6月15日に、愛知県豊田市で開催されたトヨタ自動車の株主総会に、グリーンピース・ジャパンは株主として参加しました。

トヨタは、2021年にグリーンピースが発表した世界の自動車メーカー10社の気候変動対策評価で、最下位になっています。温暖化を1.5度までに抑えるには、2030年までにすべての新車をCO2を出さないゼロエミッション車にしなければなりません。

投資家が多数参加した株主総会の場で発信した、トヨタの脱炭素への考えとは?

株主総会は、企業への働きかけの大チャンス

6月は、日本の株主総会シーズンです。

企業の最高決定機関である株主総会は、企業の経営層はもちろん、投資家などのステークホルダーに対して、ダイレクトに働きかけることができる機会です。株主になって株主総会へ参加することや、一定の株式を取得して議案を提出する「株主提案」は、企業に直接働きかけをする手段として、NGOがよく活用する方法です。

気候変動対策の加速を求める株主アクションも増えています。

たとえば2020年には、化石燃料事業への投融資額が世界一位のみずほフィナンシャルグループに対して、温暖化を1.5度に抑えるパリ協定の目標に沿って投資を行うことを経営戦略を記載し計画を開示することを求める株主提案を、NGOグループが提出しました。この株主提案は否決されましたが、議決権を持つ34.5%の株主から賛成を得て、脱化石燃料を支持する投資家が3分の1にのぼることを、企業に知らしめました*

海外では、大手石油企業のエクソンモービルに対して、Engine No.1というESG投資ファームが、気候変動対策を強化するため社外取締役の候補を4人推薦して、そのうち3人が選任され、石油業界に衝撃が走りました*

気候リスクは投資リスクなので、投資家の資産を守るにはより積極的な気候対策を取ることが必要です。こうした投資家への働きかけは、企業を動かすのにとても有効な手段なのです。

気候変動対策が最下位のトヨタ

私たちグリーンピースは、2021年からトヨタ自動車に気候変動対策を加速することを求めるキャンペーンを行なっていますが、経営陣や投資家が集まる株主総会は、キャンペーンのメッセージを発信する重要なタイミングと位置付けていました。トヨタの株を最小単位で購入し、株主として、6月15日のトヨタ自動車株主総会に参加しました。

交通や運輸は世界のCO2排出の24%を占め、自動車はその多くを占めるので、自動車メーカーが化石燃料車を作るのをやめることは、気候変動対策にとても大きなインパクトがあります。

グリーンピースは、2021年の秋に、自動車市場の80%を占める大手メーカー10社の気候変動に関する目標と行動を調査しました。10社の中で、トヨタは最下位となりました。

トヨタは現状、どのブランドでも、化石燃料車を完全廃止する方針を掲げておらず、現状の脱炭素化戦略は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するための軌道に乗っていません

今回の株主総会では、まず事前に、投資家の方に向けて、トヨタ自動車がEV化にシフトすることが気候変動だけでなくビジネスにも重要であることを解説した説明資料を日本語と英語で発表しました。そして当日は、投資家やメディアが行き交う会場前で、メッセージを掲げました

株主総会では、残念ながら直接質問をすることはできませんでしたが、会場外でメッセージを掲げるアクションはメディアの関心を集め、Nikkei Asiaなどのいくつかのメディアに、グリーンピースのメッセージが取り上げられました。

EV化を躊躇するトヨタの2つの主張

株主総会では、残念ながらトヨタから新しい気候変動対策についての発表はなく、同社が使い続けている2つの主張が繰り返されました。

その2つの主張について詳しく見ていきましょう。

1. 消費者の需要がなければ、EV化を推進できない

トヨタの主張:

「われわれのビジネスはBtoCなので、顧客により多くの選択肢を提供したい。選択肢は市場とお客さまにあるということにこだわりを持ってやっている。そういう意味では、多様化した社会には多様化した選択肢・解決策があるのではないか。水素エンジンは選択肢の一つだ」(豊田章男社長)

引用:ITmediaビジネスONLINE

日本自動車工業会(JAMA)の2021年の調査では、EVを買いたいと思っている人は、30%増加しています*。「より多くの選択肢を提供したい」と言いますが、現状EVを選ぼうにも、選択肢は非常に限られていて、トヨタの新しいEVのbZ4Xは、まだ日本では買うことができません。

また、トヨタは、需要がなければEV化は推進できないと主張しますが、25年前にトヨタがハイブリッド車・プリウスを発表した時は、ハイブリッド車への”需要”はありませんでした。それでも当時トヨタは、環境に優しいこれからの時代の車としてプリウスを売り出し、自動車業界を革新することができたのです。

水素自動車に関しては、確かに再生可能エネルギーでつくられたグリーン水素であれば、バッテリー式EVと同じ程度の環境負荷です。しかし、自宅で一晩で充電できるEVと違い、非常に大掛かりなインフラが必要です。

船やトラックなどの長距離輸送には水素の方が効率がいい可能性があると示唆する調査もありますが、まだ立証されていません。私たちが家と駅、職場などを行き来する日常利用では、より効率がいいのはEVです。

2.それぞれの地域に適した気候変動対策がある

トヨタの主張:

「環境技術は普及してこそだ。例えば、再生可能エネルギーが進んでいるヨーロッパではEV=電気自動車が普及するだろうが、ブラジルではサトウキビから作ったバイオ燃料が使われており、今は選択肢を狭められない」(前田昌彦副社長) 

引用:NHKニュース

各地に適した気候変動対策があるのは事実とはいえ、2050年までのネットゼロ実現は、ハイブリッド車やガソリン車(ICE)では不可能であることは、科学的にも明らかです*

そして、再生可能エネルギーがヨーロッパほど普及していないことは、EV化を推進しない理由にはなりません。国土交通省*、国際エネルギー機関(IEA)*のデータから、現状の日本のような化石燃料由来の電気が多い送電網で充電しても、バッテリー式電気自動車が最も炭素排出量が少ない車であることが、わかっているからです。

トヨタには、EV化を加速させるとともに、大企業の影響力を活かして、再生可能エネルギーの導入を加速するように政府に働きかけることが求められます。

また、限られた資源で世の中のすべての車をEVにすることは難しいので、そもそも車の量を減らすことが必要です。

どんどん新車を売ることをベースにしたビジネスモデルから脱却して、シェアサービスを充実させ、シェアと公共交通手段を組み合わせれば自由に移動ができるサービス(MaaS: Mobility as a Service)の提供するモビリティの会社へ変革することが求められます。実際にトヨタは、Woven Cityというプロジェクトを進めているので、そうした構想をビジネスとして展開する道を探るべきです*

調査結果に基づいて企業に働きかけるグリーンピースのキャンペーン

グリーンピースのキャンペーンは、企業の環境インパクトを調査し、気候変動対策を評価して、明らかになった事実に基づいて企業に働きかけ、ビジネスモデルの改善を求めるものです。

自動車のゼロエミッション化を加速させるキャンペーンでは、今年の秋にも、自動車メーカーの気候変動対策をランキングする報告書の第二弾を発表予定で、トヨタへの働きかけも継続していきます。

みなさんも、自動車メーカーの気候変動対策を”ドライブする”大きな力になることができます。ぜひこちらから署名して、トヨタをはじめとした日本の自動車メーカーに、声を届けてください!

ゼロエミッションの
交通手段を選んで、
日本の脱炭素を加速させよう!