[年次報告書2023] 気候のことは暮らしのはなし
この投稿を読むとわかること
「3.5%のルール」をご存じですか? 3.5%の人が想いを行動に移した時に、影響が伝播し社会が変わるという統計と研究に基づいた法則です。グリーンピースは「3.5%」の仲間をつくり、社会を変える活動に取り組んでいます。たくさんの市民、そして各分野の専門家と協力して生み出した暮らしの変化をご紹介します。
▼グリーンピース・ジャパンの社会を変える活動 成果報告 > 『自動車環境ガイド2023』の発表 > 仲間と一緒にまちを変える! 学校断熱、自治体の目標値引き上げに貢献 > 世界のリーダーにみんなの声を届ける >アートで感じる「私と気候」のこと > スタッフコメント |
『自動車環境ガイド2023』の発表
車の未来は地球の未来を大きく左右します。日本には世界的な自動車企業がたくさん存在しますが、販売台数で世界最大の自動車メーカーであるトヨタはその代表です。6月14日、トヨタ自動車の株主総会が愛知県で開催され、グリーンピースのスタッフは、東京事務局からの道のりの一部を電気自動車(EV)で走り、株主総会会場の同社本社前で、同社が2030年までにEVへシフトするよう呼びかけました。
10月には世界の自動車大手15社を対象に、各社の脱炭素の具体的な取り組みを評価する『自動車環境ガイド2023』を発表しました。同ガイドは国内海外の複数のメディアに取り上げられています。日本メーカーの結果は、15社中、ホンダが最高の10位、続いて日産が11位、トヨタは13位、今回初めて対象としたスズキは15位でした。グリーンピースは、車のゼロエミッション化のみならず、誰もが安心して利用できる公共交通機関や、徒歩や自転車のような低炭素の移動のあり方を提唱し、それを実現させるために取り組んでいます。
仲間と一緒にまちを変える! 学校断熱、自治体の目標値引き上げに貢献
2023年は観測史上地球が最も暑かった一年でした。日本では、基準に合わせた学校の断熱改修が国主導で行われたことがなく、多くの子どもたちがうだるような暑さの中で、授業を受けています。グリーンピースが事務局を務める「ゼロエミッションを実現する会(以下ゼロエミ)」の横浜のチームの主導で約2万7000人の賛同を集めました。8月29日に、学校教室の断熱を求める市民の声と要望書を文部科学大臣に手渡し、専門家も参加し、学校断熱改修の必要性を訴えました。記者会見もおこない、広く全国に報道されました。
11月には、東京都国立市が、全国トップレベルの温室効果ガス削減目標案を公表しました。ゼロエミ国立のメンバーの大活躍が実現させた数字です。市長にプレゼンを行ったり、市民の応援の声を可視化したり、専門家に試算を依頼したり、戦略的に活動して、CO2排出量(2013年比)62%という高い目標値が草案に採用されました。
一人ひとりが住むまちを気候変動対策から変えていくゼロエミの活動は社会をより持続可能なあり方へと変えています。いま、「気候危機をなんとかしたい」と想う人は少なくありません。その一方、きっと多くの人が「たった一人で何ができるだろう」と一歩を踏み出す勇気と機会を持てずにいるのではないでしょうか。グリーンピース、そしてゼロエミは一人かもしれないけど思いを持ったそうした個人を繋ぎ支え、社会を変える大きな力を生み出しています。「一緒ならできる!」、あなたも参加しませんか?
世界のリーダーにみんなの声を届ける
2023年には、環境にとって非常に重要な国際会議が数多く開催されました。市民の声を集めて、世界のリーダーたちに届けることはグリーンピースの大切な活動の一つです。
5月、広島市でG7サミットが開催されました。グリーンピースは、G7にオブザーバー参加するとともに、「気候も暮らしも救うエネルギー政策」を求めて現地でアクションを行いました。
また、約1500人の声をG7の議長を務めた日本政府に提出しました。いま、日本は世界から化石燃料依存からの脱却を求められています。グリーンピースは速やかな化石燃料からの脱却と、再エネの普及のため、政府への実効力ある提言と働きかけを続けています。
11月30日から12月13日にかけては、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイでCOP28が開催されました。成果文書には「2030年までに再エネを3倍、エネルギー効率を2倍にし、化石燃料からの脱却を加速する」旨が明記されました。しかし、成果文書には、特に先進国が果たすべき責任にそぐわない誤った解決策や、1.5度目標と合わないアプローチも含まれました。グリーンピースは、この機会にも日本政府に対し、責任のともなうリーダーとして、国内で2030年までに再エネ3倍を目指すこと、化石燃料からの速やかな脱却を求めました。
アートで感じる「私と気候」のこと
平和的なムーブメントは見る人を勇気づける力があります。特にアートが市民運動と融合した時、そこには想像以上の訴求力が生まれます。グリーンピースはアートの力に注目し、2023年に気候の変化を体感できる2つのアート展示を行いました。
秋の代々木公園では、「紅葉のない未来」を体感できるデジタルアートブース「エラーコード:秋」の設置を行い、来場者約900人が美しい秋の紅葉と気候変動の影響について想いを馳せました。「考えるきっかけになった」、「床の落ち葉や木の匂いと、デジタルの融和がよかった」といった声が寄せられています。失いたくないものの尊さを五感に訴えるデジタルアートという新しいアプローチです。
ブース内の展示は美しい秋の紅葉と気候変動の影響を体感してもらえるよう、趣向を凝らして設計されました。不安を感じてしまうことの多いテーマですが、失いたくないものの尊さを五感に訴えるデジタルアートには、多くの方が笑顔と感嘆の声をあげていました。7名のボランティアが運営に参加、会場を盛り上げてくれました。
11月には、東京の表参道で来場者参加型のアート展「HELP展 〜30年後には消えてしまうかもしれない〜」を開催しました。クリエイティブユニットHAKUAと共同で企画・実施したプロジェクトです。
日本に迫る気候危機を五感で「感じられる」アート展とするために、ぬいぐるみ作家の片岡メリヤスさんや、八劔神社宮司の宮坂清さん、料理研究家の土井善晴さんら多様な作家、文化人の方々と協力し、会期中の来場者数は750人以上、企画は多数のメディアに紹介され、大きな反響を呼びました。また新しい展覧会のあり方を示す社会実験として、ゴミが出ない展覧会を目指し、来場者が展示品や会場造作を会期終了後に持ち帰ることができるように設計した点にも多くの好評の声が集まっています。
出展された映像作品「御渡り/MIWATARI」は、気候変動についての作品を取り扱う国際映画祭のドキュメンタリー部門にノミネートされ、その後、2024年2月に最優秀賞に当たるドキュメンタリー部門審査員大賞を受賞しました。アートで気候変動を自分ごとにするアプローチに挑戦し、「グリーンピース×アート」が成功した2023年でした。
スタッフからのコメント
プロジェクト・マネジャー高田久代
グリーンピースで働き始めて、約15年。ずっと環境問題に取り組んできました。環境問題が、いつの間にか一部の人だけが考える難題のようになってしまっていることに葛藤がありました。「アートを通した新しいきっかけづくりで、気候にかかわることの難しさを減らしたい!」そんな想いでHELP展を開催しました。
気候変動/エネルギー担当鈴木かずえ
「思慮深く献身的な市民の小さな集まりが世界を変えられることを疑ってはなりません。実際、まさにそうした人たちが、世界を変えてきたのです」。文化人類学者マーガレット・ミードの言葉は、ゼロエミを立ち上げ、グリーンピースから事務局を担当する私の原点です。ゼロエミはお互いが生徒であり先生である民主主義の学校。今後もみんなの力で変化を起こし続けます。
気候変動/エネルギー担当塩畑真里子
これからの日本のドライビングチェンジキャンペーンを率います。グリーンピースのスタッフになる前は、国際NGOでグローバル・サウスの社会開発、人道支援に長年従事していました。アフリカやアジアで気候危機の影響による干ばつや洪水によって人々の日常生活が打撃を受ける姿を目の当たりにしてきました。新しい体制で、日本の交通セクターの脱炭素化に貢献すべく、邁進していきます!