東京都が、大手のハウスメーカーなどを対象に、新築住宅への太陽光パネル設置義務化を検討しています。東京のような都市部における再生可能エネルギー100%は、屋根を活用しなければ達成することはできないので、気候危機に立ち向かうために、確実に実現させていきたい制度です。

義務付けされる当事者であるハウスメーカーの考えを知るため、グリーンピースは対象となると想定されるハウスメーカーに、アンケートを実施しました。

東京都が太陽光パネル設置義務化へ

東京都が、大手のハウスメーカーなどを対象に、新築住宅への太陽光パネル設置義務化を検討しています。

東京都では現在、設置に適した住宅の4%にしか太陽光パネルが設置されていません。

東京のような都市部における再生可能エネルギー100%は、屋根を活用しなければ達成することはできないので、気候危機に立ち向かうために、確実に実現させていきたい制度です。

義務化といっても、すべての屋根に載せよ、というものではなく、屋根が北向き・日陰がちなどの影響も考慮してハウスメーカーに総量を義務づけるもので、建築棟数の半分くらいに設置することになると見込まれます。また建主の意向にも配慮できる制度設計です。

誤解が多くてSNSで騒ぎに

東京都が太陽光パネル設置義務化について発表すると、SNSでちょっとした騒ぎになりました。そこで上がった声をいくつか紹介します。

「住宅の価格が高くなる」

住宅の価格は太陽光パネル設備代分高くなる可能性がありますが、補助金もありますし、住んでからの電気代が抑えられます。東京都では0円ソーラーという初期費用ゼロのシステムの紹介もしています。

「太陽光のパネルは中国・新疆ウイグル自治区の強制労働で作られたものなので人権侵害」

太陽光パネルの生産現場での人権侵害は別途解決すべき問題です。

太陽光パネルを購入する際に、どこでどのように作られたものかを確認する必要があるでしょう。太陽光パネルだけでなく、衣服など、すべての製品ついて、生産の現場で人権侵害が行われていないか、気にして、わからない場合は確認していくことは大切ですね。

「火事のとき、消火活動ができない」

太陽光パネルを搭載した家が火事になっても放水による消火活動ができます。「消火活動ができない」という言説があまりに拡散したために、毎日新聞Buzzfeed Japanで「ファクトチェック」記事が書かれ、消防庁などにも確認した上で「消火活動はできない、は誤り」としています。

「家を建てる人は、必ず太陽光パネルを設置しなければならない」

おそらくこれが、最もよくある誤解のようです。太陽光発電の設置義務は、建築主個人ではなく、一定の規模以上(年間2万平方メートル以上)のハウスメーカーが対象です。住宅の買い手の意向も考慮されるので、新築する誰もが絶対に太陽光発電を設置しなければならないわけではありません。

そこで、義務付けされる当事者であるハウスメーカーの考えを知るため、グリーンピースは対象となると想定されるハウスメーカーに、アンケートを実施しました。

ハウスメーカーに聞いてみた

グリーンピースでは、対象となると推定されるハウスメーカー50社に連絡をとって、見解を聞いてみました。残念ながら、回答いただけたのは11社でしたが、そのうち6社が賛成または条件付き賛成で、4社が反対でした。

調査は、2022年6月20日〜7月6日の間に、電話でのヒアリングや、オンライン調査票記入依頼によって行いました。都内への住宅供給面積が年間2万m²以上の事業者を推定し、その50社に問い合わせました。(報告書PDF

賛成は1社

  • 「まだまだ課題は多いと思っているが、基本的には賛成。脱炭素へ向けた行政主導の取り組みとして都がリーダーシップをとるのは自然な時流と考える」(大東建託株式会社)

条件付き賛成が5社

  • 都としても建築主等の理解が得られるような十分な説明と、太陽光設置に係る諸手続き負担軽減などの十分なサポートを望む(積水ハウス株式会社)
  • 現在、世界が直面している気候危機は国や行政だけで解決できるものではなく、2050年カーボンニュートラル、2030年カーボンハーフに向け、企業もそして市民社会も一緒になって取り組むべき地球環境問題の中でも最重要課題であると認識している。再生可能エネルギーとしての太陽光発電活用の重要性は論を待たないが、一方で太陽光発電の設置は、建築コスト増加につながる。「アフォーダブル住宅」の重要性の観点からも、住宅取得の過度の負担増とならない財政措置に期待(匿名)
  • 都内狭小住宅において、高度斜線制限が厳しいことにより、南向きの屋根面がほぼ無いような物件も多く存在し、それに対して太陽光パネルを設置したとしても発電など期待出来ない物件が多々出てくると思うため(匿名)
  • できるエリアとできないエリアがあったり、顧客のニーズと乖離があったりする場合がある。また、法規制の緩和や支援の拡充も必要(匿名)
  • 都民に対し事前の周知説明が必要であり時期尚早である。義務化の対象を住宅事業者とするのであれば、全ての事業者が等しく義務を負う公平な制度とすべきである。十分な補助金とセットで行うべきである(匿名)

反対は4社

  • 住宅の価格上昇を招くほか、点検・メンテナンス義務が発生し、都民の負担となる。また、建物の耐震性について議論がなされず安全性が担保されないまま実行することには反対せざるを得ない。住宅購入を検討する人が納得できる説明や補助金制度が必要と考える(匿名)
  • 環境改善の方法は多様であるべき。太陽光の設置自体は推奨しているが、義務化の対象について疑問符(匿名)
  • 太陽光パネル設置を標準として建築してきていないので、義務化になると事業計画に載っていない経費や人件費の増加が生じる。ただでさえ原価が上昇している中、太陽光パネルの設置は事業者としての負担をさらに増大させる。環境的には良いものの、電気代が高騰しており、住民が自己消費の形で4〜5kW程度設置していくのがベストだと思うが、義務化はよくないと思う。居住者と事業者側双方にとって適切な補助金制度を検討してほしい(匿名)
  • 投資用のアパートが主力商品のハウスメーカーとしてはメリットが感じられない(匿名)

このほかに、賛成も反対も表明しないとした社が1社あり「カーボンニュートラルを推進する取り組みは非常に重要と考えるが、個別の自治体の取り組みについてコメントできない」とのことでした。

太陽光パネルを自宅に設置した人の声

もう一方の当事者である設置する人はどう思っているでしょうか。

  • 衣食住をできるだけ自給自足していけるのがいいなと。だから電気も
  • 空いていた屋根が 活かせました!
  • オール電化なのですが、長時間の停電を経験したのが太陽光設置の最大の動機です。 2階は遮熱効果があり過ごしやすい です

(6月13日に開催されたオンラインセミナー「東京都の太陽光発電の設置義務化実現に向けて」の藤川まゆみさんの発表資料より)

わたしも実は長年太陽光パネルのお世話になっています。昨年は、およそ10万円を売り上げました。買った電気代はおよそ3万円なので7万円の黒字でした。なにより発電時に二酸化炭素を出さない電気なのがうれしいです。

放射能も二酸化炭素も出さずに発電できる太陽光。高い断熱性能を有する住宅で、エネルギー効率の良い電化製品を入れて、そして電気は太陽光でまかなえば、家庭からの二酸化炭素はプラマイゼロにだってできます。夜にも太陽光の電気を使いたい場合は、昼間作られた電気を蓄電池に貯めておくこともできます。

太陽光パネルがついた家を持っていない人にもメリットが

「でも、この制度は家を買うことができるような人だけが得をする」という声もあります。そうでしょうか?

太陽光発電パネルからの電気が増えれば、電力会社が買い取る「余る電気」も増えて、太陽光パネルの持ち主以外もその電気を使う機会が増えます。

それは、社会全体の利益と言えるのではないでしょうか。

あなたの地域でも義務化をすすめよう

気候危機はもう、はじまっています。今すぐに、断熱などの省エネや省エネ機器の導入をすすめ、再生可能エネルギーを増やしていく必要があります。

そのためには、屋根置きの太陽光発電パネルの義務化は大変有効です。

東京都は、今回SNSで集まった意見を生かして、よりわかりやすい説明を工夫したり、ハウスメーカーの意見を制度設計に反映させたりすれば、全国の太陽光発電パネル設置義務化のお手本となることができます。東京での義務化を確実に実施し、全国に広げていきましょう。

イベントのお知らせ

「太陽光パネル義務化ってどうなの?東大工学部建築学科の前先生に聞く」

2022年8月27日(土)

17:00〜19:00 @Zoomウェビナー

*注1: 回答を依頼した都内に供給する中小規模の新築建物(1棟の延床面積が 2,000 m²未満)の総延床面積が年間2万m²以上の事業者と推定される事業者50社リスト(あいうえお順:調査実施主体による推定であり、かならずしも対象事業者とは限らない)

アーネストワン、アイ工務店、アイダ設計、アイディホーム、アイムユニバース、アキュラホーム、アグレ都市デザイン、旭ハウジング、旭化成ホームズ、イーカム、飯田産業、一条工務店、エスケーホーム、オープンハウスアーキテクト、オープンハウスディベロップメント、ケイアイスター不動産、兼六土地建物、サンウエストホーム、三栄建築設計、シノケンプロデュース、住宅情報館、スウェーデンハウス、住友不動産、住友林業、誠賀建設、積水化学工業、積水ハウス、大東建託、大和ハウス工業、タクトホーム、タマホーム、中央住宅、ティーアラウンド、東栄住宅、トヨタホーム、野村不動産、一建設、パナソニックホームズ、桧家住宅、BLISS、ホークワン、ミサワホーム、三井不動産レジデンシャル、三井ホーム、三絆地所、三菱地所ホーム、武蔵開発、山一建設、ヤマダホームズ、ライズウェル

東京都の太陽光発電設備の設置義務化条例に対する 推定対象ハウスメーカー意向調査報告