グリーンピースがイタリア半島の西側に広がるティレニア海での調査で見つけたマイクロプラスチック。(2020年7月)

海の生きものや環境への影響が問題となっている「マイクロプラスチック」。マイクロプラスチックをなくしていくために、私たちにできることはあるのでしょうか。その定義や問題点、減らしていくために私たちがとれるアクションを見ていきましょう。

マイクロプラスチックとは?定義、種類

マイクロプラスチックの定義

マイクロプラスチックとは、直径5ミリ以下の微小サイズのプラスチックです。

環境に流出したマイクロプラスチックは少なくとも約260万トン*(2019年時点)あると推定されており、近年では海洋生物をはじめ、人体や食べ物、飲み水、大気などと広範囲で検出されています。海洋プラスチック問題と一緒に語られることが多いものの、陸にあるマイクロプラスチックは地域によって海の約4倍から23倍にも*およんでおり、決して海に限った問題ではないことがわかります。

フィリピンのマニラ湾に浮かぶ、ユネスコ認定のマングローブ湿地公園では、多くのプラスチックごみが見つかった(2024年10月)

マイクロプラスチックの種類

マイクロプラスチックは大きく二つの種類に分けられます。

一次マイクロプラスチック

一次マイクロプラスチックとは、生産された時点で直径5ミリ以下のものを指します。身近なものでいうと、洗顔料や歯磨き粉などのスクラブ剤に含まれるマイクロビーズが当てはまります。そのほか、プラスチック製品の原料となる樹脂ペレットも含まれます。

二次マイクロプラスチック

二次マイクロプラスチックは、外的要因で5ミリ以下になったプラスチックのことを指します。レジ袋や食品トレー*、自動車のタイヤのゴム*や塗料*、タバコの吸い殻*、また、プラスチック製素材の洋服(ポリエステル、ナイロンなど)を洗濯するときに出る繊維くずも含まれます。

以下の表は、一次プラスチック、二次プラスチックそれぞれの海への年間流出量の平均値を示したデータです*

種類海への年間の流出量(推定)
洗顔料をはじめ、ケア商品一次マイクロプラスチック5万7000トン
合成繊維二次マイクロプラスチック21万1000トン
樹脂ペレット一次マイクロプラスチック25万4000トン
タイヤ二次マイクロプラスチック97万3000トン
塗料二次マイクロプラスチック130万1000トン
使い捨て容器などのマクロプラスチック二次マイクロプラスチック756万8000トン
※マイクロプラスチックの発生源ごとの海への流出量は、引用先である論文、「Twenty years of microplastic pollution research—what have we learned?」の著者が国際連合環境計画(UNEP)や経済協力開発機構(OECD)をはじめ、計8つのデータをもとに出した平均値。引用:Thompson et al. Twenty years of microplastic pollution research—what have we learned?. Science. 2024, Volume 386, Issue 6720 p.5

プラスチックの処理における難点

海をはじめ環境への流出が問題視されるマイクロプラスチックですが、「そもそもしっかりと処理がされていれば、プラスチックも、マイクロプラスチックも環境に放出されてしまうことはないのでは?」と思うかもしれません。

しかしながら、マイクロプラスチックは微小サイズのため、たとえば合成繊維の繊維くずやマイクロビーズなどは排水溝から下水処理を通じて、海に流出してしまいます。

グリーンピースが北海での調査で見つけたマイクロプラスチックのサンプル。(2016年11月)

「ならば、リサイクルは?」と思いますが、プラスチックのリサイクル率は非常に低く、これまで世界で生産されてきたプラスチックのうち、たったの9%しかリサイクルされてきませんでした。残りの50%は埋立地に運ばれ、19%は焼却され、22%は適切な処理がされないまま陸や河川、海などに流出してしまっています*

世界でこれまでに生産されたプラスチックごみの行方*
埋立処分50%
適切な処理がされず陸や海などに流出22%
焼却処理19%
リサイクル9%
引用:Global Plastics Outlook 2022(OECD)

プラスチックは石油や天然ガスなどの化石燃料でできているため、埋め立てられたものや、適切な処理がされていないものについては、長年頑固に原型を保ちます。たとえば、ペットボトルが海中で分解されるには約450年*かかると推定されています。

特に先進国では自国で処理しきれないほどのプラスチックを消費しており、途上国などにも輸出をしてきました。途上国はごみの処理システムが不十分な傾向にあり、自国のごみ処理すらも間に合っていないところが少なくありません。結果として大量のプラスチックごみが陸などで山のように積まれている場所もあります。マイクロプラスチックは一度流出してしまうと回収が困難なのも難点です。

コンゴ民主共和国の港町マタディと、首都キンシャサでボランティアの人々が拾った空のペットボトル(2024年10月)

マイクロプラスチックが抱える問題点

マイクロプラスチックの問題点も見ていきましょう。

添加剤が使われている

プラスチックには、紫外線で壊れないようにするための「紫外線吸収剤」や、燃えにくくするための「難燃剤」などの添加剤が使われています。これらは内分泌系に影響をおよぼす「内分泌かく乱作用」を持つため、生体に有害な影響を引き起こす原因にもなります*。一つひとつの製品に含まれる添加剤は少ないものの、水に溶けにくいため、プラスチックにそのまま残留します*

有害な化学物質を吸着しやすい

マイクロプラスチックは、有害な化学物質である「残留性有機汚染物質(POPs)」を海水中から吸着しやすい性質があります。

POPsは水に溶けにくく、油に溶けやすいため、石油由来のプラスチックの表面に吸着しやすいのです*。そしてマイクロプラスチックにくっついた化学物質は、周囲の海水と比べて10万倍〜100万倍の高濃度に濃縮されるという研究結果もあり*、それらを食べてしまう海洋生物などへの影響が懸念されています。

※POPsは2004年に発効した「POPs条約」で製造、使用、輸出入などに規制がかかっている化学物質です*

海洋生態系に影響を与える

マイクロプラスチックの多くは海を漂い、その数は50〜75兆個におよぶと推定されています*

プラスチックを摂取した海洋生物の種類は、報告されているだけでも690以上*もあり、たとえば東京湾で捕獲されたカタクチイワシのうち、約8割の消化菅からマイクロプラスチックが検出されたこともあります*

さらには食物連鎖を通じて、マイクロプラスチックが小さな動物から大きな動物へと取り込まれた例もあり*、その過程で化学物質の汚染濃度が高まる*ことも懸念されています。

サルガッソ海で泳ぐウミガメ。この海域でのグリーンピースの調査では1回のサンプルから1,298個ものマイクロプラスチックが見つかった。その数はいまやフランスの2倍の面積と推定される太平洋ゴミベルトを上回る*(2019年8月)

人体に影響を与える

マイクロプラスチックは大気や土壌、飲み水にも広がり*、これまで人間の血液や母乳、肝臓、心臓*などから検出されています。

吸着する有害化学物質のうちには発がん性がある*ものもあるため、それを誤飲した魚介類などを食べる私たちへの影響について研究が進められてきました。

検出されるマイクロプラスチックのサイズは0.02〜0.4ミリ*などと小さく、ほとんどは排泄されると考えられてきたものの、その長期的な影響やどれほどの害があるのかについてはまだ明確にわかっていません。

化石燃料でつくられている

海洋生態系や環境汚染、健康への影響が懸念事項としてよく挙げられるマイクロプラスチックですが、気候変動への影響も注視したい点です。石油や天然ガスなどの化石燃料を原料とするプラスチックは、生産の過程で多くのCO2を排出してしまうからです。

気候変動をこれ以上悪化させないための「1.5度目標(※)」の達成においてもプラスチック生産量の削減は必須で、具体的には2050年までに75%以上の削減*(2019年比)が必要だといわれています。

※1.5度目標とは、産業革命前と比べて、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることを指します。2020年に開催された国連の第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の成果文書にて、「気温の上昇を1.5度に抑えるための努力を追求する」とされました*

マイクロプラスチック問題に対する各国の取り組み

世界の取り組み

世界では、排水溝から下水処理を通り、海に流出する一次マイクロプラスチックである「マイクロビーズ」を含む製品の販売を禁止する国が出てきました。韓国、イギリス、台湾、ニュージーランド、カナダが含まれます*

やがて二次マイクロプラスチックになる5ミリ以上のプラスチック製品への規制もあります。

台湾では、2030年までに使い捨てのプラスチック製のカップやストロー、食器、レジ袋の全面的禁止*を目指しており、フランスではすでに果物や野菜などのプラスチック包装が禁止*、サンフランシスコでは2014年に市の施設や敷地でのペットボトル入り飲料水の販売を禁止する条例を成立させています。

ただ製品ごとの規制はあっても、プラスチック全体への規制はなく、さらには各国の取り組みにもばらつきがあります。

そこでいま世界が関心を向けているのは、国連で制定が決定した「国際プラスチック条約」です。強力な条約が実現できれば、製品を問わず、プラスチックそのもののの生産量や消費量を世界的に削減できる可能性があります。詳しくは以下からご確認ください。

日本国内での取り組み

日本は一人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量がアメリカに次いで2位でありながらも、他国と比べるとプラスチックへの対策は不十分な状況です。

マイクロビーズに関しては、自主規制の要請にとどまっており*、2019年に策定された「プラスチック資源循環戦略」にはプラスチック容器包装の使用を禁止するような方針の記載がなく、リサイクル、リデュース、リユースの3Rを掲げながらも、現状、リサイクルに重きが置かれています*

リデュース(減らすこと)の強化やリユース(繰り返し使うこと)のシステムを導入することによって、プラスチック使用量を大幅に削減するようなしくみづくりが求められます。

マイクロプラスチック問題の解決に向けて、私たちにできること

マイクロプラスチック問題を根本から解決する方法を知る

マイクロプラスチックを減らすためには、プラスチックの生産量や使用量を減らすための取り組みが必要です。具体的には、以下のようなことに取り組んでいけることが理想的です。

  • リサイクルや代替素材に頼るのではなく、リユース・リフィルのシステムを利用・構築する
  • 懸念されている化学物質を製造段階で排除する*
  • プラスチックを原料の採掘を含めた生産から規制し、生産量を大幅に減らす
  • プラスチック汚染に大きく貢献してきた企業の責任範囲を明確化する

など

リユース、リデュースに取り組む

誰もがいますぐ始められるのは、リユース(繰り返し利用)とリデュース(そもそもの使用量を減らしていくこと)です。「リサイクルはダメなの?」と思うかもしれませんが、実際にこれまで生産されてきたプラスチックのうち、リサイクルされてきたのはたったの9%です。

プラスチックをリサイクルできる回数は種類によって異なりますが、ほとんどの場合は1、2回程度*、多くても8回ほど*です。

使い捨てごみを出さずに買い物できる場所を知りたい!という方々に向けて、プラスチックフリーで買い物できるスポットをまとめた地図をつくりました。ぜひご活用のうえ、リユース、リデュースに取り組んでみてください!

量り売りの店舗ならリユース容器に必要な分だけ入れて、プラスチックフリーで買い物ができる。Natalia Deriabina/Shutterstock

システムチェンジを求めて、声を上げる

「プラスチックのものをできるだけ買わない」などの工夫はとても大切ですが、一人でできることに限界を感じることもあるかもしれません。そんなときは署名などを通して、大きな変化をもたらすことができる企業や国にシステムチェンジを求めてみましょう。

国連で制定が決定した「国際プラスチック条約」はその一つのチャンスです。「マイクロプラスチック問題を根本から解決する方法を知る」で挙げたすべてのことに取り組める可能性を持った条約で、プラスチックを世界的に規制できるかつてない機会ともいわれています。

この条約に関する最も重要な会合が2024年11月末に韓国・釜山で実施されます。2022年から約170もの国連加盟国や関係国際機関、NGOなどが議論を進めてきた条約が、いよいよ最終調整の段階を迎えます。

しかし、プラスチックの原料である化石燃料に支えられてきた国や企業は「各国が必要に応じて自主的なアプローチをとる」*などと消極的な姿勢を見せており、こういった声が優先されてしまえば、プラスチック生産量はいまの3倍にも膨れ上がると予想されています。

プラスチックを大幅に減らすまたとないチャンスをしっかりと生かし、効果のある条約が実現されるよう、ぜひ以下の署名から声を上げましょう。

まとめ

マイクロプラスチックを減らしていくには、プラスチックを生産の段階から大幅に減らすしくみづくりが必要です。これまでプラスチックの生産量を削減できる取り組みがなかったなか、国連で制定が決定した「国際プラスチック条約」は大きな希望です。2024年11月末に韓国・釜山で行われる最も重要な会合にて、野心的かつ効果的な条約が実現されるよう世界のリーダーたちを後押ししましょう。