[スタッフVoice vol.10]
グリーンピース・ジャパンで働くメンバーのご紹介:気候変動・エネルギー担当、Mさんのインタビューをお届けします。

地球規模の環境問題の解決を目指して、グリーンピースはさまざまなキャンペーンを展開しています。Mさんが担当する「ドライビングチェンジ」は気候変動の要因である温室効果ガス排出の多い自動車セクターについて、ゼロエミッション車へのシフトを加速させることや持続可能なモビリティを促進することを目指すキャンペーンです。Mさんはそのキャンペーナーとして、2023年4月に入職しました。


キャンペーンとは、社会を具体的に変えようと戦略的に働きかける一連の活動を指します。キャンペーナーの業務は、変革を起こすために必要な戦略的道筋、手段を考え、実行に移していくこと。Mさんはどのようなきっかけでキャンペーナーになったのでしょうか。

キャンペーナー経験は必須ではない。企業での業務経験も活かせる

物心ついた頃から、社会貢献につながる公共性の高い仕事に就きたいと考えていたMさん。大学院卒業後、国際協力関連のコンサルティング企業、官庁での仕事を経て子ども支援専門の国際NGOに勤務しました。環境問題に携わってはいなかったけれども、気候変動に取り組みたいと考えるようになったのは、グローバル・サウスでの子どもや社会的弱者を対象にした人道支援活動に関わることを通して気候危機の影響を実感したからでした。

「日本ではほとんど報道されていなかったと思いますが、アフリカの角と呼ばれるエチオピアやソマリア、ケニアでは、2010年から厳しい干ばつがほぼ毎年続いています。また紛争など人為的に発生した人道危機でも気候変動と合わさって危機が複合化することが多くなっています。支援活動は重要である一方、あまりに影響が甚大なので、対症療法的なことではなく、気候変動そのものに直接関わりたいと思うようになりました」

そんなとき見つけたのが、グリーンピースのドライビングチェンジのキャンペーナー募集でした。グリーンピースはもともと知っていたこともあり、幾度か求人の情報を目にするうちに何か縁があると感じ、応募を決心します。

とはいえ、環境問題について専門的知識はなく、政策提言の経験はあったものの、キャンペーナーの業務は未経験。それでもMさんが応募を決めたのは、募集要項の応募条件に「プロジェクト管理の経験」の項目があったからです。問題を分析して、目標を決め、それに到達するために必要なアクションやリソースを考え、実施に移す、それをサイクル化してモニタリングをしていくという一連のプロジェクト管理は国際協力分野ではごく一般的に適用されています。

そして実際、キャンペーナーとしての業務が始まると、プロジェクト管理の経験だけでなく、コンサルティング会社で調査を重ねてきた経験が活かせることにMさんは気づきます。ドライビングチェンジ・キャンペーンでは、自動車産業の動向や各国の自動車政策、交通脱炭素政策など、把握すべきことが山のようにあります。インターネットで適切なレポートを探して読み込むことに加えて、統計データを使ってプレゼンテーション資料を作ることも頻繁にあります。

「今の時代はインターネットで検索すれば実に様々な情報は出てきますが、やはり各国の政府機関や定評のある調査機関が出すものをまずは確認します。これまでの経験から、どこの省庁がどういったデータを出しているか見当がついているので、国土交通省にあるのでは? と調べると、キャンペーンに有益なデータが見つけられたりします」

キャンペーナーというと特別な業務にも感じられますが、環境保護以外の社会問題に取り組むNGOや企業での経験を活かす機会も多くあることがわかります。コミュニケーション力は重要ですし、様々な組織や個人の関係者と交渉や調整をするのも重要な業務です。

好奇心やコミュニケーション能力、そしてクリエイティビティが必要

Mさんが入職して、キャンペーナーの業務に対して強く感じたことは、クリエイティビティが必要とされることでした。環境問題解決のカギを握っていると言える政府や企業へ働きかけ、その政策やビジネスモデルに変化を生じさせることは、キャンペーンの成功に欠かせませんが、単純にこちらの主張を繰り返すだけでは変化は期待できず、相手に気づきのきっかけになるものを提供することが重要だと感じています。

同時に、多くの人がキャンペーンに対して共感し、解決のために行動を起こすことも重要です。調査結果の情報やデータの数字を公表し、いわば理屈を伝えるだけでは、多くの人の行動にはなかなかつながりません。もっと感情に訴えかけるような、クリエイティビティあふれる仕掛けを考えなければならないのです。そのような優れたキャンペーンが、問題解決への変化を産むことができるのでしょう。

幅広い能力が必要とされるキャンペーナーには、どんな人が向いているのでしょうか。Mさんの口からは、「好奇心があるといいと思います。物事を中長期的に見通せる必要もあるし、コミュニケーション能力も要りますね」と、次々に必要と思われる特徴が挙がってきました。

コミュニケーション能力が必要なのは、政府や企業の人といった外部の関係者に対してだけでなく、団体内の広報や政策提言を担当するスタッフを相手にするときも同様です。

気候変動の解決という同じ目標を持っていても、そこへ向かうアプローチはさまざま。役割の異なるスタッフと意見をまとめるためのコミュニケーション能力や交渉力が求められます。そして、一朝一夕では解決できない環境問題に取り組むには、長期的な展望を持ち、着実にキャンペーンを進めていかなければなりません。

決して簡単ではありませんが、さまざまな業務とたくさんの段階の先に、気候変動という巨大な問題の解決へとつながる最初のきっかけが待っています。そこから、解決に向かうドミノが始まるかもしれないのです。

「苦労はありますが、格好をつけた言い方をさせてもらうと、使命感は感じていますよね。個人の方からの寄付で活動しているので、成果を出さなければいけない責任感もあります」

決して楽ではない、見方によっては厳しい業務にも意欲的に向き合い続けられるのは、やりがいが感じられるのはもちろん、業務を通して価値ある学びを得られるから。そして、気候変動を解決したいという強い思いを共にできる仲間がいるからです。さらに、エネルギー関連への取り組みが多い気候変動対策において、交通関連に注力できていることも、仕事へのモチベーションにつながっていると言います。

ワークライフバランスを保ちながら、キャンペーナーをライフワークにする

Mさんの日々の業務は、自ら行う調査や、依頼した調査の報告書のレビューなど、一人でこつこつと進める作業のほか、組織内での会議、さらに外部機関や企業の関係者との面会、他団体の職員との情報交換など、多岐に渡ります。

そして、日経新聞やファイナンシャルタイムズなど、国内外の新聞をはじめ、さまざまなメディアの記事や、シンポジウムやウェビナーといったイベントからの情報収集も、重要な業務のひとつ。ただし、情報収集にはこれで充分という終点がありません。

「どれだけ情報が必要かは人それぞれですし、そこまで情報がなくても業務ができることもあると思います。逆に、私が時間をかけているからといって、いい仕事をしているわけでもありません。情報を上手く使って、成果を出すことが一番大切だと思います」

グリーンピースは、ワークライフバランスを重視しており、リモートワークやフレックスといったフレキシブルな働き方を導入し、スタッフそれぞれの働きやすさを大切にしています。Mさんも、ときには午後に仕事から少し離れ、自宅の庭に出て土いじりをする時間をとることも。そこでリフレッシュして、また新鮮な気持ちで業務に向き合うようにしているのです。

「この仕事をライフワークにしたい」と思えるような人が、キャンペーナーに向いているというMさん。単なる仕事として取り組む以上の価値を見出し、情熱を注げるような人が、キャンペーナーの仕事を楽しむことができるはず。気候変動の解決までの道のりは、決して平坦なものでないことは明白です。それでもMさんは、日々の業務にやりがいを感じながら、前向きにキャンペーナーとして歩み続けることでしょう。