[スタッフVoice] ささやかな変化も大きな意味を持つ、と希望を持ちながら仕事に取り組む
この投稿を読むとわかること
[スタッフVoice vol.11]
グリーンピース・ジャパンで働くメンバーのご紹介:政策渉外担当、A・Sさんのインタビューをお届けします。
地球規模の環境問題に取り組むグリーンピースにとって、政府への働きかけは重要な活動のひとつです。新たな政策によって、環境問題が悪化することも、改善することもありえます。そのため、政策渉外担当のスタッフは、アドボカシーと呼ばれる、政治家への働きかけを日々行っています。政治に関心を寄せる人が決して多いとは言えない日本では、なかなかイメージしづらいかもしれません。
「政策渉外」とはどんな仕事なのでしょうか。
戦略的に計画を練り、人間性でぶつかる
グリーンピースが政策渉外を行うのは、国会議員などの政治家に対して環境問題に関する情報を提供し、関係構築を図り、問題の解決につながる政策決定を促すことが大きな目的です。 気候変動であれば、二酸化炭素の排出量を減らす目標値の策定や、エネルギー政策、EVの普及や建築物の断熱化の促進にまつわる法律や条例など、国際的な枠組みから私たちの生活に関わることまで、さまざまなことが政府によって決められ、そのひとつひとつが気候変動に影響を及ぼしています。
気候変動を解決するため、アドボカシーを通して政府を動かしたい、そう考えたA・Sさんは、政策渉外担当として、2024年4月にグリーンピースに入職しました。A・Sさんがアドボカシーに興味を持ったのは、大学でのゼミやNGOでのインターン活動がきっかけでした。
インターンをしていた人道支援を行う国際NGOでは、アドボカシーの結果、人道支援に関わる国際機関への予算を何億というレベルで増やすという成果を得たことも。そこで、アドボカシーに強いやりがいを感じたといいます。
「グリーンピースに入って、特に環境問題に関しては、政府に変化を促すことは難しいとわかりました。現実に直面して葛藤することもありますが、逆に少しでも変化が生じたときの喜びは大きいです。 日本政府の気候変動対策はとても遅れているので、ささやかな変化も大きな意味を持つと希望を持ちながら、仕事に取り組んでいます」
政治家を動かすには、彼らとの関係を深め、彼らに環境問題の深刻さを理解してもらう必要があります。そこで、A・Sさんたち政策渉外のスタッフは、国会議員と面会し、情報交換し、関係構築を図っていきます。けれども、国会議員であれば誰でもいいというわけではありません。
「議員さんの中でもどの議員か、実際に動いてもらうにはどのようなアプローチが良いか、相手にとっても私たちにとってもより良い形を検討する必要があります。与党でも野党でも、どの環境問題に関心があるか、エネルギー政策をどのように考えているか、さらには、政治信条やそこから部分的に読み取れるパーソナリティなど、さまざまな情報をもとにキーパーソンを特定します。環境問題に取り組む議員連盟に所属しているからいいというわけでもないんですよね。議員さんに行動を起こしていただくために、相手にとって具体的なアクションをイメージできる提言を心がけるようにしています。」
情報を集めて状況を判断する、高い分析力が必要な業務ではありますが、一方で人間性やコミュニケーション能力が問われるところも大きいとA・Sさんは言います。「こいつ面白い奴だなと思ってもらえれば、定期的に話をしようねっていうことになったりもするんです」というように、国会議員と言ってもひとりの人間、会って話がしたいと思ってもらえれば、面会しやすくなるのは当然のこと。そのためには、礼儀正しいだけがおそらく正解ではなく、接し方や距離感を相手によって工夫する必要もあるでしょう。
人とのつながりやちょっとした縁などから、会えなかった国会議員との面会が実現したりするなど、理屈では説明できない、非常に人間くさい一面に左右される業務のようです。それだけに、人間性そのもので勝負するようなところもあるかもしれません。
政策渉外担当は、アドボカシーのほかにも、政治の動向や環境問題に関する世界的な動きなど、たくさんの情報を収集することが必須業務。さらに、キャンペーンを実施する部署と連携したり、ときには国際会議のために海外出張があったりと、A・Sさんの上司と二人で政策渉外の業務をカバーするのは、かなりハードです。
それでも、「めちゃくちゃ働きやすいです」と笑顔でA・Sさんが話すのは、グリーンピースが柔軟な働き方を推奨しているから。
「イベントが続いたりすると、少し無理をしなければいけないときもありますが、その後には休みをとるようにしています。短距離走みたいにダッシュするときがあっても、その後はゆっくりする、そんな働き方なんです。有給休暇が取りづらいなんていうことはないですし、お互いにちゃんと休むことを大切にする文化が組織全体にありますね」
精神的にも肉体的にもハードな仕事がこなせるのは、メリハリの効いた働き方のおかげなのでしょう。
NGOを就職先の選択肢として考える
大学在学中からNGOでインターンをしていたA・Sさんですが、高校生まではバスケットに励むスポーツ少年でした。特に勉強を頑張っていたり、国際問題に関心があったりというわけではなかったと振り返ります。
けれども大学進学の際に、大学の有名度や偏差値で進学先を決めたくないと思い、自分にとって大学で学ぶ理由をじっくり考えてみたことが転機になりました。そのとき心に浮かんだのが、困っている人たちを助けること。それまで受けた平和教育などから得た問題意識が、進学先を、ひいては人生を決定づけることになったのです。
大学では国際政治などを学び、3年生からは有給のインターンとして人道支援活動を行うNGOで働き始めます。その時点ですでに、NGOで給与をもらって働く経験を重ね、仕事としてNGOで働くことはA・Sさんにとって特別なことではなくなっていました。
さらに、さまざまな社会課題、そしてそれらに取り組むさまざまなNGOがある中で、自身が本当に何をやりたいのか、A・Sさんの探求は続きました。
「紛争地域でいま困っている人に支援することは大切なんですけど、気候変動が悪化すると、これから先に苦しむ人がものすごく増えるんですよね。日本もそうだし、途上国もそうだし、世界中の人が影響を受けて苦しむであろう気候変動問題に取り組むことは、命を救う活動だなと思ったんです」
大学卒業時には就職活動を行い、環境コンサルなどの民間企業への就職も考えますが、利益の追求が人を助けることにつながるのか違和感を感じ、結局、内定を断ることに。そしてインターンをしていたNGOからお声かけをもらい、職員として就職を決めます。
日本のNGOは、新卒採用をするところがまだまだ少ないのが現状です。A・Sさんのケースはかなり珍しいと言えますが、A・Sさんはできるだけ若いうちにNGOでの経験を積みたいと考えていました。
そのため、友人たちが民間企業へ就職していくなかでも、焦りや不安は感じなかったと言います。
「その後、グリーンピースで政策渉外のポジションの求人が出ているのを見つけ、アドボカシーを通して気候変動に取り組むという夢を現実のものとしました。
自分の感情に真っ直ぐに、困っている人を助けたいという思いに従って来たA・Sさんは、グリーンピースの活動に関心を持ったり、自分も何かしたいと思ったりする人に向けて、「妥協しないでほしい」と言います。
「少しでもいいことをしたいとか、環境問題に取り組んでみたいとか、そんなふうに思ったら諦めないでほしいんですよね。どうしても横並びの文化があるので、特に就職ではみんなと同じようなことを選んでしまいがちだと思うんです。でも、自分が何かしたいと思ったら、たとえそれがきれいごとと言われても、その感情を自分の心の中でちゃんと育てて、大切にしてほしいなと思います」
アドボカシーやNGOといった、日本ではまだ数少ない仕事のカタチではありますが、A・Sさんが充実した社会人生活を送っていることは、その表情から間違いないと確信しました。