汚染水の海洋放出、放射性炭素が人間のDNAに損傷を与える可能性 ーーグリーンピース報告書『東電福島原発汚染水の危機2020』
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都新宿区)とグリーンピース東アジアは本日、東京電力福島第一原発の放射能汚染水(処理水)についての新たな調査報告書『東電福島原発汚染水の危機2020』を発表しました。
報告書では、このまま日本政府の計画が進めば、汚染水に含まれる放射性炭素(炭素14)のおよそすべてが太平洋に放出されることになると警告しています。炭素14の半減期は5370年。数千年にわたって環境中に存在し、炭素はすべての生物に基本構成要素として組み込まれることから、長期的に見れば集団被曝線量の主な要因となります。このため、炭素14は人間の細胞DNAを損傷する可能性があるのです。(注1) これについて、日本政府と東電は、タンクに貯蔵されている123万トンもの汚染水は「処理済み」で、トリチウムしか含まれていないととれるような説明を続けています。日本政府は近く、汚染水の太平洋への放出を決定するものとみられています。
また報告書では、東電が水処理・放射性物質処理を手がける米国のピュロライト社の、より高度な多核種除去設備(ALPS)を使わない決定をしたことについても分析しています。放射性物質を検出不可能なレベルまで除去する能力があることが示されたにもかかわらず、東電は経験の浅い東芝と日立が扱うALPS技術を選択しました。報告書はこのほか、2022年以降も長期的に汚染水を保管する選択肢が可能であると日本政府が認めている点を指摘しています(注2)。
報告書の著者、グリーンピース・ドイツのシニア原子力スペシャリスト、ショーン・バーニー
「震災から10年近く経った今でも、東電と日本政府は福島第一原発の危機の大きさを隠蔽しています。彼らは、汚染水に含まれる放射性物質の詳細な情報を何年にもわたって意図的に隠してきました。日本政府は、福島県民をはじめ日本に住む人々、近隣諸国に対して、太平洋に投棄される汚染水に危険なレベルの炭素14が含まれていることを説明していません。水中に含まれる他の放射性核種と合わせて、遺伝的損傷を引き起こす可能性があり、何千年もの間、危険な状態のままであり続けます。これが、これらの計画を中止しなければならないもう一つの理由です
日本政府と東電は、投棄計画を正当化しようとして一連の神話を構築しました。ALPS処理された汚染水の追加保管場所を確保するための技術的、工学的、法的な障壁はありません。それは政治的意向の問題です。日本政府は、保管という選択肢を排除し、最も低コストな太平洋への投棄という選択肢を選びました。その選択は、科学や環境保護の原則に基づいておらず、何の正当性もありません」
(注1)IRSNの放射性核種シート「carbon 14と環境」
”The resulting DNA damage, involving molecular breaks, may lead to cell death or induce potentially inheritable mutations.”(「DNAの損傷は、細胞の死、潜在的な遺伝性突然変異につながる可能性がある」)
https://www.irsn.fr/EN/Research/publications-documentation/radionuclides-sheets/environment/Pages/carbon14-environment.aspx
(注2)「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 報告書」2020年2月10日
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200210002/20200210002-2.pdf