たった一種類の動物や植物が絶滅したとしても、この広い地球にとってその影響は小さいと思ってしまいませんか?

生態系は非常に複雑で、多様な動植物が相互に影響を与え合いながら、この複雑な生態系システムは維持されています。私たち人間は、動植物が生み出す生態系サービスを受けこの地球で生きることができています。

生態系を構築する生物多様性の保護は非常に重要ですが、その重要性と危機的な状況をみなさんは理解していますか?ここでは生物多様性の大切さを学ぶべく、陸と海のそれぞれの生きものの役割をご紹介します。

「生態系を安定させる狼」に学ぶ生物多様性の大切さ

アメリカのイエローストーン国立公園は世界で最初に登録された国立公園で、希少な大型動物が多く生息することやその豊かな生物多様性と自然環境で有名です。

しかし、この国立の生態系は「ある生きもの」が絶滅してしまったことをきっかけに危機に陥ることとなりました

1900年代初頭、イエローストーン国立公園では生物多様性の保全の観点から「捕食動物の狼は草食動物の数を減らす原因では?」と考え、オオカミの駆除を開始。

1926年には最後のオオカミが駆除され、広大な自然が残る公園からオオカミは完全に姿を消してしまいました

しかし、結果は当初の目的とは真逆の方向へと向かっていきます。オオカミが公園から姿を消して以降、徐々に山は荒廃し、鳥や両生類、川魚など野生動物の数は激減していきました

1995年、生態系を回復する目的でカナダから14匹のオオカミの群れが公園に放たれます。「20世紀最大の実験」と呼ばれるこの試みは驚きの結果となりました。

オオカミが活動をはじめたことで増えすぎていたシカの個体数が元に戻り荒地にたちまちポプラやヤナギなどの木々が生い茂り、鳥たちが戻ってきました

また、オオカミにとって変わっていたコヨーテがオオカミによって食べられ減少し、生息地を失った小型哺乳類も復活。ウサギや野ネズミの数が回復していきました。

すると、これらを捕食するキツネやアナグマ、イタチ、猛禽類のタカなども戻ってきました。ポプラやヤナギの皮を食べるビーバーも個体数を大幅に取り戻し、ビーバーが木を切り倒し、作るダムのおかげで、カワウソ、アナグマ、両生類、水鳥、川魚などの個体数も回復

それだけではありません。オオカミは公園の地形までも改善させてしまいました。野生動物のバランスが回復し、木々がしっかりと根を張ったことにより土壌浸食は減り、川底の土壌も安定し、川幅は狭くなり、川の深さは増し、流れも安定しました。

人間が70年もの間、挑戦し続けた国立公園の生態系の安定化をたった14頭のオオカミはあっという間に成し遂げてしまいました。

動物たちを駆逐すると考えられていたオオカミたちは、公園内の生態系を安定させている役目を果たしていました。

食物連鎖が壊れると生態系は壊れる

食物連鎖の頂点に位置する高次捕食者(大型の肉食動物や魚類など)が、人間の影響で減少し、それが生態系崩壊の主因となっているとの研究成果を生態学者のチームが2011年に科学誌「サイエンス」で報告しています。*

Orca Whale jumping out of the water. Ein Orca springt aus dem Wasser.

高次捕食者が増減すると、捕食者がエサにしていた生物が激増、その影響によってそれ以下の小さな生物が激減するなど、食物連鎖の下位の生物へ順次影響を及ぼす「栄養段階カスケード」現象を引き起こすことが確認されています。

これにより連鎖的にその生態系が破壊されることになります。また、小さな生きものが姿を消すことも食物連鎖の上位に位置する捕食者の存続に関わります。

一種類の動物が自然環境から消えることは、全てのバランスが崩れることにつながります。これは海の生態系でも同じです。

陸と同様に絶滅に追い込まれている「海の捕食者」

海の生態系で食物連鎖の上位に位置する生きものと言えば、マグロです。マグロは、小型から中型の魚類、甲殻類、イカ類などを捕食する肉食動物

海の生きものは、陸の変温動物に比べて2倍のペースで消え去っているとする研究結果もあります。* その中でも、絶滅危惧種に指定されているのがマグロです。

日本は、世界のマグロの消費のおよそ80%を占めていると言われています。米国海洋大気局(NOAA)によれば北大西洋のクロマグロが、20年間で90パーセントも減少しました。*1

これまでは、自然繁殖能力によって補完され個体数を一定に保つことができていましたが、現在は自然回復のレベルを超えた量の魚介類が捕獲されています。

世界の水産物の3分の1は乱獲状態であり、漁獲枠に余裕があるのはわずか1割にとどまっています。今のまま乱獲や汚染などを続ければ海洋生物は激減してしまいます。

海洋生物は、水面で炭素を吸収し、海底深くに貯蔵する役割を担っています。この働きがなければ、大気中の二酸化炭素濃度は今より50%も高くなり、世界はもはや生存できないほどの高温に見舞われます。*

いま、生物多様性は危機にある

一種でも動物が絶滅することは、動物だけではなく、地形を含む自然環境など生態系すべてに影響を及ぼす可能性があることが分かりますね。

しかし、生物多様性はいま大きな危機に晒されています。なんと毎日、最大100〜200種の動植物が絶滅しているとも言われています。そのことが具体的に示されているのが、以下の図「プラネタリー・バウンダリー」です。

この図は、人間が生きられる環境を維持するために超えてはいけない9つの要素の限界点を示したものです。

この限界点を超えてしまうと取り返しの付かない環境変化が起こる可能性が高いと国連や科学者たちが警告しています。

しかし、人間の活動の結果、安全に機能できる限界をすでに超えているものが、実は既にあります。その一つが、生物多様性です。

グリーンピースの森と海を守る活動

グリーンピースも森と海の生物多様性を守るための活動を長きに渡って積み重ねてきました。

熱帯雨林を守る活動では、牛の放牧や家畜のエサとなる大豆の生産のために破壊されているアマゾンの森林破壊の現状を毎年モニタリングし、先住民族の人々とともに、ブラジル政府にアマゾンの保護を求めています。「森林破壊ゼロ」を求める140万筆以上の署名をブラジルの連邦議会に届けるほか、世界中のファーストフード店などにも、製造過程でアマゾンの森林破壊に関係した肉製品の販売を規制するよう働きかけています。

また製造過程での森林破壊が指摘されているパーム油の分野では、2018年12月、グリーンピースの国際キャンペーンを経て、世界のパーム油の約40%を供給する世界最大のパーム油企業「ウィルマー・インターナショナル」が、自らの扱うパーム油について、生産農地を特定して監視し、森林破壊を引き起こしていないことを確認する行動計画を発表しました。

また、海の生態系を守る活動では、グリーンピースの国際キャンペーンを経て、世界最大のツナ缶メーカーのタイ・ユニオングループが海の生態系と労働者の人権の保護のため事業を改善するとの決定に2017年、合意しました。

南極海で行ったグリーンピースの科学調査の結果から「脆弱な海洋生態系」と認められた4カ所は間もなく特別な保護の対象になろうとしています。

グリーンピースは、海と森の生態系を守る持続可能な社会の仕組みを作るために活動している環境NGOです。独立を保つために企業と政府からお金を受け取らないことを創立以来のポリシーとし、日々活動しています。

ぜひ、サポーターになって活動を支援していただけませんか?生物多様性を守る活動へ、寄付を通じたご参加をお待ちしております。

*1:シルビア・アール(2010)『ワールド・イズ・ブルー』日経ナショナル ジオグラフィック社