グリーンピースでは、2025年2月、学校の体育館の断熱改修を求める署名活動を開始し、11月19日、47都道府県への提出を終えました。自治体の担当者の方と対面での提出を行ったのは19都道府県。その他は、東京事務所を通してなどして提出しました。提出活動の成果や、わかったことなどをお伝えします。

ライターについて

鈴木 かずえ

鈴木かずえ Kazue Suzuki 気候変動/エネルギー担当 趣味:家庭菜園 さつまいもを中心に夏はトマト、きゅうりをやっています。 あと、有権者として、選挙には積極的に関わっています。 当選してほしい人の応援に、自分の選挙区かどうかにかかわらず、関わっています。

今年の夏も暑かった

2025年の夏も、観測史上最高気温を記録し、異常気象による自然災害も相次いでいます。熱中症で救急搬送される方も増えていて、今年5月〜9月は過去最多になりました。

子育て中の方々からは、「子どもを外で遊ばせることができない」「子どもを屋外プールに連れていけない」と聞いています。

国は、2018年ごろから、教室のエアコン設置を進めてきました。現在では教室のエアコン設置は特別教室などを除いて、ほぼ完了しています。体育館に関しても、エアコンの設置がいま、進んでいます。

体育館でもエアコン設置進む。でも、エアコンだけでは不十分

しかし、最上階の教室など、エアコンで冷房を効かせても、涼しくならないという問題がでています。グリーンピースで教室の温度を測定したところ、エアコンがついていても、32℃を超える暑い教室もありました(下グラフ参照:報告書『国内4都県における学校教室の夏期温熱環境調査』より)。



体育館ではどうでしょうか。東京大学大学院の前真之準教授の調査によると、エアコンをつけていても暑く、特に天井が高温とのことです(下図:2025/11/19 学校建築脱炭素研究会第4回シンポジウム資料より) 

グリーンピースでも夏に小学校の体育館の温度測定をしたところ、エアコンの温度を22度〜18度までさげるとやっと快適な温度になるという状態でした。これでは電気代が大変です。

解決策は「断熱」  断熱で、快適・コスト削減・気候変動対策

エアコンが効かないのは、「断熱」が不十分なためです。断熱とはその名の通り、「熱を断つ」こと。建物を断熱すると、屋外の暑さ寒さを室内に入れず、逆にエアコンの涼しさ、暖かさを外に逃がしません。きちんと断熱すれば、エアコンをフル稼働しなくても快適な室温を保てます。

快適なだけではありません。夏は、通学や体育など屋外の授業で熱くなった体を冷やす避難所となり、熱中症を防ぐことにもつながります。体育館は災害時の避難所としても活用されます。2024年1月の能登半島地震の際には、過酷な寒さが問題となりましたが、自然災害の多い日本において、避難所の環境を快適に整えることは急務です。

また、授業への集中力も改善するとの調査結果があります。(「環境を考慮した学校施設づくり事例集-継続的に活用するためのヒント」文部科学省など)

エアコンの効きがよくなれば、エネルギー価格の高騰で地方自治体の大きな負担になっている電気代や維持費を削減でき、温室効果ガスの大幅削減にも貢献し、効果的な気候変動対策になります。

署名を集めました

グリーンピースでは、2025年冬に「体育館の断熱改修を求める」署名を開始、終了までに5,000筆以上集まりました。あらためて、ご署名くださったみなさまにお礼を申し上げます。おかげさまで、体育館の断熱改修を要望する際に、賛同する市民の声があるということを示すことができました。8月から都道府県への提出を始め、署名の提出には、署名に賛同してくれた地元の方が同席してくださいました。

(写真:北海道同庁の前で)

署名を提出し、事情を聞きました

署名提出では、「体育館の断熱改修をお願いします」と求めるとともに、体育館の断熱についての現状や自治体が抱える課題などについて伺いました。お話しを直接お伺いできたのは、広島県、兵庫県、大阪府、愛知県、香川県、京都府、岡山県、徳島県、山梨県、長野県、佐賀県、宮城県、神奈川県、茨城県、千葉県、福岡県、北海道、東京都、埼玉県の19都道府県です。多くの自治体で、複数、多いところでは6人も環境部署の方、教育委員会の方などが対応してくださいました。

要望は
・教室と体育館への断熱改修を進めるための予算の大幅な増額を日本政府に求める

・自治体においても、学校環境衛生基準にある室温になっていない教室や体育館について断熱改修を進める

の二つです。

エアコン設置が急務の苦しい事情

多くの自治体のみなさんのお話しを聞く中で、やはり夏が非常に暑いため、まずエアコンの設置が急務で断熱までなかなか手(や予算)がまわらないという苦しい事情が明らかになりました。「まずは命を守る」ことが大事ということです。

実は、体育館の断熱には補助金がつくのですが、半分の補助だとしても高額になります。それでも、次回新築の際、また大規模改修の際には断熱をしたい自治体も多いことがわかりました。

ただ、中には断熱については考えていなかった、という自治体がありました。そうした自治体には、断熱性確保による電気代削減効果について(下図 文部科学省のサイト「公立学校施設の空調(冷房)設備の今後について」より)も説明しました。今回、署名と要望書を全都道府県に提出してよかった、考えてもらえるきっかけとなった、と思いました。

教室の環境整備の予算はすでに国に要望

また、多くの自治体が、教室の環境整備の予算増についてはすでに国に要望しています。ただし、老朽化対策などを念頭においたものなので、あらためて「断熱改修費用」と明記しての予算要望について相談をしました。それは検討できるかもしれないという自治体もありました。多くの自治体から同様の予算要望が国に出されることを期待します。

引き続き、いっしょに取り組みましょう

今回、署名に賛同してくださったさまざまな地域の方にお声がけをして、グリーンピースによる署名提出に同行していただきました。11月に、同行してくださったみなさんで「ふりかえり会」をしました。以下のようなさまざまな感想が共有されました。

・こんなにたくさんの方がかかわっていることを知って感動した。

・自分のところの状況しか知らなかったので、ふりかえり会に参加して勉強になった。

・また同じような機会があれば、ぜひ、参加したい。

・バックグラウンドの違う人たちが同じトピックで活動できた

・今後も学校の断熱改修について自治体の方とやりとりしていきたい。

そして、さっそく学校断熱改修について今度は自治体議員の方と意見交換された方もいます。わたしたちの情報提供がきっかけで議会質問がされた例もあります。

市民の要望を議員に伝え、専門家といっしょに情報提供したことで学校断熱が実現

しかし、全国的には、まだまだ「エアコン優先」で断熱が進んでいない現状は変わっていません。その中、12月にうれしいニュースが飛び込んできました。横浜市が、今後5年間で市内全て小中学校を断熱改修するというのです。これは、市民からの情報提供や要望活動が実ったものです。

この夏、教室の断熱改修が試験的に行われ、その結果、温度が3度ほど下がることが確認されました。そこで、予算をつけて、今後5年間で全ての小中学校を断熱改修することになりました。市民が動くことの大切さや効果を感じます。引き続き、いっしょに行動していきましょう。

地球の自然環境を守るためにも、私たちの健康を守るためにも住まいの断熱は非常に重要です。暖房を付けても寒い家では、健康もエネルギーも損なわれてしまいます。

グリーンピースは、断熱の大切さをひろく知らしめ、子どもたちが通う学校教室の断熱を求める取り組みを行なっています。グリーンピースの取り組みをぜひご寄付で応援してください。

参考:2025年11月19日に行われた第4回学校建築脱炭素研究会シンポジウムの「4. 設置コストが安くて電気ガス代ゼロの『ゼロカーボン体育館冷房改修』」資料(同研究会ウエブサイトより:敬称略)

前真之 資料PDF

REPO再生可能エネルギー推進機構 三宅成也 資料PDF

富士通ゼネラル 資料PDF

YKKAP 資料PDF

*上記の体育館改修にご興味のある方はエネまち社([email protected])にご連絡くださいとのことです。

【以上はシンポジウムの資料を共有するものです。グリーンピース・ジャパンとして特定企業の提案を推奨するものではありません。】

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*本原稿は、学校断熱の特設サイトの文章を一部使用しています。