海岸に落ちていたプラスチックごみ

2023年5月29日〜6月2日にかけて、法的拘束力のある「国際プラスチック条約」の内容を決めるための会合がフランスのパリで行われ、グリーンピース・ジャパンからも政策渉外担当シニアオフィサーの小池宏隆が代表団の一員として参加しました。地球を汚染するプラスチックの問題を解決するための鍵となる「プラ条約」。今回開催された会議で条約についてどのようなことが決まったのでしょうか。各国、そして日本の姿勢、現地の様子などをまとめます。

「プラ条約」のための国際会合2回目が終了、決まったことは?

2022年3月、国連環境総会で、プラスチック汚染を解決するための条約「国際プラスチック条約」を2025年までに作ることが合意され、計5回の国際会合で条約の内容についての話し合いを行うことが決まっています。

今回、国際会合のうち2回目の「プラスチック汚染に関する政府間交渉委員会 (以下INC2)」が、2023年5月29日から6月2日にかけてフランス、パリのユネスコ本部で行われ、約170の国、国際機関、NGOなどが参加ました。

マンガでわかる!「国際プラスチック条約」〜プラスチック汚染のない未来がやってくる〜

今回の会合にはグリーンピース・ジャパンから政策渉外担当の小池宏隆が代表団の一員として参加。

開催期間中のおおまかなスケジュール
開催期間中のおおまかなスケジュール

世界のプラスチック汚染を一気に解決に向けて動かす可能性を秘めた法的拘束力を持つ国際条約のために、どのような話し合いが行われ、何が決まったのでしょうか(以下、実施したメディア向けINC2参加報告からまとめます)。

<INC2の主な成果、ハイライトは…>

・INC3までに、議長が交渉のたたき台となる草案を作ることが合意された。

・INC2で議論されなかった事項と、コンタクトグループで議論された内容についての意見を提出することが合意され、INC3の準備会合を開催することが決まった。

11月末に予定されている3回目の政府間交渉(INC3)までに、今回議論することができなかったこと、そしてグループごとに話し合われたものの合意に至らなかったことをまとめて、議長が用意する最初の草案をもとに次の話し合いを行うことになります。 

日本 プラ生産規制に消極的姿勢目立つ、汚染根絶のためより野心的な行動をーー国際プラスチック条約第2回政府間交渉委員会が閉幕

各国の主張、どのような話し合いが行われたのか

これからつくられるプラ条約の内容で、最もポイントになるのは、条約による規制を上流から行うか、それとも下流に限定するかどうかです。

つまり、原料採掘からプラスチックの生産を制限し、蛇口を閉めるための条約にするのか、それともプラスチックごみの処理や管理に焦点を当て、生産については各国の自主的な取り組みに任せる内容の条約にするのかということ。

INC2に先立って、セーヌ川沿いに設置されたベンジャミン・ヴォン・ウォンによる巨大なアートインスタレーション
INC2に先立って、グリーンピースはセーヌ川沿いにベンジャミン・ヴォン・ウォンによる巨大なアートインスタレーションを設置し、「プラスチック汚染を止めるためには生産から止める必要がある」ことを訴えた。(2023年5月)

グリーンピースは、さまざまな科学的根拠から、プラスチック汚染を解決するためには、プラスチックの量を大幅に減らすことが不可欠であるため、生産から規制する野心的な内容を条約に求めています。

ノルウェー、ルワンダ、カナダ、ドイツ、イギリス、韓国などの「プラスチック汚染に関する高野心連合(以下HAC)」の加入国や中南米は、規制の範囲をプラスチック原材料の生産まで広げる野心的な内容に積極的な姿勢を見せていました。その一方、サウジアラビアやロシアなど原油産出国や、中国、インドネシア、マレーシア、インドなど経済新興国は生産規制に後ろ向きでした。INC2以降もこの姿勢の差を埋めるための努力が必要です。

日本政府の動きは?

日本政府の姿勢はどのようなものだったのでしょうか。

INC2の開催直前、日本はHACへの参加を表明しています。HACへの加入は、G7環境相会合で合意された2040年までに新たなプラスチック汚染をゼロにする目標にも符合し、大いに歓迎されるべきことです。

野心的なプラスチック条約実現への動きを歓迎 日本政府「プラスチック汚染に関する高野心連合」参加を表明 – 国際環境NGOグリーンピース

しかし、INC2での日本は、生産規制に関する議論においても「各加盟国の実情」についての言及が目立ち、生産規制を真正面に取り扱おうとする姿勢が十分ではありませんでした。INC2の議論に参加した日本政府の姿勢は、明確に生産規制に反対はしていなくとも、国際社会から「前向きでない」と見られています。

残念な点だけでなく、よかった点もありました。INC2には、ウェイストピッカー*と呼ばれる廃棄物回収の従事者が参加していました。

*経済発展途上国のごみ最終処分場などで、廃棄物からの有価物回収に従事する人々。

フィリピン、マニラの違法なゴミ廃棄場で働く労働者
フィリピン、マニラの違法なゴミ廃棄場で働く労働者。(2013年7月)

システムを変えることで影響を受ける労働者についての議論への参画と、誰一人取り残されない公正な移行を条約に求めるグリーンピースは、ウェイストピッカーとの会談を設定。日本政府代表団はこれに応じて、廃棄処理において非公式であるものの必要不可欠な労働に従事する人々の声を傾聴したことは評価に値します。

また、日本政府からの科学者の専門意見を取り入れて話し合いを進めようという提言は重要で、他国からも賛同が集まりました。小池は「日本に議論の主導を期待する声もある中、生産削減などのさらに高い目標を掲げての行動が期待される」とコメントしています。

必死な企業ロビイストが証明するプラ条約の影響力

INC2では、企業の利益と相反する条約内容になってしまわないよう、ロビー活動を行う企業の参加が顕著でした。UNEP(国連環境計画)の発表で企業からの参加者は団体単位で全体の6%程度とあり、その中には生産規制に前向きな企業もいたものの、会場では規制に強く反対するだけでなく、プラスチックの有用性を説いてまわる動きも見られたといいます。

大量の廃棄物を生み出す持ち帰り用の使い捨てパッケージ類
大量の廃棄物を生み出す持ち帰り用の使い捨てパッケージ類。ファストフードチェーンでは特に多くの使い捨てプラスチックが使われている。

こうした企業の必死のロビー活動は、プラ条約がいかに地球の未来を左右する力強く大きな転機となっているかを物語っています。

プラ条約がプラスチックの原材料採掘から生産を規制する内容になれば、汚染をなくせるだけでなく、石油の消費量は大幅に削減され、二酸化炭素排出量も大きく減ることになります。環境、そして気候へのプラスの影響は計り知れません。同時に、プラ条約による変化が大きくなればなるほど、プラスチックやその材料の石油で利益を得てきた企業や国にも大きな影響を与えます。

プラスチックやその他の化学物質の生産を行うOMV石油精製所でのメタンガス漏れ事故
プラスチックやその他の化学物質の生産を行うOMV石油精製所でのメタンガス漏れ事故。オーストリア。メタンガスは二酸化炭素の25倍ほど物温室効果をもつ。(2020年9月)

作れば作るほど利益を出すことができるプラスチックを奪われたくない企業。化石燃料を原材料とするプラスチックの生産量が大幅に減れば、国全体の収支計画を大きく変えることを余儀なくされる原油生産国。

自国や自社企業の利益を超えて、地球の未来のための選択をするために、どう交渉し、協力できるかが問われます。

INC3に向けてできること

2025年の条約締結まで、国際会合は残すところあと3回。
次の会合は11月末の予定ですが、企業、産油国、新興国などは、捨て身で生産規制を止めようとするでしょう。経済を優先したい勢力との交渉はより熾烈なものとなるはずです。

私たちは、同じ地球で生き、地球上の自然が滅びれば同じように滅びてしまう生命同士、プラスチック汚染を解決に向かわせなければならず、そのために「蛇口から止めるプラ条約」を求める声をもっと多く集める必要があります。

より効果的で野心的なプラ条約を望む声が大きくなればなるほど、国際社会はこの要求を無視することができなくなるからです。

INC2に先立ち、グリーンピースは、世界の象徴的な建物やランドマークに野心的なプラ条約を求めてプロジェクションを行った。東京タワーが見える屋上での投影
INC2に先立ち、グリーンピースは、世界の象徴的な建物やランドマークに野心的なプラ条約を求めてプロジェクションを行った。東京タワーが見える屋上での投影。「強い国際プラスチック条約を今!」(2023年5月)

そして、世論から変化を起こし、気候の公平性に基づいて消費の流れを変えることができれば、将来的に環境を踏みつけにして利益を出すことは難しくなっていくでしょう。選択権を持っているのは私たちです。

以下の署名にまだ参加されていない方は、ぜひ署名に協力してください。

そして、「プラ条約」について、この署名についてお友達やご家族、大切な人にひろめてください。

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