的なネットワークを活かし、COPなどの国際的な意思決定のタイミングに向けて、各国の政府担当者やメディアへ働きかけを行っています。また、現場にもグリーンピース代表団を派遣して、ロビーイングを行っています。去年エジプトで開催されたCOP27には、グリーンピース・ジャパンのシニア政策渉外担当・小池も参加しました。
COPを数カ月後に控えた今、私たち市民が温暖化に大きな危機感を持っていることを政府に伝え、行動を促していくことが重要です。
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