最近よく耳にする中国初のブランドSHEIN(シーイン)をご存知でしょうか。超低価格でトレンドの洋服が購入でき、若年層の女性たちの間で人気になっており世界中に展開しています。SHEINはファストファッションを超えて、超高速ファッション(ウルトラファストファッション)と呼ばれています。
SHEINのようなウルトラファストファッション企業は、人や環境に有害な条件下で洋服を生産しています。今回、グリーンピース・ドイツがSHEINが生産する洋服に含まれる有害物質などを調査しました。ウルトラファストファッションSHEINの衝撃的な事実を紹介します。

環境に負荷をかけるリアルタイムファッション

SHEINは、毎日なんと6,000近くの新しいデザインを出品し、 他のどのファストファッションブランドよりも多く、安価なファッションアイテムを生み出しています。 

しかし、安いということは、他のファストファッションと同様に、販売されている衣類の多くがポリエステルやナイロンなどのプラスチック繊維で作られているので、SHEINが生産する服は、低品質で長持ちしない、使い捨てファッションアイテムであることが多いです。

SHEINの服は流行を追っているので、ファッションアイテムが一時的な流行の短い寿命を超えて長持ちする必要がないということなのでしょう。

ファッションブランドは1980年代以降、 流行の移り変わりを加速させ続け、 服が使い捨てられるペースをどんどん速めてきました。 ファストファッションが生まれた15年前と比べると、購入する衣料品の点数は 一人当たり平均して60%増えた一方、 手元に置いておく期間はおよそ半分になっています。

有害化学物質の使用

グリーンピースの委託を受け、SHEINのファッションアイテムを、ブレーメン環境研究所
グリーンピースの委託を受け、SHEINのファッションアイテムを、ブレーメン環境研究所
(Gesellschaft für Schadstoffanalysen und Begutachtung mbH)が有害物質検査を行いました。
(2022年10月26日 ドイツ)

グリーンピース・ドイツは、オーストリア、ドイツ、イタリア、スペイン、スイスのSHEINのウェブサイトから 、男性、女性、子ども、幼児向けの衣服や靴など47点を購入し、 独立研究機関で分析しました。 

その結果、靴には非常に高いフタル酸エステル類が検出され、子ども用の衣類には、発がん性のあるホルムアルデヒドが含まれるなど、 EU規制値を超える有害化学物質が検出されました。

注)
フタル酸エステル類:内分泌攪乱作用、生殖毒性、発達毒性、組織障害などが報告されている。

ホルムアルデヒド:皮膚障害、呼吸器障害、発がん性、催奇形性、神経毒性などがあり、水生生物にも影響を及ぼす。

消費者の安全を保障するために製品に使用されている物質は公表されていなくてはなりません。このようなオンライン販売の大手ファッション企業が、除外するべき有害化学物質のリストを公表していないことは問題です。

SHEINが利益追求のために危険な化学物質を使用し、環境と人に与えるリスクへの考慮が欠けていることが明らかになりました。

工場の過酷な労働環境

SHEINが、ミュンヘンのフォーラムに5日間のポップアップ・ショップをオープン。
グリーンピースのスタッフが素材をチェックする様子。(2022年9月)
SHEINが、ミュンヘンのフォーラムに5日間のポップアップ・ショップをオープン。
グリーンピースのスタッフが素材をチェックする様子。(2022年9月)

イギリスのChannel 4 の新しいドキュメンタリー「Untold: Inside the Shein Machine」は潜入調査を行い、 その内容を公開しました。

その調査では、SHEINの労働者は、 1日11時間、1カ月に29日間働くことが頻繁にあり、 休日は月にたった1日であることや、2つの縫製工場では1日18時間勤務という長時間労働を強制していることが報告されました。

また、ある工場では基本給がなく、 服を1着を作るごとにわずか0.27元(約6円)、ミスをすると罰金が課されるなど、劣悪な労働環境が明かされ、物議を醸しています。

プラスチック素材の使用

SHEINが、ミュンヘンのフォーラムに5日間のポップアップ・ショップをオープン。
グリーンピースのスタッフが素材をチェックする様子。(2022年9月)
SHEINが、ミュンヘンのフォーラムに5日間のポップアップ・ショップをオープン。
グリーンピースのスタッフが素材をチェックする様子。(2022年9月)

SHEINはリサイクル素材の使用などサステナブルな素材の使用を広告でアピールしています。

実際には、女性服の60%近くがポリエステル製ですが、5万5,000の女性服のうちリサイクルされたポリエステルを使用した商品はたった237点のみでした。

その他にもナイロン、アクリルなど石油由来の素材を使用した製品が多くありました。

ファッション業界は、毎年、スペイン全土と同じ量の石油を使用しています。

ポリエステルの主要メーカー2社はロシアから石油を調達しているため、この依存関係がウクライナでの戦争に拍車をかけていることになります。

また、洋服を洗濯した際に流出するマイクロプラスチックは、海を汚染するマイクロプラスチックの35%を占めており、 安価で使い捨てられるプラスチック繊維の洋服を大量に売り続けることは環境への大きな影響が懸念されます。

SHEINのグリーンウォッシュ

グリーンピースは、ケニアの廃棄物処理場などを訪問。ケニアにはヨーロッパや中国から古着や新品の服が送られてきて、いわゆる「古着」として売られるが、量が多いために埋め立てや廃棄物処理になることも多い。(2022年4月)
グリーンピースは、ケニアの廃棄物処理場などを訪問。ケニアにはヨーロッパや中国から古着や新品の服が送られてきて、いわゆる「古着」として売られるが、量が多いために埋め立てや廃棄物処理になることも多い。(2022年4月)

2022年6月、SHEINは、ガーナの繊維廃棄物労働者と協力しているNGOに、1,500万ドルを寄付すると発表しました。 

また、環境正義、教育、ファッション開発の分野で活躍する環境NGOであるOr Foundationと生産者責任基金を設立しました。 

SHEINは地球の貴重な資源の浪費に依存し、持続可能性とは程遠いビジネスモデルを確立しながら、 寄付や基金団体の設立など環境へ配慮していると見せかけることで現在のビジネスモデルを維持しようとしています。

SHEINのような生産者は、サプライチェーン全体を通じて引き起こされた環境と健康への問題を解決するために、金銭的な責任も検討しなければなりません。

先進国から送られたごみの山

ケニア・ナイロビのダンドラごみ捨て場での繊維とプラスチックのごみ(2022年4月)
ケニア・ナイロビのダンドラごみ捨て場での繊維とプラスチックのごみ(2022年4月)

着なくなった古着をチャリティー団体に寄付したり、ブランドショップの回収ボックスや自治体のリサイクルステーションに持ち込んだりすると、チャリティーショップで売られたり、新しい服に再生されたりすると思い込んでしまう人もいるでしょう。

しかし、実際は増え続けるファストファッションの過剰生産により、経済先進国から経済後進国へ輸送される古着が増加しています。

2019年にケニアに輸送された古着は185,000トンですが、古着の約30~40%は市場価値がないため、55,500~74,000トンは繊維廃棄物となったことになります

そのため、毎日約150~200トン、トラック60~75台分の繊維廃棄物が、捨てられたり、燃やされたり、埋立て場に送られることになります。

ナイロビのギコンバ市場近くの繊維廃棄物(2022年6月)
ナイロビのギコンバ市場近くの繊維廃棄物(2022年6月)

ファッションブランド、そして私たちにできること

SHEINのようなウルトラファストファッションの流行によって、衣服は使い捨ての包装のようなアイテムに変わってしまいました。

アフリカなどの経済後進国に輸送される大量の繊維廃棄物を止めるには、ファストファッションアイテムの生産・販売を大幅に減少させる以外に方法はありません。

グローバルなファッションブランドは、生産する数を減らし、より高品質で長持ちし、修理や再利用が可能な服を生産するビジネスモデルに完全に変わる必要があります。

私たちも、ファストファッションに頼らずに、お金をかけなくてもおしゃれを楽しむ方法はあります。安いからという理由で、安易に購入するのではなく、持っている服を捨てる前に直したり、誰かと交換したり、新品を購入する前にセカンドハンドでお気に入りを見つけたりしましょう。洋服の寿命を1年から2年に伸ばせれば、温室効果ガスの排出を年間24%削減することができます。*

グリーンピースはアパレル産業に対して、有害物質の使用と排出を撤廃するよう呼びかけるキャンペーンを2011年から実施、2018年までに、ユニクロやナイキやリーバイスなど、世界シェアにして15%を占める80社からの合意を獲得しています。詳しくは以下の記事で解説しています。