地球が沸騰する前に-なぜ今トヨタを応援するのか。
2025年の夏、日本は観測史上最も暑い夏を記録しました。毎年「史上最高」を更新し続ける夏の暑さ。異常な事態の背景には、温室効果ガス排出が原因にあります。
自動車産業や交通部門の脱炭素化を目指すDrive Changeキャンペーンは9月末、トヨタ自動車の豊田会長と佐藤社長宛のオンライン「応援署名」を開始しました。
日本を代表するトヨタ自動車の排出量は日本全体の半分以上に匹敵します。私たちは署名を通して何を求めているのか、キャンペーンの背景を解説します。
この投稿を読むとわかること
毎年「史上最高」を更新する異常な暑さ
今年の夏(6-8月)の全国平均気温は統計開始の1898年以来、最も暑くなりました1。
これまで最も暑かった2023年、2024年のプラス1.76度を大幅に超え、平年より2.36度2も高くなりました。過去130年間の中でまさにダントツの暑さです。
下の図は日本全国の夏の平均気温を色で示した図です。2025年の夏は30℃を示す赤色が際立って目立っています。昔と比較するとその違いは一目瞭然です。昔は、たしかに涼しい日が多かったのです。

気候危機はもう「いつか来る未来の話」ではなくなっています。
暑すぎて子供たちが外で遊べない。農作物が育たない。野菜の値段が急騰した。熱中症で搬送された。豪雨災害で家が浸水、倒壊した。今この瞬間も私たちの日常を脅かしています。
私たちは「史上最高の暑さ」を更新し続けてもいいのでしょうか。来年はさらに暑い年を迎えてしまうのでしょうか。そんな10年後、20年後を迎えたいでしょうか。
地球の限界はもう目の前

気候変動についての国際会議COPが始まってから今年で30年。
多くの人々の努力にも関わらず、残念ながら気候変動は気候危機へ、地球温暖化は地球沸騰化3へと呼び名が変更されるほど深刻度を増してしまいました。
2015年のパリ協定では、世界共通の目標に「産業革命前と比べて地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑える」ことを定めました。
この1.5℃は「目標」とも呼ばれますが、正確には地球の「限界点」なのです。これを超えると連鎖反応的に気候危機が加速してしまう、それを何とか回避できる限界の数字と認識されています。
それにもかかわらず、2024年には一時的ではあるものの、この1.5℃、つまり限界点を超えてしまいました4。
地球の限界点については「プラネタリー・バウンダリー」の提唱で知られるヨハン・ロックストローム博士(現ポツダム気候影響研究所所長)の動画が非常にわかりやすいです。https://www.youtube.com/watch?v=jL5CamQTPH0
2023年、世界の排出量は過去最高に

気候変動の背景には温室効果ガス(GHG)の排出があります。残念ながらGHG排出量は年々増加傾向にあり、2023年には過去最高を記録しました5。
IPCCの報告では、気温上昇を1.5℃程度に抑えるためには世界のGHG排出が「2025年頃にピークを迎える必要がある」と報告し、2030年までに世界全体で43%の削減が必要としています6。
まさに今が排出のピークを迎えるべき時であり、これ以上の排出は抑え、ここから減らしていく必要があるのです。
熱中症、豪雨などによる水害や土砂災害、作物への被害などの「気候被害」は、日本でも今後さらに増えていくことが予想されています。だからこそ、いかに早い時期に、確実に温室効果ガスの排出を減らすかが決定的に重要です。
排出と深い関係のあるクルマ

各国の排出構造を見ていくと、産業部門や輸送部門が多くの排出を占めているケースがあります。日本の場合、最も多くを占めるのが産業部門(全体の約3割)で、次に運輸部門(全体の約2割)と続きます7。
この二つの部門に深くかかわっているのがクルマです。たとえば産業部門では、車のボディにも使われる「鉄鋼」をつくる過程で大量の温室効果ガスが発生しています。輸送部門は、クルマなどで人やモノが移動した場合の排出が含まれます。
こうした背景から、グリーンピースのDrvie Changeキャンペーンではクルマからの排出を減らし、よりよい移動の在り方を実現するために、各国政府や企業にさまざまな働きかけを続けてきました。
その中でも、大きな鍵を握っていると考えているのが、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車です。

トヨタ自動車の環境責任は
2024年、トヨタさんは1082万台の車を販売し、5年連続で世界販売台数トップとなりました8。まさに世界最大ともいえる企業のひとつです。
日本の半分以上に匹敵する排出量
そんなトヨタさんの2023年度の温室効果ガス総排出量(※)は5億9,289万トン9でした。

日本の年間排出量10と比較すると、その半分以上にも匹敵する規模です。日本の温室効果ガス排出量は世界第5位11ですので、1社だけで1国分にも相当するほどの温室効果ガスを排出していることになります。
※総排出量=多くの企業が採用する排出量の国際基準「GHGプロトコル」に基づく数値。自動車の製造・販売・使用・廃棄に加え、出張や通勤などあらゆる事業活動に伴う排出を含む。
排出のほとんどは「ガソリン車の使用」
総排出量の中でも、最も多くの排出を占めているのが「販売された車の使用」に伴う排出です。
トヨタさんの全体の排出のうち74%は排気ガスを出すガソリン車(ハイブリッド車も含む)からの排出が占めているのです。
つまり、トヨタさんがガソリン車の販売台数を増やせば増やすほど、排出量も増えていくのです。

(出典:トヨタ自動車「2024年サステナビリティデータブック」よりグリーンピース作成)
トヨタさんは「環境に優しい」会社?
トヨタさんは「2050年までのカーボンニュートラル達成」12を宣言しています。そのために、クルマやその部品、燃料の製造・運搬・使用・廃棄・リサイクルなど、クルマの一生を通して発生するCO2を限りなくゼロにすることなどを目指しています。
比較的早い時期にこのような目標を打ち出し、着々と歩を進めてこられた企業努力は素晴らしいものです。
販売台数に伴う排出量の増加
特にハイブリッド車(HV)の量産化は環境技術の歴史に残る功績でした。1997年、トヨタさんはHVを世界で初めて量産13し、新車1台あたりの排出量を減らしてきました(例外あり)。
最初の量産型HVとなったプリウスの発売当時、「21世紀に間に合いました」とCO2排出量の半減をうたったCMは印象的でした。以来、約30年に渡ってトヨタさんはHVの改良を続けています。
ところが、HVの改良がされているにも関わらず温室効果ガスの総排出量は増え続けています。それは1台あたりの排出量を削減できても、販売台数が増えれば、それだけ排出量は増えるから。
だからこそグリーンピースでは、1台当たりの排出量ではなく全体の排出量である総排出量に着目し、削減していくべきだと考えています。

1.5℃には間に合わない排出削減目標
もちろんトヨタさんも排出量の削減目標を掲げていますが、現在の危機の規模と、対処のために求められるスピードには全く追いつきません。
具体的には2019年比で2035年までに、スコープ1・2(自社の工場やオフィスからの直接排出・間接排出)の排出量を68%削減する14としていますが、販売された車からの排出などを含むスコープ3や、全体の排出量については明確な削減目標を公表していません。
スコープ1・2の排出削減は、全体から見ればほんのわずかな数値にしかなりません。残りの大部分を占めるクルマの使用段階での排出削減に踏み込まなければ1.5度目標は達成できないのです。「2050年にカーボンニュートラル達成」という目標は、あまりにもざっくりしすぎです。
スコープ3を含む総排出量の削減目標を明確に掲げている自動車メーカーは、まだわずかです。これらの企業はいずれもトヨタほどの販売台数はなく、世界トップの市場規模を誇るトヨタさんが総排出量の削減を打ち出す意義は格段に大きいはずです。
脱エンジンへのシフトを

クルマは廃車となるまで15年ほどかかるので、2025年に販売されたガソリン車は2040年ごろまで温室効果ガスを排出することになります。
トヨタさんは、すでに販売され使用されている車からの排出を減らすため、ガソリン車の燃料をバイオ燃料に置き換えようとする技術開発にも取り組んでいます。
この努力は必要ですが、温室効果ガスの総排出量を根本から減らすには、化石燃料を使うクルマの販売を段階的に減らしていくことが不可欠です。
今、世界では気候変動対策に逆風が吹いています。トランプ大統領が政権復帰したアメリカでは、ZEV(ゼロエミッション車)政策が見直され、EV補助金が打ち切られるなど、ガソリン車回帰への懸念が高まっています。
こうした情勢下にあるからこそ、トヨタさんのような影響力の大きな企業の姿勢が、これまで以上に重要です。技術や資金を持つ日本などの先進国や大手企業は、一刻も早く総排出量の削減を進めていくことが求められています。
トヨタさんを脱炭素のリーダーへ

トヨタさんが、これほどの大企業へと成長した背景には、卓越した技術力、安全性への信頼、そして利用者や社会の視点に立って挑戦を続けるスピリットがあるからこそです。それこそが、「トヨタのクルマが好き」と世界の人々が言う理由であると思います。
先日、グリーンピースが熱中症・水害・農林畜水産物損害の経験者(気候被害者)を対象に行ったアンケート調査では「トヨタ自動車が総排出量を減らすことを打ち出したら、どう思うか」という問いに対し、「大いに支持する」「ある程度支持する」と答えてくださった方が合わせて88.1%にも上りました。
そこでグリーンピースは「期待」と「応援」の気持ちを込めた署名を呼びかけることにしました。
この署名を通して、世界中から応援の声を集め、トヨタさんが脱炭素分野においてリーダーシップを発揮する後押しをしたい、総排出量の削減について具体的な目標を設定してほしい、と考えています。
日本が誇るメーカーが、脱炭素分野においてもトップ企業となってくれれば、これほど誇らしいことはないと考えます。
グリーンピースは、2021年にトヨタの社長さん宛にお手紙を差し上げて以来、働きかけを続けてきました。
ありがたいことに、担当部署の方と意見交換を何度もさせて頂き、トヨタさんが気候変動に向き合い、社内で真剣に議論されている様子を感じています。だからこそ、増え続けている自社の総排出量を強く懸念されているはずだとも感じています。
「1.5℃に間に合いました」の宣言、お待ちしています

トヨタさんの選択は、そのサプライチェーンや業界全体への波及効果などから、地球全体の未来を左右する規模のインパクトを持っていると考えています。トヨタさんが変われば、業界全体の脱炭素も加速を始めるのではないでしょうか。
1.5℃目標に整合する総排出量の削減目標を打ち出すことは、経営計画を大きく変更することにもなり、とても困難な挑戦だと認識しています。でも、先見性と高い技術力を持つトヨタさんだったら、その困難に挑んで下さるのではないかーー。
トヨタさんに「1.5度に間に合いました」という削減目標をぜひ出していただきたい。
もしこの記事を読んで、少しでも共感してくださったなら、あなたの声をトヨタさんに届けてください。応援署名で、未来を変える一歩を一緒に進めましょう。いただいた応援メッセージはトヨタ社長へ直接お届けします。
▼Drive Changeキャンペーンについて詳しく知りたい方は過去の配信メールをご覧ください。
第1回:異常気象が増える今、見つめなおしたい「○○」(6月25日配信 )
第2回:【反響800件超】クルマと気候危機、自動車メーカーの排出とは?(8月1日配信 )
第3回:クルマも地球も、どちらも大切にしたいあなたへ(9月6日配信)
第4回:「クルマがないと暮らせない」を変えたい(9月10日配信)
第5回:「公共交通は赤字」負のサイクル脱出へのヒント(9月22日配信)
第6回:ガソリン車よりEVを推したい、その理由は?(9月26日配信)
第7回:応援署名でトヨタさんにメッセージを届けませんか?(10月3日配信)
出典一覧
- 気象庁「2025年8月の季節予報(長期予報)」2025年7月25日 ↩︎
- 気象庁「2025年8月の季節予報(長期予報)」2025年7月25日 ↩︎
- 国連事務総長メッセージ「気候変動に関する声明」2024年9月10日 ↩︎
- 国連広報センター特集「気候変動:今こそ行動の時」2024年11月19日 ↩︎
- 国連環境計画(UNEP)「Emissions Gap Report 2024」p.4 ↩︎
- IPCC「第6次評価報告書 第3作業部会(WGIII)報道発表」(2022年4月4日) ↩︎
- 環境省「令和6年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書(概要版)」(2024年6月) ↩︎
- 日本経済新聞「トヨタ、EV販売目標を上方修正」(2025年1月29日) ↩︎
- トヨタ自動車「サステナビリティデータブック2024」p.52(2024年7月) ↩︎
- IEA「Greenhouse Gas Emissions from Energy」データセット(更新日:2024年11月) ↩︎
- 全国地球温暖化防止活動推進センター「世界の温室効果ガス排出状況」 ↩︎
- トヨタ自動車「サステナビリティデータブック2021(環境)」p.17(2021年7月) ↩︎
- トヨタ自動車「75年史:グローバル企業としての飛躍 第4章 第8節 第1項」 ↩︎
- トヨタ自動車「サステナビリティデータブック2024」p.48 ↩︎
- BMW Group「ESG Overview FY 2024」p.17 ↩︎
- ルノーグループ「Rapport Climat 2024(気候報告書)」p.8 ↩︎
- ステランティス「Expanded Sustainability Statement 2024」p.12 ↩︎