地域が動かす脱炭素の未来、「市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞」受賞7自治体の挑戦(1)ーー「パートナーシップ賞」受賞自治体の事例
2020年の菅義偉首相(当時)の「カーボンニュートラル宣言」から5年。現在、全国各地で、自治体による脱炭素の取り組みが広がっています。国の方針に先行して独自の政策を打ち出す自治体もある一方、その多くは十分に知られず、地域内にとどまっているのが現状です。
こうした中、住民の健康・快適・安心のための脱炭素施策に取り組む自治体を広く発信することで、他自治体への波及を促すことを目的に創設されたのが「市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞」(主催・市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞実行委員会)です。第1回となる表彰式が10月28日、東京・新橋で開催され、全国から推薦された自治体の中から7自治体が選ばれました。
本賞では「パートナーシップ賞」「市民実感賞」「突破力賞」「審査員特別賞」の4部門を設置し、各部門において顕著な成果を挙げている自治体を表彰。その中でも優れた取り組みに大賞が贈られました。それぞれの賞を受賞した自治体の取り組みとその目指す未来について、3回にわたって紹介します。

多数のセクターが協働した優れた取り組み「パートナーシップ賞」
市民や企業、他部局などとの協働が優れた事例の「パートナーシップ賞」には、熊本県球磨村、東京都葛飾区、京都府福知山市の3自治体が選ばれました。パートナーシップ賞では、地域内の多様な主体が連携し、脱炭素施策を地域課題の解決と結びつけて進めている点が評価されています。地域の特性や、アクターとの関係性を活かした様々な協働が、それぞれの施策をより独自性のあるものにしています。
①熊本県球磨村ーー「復旧」ではなく「復興」、脱炭素を軸とした地域再生モデル
2020年の豪雨で甚大な被害を受けた熊本県・球磨村では、元の状態に戻す「復旧」ではなく、将来の暮らしを守る「復興」を目指しました。復興にあたっては、林業の競争力強化、ソーラーシェアリングによる荒廃農地の再生など、脱炭素施策を地域再生の中心に据えて、新たな地域価値の創出につなげています。
- 地域再生を支える「民間連携モデル」
同村の取り組みの特徴は、民間企業との連携のあり方にあります。近年の人口減少や地域経済縮小といった球磨村が抱える課題に対し、再エネ導入や省エネ診断など「単発」で続けてきた取り組みを継続的に実施する体制をつくるため、2018年に球磨村森電力が設立されました。民間企業が自社の事業を前提に地域に参入するのではなく、まず地域に存在する課題を共有し、「その課題を解決するために企業が何ができるか」という視点から協働が進められました。地域エネルギー事業を収益事業としてだけではなく「まちづくりへの貢献」として捉えたことで、持続性のある取り組みを実現しました。

2025年8月時点で、球磨村の民生部門の電力需要に対し、太陽光発電はすでに約47%に相当する発電量を達成。同村は当初、オンサイト太陽光を中心に据えて取り組みを進めていましたが、その過程で、農業用水路の管理という地域固有の課題が出てきたため、そちらの解決にシフトしました。計画を「やり切る」ことではなく、地域の課題に応じて事業をアップデートする姿勢が、球磨村の大きな特徴です。
今回球磨村の代理で登壇した株式会社球磨村森電力の中嶋崇史代表取締役は「地域エネルギー事業は、課題解決の手段」と話します。同社は球磨村との連携協定により設立した電力会社で、球磨村の地域脱炭素事業を推進しています。再生可能エネルギーに関して、大規模なメガソーラー開発による景観や環境への影響が議論となる場面も多い中、球磨村の取り組みは、地域の資源と課題に即した再エネの導入が林業や農業の再生、地域内での雇用創出にもつながる可能性を私たちに示しています。

②東京都葛飾区ーー地域とともに進める脱炭素のまちづくり
脱炭素施策において、東京都の23区内でリーダー的存在の葛飾区。年々増える猛暑日や異常気象の影響が深刻化する中、2019年の東日本台風(台風19号)では、四方を河川に囲まれた同区で約2万人近くの区民が避難を余儀なくされました。
こうした経験を踏まえ、葛飾区は都内基礎自治体で初めて、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す「ゼロエミッションかつしか」を2020年に宣言しました。また、23区全体にゼロカーボンに向けた連携を提案・実現し、地域脱炭素社会の構築に大きく貢献。2023年には、葛飾区長が特別区長会を代表してアラブ首長国連邦で開催されたCOP28に参加し、自治体が連携する取組を発信するなど、脱炭素施策を牽引する存在となっています。

- 地域と行政が一体となった気候対策
葛飾区の環境施策の特徴は、地域社会と行政が一体となって、地域課題の解決を図る点にあります。同区の木下雅彦環境部長は「気候変動対策は私たちの健康で快適な暮らしを守る取り組みでもあり、地域のレジリエンスの強化にも大きく貢献している」と力強く語りました。

同区では、太陽光発電システムや蓄電池の助成を行い、同時設置であれば助成金が加算される仕組みにしており、災害時にも活用できるエネルギーの地産地消を推進。さらに、窓や壁などの断熱改修への助成に加え、2023年度からは高い断熱性能を持つ新築住宅への助成も新設しました。公共施設についても、学校を含む新築の際はネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の標準化を目指すなど、生活の質の向上が気候変動対策とつながっています。
また、区内の学校で断熱ワークショップを定期的に開催し、学びの場を通じて学校と地域が連携。さらに、高断熱健康住宅の普及に向け区内の設計事務所や工務店との協働で省エネや断熱技術に関する勉強会などを開催。様々な取り組みを通して住民、企業、行政がそれぞれの立場で支え合い、安心して暮らせるまちづくりの仕組みが少しずつ根づいています。
③京都府福知山市ーーキーワードは「地域脱炭素」、市民と地域が連携した持続可能な再エネ導入モデル
洪水や土砂災害など、過去に度重なる水害を経験してきた京都府福知山市。地域の脱炭素化に取り組むことは、結果として災害の軽減や防止などの「地域課題」の解決につながると同市は考えています。

- 脱炭素と防災を両輪とした「地域循環モデル」
この理念のもと、レジリエンス強化のための脱炭素施策の推進に加え、事業費の一部に市民出資を活用した「オンサイトPPA(注1)事業」を2025年現在、市内7カ所で展開。地域内での資金循環を生み出す仕組みとしても機能しています。地域新電力等との5者による連携協定に基づき、市が公共施設の屋根を貸し、地域新電力によって設置された太陽光発電設備から得られる電力を市が活用しているのです。

同市エネルギー・環境戦略課の梅田健太さんは、「地域脱炭素を率先して進めていくことで地域が注目され、魅力発信やブランド力の強化につながる」と話します。市民出資を行った投資家には、地域の素材や未利用資源を活用した特産品を贈るなど、地域産業の振興にも寄与しています。
またオンサイトPPAを実施した施設で市の防災部署と連携し車中泊イベントを開催するなど、非常時に太陽光パネルや蓄電池が活用できることを体験的に紹介することで、家庭や学校で温暖化防止への関心を高めるきっかけにもなっています。こうした取り組みを通じて、市民と地域が一体となった輪を広げています。

パートナーシップ賞を受賞した3自治体はいずれも住民の生活改善を第一に考え、地域課題に取り組んでいました。その過程で脱炭素を軸として、官民で連携して施策を進めていることが、受賞の大きな決め手となりました。こうした取り組みを進める自治体の存在は、複数の課題を抱え、住民の満足にどう結びつけるか模索している地域にとっても、大きな後押しになります。官民で連携して課題解決を進め、気候変動対策や住民の定着に繋げている事例は、他地域にとってヒントになるはずです。
(「市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞」受賞7自治体の挑戦(2)ーー「市民実感賞」受賞自治体の事例 に続く)
(注1)需要家の敷地内に事業者が太陽光発電設備を設置し、需要家がその電力を使用して事業者に電気料金を支払う仕組み。事業者は設置や運用にかかる費用を電気料金で回収する。