長野県・諏訪湖が全面結氷することで出現する「御神渡り」が8年連続で出現していません。グリーンピースの調査では、諏訪市の冬季気温は100年で2.3℃上昇し、諏訪湖の全面結氷の発生率は半減したことがわかりました。調査で判明した諏訪湖の気候変動の実態と、諏訪市で盛んな日本酒・味噌造りへの影響も詳しく解説します。

御神渡りを観測する八劔神社の宮坂宮司ら=2026年2月3日早朝 @Greenpeace

2月3日午前6時、気温マイナス2度。氷点下の早朝、長野県・諏訪湖のほとりに、八劔神社(諏訪市)の宮坂清宮司たちが集まりました。

湖面の様子を観察しながら彼らが待っていたのは「御神渡り」です。全面凍結した湖の氷が、昼夜の温度差によって山脈上にせりあがる神秘的な現象です。

消えゆく神の足跡

湖の対岸まで伸びる御神渡りの氷の筋 @Greenpeace

湖の対岸に向かって走る巨大な氷の筋は「神様がお渡りになった跡」だと言い伝えられ、室町時代から580年以上にも渡り観測が続けられてきました。

2月3日のこの日、グリーンピースのスタッフも観測に参加しましたが、御神渡りの出現はありませんでした。結氷が見られたのは岸からわずか20メートル程度。前日はより遠くまで結氷していましたが、日中暖かくなり溶けてしまったと現地の方は言っていました。

翌2月4日の立春、宮坂宮司から「明けの海」の宣言が出されました。明けの海とは、御神渡りがなかった年のことを表現しています。

御神渡りを観測する八劔神社の宮坂宮司ら=2026年2月3日早朝 @Greenpeace

御神渡りが最後に観測されたのは2018年。今年で8年連続の不出現となり、室町時代の記録(1508〜1515年)に並ぶ史上最長記録となってしまいました。毎年のように出現していた御神渡りと、地域による神事。ですが今、その伝統が途切れようとしています。

諏訪市の冬は100年で2.3℃温かく

なぜ御神渡りの出現が稀になってしまったのでしょう。グリーンピース・ジャパンは諏訪市における気温の変化と、諏訪湖の全面結氷率について調査し、『気温上昇に影響される伝統——長野・諏訪地域の御神渡り、酒・味噌造りと気候変動』にて、御神渡りとの相関関係を分析しました。

調査から、諏訪市の冬季の平均気温は、100年あたり2.3℃のペースで上昇していることがわかりました。日本全国の冬季平均気温が1.23℃の上昇率であることと比較すると、倍近いスピードです。

上記の諏訪市の冬季平均気温と、御神渡りの発生状況のグラフを見ると、1987年以降、冬季平均気温が0℃を上回る年が多いことが見て取れます。御神渡りの出現が減っているのもちょうどこの頃からです。それまでほぼ連続的に出現していますが、1987年以降の出現回数は極端に減少しています。1987年から現在までの約40年間の間に、御神渡りが出現したのはわずか9回でした。

御神渡りが出現するためには、湖面が全面結氷してから少なくとも-10℃前後の日が2~3日続く必要があると言われています。しかし近年、冬季平均気温が0度を上回る年が増え、全面結氷すら難しくなっているのです。

上図は、過去8年間の諏訪湖の衛星画像ですが、2019年以降は全面結氷が起こりにくくなっていることがわかります。

諏訪湖の全面結氷の発生率についても調べたところ、1900年代初頭には96%でしたが、2000年代では48%にまで半減していました。湖面が全面結氷したとしても御神渡りは出現しないケースもありますが、気候変動による気温上昇が、御神渡りの出現に影響を及ぼしていることは確かです。

温かい気温が醸造の伝統も脅かす

@Shutterstock

影響は御神渡りだけではありません。諏訪は日本酒と味噌の産地としても知られ、長野県内80以上の酒蔵のうち9つ、85の味噌蔵のうち20が諏訪地域にあります。標高の高い地形と厳しい冬が、何百年もこの地の発酵文化を支えてきたのです。その文化にも影響が及んでいます。

諏訪市の酒蔵に聞いたところ、日本酒造りに適した温度の目安は10度〜15度だそうですが、調査では、この醸造適温を超える日数も次第に増えていることがわかりました。日本酒作りの適期(10月〜3月)において、100年前と比較すると、10℃を超える日数は21日、15℃超える日数は17日も増加している計算になりました。

下図は、10月-3月の最高気温の傾向を示したものです。1940年代と比べ、現在では平均気温が全体的に高くなっています。また矢印が示すように、醸造の適期も短くなっていることが分かります。

味噌造りも同様です。諏訪では通常30℃程度の気温で味噌を発酵させますが、30℃以上が続くと発酵が進みすぎて味噌が黒っぽくなり、風味に影響が出てしまう可能性があります。調査から、最高気温30℃以上の日は100年前から29日も増加しており、2023年と2025年に至っては60日以上を記録していることがわかりました。

これらの数字は酒造・味噌メーカーも実感しており、信州気候変動適応センターによる調査では、酒蔵の70%、味噌全メーカーの100%が、製造工程で気候変動の影響を受けていると回答しています。

暮らしを変える気候変動

諏訪市での例は氷山の一角にしかすぎません。日本の全国各地で、何世紀にもわたり受け継がれてきた伝統、文化、慣習、に変化が及んでいます。気候変動は単に気温を上げるだけでなく、地域のアイデンティティや何世代と続いてきた地域の知恵と技術を脅かしているのです。

私たちが慣れ親しんだ文化や伝統を次世代へ繋いでいくためには、政府や自治体、社会的影響力のある企業への働きかけを含め、実際に行動を起こす人が一層増えることが必要です。

グリーンピースのこうした科学的調査や現地での活動は、企業や行政の資金に頼らず、みなさまからのご寄付によって支えられています。未来を守る活動を続けていくために、ぜひご寄付での応援をいただけますと幸いです。