東京都文京区の小学校の体育館 撮影:東京大学 前真之准教授
長い夏休みが終わり、子どもたちが戻った学校はにぎやかになりました。全国で記録的な猛暑日が続いた今年の夏、体育の授業は、学校で過ごす子どもたちにとっても、先生にとっても、もどかしい時間になりました。熱中症の危険性が高くて運動場で体育ができない、暑いから入りたいプールも外気温が高過ぎて入れない……そんな事態が相次ぎました。これからスポーツの秋、子どもたちは体育を楽しめるのでしょうか?

近年、夏の間に子どもたちが思いっきり体を動かせる場所の担保が難しくなっています。体を動かすことは子どもにとって自然なことで、健全な心や脳の活性化も促します。そのような欠かすことのできない貴重な時間が、この地球沸騰化の時代、子どもたちから奪われつつあります。

厳しい日差しで熱くなる校舎

多くの校舎はコンクリートでできています。コンクリートは太陽光の熱(日射熱)を蓄積します。とくに最上階の教室は、屋上の日射熱で温められた熱気でとても暑くなります。エアコンを入れても、教室の温度が望ましい室温まで下がりきらないケースが数多く報告されています。冷房を18度に設定しても室温が32度から下がらない状態が3週間も続いた、という証言もあります。最上階の教室の生徒たちは、そのような環境で授業を受けなければなりません。日射熱の侵入を防ぐには、教室の天井裏や壁に断熱材を入れ、南側の大きな窓の日射を遮ることが必要です。

グリーンピースは2024年7月、東京、神奈川、埼玉、三重にある4つの学校で、最上階の温度を測定しました。その結果、学校の活動時間のうち、5割以上が室温28度を超えていたことがわかりました。

         

グラフ:グリーンピース発表資料より

教室はどれほど暑い?

4校のうちの一つ、東京都練馬区の小学校で7月25日、最上階の教室をサーモカメラで撮影しました。この日、練馬区の最高気温は35.3度。冷房の設定温度が21度でも、教室全体が冷やされることはなく、サーモグラフィーで示されているように室温は約30度となっています。天井や窓は、40度近くでした。(なお、この教室の天井には2.5センチほどの断熱材が入っており、最悪の状態ではありません。)

東京大学 前真之准教授によるサーモグラフィ、7月25日撮影

体育館はさらに暑い

学校の体育館でも状況は深刻です。

写真は、同じ小学校の体育館を撮影したもの。体育館の建物はコンクリートと折板屋根(金属製の屋根材)でできています。曇りがちの日でしたが、屋根は強く加熱され、サーモグラフィで上から撮影すると、真っ白(40度以上)の状態です。

サーモグラフィ/写真:撮影 東京大学 前真之准教授
サーモグラフィ/写真:撮影 東京大学 前真之准教授

文科省は「エアコン+断熱改修」を推奨

体育館は、エアコンが導入されていない学校もまだ多くあります。この小学校ではこれからエアコンの取り付け工事を行うところでしたが、断熱改修の予定はありません。体育館内をサーモカメラで撮影すると、室温は35度程度。天井は40度を超える高温で、とても館内で活動ができる状態ではありませんでした。

文部科学省は、体育館に関して空調設備の設置とともに断熱改修を行うことを奨励しています。

写真/サーモグラフィ撮影:東京大学 前真之准教授
写真/サーモグラフィ撮影:東京大学 前真之准教授

体育館は災害発生時に地域住民の避難所にもなります。全国の小中学校における体育館のエアコン設置率は、たった15%(令和4年9月時点)。普通教室の設置率95.7%と比べ、非常に低い割合にとどまっています。エアコン設置の優先順位は、普通教室や特別教室に重きを置かれ、体育館は二の次になっているのが現状です。

文部科学省HP 公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況より

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40年で5,500万円の経費削減

また、体育館の多くは構造上、断熱性能が確保されにくい設計になっているため、冷房効率が低いことも問題です。文部科学省によるガイド「体育館空調設置に伴う断熱性確保の必要性について」には、「断熱性の確保がされていない体育館へ空調を設置した場合、過大な能力の空調機が必要となったり、光熱費が過大となったりと、効率的、効果的な施設整備ができません」と書かれています。

文科省は、体育館のエアコン設置時に断熱改修も実施することで、「15年目の空調更新の際に断熱化改修工事費の回収が可能。40年で5,500万円の経費を削減」との試算も公表しています。体育館の冷暖房完備・断熱性能の向上に向けた改修には、学校施設環境改善交付金という国庫補助が活用できます。

体育館の断熱性確保による電気代削減効果について(試算)

文科省は、体育館への空調設置と断熱改修を同時に行うことを奨励し、そのための補助金を設けているのです。

  

「体育館本体の建替えや全面的な改修工事に併せ、断熱性能を確保した上で空調を設置するなど、各地方公共団体においても対策を検討していただいた上で、引き続き、教育環境改善に取り組んでまいります」

※「公立学校施設の空調(冷房)設備の今後について」より

  

屋内運動場への空調設置については、当該建物に断熱性があることを要件とする。なお、断熱性の無い屋内運動場について、空調設置と併せて断熱性確保のための工事を実施する場合の経費についても補助対象とする」

※大規模改造(空調(冷暖房設備)整備)事業 (学校施設環境改善交付金) 資料より

  

断熱せずにエアコンだけ設置するのでは、電気を無駄に使うことになってしまいます。ぜひ、断熱改修をあわせて行っていただきたいです。

いま、できることを早急に

いま、できることを早急に。たとえば以下のような対策ができます。

  • 窓は夏の日射遮蔽とともに、内窓の追加などにより断熱性能を強化する
  • 外気に面する壁、特に窓側の壁に断熱材を施工する
  • 蛍光灯を省エネで発熱も少ないLEDに(同時の工事で効率よく)
  • 耐震工事や防水工事の際に十分な量の断熱材を敷き込む(同時の工事で効率よく)(冬の寒さ対策のためにも断熱改修が急がれる)

グリーンピースは学校の断熱改修に関する特設サイト「夏涼しく、冬暖かい教室を子どもたちに」で、教室の実情や解決策、あなたにできることを解説しています。ぜひアクセスしてご覧ください。

【文科省 資料】