【終了/QandA掲載】【共催/3/28(金) 19:30-】再エネを増やすには? 〜世界ですすむ自然エネルギー転換と日本〜

イベント概要
- 日時
- 2025年3月28日(金)
19:30 〜 21:00 - 場所
- オンライン(Zoomウェビナー)
再エネを増やすには? 〜世界ですすむ自然エネルギー転換と日本〜
深刻化する気候変動。解決策は省エネと再エネ。
今回はとくに、再エネについて、世界での動向と日本の現状について、自然エネルギー財団の大林ミカさんにお伺いしました。
資料 世界で進むエネルギー転換と日本(自然エネルギー財団 大林ミカ 政策局長)
録画 世界で進むエネルギー転換と日本(自然エネルギー財団 大林ミカ 政策局長)
当日は、151名様が参加し、講演後、たくさんの質問が寄せられました。当日時間の関係でお答えできなかったご質問について、大林ミカさんからのご回答をいただきましたので、掲載します。
Q and A (質疑応答)
Q:将来的な安定エネルギーとして水素が考えられると思うが、再生可能エネルギーを活用して水素を製造して用いることとし、そのために必要なインフラを整備する方策はどうか?
A:水素はエネルギーそのものではなく、「エネルギー製品」であり、何らかのエネルギー源を使って製造される。例えば、化石燃料を使って水素を製造すれば、それは「化石燃料由来の水素」であり、「グリーン水素」とは言えない。現時点では、自然エネルギー由来の電力で水を電気分解して水素を製造する方法が有望視されている。こうして得られた水素は、重工業の燃料として利用する、電力需要のピーク時にガスタービンで燃焼させて発電するなどの用途が考えられる。
水素は製造コストが高いので、製造技術の検討に加えて、どの分野での利用が最も合理的かを体系的に整理する必要がある。基本的な考え方は「水素でなければ脱炭素が困難な分野」から優先的に導入を進めるというものである。具体的には、化学反応原料としての用途や、鉄鋼・セメントなどの高温産業プロセス、長距離輸送、船舶、航空といった分野が高い優先順位に位置づけられる。次に、自然エネルギーの発電量が需要を上回った場合に水素をエネルギー貯蔵し、需給調整に利用する方法がある。最後に、自家用車、バス、鉄道、家庭用暖房など、すでに電化技術が実用化され、水素の導入優先度が低い分野が位置づけられる。
水素製造においては、主に電気分解(エレクトロリシス)が用いられるため、電気分解装置(エレクトロライザー)のコストダウンが今後の重要課題となる。
また、水素の利用拠点と製造拠点が近接していれば輸送も不要となるが、多くの場合、輸送が不可欠である。輸送には高温ガスとしての圧縮、液化、水素キャリア(例:アンモニア化)への変換などがあるが、いずれも多大なエネルギー投入とコストが必要となる。パイプライン輸送も選択肢の一つだが、初期投資コストが極めて高額となる。
一方で、太陽光や風力など自然エネルギーが豊富な地域で、「グリーン水素」を低コストで大量に製造できる可能性があり、その場合、たとえ輸送コストが発生しても、全体として経済合理性を持つことも考えられる。
いずれにせよ、水素利用のインフラ整備は、コストも時間もかかるため、場当たり的に水素ステーション等を設置するのではなく、水素をどの分野にどのように適用していくかにつて戦略的に見当し、合理的かつ段階的に整備を進めていく必要がある。
Q:再エネ海域利用法は今国会で成立しそうか。また成立させるために市民ができることは?
A:改正案が4月11日に参院本会議で通過したので、衆議院での議論が始まることが待たれている。成立させるためには、議論が行われる内閣委員会の国会議員の方々への働きかけが重要。
Q: 蓄電池のコストダウンでオーストラリアや米国で急速に拡大している。日本での活用についてどう考えるか?
A:まず、日本でも欧米諸国と同等の蓄電池コストダウンを実現し、価格弾力性のある電力市場で利用できる環境を整備ことが重要である。これにより、需要家側での柔軟なエネルギー利用が可能となり、電力需給の調整力として蓄電池がより効果的に活用される。欧米では、一般家庭でも、スマートフォン等を通じてリアルタイムで電力価格を把握し、太陽光発電設備、電気自動車(EV)、家庭用蓄電池の運転を最適化する仕組みが普及しつつある。アグリゲーター(需要家を束ねてエネルギーリソースとして活用する事業者)が、複数の家庭・需要家の分散型エネルギーリソース(DER)を遠隔制御し、需給調整市場や容量市場に参加する事例も広がっている。
大規模な太陽光発電所においても、日中の余剰電力を蓄電池に充電し、電力需要の高まる夕方以降に放電することで、卸電力市場価格の変動を活用しつつ、系統の安定化に資する運用モデルが導入されつつある。こうした取り組みは日本国内でも一部で始まっており、今後の制度整備・価格シグナルの強化によって、より本格的な展開が期待される。
Q:政府の2030年、2050年目標を達成するには各地域の電力会社の協力が必要になると思うが、電力会社は脱炭素目標を示しておらず、現在若者気候訴訟が行われている。電力会社の目標も今後示されていく流れになるのか?
A:特に、火力発電を多く抱える旧一般電気事業者は脱炭素目標を示す必要がある。国の排出量取引制度も、明示的な削減量を課す必要がある。
Q:新型原子炉(新しくないですが)について(開発資金の税金導入も含め)どう考えるか?
A:原子力の新増設は、気候危機のタイムライン(2035年までが非常に重要)に間に合わず、コストも高いので、現実的な方策ではない。同時に、巨大事故の可能性をいつも抱えていること、発電すると同時に放射性廃棄物を作ること、労働者の被曝が前提となっていることなど、問題が多い。
(詳しくは以下を参照)
「原子力発電が世界全体で低迷、コスト競争で勝てない」2024年7月 自然エネルギー財団
[https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20240927.php]
「小型モジュール炉(SMR)の夢は生き残るのか?」2023年9月 自然エネルギー財団
[https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20231120.php]
Q:石炭火力へのアンモニア混焼について、アンモニアを燃焼させると、CO2を排出しない代わりにCO2の300倍の温室効果がある一酸化二窒素(N2O)が排出される。この問題、これを補足する技術やコストについて、第7次エネルギー基本計画やGX2040は何も考慮していないのでは?
A:アンモニアも燃焼度が高く完全燃焼できれば窒素と水にできるが、それに石炭が加わると燃焼がより複雑になりN2Oが出る可能性がより高まる。日本の現在の政策目標は技術的にもまだ多くの課題がある。
Q:太陽光・風力/原発の「原料の採掘から発電設備の製造、廃棄の処理まで」のCO2排出を比べると、どのくらい差があるか。
A:これまで多くのスタディがなされていて、発表主体によって結果も多くのばらつきがある。しかし、これだけ太陽光や風力が安くなっている状況なので、二酸化炭素排出面でも圧倒的に再エネが有利となる。また、エネルギーが、環境や社会へ与える影響については、多面的に見る必要があり、炭素だけがエネルギー選択の基準ではない。
発表資料として紹介したIPCCの第六次評価報告書の記述では、太陽光や風力が、総合的にみて、最も多くのポテンシャルを持つ緩和オプション(気候変動を緩和するための技術的な選択肢)として明記されている。
参考:「IPCC 第 6 次評価報告書 統合報告書 政策決定者向け要約」(環境省)P38
https://www.env.go.jp/content/000265059.pdf
Q:福島原発の廃炉に携わったものからすると、安全上から絶対に使ってはいけないと思っている。
自然エネルギーが安価で取得できるのに、なぜまだ原発を再稼働しなくてはならないのか?
A:(廃炉作業、大変おつかれさまです、ありがとうございます)原子力を保有する企業や、それにつながっている産業にとっては、新しい投資を必要とする自然エネルギーよりも既存の原発の再稼働が容易に見えるのだろう。分散型である自然エネルギーの本格的拡大には、新しい電力市場の構築が必要であり、そうした市場では、原子力や石炭など柔軟性のない電源には往々にして適応が難しい。
今、皆が求めているのは、単なる「新しいエネルギー」ではなく、エネルギー転換による経済の転換であり、新しい技術が拓く新しい社会システムの創設である。古くは馬車から車、蒸気機関やガス灯から電動機械・電灯、固定電話や携帯からスマートフォン、内燃機関からEV、 DVDやテレビからストリーミング配信、などの根本的な転換のことである。それによって利益を失う勢力はこうした「破壊的技術」に脅威を覚えるのではないか。
Q:日本では農地での太陽光発電のポテンシャルが非常に大きいと言う図があったが、自民党の農林水産議員が農地に太陽光パネルを設置して発電することを反対していると聞いたことがある。実際問題政治の影響力はどんなものなのか。
A:政治の影響力もあるだろうが、反対があるとすれば農地そのものが脅かされると考えているからだろう。太陽光を設置することで、日本の農業も利益を受け発展することを指摘し、そうした政策を示していく必要がある。
Q:太陽光発電についてのネガティブキャンペーンが、特にメガソーラーが多く設置されている田舎では強力に行われていて、環境保護団体も太陽光発電については意見が2分している。景観などを重視している環境団体が太陽光発電そのものが悪のような強力なネガティブキャンペーンを推進している。一度植え付けられたイメージはなかなか覆せない。再エネ推進イベントでも、必ずネガティブな意見が声高に叫ばれる。再エネ推進の立場としては、そうではないと反論するが、どうしたらいいか。
A:実際に景観を壊し、地域の生態系に影響を与えている太陽光や風力は存在する。しかし、こうしたケースだけを見るのではなく、その他の圧倒的に多い環境破壊を行わない自然エネルギー利用を念頭に、どのような開発があり得るのかを一緒に考えていくのが重要では。
ただし、科学的ではない意見もあるので、そうした意見については、データや調査結果などを示すことで議論していくしかない。典型的な論点がいくつかあるので、これもさまざまある太陽光のファクトチェックサイトなどご参照のこと。
ゼロエミ 太陽光ファクトチェック
[https://zeroemi.org/pv_fact_check/]
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再エネを増やすには? 〜世界ですすむ自然エネルギー転換と日本〜
〔開催日時〕2025年3月28日(金) 19:30〜21:00
〔開催形式〕オンライン(Zoomウェビナー)
〔参加費〕無料(寄付つきチケットあり)
〔講師〕大林ミカさん(自然エネルギー財団 政策局長)
資料 世界で進むエネルギー転換と日本(自然エネルギー財団 大林ミカ 政策局長)
〔共催〕ゼロエミッションを実現する会 / 国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
〔講師プロフィール〕
大林ミカさん(自然エネルギー財団 政策局長)
2011年8月に自然エネルギー財団の設立に参加。財団設立前は国際再生可能エネルギー機関(IRENA、本部アブダビ)にて、アジア太平洋地域の政策・プロジェクトマネージャーを務める。2008年から2009年まで駐日英国大使館にて気候変動政策アドバイザー。2000年に環境エネルギー政策研究所の設立に参加、2000年から2008年まで副所長。1992年から1999年末まで原子力資料情報室でエネルギーやアジアの原子力を担当する。2017年に国際太陽エネルギー学会より、ハーマン・シェアに敬意を表して設けられた「太陽エネルギー政策推進におけるグローバルリーダーシップ賞」を受賞。