効果的な「プラスチック条約」実現にむけ、シンポジウムを開催
この投稿を読むとわかること
2023年9月28日、グリーンピース・ジャパンは、イクレイ日本事務局(ICLEI)とともに、国際プラスチック条約の採択に向けて、国際シンポジウム「国際プラスチック条約シンポジウム ー 交渉の現在地と展望 ー」を開催しました。政界やビジネス界、市民団体、研究機関などからそれぞれ専門性の高い情報共有が行われた本会は、ケニアでの第3回目の国際交渉会議を11月に控え、真に効果的なプラ条約の実現を後押しする場となりました。
プラスチック問題のいま、「プラスチック条約」の現在地
「プラスチック条約(以下、プラ条約)」についてご存じですか? プラ条約とは、国際的に法的拘束力を持つプラスチック規制のための条約のこと。今このプラ条約の誕生に向けて、内容を決めるための話し合いが重ねられています。
深刻なプラスチック汚染を解決するため、プラスチックにまつわる条約を2025年までに締結することが2022年に国連で決まりました。この条約が、プラスチックの原料採掘、生産から使用、そして廃棄まで「サイクルの全体」でしっかり規制する内容となれば、世界のプラ汚染を根本から解決することができるかもしれません。先行きに世界的な注目が集まっています。
現在はプラ条約をどのような内容にするかを世界中で話し合って決める段階。これまで2回の国際会合(INC1〜2)が開催されていて、INC2にはグリーンピースのメンバーも参加してきました。そして、来る11月13〜18日までの期間にはケニアのナイロビでINC3が開催されます。
国際プラスチック条約シンポジウムを開催
ようやく9月に公表された条約の草案を、初めて議論する場となる第3回目の国際会合(INC3)に向けて、現在はプラ条約の中身を決めるために非常に大切な時です。
INC3の開催を控えた2023年9月28日、グリーンピース・ジャパンは、イクレイ(ICLEI)*とともに、2025年のプラスチック条約の採択に向けて、国際シンポジウム「国際プラスチック条約シンポジウム ー 交渉の現在地と展望 ー」を開催しました。
*イクレイ(ICLEI)
持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会。持続可能な未来の構築に取り組む市、町、地域からなる世界的なネットワーク。1990年9月5日、ニューヨークの国連本部に43カ国から200都市を代表する地方自治体関係者が集まり、ICLEIが誕生しました。以来、125カ国以上2,500以上の地方自治体によるグローバルタスクフォースの中心的存在です。
当日会場は約50人が来場、オンラインでの視聴者数は200人に上り、プラ条約への関心の高さが伺える盛況に。政府、自治体、ビジネス界、企業、研究機関、ユースと、幅広く多岐にわたるステークホルダーの対話が行われ、条約交渉の現状や見通しなどについて条約制定プロセスに高い影響を与え得る共有の場となりました。
プラスチック汚染の解決を目指し、各界を交差しての対話が実現
シンポジウムはイクレイの内田東吾氏、国際プラスチック条約政府間交渉委員会事務局長ジョティー・マサー・フィリップ氏、大阪ブルー・オーシャン・ビジョン推進議員連盟事務局長の笹川博義氏からの言葉で幕を開けました。
条約制定に尽力するリーダーたちの発言に来場者が聴き入ります。笹川氏からは、「プラ条約において日本が主導的役割を果たすために政策強化の必要があること」、「科学的知見の重要性」、「自治体支援の重要性」などを環境省や関係機関に提言したことが共有され、提言書の内容には特にウェイストピッカー*に関する議論など、グリーンピース・ジャパンとの連携があったこと、これまでの対話が取り組みに活かされていることが述べられました。
*経済発展途上国のごみ最終処分場などで、廃棄物からの有価物回収に従事する人々。
グリーンピースは不偏不党の活動の中で、これまでにさまざまな政党に提言、情報提供を行っています。
プラ条約交渉のこれまでとこれから
INC2でアジア太平洋地域の副議長を務めた小野洋環境省参与から国際プラ条約交渉の現状と課題についてが述べられ、交渉の現在地ついての発表が始まります。
グリーンピースからは、シニア政策渉外担当の小池宏隆より、プラスチック汚染について、根本的に問題を解決するためにプラ条約に求められることを明確に提示しました。条約に生産規制含まれなければ、プラスチックの生産拡大には歯止めがかからないこと、現在の日本が世界的に生産規制に積極的に取り組んでいるとは見られていないこと、日本が条約における公正な移行でリーダーシップを発揮できる可能性についてなど、総括的な発表が行われています。
続いてビジネス界を代表し、ユニリーバ・ジャパンの北島敬之氏から、2025年までに非再生プラスチックの使用量を2019年比で50%の削減を目指すなど、消費財メーカーとしてのさまざまな取り組みが紹介されました。さらにこうした努力が、消費者のみならず、企業の成長やリスク低減に寄与しているとの重要な指摘も。
エコノミスト・インパクトの 近藤奈香氏からは、政策を分析、研究した知見から、厳しい現状と同時に将来的な指針が示されました。プラスチック消費に関する「使い捨てプラスチック製品の禁止」、「消費者、拡大生産者責任の義務化」、「バージン樹脂の生産者への課税」という3つの政策を評価し、それら政策があってもプラスチック消費にピークを打つ効果が限定的で、プラスチック消費量が増加し続ける可能性が高いこと、高いハードルがあっても特に使い捨てプラスチック製品の禁止が最も影響を持つ可能性があることなど、より意欲的な政策の必要性が指摘されました(より詳しく知りたい方はこちらから)。
ステークホルダーラウンドテーブルの多彩なパネル発表
ステークホルダーラウンドテーブルでは、イクレイの内田東吾氏をモデレーターに、民間、研究機関、行政自治体、ユースと幅広い分野の代表からパネル発表が行われました。
まず、海洋研究分野から海洋研究開発機構(JAMSTEC)の磯部紀之氏によって深海のプラごみ汚染の現状が映像で示されました。プラスチックの分別回収が市民レベルで根付いている日本でも、プラごみの海への流出を防げていないことが視覚的にも明らかにされ、参加者から驚きの声が上がっていました。
そして、500以上の企業と団体で国際的に連携し海洋環境保護に取り組むCLOMA*の中村健太郎氏が海洋へのプラスチック汚染の影響についてを発表。
*CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)
海洋プラスチックごみを削減するために、業種を超えた幅広い関係者の連携を強めイノベーションを加速するためのプラットフォーム
続き、リサイクルプログラムを国際的に提供する企業テラサイクルジャパン(及びLoop Japan)からエリック・カワバタ氏がプラ問題への日本の認識の薄さや、花王との取り組みなどを例に挙げて、独立したビジネス組織の変化が及ぼす影響力、そしてそれをさらに高めるためにも国際的に足並みを揃えた規制政策が必要であることを述べました。
続いて、IGES-UNEPの⾠野美和氏が化学物質やポリマーの管理、途上国支援の重要性を、東京都環境局の堀哲氏が使い捨て前提の社会システムから、循環経済への移行と企業や事業者の新しい挑戦を促進する環境整備の大切さに言及します。
最後に、大学生としてユース団体*に参加する長野優香氏はプラスチック問題における現実的な規制が不足していると感じて活動を始めたと話し、参加者からも多くの賛同の声が寄せられていました(*「実行力あるプラスチック条約を求めるユースイニシアチブ」 instagramアカウントはこちら)。
シンポジウムはグリーンピース・ジャパン事務局長サム・アネスリーからの閉幕の挨拶後、参加者同士のネットワーキングの時間を設けて、盛会のうちに終了。シンポジウムの参加者、視聴者からは、「条約のあり方について、上流規制なのかボトムアップなのかで揺れていることが明確にわかった」、「市民が声をあげていく必要性を感じた」、「条約に対する政府、NGO、企業、消費者の視点の違いが浮き彫りとなった」などの感想が寄せられています。
当日のプログラム
14:00-14:10 開会挨拶・来賓挨拶
内田東吾氏 イクレイ日本 事務局長
ジョティー・マサー・フィリップ氏 国際プラスチック条約政府間交渉委員会 事務局長(ビデオメッセージ)
笹川博義氏 自由民主党衆議院議員 大阪ブルー・オーシャン・ビジョン推進議員連盟事務局長
14:10-14:30 国際プラスチック条約交渉のこれまでとこれから
小野洋氏 環境省参与 INCアジア太平洋地域代表
小池宏隆 国際環境NGOグリーンピース・ジャパン シニア政策渉外担当
北島敬之氏 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社 代表職務執行者
14:30-14:40 上流から下流まで、ライフサイクルでプラスチック汚染を減らすために
近藤奈香氏 エコノミスト・インパクト シニア・エディター
14:40-15:40 ステークホルダーラウンドテーブル
モデレーター:内田東吾氏 イクレイ日本 事務局長
磯部紀之氏 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC) 副主任研究員
中村健太郎氏 クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA) 事務局主幹
エリック・カワバタ氏 テラサイクルジャパン/Loop Japan 代表 アジア太平洋統括責任者
⾠野美和氏 IGES-UNEP 環境技術連携センター プログラムコーディネーター
堀哲氏 東京都環境局 資源循環推進部 計画課長
長野優香氏 実行力あるプラスチック条約を求めるユースイニシアチブ
15:40-15:45 閉会挨拶
サム・アネスリー 国際環境NGOグリーンピース・ジャパン 事務局長
15:45-16:00 参加者同士のネットワーキング
シンポジウムの成果をどう活かすか
9月4日、国連環境計画(UNEP)が、プラ条約の策定に向けて「ゼロ・ドラフト」と呼ばれる条約の草案を公表しました。草案には、INC2までの各国の主張が盛り込まれ、プラスチックの生産を削減する必要性について触れられていた点は評価に値します。
しかし、INC2で見られた対立は残ったままであり、現時点では真に効力のある上流規制を導入できるかわかりません。国別の行動計画を主軸とした条約になる可能性も残っています。
世界の平均気温の上昇を1.5Cに抑えるためには、プラスチックの生産量を少なくとも75%は減らさなくてはいけません。条約の規制規模はこの75%削減にあわせる必要があるのです。しかし、現段階の草案内容はグリーンピースが求めてきた主要な課題のほとんどで十分な水準を満たしていません。
シンポジウムでは、気候危機の現状に即した条約内容を実現させるために、日本が果たせる役割が大きく、鍵となっていること、各界を跨いでの情報交換と連携が必須であることが明確となりました。
私たち市民の役割、そして今できることは?
今回開催されたシンポジウムでも強調された通り、気候変動を止めるために増え続けるプラスチックの未来をどう変えていくかは重要な課題の一つであり、生産規制を避けていては悪循環を止めることはできません。
INC3に向けて世界のリーダーたちに条約にプラスチックの生産規制をしっかり盛り込むよう声を届けましょう。効果的で野心的なプラ条約を望む市民の声が大きくなれば、国際社会はこの要求を無視することはできなくなります。
グリーンピースでは、「蛇口から止めるプラ条約」を求め署名を集めています。まだ参加されていない方は、ぜひ署名に協力してください。そして、この署名について、プラ条約について、お友達やご家族、大切な人にひろめてください。