トヨタ自動車の公開質問状に対する回答について
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は11月14日、10月10日にトヨタ自動車(愛知県豊田市)に送付した『トヨタ自動車の温室効果ガス排出削減に関する公開質問状』(注1)について、同社より受領した回答を公開しました。公開質問状では、同社の(1)近年の温室効果ガス総排出量とその削減、(2) 総排出量の削減目標設定、(3)総排出量の削減手段の条件、(4)代替燃料や水素の開発と1.5度シナリオ、の4点について回答を求めており、10月27日に同社から回答がありました。
<トヨタの回答の要点>
- トヨタは、「人類と地域の共生」を重要課題として掲げ、2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みを進めている。パリ協定に賛同しており、車両走行時の排出だけではなく、ライフサイクル全体でのカーボンニュートラルを目指している。
- そのために、次世代電池開発を含め電池システム確立の取り組みを進めているほか、燃料事業者や各国政府とエネルギー政策やインフラ整備に関する対話を持っている。
- スコープ1と2の総量削減目標、スコープ3の原単位削減目標は、「科学に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)」から認証を得ている。
- 国や地域で異なるニーズに対応するため、多様なモビリティの選択肢を提供する「マルチパスウェイ戦略」のもと、各地の実情に応じた取り組みを進める。取り組みや実績については、その内容を同社のサステナビリティデータブックに掲載している。
- 温室効果ガスの削減のためには企業が健全な事業活動を継続できる体力が大事であると考える。
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この回答についてのグリーンピース・ジャパンのコメントは以下の通りです。
グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、塩畑真里子
「グリーンピースの公開質問状では、トヨタのバリューチェーン全体における総排出量削減の必要性の有無、総排出量削減目標の設定の必要性、新技術の開発が環境や人権に負の影響を及ぼさないことへの認識、バイオ・水素燃料などの技術確立とパリ協定で求められている排出削減の速度の整合性、の4点について具体的な回答を求めていましたが、これらの質問について明確に回答せず、サステナビリティ報告書などでこれまで同社が述べてきた内容にとどまったことは残念です。
トヨタが自ら開示しているように、同社は毎年、約6億トンCO₂e(二酸化炭素換算)にも及ぶ温室効果ガスを世界で排出しており、この量は日本の年間排出量の半分以上に匹敵し、英国やフランスなど他の主要国の排出量を上回ります。たとえハイブリッドが従来の内燃機関に比較して1台あたりの排出量が少なくとも、販売台数が増えれば総排出量が増えていくことは明らかです。
スコープ3カテゴリー11について、SBTiから『原単位目標の認定を受けている』とトヨタの回答にありますが、現行のSBTiの自動車部門の基準は、パリ協定の1.5度の削減経路と整合性を欠くため、改訂の段階にあります。それ以前に、原単位での目標設定は上記の理由から不十分であり、グリーンピースは、温室効果ガスの総排出量を削減する意思があるのかどうか、明確な回答を求めていました。なお、大量の温室効果ガスを排出する鉄鋼など、サプライチェーン上流からの排出量削減については、現状、SBTi認定の対象になっていません。
現在、世界は、気候を守り、この地球を次の世代へ引き継げるかどうかの瀬戸際に立たされています。「経済、経営を犠牲にはできない」、という言葉をよく耳にしますが、今こそ地球の未来を守る行動を取らなければ、今後の経済や経営こそが成り立たなくなるでしょう。最も効果的で迅速な技術や手法を優先して活用し、目に見える形で排出を減らしていくことが必要です。
トヨタは、『健全な事業活動を継続できる体力』を有している企業です。トランプ関税で売上減少が懸念される企業が大半であるなか、トヨタはつい先日、2026年3月期の販売台数見込みを過去最高に積み増しているほどです(注2)。だからこそ、運輸部門のなかでもとりわけ排出量の多い道路からの排出を削減させるために音頭を取るべき立場にあると多くの人が考えています。
グリーンピースは、今回のトヨタの回答を受け、引き続き同社に対し、世界標準と整合性があり、意欲的な温室効果ガス排出削減目標を早急に設定することを求めるとともに、実際の総排出量削減のために現実的かつ効果的な手段を講じるよう働きかけていきます」
以上
(注1)グリーンピース・ジャパン プレスリリース『トヨタ自動車に温室効果ガス削減に関する公開質問状を送付』(2025年10月14日発表)
(注2)日本経済新聞「トヨタ純利益2.9兆円に上方修正 26年3月期、関税重荷も販売好調」(2025年11月5日)