2月14日はバレンタインデーです。日本では、特にチョコレートを贈り合う風習が根付いており、2023年のバレンタインチョコレートの経済効果は約1083億円にものぼります*。チョコレートの消費が爆発的に上がるバレンタインデー。チョコレートが森林伐採や人権問題など、数多くの問題と関わっていることをどれほどの人が知っているでしょうか。価格設定が幅広いチョコレートですが、安いものが100円程度で購入できてしまうことには理由がありました。

西アフリカの森林破壊の主な原因はカカオ栽培

深刻化する西アフリカの森林破壊の主な要因は、チョコレート産業のカカオ栽培にあります*現在、世界で生産されているカカオの半分以上は、西アフリカにあるコートジボワールとガーナの2カ国で生産*されていますが、​​コートジボワールは、かつて国土の25%を覆っていた熱帯雨林が、現在は4%未満にまで激減してしまいました*

ガーナのカカオ農園

国際環境保全団体のマイティー・アースは、カカオ生産地の拡大によってコートジボワールとガーナの2カ国で、2019からの3年間に東京23区に相当する森林が失われたと報告しています*。英紙ガーディアンの取材で、現地農家は、カカオ農地拡大のために熱帯雨林を「少しずつ焼いた」と語りました*

インドネシアのパプア州では、パーム油のために大規模な森林伐採が行われ、オランウータンなどの動物たちの棲みかが奪われ、大量のCO2が排出されてきた(2018年3月)

問題を作り出していたのはカカオだけではありません。チョコレートに大量に使用されるパーム油のプランテーション(単一栽培農場)も、森林破壊の大きな原因になっています。パーム油のプランテーションを開発するために、広大な熱帯雨林が伐採されてきました。

2012年から2015年の間には、インドネシアだけで25秒毎におおよそサッカー場1つ分もの熱帯雨林が失われていました*オランウータンなど、熱帯雨林に生息する多くの動物たちがすみかを奪われており、絶滅の危機にある種もいます。

インドネシア・西カリマンタンで、アブラヤシのプランテーションでの森林火災から救助されたオランウータンの赤ちゃん(2015年9月)

チョコレートのために子どもが労働している

カカオの二大生産国であるコートジボワールとガーナでは、156万人以上の18歳未満の児童が学校に行けず、カカオ栽培に従事しています*カカオ農家の多くは家族単位の小規模な農家です。カカオ豆の生産には、収穫、発酵、乾燥など多くの工程に労働力が必要です。子どもは多くの工程において重要な労働力に数えられてきました。

カカオ農家が労働者を雇えず、子どもを動員する根本的な原因は、カカオ農家の低賃金にあります。カカオ農家は、チョコレート産業全体の利益の6%しか得ていないといわれ*、なかには、人身売買で安い労働力を得ようとする生産者さえいます*企業がカカオを買い叩き、カカオ農家の賃金が上がらず、労働搾取の温床になる悪循環ができているのです。

カメルーンのカカオ農園の様子。グリーンピースは、カカオ農家が公正な利益を得ていて、持続可能な栽培を行う農園を識別している(2014年11月)

コストをかけずにカカオ豆を栽培するために、多量の農薬を散布する事例も見られます。カカオから基準値を超える残留農薬が検出され、日本への輸入許可が下りなかった事例もありました。2019年には、ガーナ産カカオ豆に基準値4倍もの農薬が検出され、輸入業者に検査命令が出ています*。農薬の使用は生態系を大きく破壊するだけでなく、散布を行う農家の人々への健康被害も引き起こします。

カメルーンのカカオ農家が殺虫剤を撒く様子(2000年9月)

3割の男性がバレンタインチョコを自分で食べない

バレンタインにチョコレートをもらったことがある男性300人への調査(2015年調査、対象10〜50代)では、29.7%がもらったチョコレートを自分で食べていない(自分で食べてないものがある、全て食べていない)と回答しました*。食べない理由の上位には、「家族が欲しがる」、「量が多くて食べきれない」、「甘いものが苦手」などがありました。さらに、チョコを自分で食べないと回答した人のうち、12.4%は「捨てる」と回答しました。

バレンタインのチョコレートのような季節商品は時期が過ぎると売ることが難しいため、必然的に食品ロスが発生することも問題です。バレンタインデー後に売れ残ったチョコレートの処分に困ったチョコレート専門店の中には「バレンタイン限定品なので、終わった後のお客様には失礼で売れない」と考えているお店もあります*

気候変動でチョコレートが食べられなくなる未来

カカオの栽培には、雨の頻度や湿度が適している赤道の南北緯度約20度の熱帯雨林の気候がとても重要です。 このまま気候変動が加速するとチョコレートが食べられなくなる未来がやってくるかも知れません。

チョコレートの生産地であるコートジボワールとガーナと同じく西アフリカに位置するナイジェリアでは、長期にわたる干ばつにより、砂漠化が進み、放牧や農耕のための土地を見つけることが困難になっています。(2019年2月)

コートジボワールとガーナを含む西アフリカでのカカオ豆の生産も実際に減少を続けていて、国際カカオ機関(ICCO)は2022年に世界で23万トンのカカオ豆の供給不足が発生していると発表しています。特にガーナでは2022年度の生産量が前年比で34.2%も減少していました*コートジボワールとガーナは、今後数十年でカカオの栽培に適さない気候になってしまうと指摘されています*。 

食べないことが「解決策」なのか

森林破壊や児童労働の問題など、チョコレートを取り巻く問題の多さに「食べないほうがいいのでは?」と感じた人もいるかもしれません。しかし、「食べない」を選ぶ前に、できることがたくさんあります。

問題は、ビジネスのあり方や大量消費です。生産方法やビジネスの仕組みを変えることで、カカオ農家に安定した雇用を生み出し、自然に負担をかけずにチョコレートを楽しむことは可能です。

例えば、「生産者から適正な価格でカカオを購入しているメーカーのチョコレートを購入する」、「森林を破壊する単一栽培ではなく、現地で自然の生態系にならったアグロフォレストリー農法を推進し、カカオ農家さんの雇用を支えているチョコレートを購入する」、「オーガニックチョコレートを選ぶ」など、消費者として企業にどのような生産方法のチョコレートを望んでいるか消費行動で示すことができます。

買い物は投票です。フェアトレード、オーガニックのチョコレートは、フェアトレード商品を扱う小売店や大手スーパーでも購入することができます。

人や地球にやさしいチョコレートの選び方

チョコレートにまつわる問題を知り、フェアトレードやオーガニックの認証マークがついた製品を選ぶことはとても大切です。同時に、大量消費にも気をつけなければなりません。 

量り売りショップのオーガニックチョコレート(2017年3月)

2022年に行われた調査では、女性の83.6%、男性の70.1%が義理チョコに反対と回答しています*。日頃の感謝の気持ちを伝えるために、季節商品を贈る必要はありません。

チョコレートに限らず、マーケティングや広告に左右されずに、自分に必要なものを必要なだけ購入する自由を私たちはすでに持っています。持続可能な消費、心地よいお買物、自分と未来を幸せにするバレンタインデーのあり方を一緒に考えましょう。(2023年2月13日の記事を再編)