交通部門脱炭素と重要鉱物の乱開発を防ぐ鍵:公共交通拡充とリサイクルーー気候目標達成に向けた道筋を示す最新報告書を公開

国際環境NGOグリーンピース・インターナショナル(本部・アムステルダム)は3月17日、シドニー工科大学(オーストラリア)の持続可能な未来研究所(ISF)と提携し、交通部門の脱炭素に必要とされる再生可能エネルギーの拡大と備蓄のために不可欠な鉱物資源の需要を予測する報告書『Beyond Extraction: Pathways for a 1.5°C-aligned Energy Transition with Less Minerals』を発表しました。本報告書では、これまで発表されている鉱物需要予測とは異なり、最新の電池技術の革新状況を反映し、需要を最小化させる戦略を分析に含めている点が特色です。公共交通機関の充実や鉱物のリサイクルの強化、先進的なバッテリー技術の拡充により、鉱物採掘を最小限にとどめ、地球の生態系を維持しながらクリーンエネルギーへの転換を実現する可能性を提示しています。
本報告書では、交通部門脱炭素のために必要とされる将来の鉱物需要量を分析するにあたり、以下の3つのシナリオを設定しました。これらのシナリオにおける2030年、2040年、2050年の鉱物資源の需要予測値を、国際エネルギー機関(IEA)の「グローバル重要鉱物見通し2025(注1)」で提示されている2つのシナリオと比較しました(下記図参照)。IEA NZEシナリオ(図左端)は、気温上昇を1.5度以下に抑えるために必要な施策、IEA STEPSシナリオ(図左から2番目)は各国の既存の政策に基づいたシナリオを示しています。
- OECMネットゼロシナリオ:既存技術で脱炭素が進み、経済成長率や人口増加率は国連などの機関が出している予測に基づくもの。2035年に世界のエネルギー供給の50%以上が再生可能エネルギーになり、2030年までに新車販売の50%はEVになるシナリオ。
- 進歩的シナリオ(PRO):2030年までに内燃機関が廃止され、公共交通の使用割合が拡大し、個人が所有する自家用車は減少するシナリオ。
- ナトリウムイオン電池普及拡大シナリオ(PRO Na-ion):2035年までにEVの40%がリチウムやコバルトを使用しないナトリウムイオン電池を搭載しているシナリオ。

<主なポイント>
- 5つのシナリオのうち、IEA STEPSシナリオでは脱炭素施策が野心的ではないため鉱物需要が増えない一方で、IEAのNZEシナリオの鉱物需要量は、グリーンピースが提案する3つのシナリオより多くなっている。グリーンピースによるシナリオでは、リサイクル率、年間のEV製造・販売台数、公共交通の拡充度合いをより野心的に設定しているため、鉱物需要を削減することが可能になっている。鉱物需要の抑制に最も有効なのは、公共交通の拡充を通じて輸送効率を向上させ、同じエネルギー量でより多くの乗客の移動を可能にさせることである。さらに、鉱物のリサイクル率を向上させることによって新規採掘を削減できる。
- グリーンピースの3つのシナリオのうち、進歩的シナリオ(PRO)では、OECMネットゼロシナリオよりも鉱物需要量が少なくなる。これは、OECMでは2050年までに世界の自動車登録台数が20億台に達すると想定しているところ、進歩的シナリオでは同台数を16億の想定にしているためである。さらにリサイクル率を上昇させることで、進歩的シナリオでは、バナジウム以外の鉱物の需要量は減少する。
- ナトリウムイオン電池普及拡大シナリオでは、2040年以降ナトリウムイオン電池の普及が拡大すれば達成可能であり、これよってリチウム、グラファイト、バナジウムの需要は縮小する。
- 進歩的シナリオが実現すれば、2050年までに鉱物総需要量はOECMネットゼロシナリオよりも約3分の1縮小することができる。公共交通機関を拡充させ、自動車の総数を減らす、より進歩的な交通政策が実行されれば、EV製造のために必要な鉱物の需要はOECMネットゼロシナリオで予測している最大で2700万トンから1000万トンまで減ると予測される。
<提言>
- 公共交通機関の拡充、小型車両への投資を通し、鉱物の需要量削減を目指すべきである。
- リチウム、コバルト、ニッケルを代替する電池技術の開発に適切なインセンティブを与えることが望ましい。
- 資源循環とリサイクルを強化すべきである。
- エネルギー移行にあたって真に必要性の高い分野への鉱物資源の配分を検討すべきである。
- 環境および先住民の権利は鉱物採掘から完全に保護されるべきである。
グリーンピース・インターナショナル 生物多様性共同リード、エルサ・リー
「鉱物資源の採掘は、しばしば環境破壊や社会的害悪をもたらします。これまでにも、児童労働や労働者の権利侵害、先住民族からの土地の強奪、生態系の破壊、地域コミュニティへの脅威との関連が報告されています。世界各地で起きている鉱物需要の急増は、過去の資源略奪や植民地主義的なパターンを繰り返しており、先住民族や地域住民の権利をないがしろにし、真に公正でグリーンなエネルギー移行の可能性そのものを揺るがそうとしています。私たちは皆、エネルギーがクリーンで手頃な価格で誰にでも行き渡り、人々の土地への権利や生計が守られ、そして安定した気候と豊かな生物多様性が保たれる公正な世界を望んでいます。本報告書において私たちは、採掘産業を規制する立場にある各国政府に対し、陸域・海域を問わず重要な生態系を損なうことなく野心的なエネルギー移行を推進する義務があることを強調します」
グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、塩畑真里子
「世界の年間排出量の約2割を占める交通部門については、再生可能エネルギーの普及拡大を含め、いかに迅速に脱炭素化していくべきか、各国政府が重点を置いて取り組んでいる分野です。同時に、近年、脱炭素のために必要とされる鉱物資源の開発によって、グローバルサウスを中心に人権侵害、環境破壊の事例が増えていることも事実です。この報告書には、資源採掘を最小限に抑えつつ、交通部門の脱炭素を進めていくためにいくつか具体的な道筋が示されています。自動車の総台数を増やさないこと、車を小型化していくこと、シェアリングや公共交通サービスを拡充させることです。気候危機が深刻化するなか、日本の政策決定者および自動車製造企業の野心的な決意と実行を求めます」
(注1)IEA 「Global Critical Mineral Outlook 2025」(2025年5月21日発表)
以上