日傘で暑さをしのぐ女性

「猛暑」は、もはや毎年の恒例行事という認識が高まりつつあります。気象庁は最高気温が35度以上の日を「猛暑日」と定義していますが(注1)、「酷暑」(注2)や「災害級の暑さ」といった言葉に明確な気温基準はなく、こうした言葉は、メディアや気象情報などで、暑さの異常性や深刻さを強調するために使用されてきました。しかしこのような表現が当たり前のように繰り返される今、私たちが現在直面しているのは、「例年通りの夏」ではありません。毎年のように災害級の暑さに見舞われ、命や暮らし、社会のあり方さえも脅かし始めています。そこでグリーンピースは、2015年から2024年までの10年間にわたる朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の全国紙3紙について、新聞記事データベース(注3)を用い、各紙の東京版朝刊に掲載された7月1日〜8月31日付の記事の中から、見出しまたは本文、あるいはその両方に「猛暑」という語が含まれるものを抽出・集計し、その掲載状況の推移を分析することで、猛暑が異常事態であることを改めて可視化しました。

「猛暑」報道の記事数の移り変わり

「猛暑」報道の記事数の推移を見ると、2018年にピークを迎えた後、件数は一旦減少し、その後は横ばいまたは緩やかな増加傾向にあります。特に2018年には、西日本豪雨と歴代最高気温の41.1度を埼玉県熊谷市で観測するなどの記録的な猛暑が重なり、「猛暑」に関する報道件数が各紙で急増しました。その後の件数だけを見れば、一時的な関心の高まりとその収束のようにも見えますが、報道内容の変化に注目すると、単なる気象現象としての「猛暑」から、暮らしや社会インフラ、命に関わる社会課題としての扱いへと変化してきたことが読み取れます。2022年以降は、再び報道件数が増加する中で、報道の焦点も「暑さそのもの」から「暑さがもたらす影響」へと移行しつつあります。

気象現象を指すキーワードから注意喚起の言葉へ

「猛暑」という言葉は、この10年で報道の中での意味合いが大きく変化しました。2015年頃は、気象現象や商品動向を示すキーワードとして扱われていた「猛暑」ですが、次第に命や社会の基盤に関わる言葉としての重みを帯び始め、暮らしの構造にまで影響する言葉に変化しています。特に2018年を皮切りに、「異常気象」「災害級の暑さ」など、異常性を強調する表現が目立つようになりました。また西日本豪雨と猛暑が重なったこの年には、気候変動と異常気象の関連性を報じる記事が目立ち、気象の異常さが一気に「災害リスク」として認識され始めました。こうした報道内容の変化は、各年の記事の見出しにも表れています。(注4)

<朝日新聞>

2015年7月「いきなり真夏 関東、今年初の猛暑日」気象現象としての紹介
2016年7月猛暑予想、各社増産 エアコン売り上げ好調」経済的側面に焦点
2018年7月「各地で猛暑日 熱中症、死者も」健康被害を強調
2023年8月「記録的猛暑 いまと未来の命を守れ」社会全体への警鐘
2024年8月「米品薄続く 猛暑、精米後の白米少なく」生活インフラへの影響

<毎日新聞>

2015年8月「東京『猛暑』初の5日連続」気温記録を中心に報道
2017年7月猛暑日:関東中心に暑さ続く 群馬・館林 今夏、全国初の37度台」高温の持続性に注目
2018年7月「異次元猛暑、深刻 熱中症の危険、屋内にも」健康被害の深刻さを警告
2022年8月猛暑日、都心は今年14日目 過去最多、更新」異常の「更新」が常態化
2023年8月「7月開催、福島・相馬野馬追 来年から猛暑回避へ前倒し 出場者『命の危険感じた』」文化行事への影響

<読売新聞>

2015年8月「東京猛暑日 1週間連続」気温記録を中心に報道
2018年8月「豪雨・猛暑 異常気象の連鎖 偏西風の大蛇行起因」猛暑と災害の複合化に注目
2022年7月「都心の猛暑日9日連続で最長更新 都内で3歳も搬送」健康被害にも警鐘
2023年8月「今夏の猛暑は125年で最も『異常で圧倒的』」異常気象としての猛暑を強調
2024年8月「熱中症保険 猛暑で急増」制度対応への影響

猛暑は温暖化の影響 気候変動との関係、理解深める報道を

東京都内でも観測史上初めて40度以上を記録した2018年以降は、「温暖化の影響が深刻化」「気候変動が災害を助長」といった記述が徐々に登場するようになりました。しかし、猛暑と地球温暖化の関係を説明する報道は解説・特集面などに限定されており、読者の関心が高い社会面や総合面では、いまだに猛暑を「日々の天気」として扱う傾向が根強く残っています。科学的な背景に触れる報道は断片的で、読者にとって「猛暑=温暖化の影響」という認識が育ちにくい状況が続いています。さらに、新聞だけではなくテレビも、猛暑報道に関しては、温暖化への言及が少ない傾向にあります。(注5)

猛暑が常態化しつつある中で、異常な暑さを「例年通り」と受け流してしまう傾向が強まっていますが、高齢者や子供など、暑さへの耐性が低い層にとっては、猛暑は健康被害や命に関わる深刻な問題です。学校では熱中症リスクが高まり、文化行事の中止や変更も相次いでいます。さらに、記録的な猛暑や水不足による農作物への被害、熱中症搬送の急増による医療・保険制度への負担など、社会インフラや経済活動への影響も拡大する中、2025年の夏も全国的に猛暑が予測されています。(注6)

こうした状況においては、学校や公共施設の断熱化、暑熱リスクへの備えといった適応策の強化が急務です。同時に、これ以上の気温上昇を防ぐためにも、温室効果ガスの削減やエネルギー転換といった緩和策を講じる必要があります。グリーンピース・ジャパン、気候変動・エネルギー担当の鈴木かずえは「猛暑はもはや一過性の現象ではなく、私たちの暮らしを根本から揺るがす『新たな日常』になりつつあります。報道機関は『今年も暑い』と繰り返すだけではなく、その背後にある気候変動の根本的な原因を広く伝え、命を守るための適応策と、未来を守るための緩和策の両方について、社会が主体的に考えるきっかけを提供してほしいと思います」と話しています。

(注1)気象庁「気温について」では、最高気温が25度以上の日を「夏日」、30度以上を「真夏日」、35度以上を「猛暑日」と定義。

(注2)「酷暑日」は、最高気温が40度以上となる日を指す言葉だが、日本気象協会が独自でつけた名称であり、気象庁が定義しているものではない。

(注3)集計には、各紙の記事データベース(朝日新聞クロスサーチ、毎索、ヨミダス)を使用した。

(注4)本表では、2015年から2024年までの各年に発行された記事の中から、見出しに「猛暑」という語が使われている記事を対象とし、その年の報道傾向を象徴すると考えられる見出しをグリーンピースが独自に選出した。

(注5)Yahoo!ニュース「テレビの猛暑報道、99%が『温暖化』語らなかったー各局に報道姿勢を聞いてみると…」(2024年8月30日)

(注6)日本気象協会「2025年の夏も全国的に猛暑 観測史上1位タイの高温となった2024年との違いは?」(2025年2月25日)