森林破壊も農薬の大量散布も食べなければ解決?チョコレートを取り巻く問題と私たちにできること
この投稿を読むとわかること

チョコレートが100円代で購入できる理由を考えたことはありますか?
私たちが購入するチョコレートが、気候変動の原因にもなる森林伐採を進めて、熱帯雨林を破壊している可能性も…。私たちにできることはあるのでしょうか?
チョコレートの生産過程で起きる環境破壊
・森林伐採
カカオ豆を生産するためのプランテーション(単一栽培農場)開発は、森林破壊の大きな原因になっています。驚くことに過去60年で、コートジボワールは森林面積の94%、そしてガーナは森林面積の85%を失っています。そしてその約3分の1は、カカオ栽培によって失われたといわれています*。
さらにはチョコレートの原料である砂糖やパーム油、牛乳のためにも大量の森林が伐採されてきました。これらを考慮するとチョコレートの環境負荷はさらに高いものとなります。
たとえばパーム油のプランテーションを開発するためだけでも、2012年から2015年の間に、インドネシアでは1時間にサッカー場146個分の熱帯雨林が失われたとされます。これは、25秒ごとにサッカー場約1個分の面積の熱帯雨林が失われている計算になります。

オランウータンなど熱帯雨林に生息する多くの動物たちが住処を奪われており、絶滅の危機にある種もいます。

・大量の水が使用される
驚くことに、板チョコレート(50グラム)を1枚つくるには約500リットルもの水が必要になります。ウォーターフットプリントネットワークが2010年に発表した調査報告書によれば、カカオ豆栽培に必要な水の量は水田による稲作の10倍以上。
国連の報告によると、世界人口の約半分(約40億人)は、1年のうち最低でも1カ月にわたり「水不足」の状況に陥っています。そんななか、大量の水が必要となるカカオ豆の需要は増えていく一方。ちなみに飲料可能な世界の水の約7割は、農業に使用されています。
・農薬散布
日本に輸入されるカカオから基準値を超える残留農薬が検出され、日本への輸入許可が下りなかった事例があります。2018年には、ガーナ産カカオ豆で基準値4倍の農薬が検出される事例もありました*。
カカオ栽培では一つの作物を集中的に育てる「単一栽培」が一般的に採用されます。ただしこの栽培方法だと生物多様性が失われ、土壌が弱り、木々が病気になりやすい環境を作り出します。そして病気を防ぐために農薬が大量に使われる傾向があるのです。
農薬の使用は生態系を大きく破壊し、土壌を汚染します。そして、これだけ多くの農薬を散布する作業に関わっている農家さんの健康にも大きな影響を与えます。

気候変動でチョコレートが食べられなくなる?
チョコレートは、森林破壊や農薬による土壌汚染などの環境問題につながっているだけでなく、環境問題の影響も受けています。
カカオ豆の主要生産地は西アフリカ。この地域は近年気候変動による異常気象で大きな打撃を受けています。2023年度から2024年度にかけてカカオ豆の世界の生産量が25%減少したのも、この地域への異常気象の頻発と激甚化による生産量減少が大きな原因の一つです*。
すでにチョコレートは世界で供給不足に陥っています。国際カカオ機関の報告によると、2023年から2024年シーズンの供給不足は前シーズンの約3倍にも達しています*。それに伴い、カカオ価格は過去最高にまで高騰している状況です。
カカオの栽培が気候変動の影響を受けるのはなぜなのか。
そもそもカカオの木々が元気に育つには雨の頻度や湿度が適している赤道の南北約20度の熱帯雨林の気候が保たれることがとても重要です*。しかし近年では異常気象の頻度と規模が激甚化しており、気象パターンも読みづらくなっています。カカオの木はちょっとした気候の変化にも敏感で、カカオの木は生育が妨げられたり病気になりやすくなったりします。2023年にはガーナとコートジボワールをおそった集中的豪雨の影響を受け、カカオの木が枯れてしまうウイルスがまん延し、生産量も大きな打撃を受けました*。
このまま気候変動が加速するとチョコレートが希少品になる日も遠くはありません。

児童労働やカカオ農家の貧困問題
児童労働と学校にいけない子どもたち

世界第1位と第2位のカカオ生産国であるコートジボワールとガーナだけでも、危険な労働を余儀なくされる18歳未満の児童労働者は、156万人に上ると言われています。
農園の開墾や下草刈り、収穫など刃物を使う怪我の危険性のある作業や、子どもの力だけで持ち上げることができないほどの重さの荷物を頭に載せて運搬するなど、健全な成長の妨げの懸念となる作業を多くの子どもたちが行っています。*
また、ガーナの国内法でも固く禁じられているとはいえ、子どもだけが家族と引き離されて労働者として連れてこられる人身取引にあたるケースも未だに多くあります。
このような児童労働が行われてしまう背景に、カカオを栽培する小規模農家と契約する企業が異常な安値でカカオを購入するため、家計を支える労働の担い手として子どもが働かざるを得なくなっているという現実があります。
私たちがチョコレートを楽しむために支払う価格とも、つながっているのです。
人や地球にやさしいチョコレートの選び方
チョコレートには環境や人権に関わる多くの問題があることがわかりました。では、「買わない」がベストな選択肢なのでしょうか?
商品を購入するという行為は、広まってほしい取り組みを後押しする力を持つものです。新たな当たり前を生み出すためにも、生態系に配慮したものやできるだけ人々の暮らしや環境にいいものを購入し、企業や販売している店舗に需要を示すこともできることの一つでしょう。
その際には、以下のような認証を獲得したチョコレートに注目してみること、大量消費に気をつけることが大切です。
フェアトレード認証製品を選ぶ

国際フェアトレード認証は、児童労働を禁止し、安全な労働環境を確保している製品が取得できる認証です。そして、生産者が労働に対して正当な対価を得られるように持続可能な生産を支える「フェアトレード価格」を設定しています。
また、フェアトレード認証は環境面の基準も厳しく、森を破壊したり、危険な農薬を使ったりすることなく自然環境を守りながら生産されることを前提としています。
レインフォレスト認証製品を選ぶ
生物多様性の保全活動と、サステナビリティへの取り組みを行う、国際的な環境保護団体「レインフォレスト・アライアンス」が管理する環境ラベルのうち、「農園」を認証したものです。
土壌・水等の環境保全をはじめ、農薬の制限や廃棄物の管理など、厳格な基準を満たした農園のみ「レインフォレスト・アライアンス認証農園」となります。
オーガニック&ヴィーガンを選ぶ
各国の認証機関による認証マークがついているオーガニック栽培のカカオを使用しているチョコレートを購入しましょう。農薬や化学肥料を使用しないオーガニックを選択することで、生態系を守り、気候変動を加速させない企業を応援することができます。
また、乳製品を避けることで、牛が排出するメタンを減らし、牛の栽培のための土地利用や飼料作物の栽培による森林破壊のインパクトなどを減らすことができます。
乳製品を避けることは、気候変動や環境問題を解決する上で非常に大切なアクションです。
マーケティングによる大量消費は避ける
日本では2月になるとチョコレートの支出がほかの月の約2倍にふくらみます*。 2月14日のバレンタインデーは多くの人がチョコレートを購入しますよね。素敵な広告を何度も目にすると、消費行動がいつもよりも刺激され、買わなくちゃという気持ちが膨らんできます。
しかしこのブログで見てきたように、チョコレートは栽培の仕方や生産方法によっては大きな環境破壊につながっています。しかもその原料は世界ではすでに供給不足にまで陥っています。一度立ち止まって、本当に必要かどうか、必要以上に買いすぎていないかを見極めることが大切です。バレンタインに伝えたい思いは手紙に託すなど、他の方法で世界に一つだけの贈り物を工夫するのも素敵です。そして何かを買うときは環境やつくる人々に配慮されているかを商品選びの指針にすると、より気持ちよく買い物ができるようになるかもしれません。持続可能な未来は、持続可能な消費からしか生まれません。今年のバレンタインがそれを考えるきっかけになれば幸いです。
また、この記事からはチョコレートという身近な食べ物も、すでに気候変動の影響を受けていることがわかりました。もっと広い視点からみたときに、気候変動は今後私たちの生活にどんな影響を与えていくのでしょうか。チョコレートとのつきあい方に限らず、気候危機の時代を生きる私たちにできることを以下のページにまとめています。ぜひ確認してみてください。
※このトピックは2022年2月10日の記事を更新したものです。