ゼロから学ぶファッションと環境問題

私たちが暮らす上で欠かせない、衣・食・住にまつわるモノたち。

かつては自分たちの身の回りで手に入る素材を利用し、自分でまたは顔の見える範囲で作られていたモノは、いつしか商品として購入し消費することが当たり前になりました。

世界のどこかで誰かが製造した商品のなかには、地球環境と私たちの健康に悪影響を与える有害物質を使ったモノが存在しています。

有害物質の使われていない商品を選んだり、過剰消費をやめたり、消費するだけでなく自分で作ったモノを使ったり。私たちができることはたくさんあります。

自分の周りから有害物質をデトックスして、未来まで続く心地よい暮らしをはじめませんか。

使い捨て前提のファストファッションに
慣れきった私たち

日本で、今どれだけの数の衣料品が売られているか知っていますか?アパレル製品の国内供給量は2017年時点で推計約38億点。1990年に比べるとほぼ倍増しています。世界の流れと同様、日本でも2000年代に入る頃からファストファッションブームが拡大し、「ファッションのあり方」は大きく様変わりしました。「服は使い捨てるもの」という前提のもと、メーカーは次々にトレンドに合わせた服を大量に生産します。そしてその後、供給された衣料品のうち約4割は売れ残り、処分されていると推察されています。

ファストファッションの流行は、洋服の海外依存という状況ももたらしました。2018年の時点で、日本国内アパレル市場を輸入品が占める割合は97.7%。日本で流通している服はほとんどが輸入されたもので、国産は希少品となっています。

洋服を購入する私たちも、いかに流行の服をコストパフォーマンス良く手に入れるかに目を向けがちです。一方で、断捨離と称してたくさん服を捨て、また新しい服を購入する、そんなことを繰り返しています。過剰生産で過剰消費・過剰廃棄というサイクルが、現代におけるファッションの当たり前になっています。

<a href='https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/pdf/200129_2seni_genjyou_torikumi.pdf' target='_blank' rel='noreferrer'>出典:(国内供給量)経済産業省「生産動態統計」、財務省「貿易統計」 (国内市場)矢野経済研究所「繊維白書」※呉服・和装品等を含む</a>
出典:(国内供給量)経済産業省「生産動態統計」、財務省「貿易統計」 (国内市場)矢野経済研究所「繊維白書」※呉服・和装品等を含む

美しい洋服の背景にある
深刻な環境破壊

問題点1・資源とエネルギーの大量消費

紡績や製織には、大量の水とエネルギーが使われます。

例えばユネスコIHE水教育研究所によると、Tシャツ1着をつくるのに消費される水は約2,700リットルがかかるという研究結果が出ています。染色、洗浄、加工工程でこれだけの水を使うアパレル産業が急速に拡大すれば、それだけ大量の水が汚染されます。

衣類の製造過程では、糸を紡いだり布を織る機械を動かしたり、縫製したり、工場稼働に必要な電気として、エネルギーが大量に消費されます。電気が石炭火力などの化石燃料による発電でまかなわれれば、その分CO2が発生します。

なかでももっともエネルギーを使うのが、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維です。合成繊維は石油から成分を取り出すので、まず原料として石油が使われ、その採取や精製過程において電気が使われます。例えば、合成繊維のポリエステルに関するCO2排出量は綿に比べると3倍近い排出量になります(2015年時点、ポリマー生産用の化石燃料の使用を含む)。

問題点2・有害物質の使用と水の汚染

衣類の製造過程では、水とともに有害化学物質が使用され、そしてその一部は河川に放出されて水質汚染を引き起こしています。グリーンピースは、2011年から独自に排水の調査を行ない、その実態を明らかにしています。例えば、中国最大級の繊維製品生産を行う町で調査したところ、工場排水とそこで作られた子ども服から有害化学物質を検出しました。

有害物質を含んだ工業汚染水が垂れ流されていた川。2013年3月インドネシア・ジャワ島
有害物質を含んだ工業汚染水が垂れ流されていた川。2013年3月インドネシア・ジャワ島

問題点3・水も農薬も大量に使う綿花栽培

天然繊維の綿にも、問題はあります。綿花の栽培には大量の水が必要で、オーガニックでない場合には農薬も肥料も大量に使用されています。1kg=ジーンズ1本分の綿を生産するには1万リットル以上の水が必要で、つまりこれは、1人分の飲み水10年分を消費することを意味しています。そして綿花は全世界で使用される殺虫剤の4分の1を使用する作物であり、この殺虫剤の量は全世界で使用される農薬の11%を占めているといわれます

インドでオーガニックコットンを栽培する農家
インドでオーガニックコットンを栽培する農家

問題点4・マイクロファイバーによる河川や海洋汚染

今やアパレル産業は、合成繊維から染料・加工剤に至るまで、化学物質に依存しています。そんな衣服に使用される化学物質の種類は8,000種類にも及び、その多くは「難分解性」、つまり自然に分解されることなく、環境中に残留し問題となっています。

近年世界中で大きな問題として考えられているのが、ポリエステルやアクリルといった合成繊維から発生するマイクロファイバーによる海洋汚染です。合成繊維の服からは、たくさんの微細な繊維=マイクロファイバーが抜け落ちることが複数の研究結果からわかっています。例えばポリエステルのある種のフリース1枚は、1回の洗濯で何百万本もの繊維が抜けたという実験結果があり、6kgのアクリル布地からは70万以上の繊維が放出されると推定されています。洗濯によって抜け落ちたマクロファイバーは、河川に流れ込み、海へと至ります。つまり、マイクロファイバーは、海洋プラスチック問題へとつながっています。マイクロファイバーが海洋生物に飲み込まれて蓄積していくことで、海洋生態系になんらかの影響を及ぼす可能性が指摘されています。

2018年4月に行なったグリーンピースの調査で、香港の野生のボラ(魚)から確認されたマイクロファイバー
2018年4月に行なったグリーンピースの調査で、香港の野生のボラ(魚)から確認されたマイクロファイバー

有害物質ってどんなもの?
人間にも悪影響

ファッションの過剰生産は、環境破壊だけでなく、私たち人間の健康にも直接的に悪影響を及ぼすことがあります。グリーンピースが独自調査を始めた2011年当時、繊維産業は有害化学物質の使用量が非常に多く、世界中の淡水を汚染していました。グローバルファッション企業の工場が建つ途上国の河川は、染色や加工の排水でカラフルに染まり、目には見えない有害物質によって住民たちの健康や暮らしは影響を受けていました。では、そもそも、有害化学物質とは具体的にどんなものなのでしょうか。

例えば、グリーンピースが優先的に排除するべき有害化学物質群としているひとつが、「有機フッ素化合物(=PFCs)」です。衣類においては、主に防水、はっ水加工のためのコーティング材として使用されています。PFCsの多くは難分解性で、一部のPFCsは生きものの体内に蓄積し生殖機能やホルモンバランスに影響を与えることが指摘されています。

そのほかにも、水生生物への毒性、難分解性、環境ホルモンの性質を持つノニルフェノール類(洗剤として使用される)や、日本でも公害被害の原因物質として知られている水銀・鉛・カドミウムなどの重金属(染料や着色剤など)など、衣類の製造過程で使用される有害化学物質は多岐に及びます。EUなど先進国では禁止されている物質が、規制の及んでいない途上国で使用される例も多く存在しています。

中国の浙江省北部にある紹興の染料工場
中国の浙江省北部にある紹興の染料工場

80のブランドを動かした
「デトックス・キャンペーン」

2011年3月、グリーンピースはファッションにおける有害化学物質の使用を止めるため、「デトックス・キャンペーン」をスタートしました。排水を調べ、汚染元となっている工場とブランドを特定。その結果をもとに有害化学物質の排出・使用を停止するよう、スポーツ・衣料品ブランドに働きかけてきました。

7年間のキャンペーンにより、アディダス、プーマ、ナイキやバーバリー、ヴァレンティノ、H&M、日本ではユニクロを展開するファースト・リテイリング社など、80の世界的なブランド・小売業者・生地や繊維を供給するサプライヤーが、2020年までに有害化学物質のデトックスを宣言しました。このキャンペーンは、各国の法整備にも影響を与えました。中国ではより厳しい排水基準が法律で定められ、EUでは有害化学物質NPEsを含む繊維製品の輸入の禁止、繊維製品内の発ガン性物質に対する規制の提案につながっています。

デトックス・キャンペーン報告書『ファッションをデトックスーー有害化学物質ゼロを目指した7年間の歩み』(日本語版2020年10月発行)はこちら

ミラノでのデトックス・キャンペーン
ミラノでのデトックス・キャンペーン

大量消費から抜け出して、
大切に長く使う生活へ

有害化学物質の排出・使用停止が少しずつ実現へと向かう一方、衣料品の過剰生産による資源とエネルギーの問題、温室効果ガスの問題、マイクロファイバーの問題は、未だ解決の糸口をつかめていません。世界規模で見れば、衣料品の生産量と消費量は拡大を続けており、ファッション業界は持続「不可能」な成長を続けています。

ファッション業界の成長を支えているのは、ファストファッションに多用される安価な合成繊維です。生産時に大きな環境負荷をかけ、廃棄する時にも分解されないこれらの素材は自然界に対する負担になります。供給する企業側も、使い手である私たちも、「使い捨てが当たり前」の文化を根本から見直さなければ、問題の解決にはつながりません。

使ってリサイクルすれば良いのでは、と思う人もいるでしょう。天然繊維である綿やウールのメカニカルリサイクル(衣類を解いて繊維レベルまで分解する)方法は確立されていますが、品質の低下が伴います。合成繊維のケミカルリサイクルも研究も進められていますが、現時点ではどの技術も採算がとれるものではなく、行う企業はほんの数社しかない状況です。さらに、コーティング剤やプリント部分や混紡生地の多用が、リサイクルをさらに困難なものにしています。

耐久性があり、修理やリユースができて、長年愛用できる。そして寿命を終えたら完全にリサイクルできる。そんな洋服と仕組みを企業が作り、私たちは選んでいく必要があります。半永久的に資源が循環するしくみこそ、これからの社会にふさわしい唯一のファッションのあり方といえるのではないでしょうか。

出典:グリーンピース報告書「ファッションをもっとスローに」
出典:グリーンピース報告書「ファッションをもっとスローに」

私たちが今すぐ
できること

action1

服を補修しながら使い、買う回数を減らす

今持っている服を大切に長く着続けることが、私たちに今すぐできること。穴が空いたら繕ったり、メーカーに修理に出したりと、「直して着る」という私たちのマインドの変化で、衣服の寿命はぐっと伸びるはずです。また、新しく服を購入する時には、長く着ることを考えてデザインされた服や、アフターケアをしてくれるメーカーやブランドを選びましょう。

action2

積極的に古着を選ぶ

私たちが「服を長く着るだけ」で、環境への影響は軽減されます。「温室効果ガスは、洋服の耐用年数が1年から2年に倍増すれば、年間の排出量を24%削減できる」と言われています。また、バージンコットン1kgが古着に置き換えられるたびに約65kwhの節電になり、ポリエステル1kgあたりなら90kwhの節電になります。必要な服を買い足すときは、フリマアプリを利用したり、古着屋さんに行ってみたり、海外では洋服の交換会も人気のイベントです。古着を積極的に選ぶことは、過剰消費を前提とするファッション業界に対抗する手段になるはずです。

action3

洋服を選ぶ基準を変える。「長く着ることができるか」「環境に負荷の少ない素材か」

どうしても新しい洋服を購入する時には、長く着ることのできる品質とデザイン、そして環境負荷の少ない方法で作られていることを判断基準に選びましょう。合成繊維ではなく、綿やウールといった天然繊維でオーガニックのもの、レーヨンやリヨセル、竹繊維といった再生繊維も環境負荷の少ない繊維です。もうひとつ、自分の好きなもの、自分に似合うものを知ることも大切なことです。それさえできれば、ずっと着ることのできるお気に入りの一着を選び、長く愛用することができます。

action4

グリーンピース・ジャパンの活動に参加する

グリーンピースは、11/29〜12/8をMAKE SAMTHINGウィークと定め、古いものを修理したり、アップサイクリングしたりして、すでに持っているものを大切にするように促すキャンペーンを行なっています。グリーンピース・ジャパンでも、2019年には植物染色でシャツの染め直しをするイベントを、2020年にはオンラインで裂織ワークショップを開催しました。こうしたイベントに参加したり、寄付によって有害化学物質の調査に協力したり、参加の方法はいろいろあります。ぜひ、自分にあった方法で、グリーンピース・ジャパンの活動に参加してみてください。

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