「Drive Change」は、グリーンピース・ジャパンが2021年から展開するキャンペーンです。温室効果ガス排出の大きな原因の一つとなっている、運輸・交通部門や自動車産業からの排出削減を目的に、政府や企業などさまざまな働きかけを続けています。このブログでは、Drive Change キャンペーンの2025年の活動を振り返ります。

ライターについて

高田 久代

高田久代 Hisayo Takada ニュージーランドでのワーキングホリデーの後、ボランティアとしてグリーンピース・ジャパンに参加、気候変動・エネルギーチームのリーダーを経て、2019年1月よりプログラム部長。朝7時からの早朝勤務スタイルで絶賛子育て中。

トヨタに1.5℃整合を求めた2025年

Drive Changeキャンペーンでは、大手自動車会社が、パリ協定1.5℃と整合性のあるビジネスへ転換することを大きな目標としています。具体的には、①内燃機関車(ガソリン車など)の製造・販売の段階的停止、②サプライチェーンの脱炭素化、③循環経済の早期実現を掲げています。

このような目標のもと、2025年は、世界で最もクルマを販売しているトヨタ自動車さんに、パリ協定で合意されている1.5℃に抑える道筋に沿った温室効果ガスの総排出量の削減目標を発表してもらうことを目指して活動を行いました。

“総排出量”削減をテーマに様々な働きかけを実施

トヨタさんは「2050年カーボンニュートラル」という目標を以前から公表していますが、これが「今世紀末までの地球の気温上昇を1.5℃以下に抑えるシナリオに沿った温室効果ガス総排出量の削減」を意味するのかどうかは不明瞭です。

実際、トヨタさんが毎年、算出、公表している排出量は、日本の年間排出量と比較すると、その半分以上にも匹敵する規模です。グリーンピースは今年、トヨタさんに「1.5℃に整合する総排出量の削減目標を出してください」と、さまざまな方法で働きかけを行いました。

以下に、1年間の取り組みを時系列でまとめています。

今年のハイライトは、レポート・アクション・署名

今年、グリーンピースで行ったトヨタさんへの働きかけのハイライトは以下の3つです。

①現在の計画では削減量不足― 10月公開レポートで明らかに

トヨタが公表している温室効果ガス排出報告量を分析し、今後の排出量を予測する報告書『岐路に立つトヨターー世界最大の自動車メーカーのBEV戦略と1.5度目標の整合性(日本語版)を10月に日本語と英語で発表しました。

この報告書では、トヨタの市場別・パワートレイン別車両販売台数を分析し、3つの異なる販売シナリオに基づいて、2026年および2030年の短期排出削減目標の進捗状況を評価。同時に、1.5℃目標達成の道筋との整合性を検証しました。

その結果、トヨタの計画するバッテリー電気自動車(BEV)生産量と1.5℃目標達成のために求められる総排出削減量との間には大きな乖離があることが明らかになりました。

②世界中から8000筆以上の署名!

9月末からは、トヨタに 「1.5℃に整合する総排出量の削減目標を出してください」と求めるオンライン署名を実施。約2ヶ月で国内外から8000筆を超える賛同を得てトヨタに提出。たくさん寄せられたトヨタへの応援メッセージも提出しました。

 応援メッセージをプリントしたテーブルクロス ©Masaya Noda / Greenpeace

同時に、こうした応援メッセージをより多くのトヨタ社員の方に見ていただきたいと思い、ハガキにメッセージを代筆し、愛知と東京のトヨタ本社に次々と発送しました。グリーンピースのボランティアさんが心を込めて手書きで特製ハガキに代筆してくださいました。

さらに、電話OKの署名参加者の方にはグリーンピースからお電話を差し上げ、署名参加の背景などを伺い、クチコミで署名を広げてくださるようお願いしたところ、多くの方が快諾してくれました。

③決算会場・富士山・モビリティショーでのアクション活動

計4回行ったアクションでは、一貫してトヨタさんの総排出量削減をアピールしました。

5月にはトヨタ決算発表会の入口で「総排出量削減」を訴えるプラカードを掲げ、10月には日本を代表する企業トヨタの総排出量が日本の年間排出量の半分以上にも匹敵する規模だということを、平均気温の上昇が続く富士山で訴えました。

11月には100万人以上の来場があったジャパンモビリティショーでは、着物に着替え、これまでの削減努力への感謝と総排出量の削減を求める感謝状をトヨタブースで掲げました。富士山モビリティーショーの動画は海外でも広く拡散され、多くの署名にもつながりました。

(以下の画像をクリックするとYoutube動画を見ることができます)

最後のアクションとなったトヨタさんとの直接対話の際には、署名に寄せられた応援メッセージと気候被害などの写真で会場をデコレーションし、改めて総排出量削減の必要性について直接お伝えしました。(その時の様子はこちら

対話の際に用意した応援メッセージをプリントした長さ4メートルの特製テーブルクロスは、トヨタ社員の方がしっかりと持ち帰ってくれました。

 トヨタ社員さんとの面会時に使用した会議室と、グリーンピースのスタッフ ©MasayaNoda / Greenpeace

キャンペーンの結果は…

グリーンピースは、トヨタさんに「1.5℃に整合する総排出量の削減目標を発表することは、この時代を生きる高排出企業の責任です」「一緒に協力できるところはありませんか」と繰り返し呼びかけています。対話の場では、トヨタさんの考えや抱えている難しさを伺いながら、議論を重ねました。対話にいらしたトヨタ社員の皆さんは、真摯に議論に向き合ってくださいました。

ですが、残念ながら、「地球温暖化を1.5℃に抑える道筋に沿った温室効果ガス総排出量の削減目標をトヨタさんに発表してもらう」という目標は、まだ達成されていません。

キャンペーンの今後とグリーンピースのビジョン

グリーンピースが重要だと考えているのは、どんな地域に住んでいても、運転免許の有無・所得・健康状態・年齢・子育て中・天候に関係なく、誰もが必要なときに、安全・快適に移動ができる、環境・社会に適した仕組みを整えることです。

誰にとっても安全・快適で持続可能なモビリティの実現のためには、そもそもクルマの台数を減らしたり、公共交通機関や徒歩や自転車が「一番早く、安く、快適に移動できる交通手段」になるようにしていくことも必要です。グリーンピースは上記のビジョンを大切に、「Drive Change」キャンペーンを継続していきます。

気候変動は、今この瞬間にも進行しています。今年の夏も記録的な猛暑が各地で観測され、熱中症で搬送された方は初めて全国で10万人を超えました。農業・漁業・伝統行事や風物詩・動植物の生態・学校行事や産業活動まで、あらゆる分野に気候変動・異常気象の影響がはっきりと現れ始めています。特に南アジアや東南アジアで台風や洪水が激甚化し、多くの人々が命を失い、生計を奪われました。

 豪雨による洪水被害をうけたフィリピン・マニラ=2025年7月

グリーンピースは、温室効果ガス総排出量を一刻も早く、大きく減らしていくために、思いを同じくする方々と連携して取り組みを前進させていきます。

グリーンピースの活動が企業・政府に忖度せず行えるのは、50年以上前の設立以来、一貫して個人の方々からのご寄付によって世界中のすべての活動を行っているからです。継続的なご寄付によって、1年、2年、その先を見据えた活動を計画することができます。少額でも、今回のみでも大歓迎です。ご寄付でのご参加も、心よりお待ちしております。