【農家さんにインタビュー】どんな気候変動の影響を受けていますか?
この投稿を読むとわかること

ニュースで何度も耳にする「猛暑」、野菜の値上がり、突然の豪雨。みなさんの日々の生活の中で「前とはちがうな」と感じることが増えていませんか?それは紛れもなく、気候変動による影響であり、私たちの「当たり前」が消えていくサインです。
グリーンピースジャパンは、様々な立場の方を対象に気候変動の影響についてインタビューし、その実態を伝えるべく「気候変動キャンペーン」を実施。今回は、神奈川県横須賀市にて仲野晶子さん、仲野翔さん夫婦で農業を営むSHO Farmさんにお話をお伺いしました。SHO Farmさんからみた気候変動の影響とは?希望とは?私たちが生きていくために欠かせない食料の現場で起きていることを、お届けします。
SHO Farmの取り組み「環境再生型農業」
仲野翔さん:2014年から、SHO Farmを始めました。当時から、化学肥料を使わず無農薬で続けていて、いろんな種類の野菜と卵、果物、米をつくっています。
2022年からは、環境再生型農業に取り組んでいるのですが、きっかけは晶子さん(妻)が言い出したことです。晶子さんは、土壌学の視点から、土にとって何が一番良いかを考えた時に、トラクターを使わないことでした。トラクターで耕していると表土がどんどん失われてしまうので、土壌を豊かにする農法に切り替えたいという思いから、耕さない農業に変えました。
不耕起栽培(ふこうきさいばい)のメリットは、土壌にとってたくさんあります。栽培しながら土壌が生成されるので、生態系としても豊かになって、作物の質が良くなることや、干ばつや大雨などの極端な天候の変化に強くなることが期待されます。炭素も土の中に入っていくため、炭素固定という意味でもすごくメリットがあります。
農家が語る気候変動の影響
1. 種まきの時期と収穫量の変化
気候変動は、すごく私たちの身近に迫っていると感じています。例えば、これまで「この日に種をまいたらいいよ」と言われていたものが、どんどん崩れてきました。種まきのタイミングがすごくタイトになってきたので、労働力のしわ寄せが起きて大変です。
種まきのタイミングがずれると、収穫量も変わってきます。玉ねぎもとても小さいものしかできなかったり、ほとんど花が咲いてしまったりします。花が咲いてしまうと下の実が太らないので、玉ねぎが全然収穫できなくなってしまいます。そういった影響を受けながら、なんとか生産している状況です。

2. 虫の変化
暑いとハチが飛ばなくなるので、我々は朝、ズッキーニの雄花の蕾を取ってその先端に雌花をくっつける人工受粉をやらないといけなくなります。
他の虫も、極端な状況です。極端に悪い虫がたくさん出る年もあれば、パタッと出なくなる年もあります。

3. 台風とひょう
周りの農家の方とも気候変動の影響について話しています。変な時期にひょうが降ってきて、キャベツの葉っぱに穴をあけられたなど。大型の台風でいろんな資材が飛ばされるといったことも聞きました。やはり、台風が来ると毎回眠れないです。「大型になりました」って巨大化していく台風をみていると「今回はあのトマトが倒れちゃうかな」と心配になります。
茎ごと折れてしまう作物もあるし、100万円するビニールハウスも飛ばされてしまうなど。実際ビニールハウスがだいぶ歪んでしまったり、巨大化する台風は、農家にとってかなり脅威になっていると思います。
4. 普通になりつつある熱中症
あとは、野菜より前にまず我々の体がとても堪えるというところがあります。午前中一生懸命草刈りをやっていると、熱中症の症状で頭がガンガンします。それはもう毎日です。それが普通になりながら、農業を続けているという現実がなかなか大変だなと感じています。
雨が一番大きな影響
一番大きな影響は、雨です。全く降らないとか雨ばかり降るとか、そういうのは我々としてはものすごく困ります。夏場に雨が降るタイミングは、もう台風しかないです。農業を始めた頃はそうではなかったように思います。夕立もあったのですが、最近夕立のことは聞かなくなりました。私たちは天水農業(自然の雨に頼って農業をする)なので、基本的に水やりはほとんどしないのですが、暑すぎる夏とか水やりせざるを得なかったり、我々の作業体系も変わってくるところがあります。
雨が全然降らない年もありました。その時にどうしても田んぼがひび割れて、カラカラになることがありました。どうしようもないので、川から水をポンプアップして、田んぼに入れる形で育てていたのですが、そうなるとお金も労力もかかります。
他にも、ナスや里芋など水が好きな作物は出荷がすごく難しくて、かなり乾燥が続く夏だと、ナスの実もどんどんしぼんでいってしまったり、実自体も大きくならないです。ほとんど収穫できなかった時もあります。夏でも食べたいモロヘイヤや空芯菜などの葉野菜は、雨が降らないと葉っぱがごわごわして硬くなるし、食べられる部位も少なくなるので、とても困るところです。
夏だけでなく実は冬も全然雨が降らなくて、キャベツやブロッコリーが太りません。周りの農家さんも同じことを言っていました。その結果、キャベツの単価が上がって、高いからキャベツを出荷したいけど、全然大きくなっていないという状況がありました。
トマトも大雨が降ると割れてしまいます。その大雨のタイミングが急だったりするので、出荷の予定に合わせることが無理な部分もあります。

「私たちの農業は気候変動に強い」SHO Farmの農法に学ぶ
私たちの農業は本当に気候変動に強いと確信を持って言えます。なぜかと言うと、植物も雑草も根っこを通して全部繋がり合っているような形の農業をやっているからです。一般的な農家さんは、ビニールプラスチックを使って野菜を植えますが、うちは基本的にビニールプラスチックで畑を覆うことをやめたので、ビニールの代わりにたくさんの雑草などを使っています。そうすることによって、微生物もネットワークが豊かになります。

トラクターを使う農法をやっていた時は、大雨が降った翌日はずぶずぶと膝ぐらいまで土に足がめり込んでしまって、畑作業が全くできない時も頻繁にあったのですが、今はそういうことがなくなりました。根が水持ちが良く、水はけの良い土壌構造を作るため、大雨が降った後でも畑作業がしやすいですし、土壌の水分がきちんと抜けます。そういった面で気候変動に強いと思います。
農業の現状とSHO Farmが描く未来
現代農業の、石油をたくさん必要とする大型のトラクターや長距離の輸送などが、気候変動を加速させる原因になっていると思います。大きい機械に頼らない農業をすることによって、ローカルな人と手を取り合って、どんどん土もコミュニティも豊かになる。そういった農業のあり方が、日本各地で少しずつ出てきて、カラーが変わっていく未来をぜひ描きたいなと思っています。
消費者の方も、キャベツの価格が高いなど、そういったところで農家の大変さに思いをはせて下さっている部分があると思うので、そこからもう一歩先に行ってみたかったら、うちに来て下さったりしてもいいかなと思っています。毎週水曜日には、広く無料でボランティアを受け入れています。一緒に作業してご飯を食べて、いろいろ話し合って、持ち帰る機会を作っていけたらと思っています。
気候変動や異常気象も加速していくので、暗い気持ちになったり、環境として辛くなっている部分もあります。けれど、その中でもずっと希望があると思っていて、それが僕たちの目指す環境再生型農業です。農業を継続しているだけで、野菜や生態系、土壌も良くなり、さらには人も良くなる。炭素も地中にたくさん貯留できるようになる。自分が作ったもので喜んでもらえる。それが、ひと筋の希望になるのではないかと感じているところです。

SHO Farmが期待すること
1. 消費者に期待すること
消費者の方ができることは、食べるものを選ぶということがまず一つです。しかし、それはよくある回答で、そこからもう一歩先に行って欲しいと実は思っています。僕らがかつて、プラスチック包装の野菜を送っていた時に、消費者の方から「私は新聞紙包装がいい、プラスチック入りの野菜は受け取らない」と言ってもらって、我々の意識が変わっていきました。それは消費者が農家に対してできる大きな問題提起だと思います。
そうした方が3人でも来ると「あ、農家としてこれはもう時代遅れなのかもしれない」と痛感するようになるかもしれません。買って応援することに加え、農家さんに何かプラスになる提案をしてあげる。それが求められているのではないかと思っています。
2. 国に期待すること
生産環境や経営環境がかなり厳しくなってくるので、国は漫然と農業全体を支援するよりは、きちんと環境に配慮をしてる農家さんにフォローアップするようなお金のつけ方や人材の配置など、そういうことをするべきだなと思ってます。そうしていくと、気候変動に関心のある若者たちが、解決策として農業に興味を持って業界に入るハードルを下げる要因にもなると思うので、国としてはやった方が良いと思っています。
3. 企業に期待すること
これまではレストランやコスメで、オーガニックが注目されていましたが、そこからもう一歩進んで欲しいと思っています。リジェネラティブ(土壌や生態系の回復を目指す農業手法)や環境を再生するような生産者さんと直接提携して取り組むなど、そういう風に進まないと、環境再生型農法がどんどん広まっていかないとも思っています。
仕組みを変える、SHO Farmが展望する1000年先
自分で農作物を全て作ることが理想だと思います。けれども、その理想が今の現実でどこまで追求できるのか、皆さん結構疑問を抱くと思います。私たちSHO Farmが1000年続いて欲しいと思っていますが、ずっと野菜を買って欲しいと思っているわけではないです。私たちの農産物を徐々にみんなが買わない暮らしになるように、社会がシフトしていってほしいと思います。
それぞれ自分で野菜を作る、共同で鶏を管理して卵を取る、ミルクを売るとかそういったことができると良いなと強く思っています。なので、私たちができることは、自給を後押しできるようなこと。そういう場をつくっていきたいと思っています。自給的な暮らしの方向にどんどん進んでいくと、経済はあんまり回さない、回らない。けれども、それでも環境には一番良いような暮らし方になるので、そのようになると良いなと思っています。

おわりに
異常気象は、私たちの「当たり前」が消えるサインです。SHO Farmさんのお話から、雨の変化による各作物への打撃、熱中症になりながら作業をすることが普通になってきたことなどがわかりました。気候変動が引き起こす異常気象は、刻一刻と深刻化する待ったなしの問題です。
私たちひとりひとりが、農家さんのつくった作物を「買って応援することに加え、農家さんに何かプラスになる提案をする」ことや、「自給」に向けて行動を起こすことも重要な一歩です。しかし、個人ができることには、限界があります。
グリーンピースジャパンは、より気候変動の根本原因である社会の仕組みを迅速に変えていくために、行政や企業に働きかけます。活動資金は、創設当初から半世紀以上にわたり政府や企業の資金に頼らず、財政的に独立であることを大切にしています。
異常気象が私たちの日常になる前に、寄付によって一緒に社会の仕組みの変化を生み出しませんか?頂いたご寄付は、国や行政、国際の場における政策提言や、企業への働きかけのための活動の資金となります。詳しくは、気候変動キャンペーンをご覧ください。より迅速に気候変動の危機回避に取り組めるよう、皆様からのご寄付を通じてグリーンピースジャパンを応援していただけますと幸いです。