普及とともに懸念されるEVバッテリーの環境課題とは?(下) [Drive Change]
普及とともに懸念されるEVバッテリーの環境課題とは?(上)では、EVバッテリー製造に伴う温室効果ガスの排出量に着目について解説しました。後半では、世界のバッテリーメーカー上位10社の脱炭素への取り組みについて取り上げます。
EVバッテリー市場の主要プレイヤー
世界バッテリーメーカーの上位10社は以下の通りです。10社のうち6社が中国メーカーです。

トップのCATL(寧徳時代新能源科技)は市場シェアで2位のBYD(比亜迪)を大きく引き離しています。
現在、大手自動車会社は、EV用バッテリーを自社開発をしながらも、電池会社から購入し、また、電池会社は複数の自動車会社に電池を提供しています。BYDのように、バッテリーを製造し他社へ販売しながら自らEVを製造・販売しているケースもあります。
テスラやフォルクスワーゲン(VW)は中国製のバッテリーをそのEVに搭載しています。上位10社に入るGotionはVWも出資している中国の電池メーカーです。パナソニックは、テスラへバッテリーを供給してきましたが、マツダやスバルへも販売しています。自動車会社と電池製造会社の間の合併、出資、共同出資など、現在、非常に激しい動きが起きています。
バッテリー製造会社世界上位の脱炭素目標は多様
さて、10社の脱炭素取り組みについて、主にサステナビリティ報告書などに記載されている内容を分析したところ、ネットゼロを宣言しているかどうか、一様ではないことがわかりました。
具体的には、スコープ1(直接排出)、スコープ2(間接排出)、スコープ3(サプライチェーンの上流と下流からの排出)をすべてゼロにする方針を打ち出している会社もあれば、スコープ1と2の脱炭素化しか宣言していない会社、立場を明確にしていない会社がありました。
中国のCATL、韓国のLGES、日本のパナソニックなど6社は、バリューチェーン全体のネットゼロ目標を打ち出しています。なかでもCATLは野心的で、ネットゼロ目標を2035年に設定しています。他の会社は2040年から2050年の間に設定しているケースがほとんどです。

バッテリー製造に使用する電気を再生可能エネルギーにしている割合も会社によって大きく異なります。2024年時点で、CATLは7割強、LGESは5割強を再エネにしています。パナソニックも同年には使用する電力の約3分の1を再エネにしています。
現在、多くの企業が取り組もうとしているサプライチェーンの脱炭素化。バッテリー製造会社も例外ではありません。特にニッケル、マンガンなどの鉱物資源をどの程度正極材の材料にするかによりますが、この製造工程だけでライフサイクル排出量の3割以上を占めるとされるため、その過程で使用する電気をいかにしてグリーンなものにするかが課題になっています。
脱炭素を進め上でのバッテリーの重要性
調査した10社のうち、サプライチェーンを含めて脱炭素の目標を設定しているのは半数にとどまりました。
CATLは大手のサプライヤーに対して製造に使う電力を排出ゼロのものにするように求めており、LGESも同様に、ティア1のサプライヤーに対して2030年までに再エネ使用を100%とにするようにという要望を出しています。パナソニックは、2031年までに、2021年比でサプライチェーン全体で排出量を50%削減するという目標を打ち出しています。対照的に、BYDについては、2045年ネットゼロと謳いながらも、具体的な目標は不在であることがわかりました。
これらの分析を踏まえて、報告書の結論として、グリーンピースは大手バッテリー会社に以下の4点を求めています。
- バッテリー製造に使用する電力の100%再生可能エネルギーへの切り替えのため、時間軸を伴った目標を設定し、それを公にするべきです。
- 原材料のリサイクルを推進するための明確な目標値を設定すべきです。EUで2023年から施行されているバッテリー規則では、リサイクル済み原材料の使用割合の最低値が導入され、原材料別再資源化率の目標値があります。これに準拠し、それを上回るリサイクル率を実現することはサプライチェーンの安定化にも繋がります。サムスン、LGES、パナソニック、Gotionについてはすでにリサイクル率の目標を立てています。
- サプライチェーン上流の脱炭素化を推進するために数量目標を設定すべきです。
- 消費者が購入の際に正確な情報にアクセスできるよう、事業およびバリューチェーンの温室効果ガス排出について正確なデータを公開するべきです。
特に、2番目のリサイクルについては、バッテリーのリサイクルが進めば、バッテリーに伴う全体のCO₂排出は少なくなることが期待されています。鉱物資源の採掘には相当なエネルギーを使用するため、リチウムを含め、資源を再利用すれば、新たな掘削は不要になります*1。ただし、リサイクルにも複数の方法があり、より低エネルギーの手法が推進される必要があります。
環境、人権の保護の視点も同様に重要
EVバッテリーは、以上見てきたような製造段階の炭素排出の問題に加えて、材料となるリチウム、ニッケル、マンガン、コバルトなどの鉱物資源を採掘する際に水質汚染など環境問題が生じること、また採掘地に居住するコミュニティへ負の影響があることを懸念している人も多いと思います。
これらは非常に深刻な問題で、リチウムが採掘されるチリのアタカマ塩湖周辺の生態系への影響や住民の健康問題、インドネシアのニッケル鉱山での土壌・水質汚染、コンゴ民主共和国におけるマンガンおよびコバルト採掘地での劣悪な労働環境と児童労働、など世界中で数多くの問題が発生し、報告されています。

鉱物資源が採掘されるところは紛争に巻き込まれている地域であることも多く、国際人権団体は、サプライチェーンにおけるデューディリジェンス(適正評価手続き)の実施や情報公開を通して、責任ある鉱物調達に向けた取り組みを求めています。具体的には、企業や政府に対し、深刻な人権侵害に関するリスク管理について指針を示しているOECDガイドラインに沿った対策を求めています*2。
グリーンピースは、気候危機を食い止めるために脱炭素への取り組みを強化していく上で、従来のように各個人や各世帯が自家用車を保有することからシェアリングへ移行することを奨励し、車両の絶対数を減らしていくこと、バッテリーのリサイクル技術を確立し、新たな鉱物資源を掘削し続ける必要がなくなる世界をつくること訴えていきます。
(完)
*1 McKinsey and Company, 2023年2月23日、The race to decarbonize electric-vehicle batteries
*2 OECD 紛争地域および 高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのための デュー・ディリジェンス・ガイダンス