国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は10月27日、トヨタ自動車(愛知県豊田市)の温室効果ガス(GHG)排出報告量を分析し、今後の排出量を予測する報告書『岐路に立つトヨターー世界最大の自動車メーカーのBEV戦略と1.5度目標の整合性(日本語版)』を発表しました。本報告書では、トヨタの市場別・パワートレイン別車両販売台数を分析し、3つの異なる販売シナリオに基づいて2026年および2030年の短期排出削減目標の進捗状況を評価するとともに、1.5度目標達成経路との整合性を検証しました。その結果、同社の計画するバッテリー電気自動車(BEV)生産量と1.5度経路で求められる排出削減量との間には大きな乖離があることが明らかになりました。グリーンピースはトヨタに対し、排出量総量の削減目標の設定、それに整合するよう内燃機関(ICE)車の段階的廃止を求めます。

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<報告書の主なポイント>

  • 2023年のトヨタの使用段階(スコープ3カテゴリー11)排出量4億3628万トンCO₂e(二酸化炭素換算)の98.9%が、ICE車およびハイブリッド車に起因しており、同社の使用段階排出量がほぼ完全に化石燃料パワートレインに依存していることを示している。
  • 2023年のトヨタのICE車両は、1台あたり平均45.99 トンCO₂eを排出しており、これはBEVの13.06トンCO₂eの3倍以上に相当する。化石燃料を使用するハイブリッド車とプラグインハイブリッド車の排出量は、それぞれ30.79トンCO₂eと23.66トンCO₂eで、1.5度目標達成には、ゼロエミッション車(BEVおよびグリーン水素が利用可能な場合の燃料電池車)への完全移行のみが有効であることを示している。
  • トヨタ車の地域・国別排出量は、販売に占めるICE車の割合によって上下する。タイではICE車の販売比率が高く、同比率が低いノルウェーと比較して1台あたりのトヨタ車のCO₂排出量が4倍以上となっている。こうしたパワートレインの割合と排出量の関係は、気候変動へ直接的影響を及ぼすため、トヨタが世界的にゼロエミッション車へ移行する緊急性を浮き彫りにしている。
  • トヨタが2026年のBEV販売計画を150万台から80万台に引き下げた(注1)ことにより、1170万〜2260万トンCO₂eの排出削減の機会が失われたことになる。これは日本の平均的な家庭450万〜870万世帯の年間排出量に相当する。
  • トヨタは2030年のBEV生産台数を350万台にする計画を公表しているが、これによって見込まれる炭素排出量は、「科学に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)」の1.5度ベンチマーク(2.53億トンCO₂e)を8.2%上回る。また、グリーンピースの炭素予算に基づく1.5度ベンチマーク排出量の約2倍にも達する。これは、トヨタの現行のBEV計画が、パリ協定が求める脱炭素化のペースに整合していないことを示している。
  • 1.5度目標と整合するためには、トヨタはBEVへの移行を加速し、2030年までにICE車の販売を終了させる必要がある。この転換には、地域別の明確なICE車の段階的廃止スケジュールと、市場ごとのBEV販売割合の目安が必要である。また、車両製造販売が中心の会社からシェアリングサービスのようなモビリティサービスを提供する会社への移行を加速させることも必要と考えられる。

グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、塩畑真里子

「世界有数の自動車メーカーであるトヨタの決定は、世界の気候へ大きな影響を及ぼします。今回の分析から、トヨタの現行のBEV販売計画は、同社が掲げるパリ協定で各国が合意した1.5度目標達成のために必要な措置との間に大きな乖離があることが分かりました。今年はパリ協定発効から10周年を迎える年であり、トヨタの気候変動対策が1.5度目標に沿ったものかどうかを評価する重要な局面でもあります。今年9月にグリーンピースが行った気候被害者に対する意識調査では、約9割の人がトヨタによる総排出量を減らす取り組みを支持すると回答しており(注2)、自動車メーカーに対して持続可能な取り組みを求める声が高まる今、トヨタは温暖化する世界で競争力を維持するため、気候変動対策の取り組みを加速させるべきです。グリーンピースは、トヨタに対して、排出量総量の削減目標の設定、それに整合するようICE車の段階的廃止を強く求めます」

以上

(注1)Nikkei Asia, “Toyota delays Japan battery plant project on EV slowdown”(2025年3月26日)

(注2)グリーンピース・ジャパン「『気候被害者』の93.2%が気候変動対策の更なる推進を望むーー熱中症・水害・農林畜水産物損害の経験者1000人を調査」(2025年9月29日発表)