<グリーンピース設立50周年記念コラム>
執筆者:レックス・ウェイラー(Rex Weyler)
元グリーンピース財団の理事であり、最初のニュースレターの編集者。1979年に設立されたグリーンピース・インターナショナルの共同創立者でもあります。彼のコラムは、活動家、環境保護主義、そしてグリーンピース の過去、現在、未来が反映されています。ここでの彼の意見は、彼自身のものです。

私がカナダのバンクーバーで、スカイトレインと言われる電車に乗っていた時、満員電車の中でこの広告を見つけました。

There is no option C: “Change our system to prevent it.” 
それを防ぐためにシステムを変更するという、選択肢Cはないのです。

この小さな広告は、メトロバンクーバーの交通局であるトレインリンクが宣伝しているものです。

選択肢Bである”水中交通技術を選択する”ように訴えている広告です。トレインリンクはこの選択肢Bを”テクノロジー”という言葉を用いて、広告を見た人に’’受け入れる”ように促しています。

選択肢Aである、堤防を建設する上で、”テクノロジー”が必要なことや、選択肢Cであるシステムを変更することについては一切触れていません。
技術を駆使して海面上昇という危機を受け入れることができるならば素晴らしいです。

それは、何も失わずに経済を発展させ、逆に得るものが増えることを意味します。

しかしこれは盲点で、私たちは、今までの生活を何も変えずに、生態系危機や人道危機を経済発展とテクノロジーにより、解決しようとしているのです。
何も失わずに全てを得ようとしています・・。

問題は、根本的な課題と解決を避けているということです。

気候変動、生物多様性、そしてそのほかの全ての生態学的な危機は、想像以上に大きく深刻な問題の兆候です。これが生態系のオーバーシュートと呼ばれるものです。このオーバーシュートからは、どんな生物も進化することはできません。生態系のジレンマに対する根本的な解決策は、人口の規模を縮小するということも含まなければいけません。そして、終わりのない経済発展を捨てなければいけません。しかし、この解決策は市民、政府、企業、そして多くの環境保護活動家にさえも無視されています。

City view of Seoul at the time when the average ultrafine dust level stands at 2.5 PM. 초미세먼지 농도 ‘나쁨’일 때 바라본 도시 전경

システムのたるみ

人口爆発を根本的な課題として建設的に議論する方法を見つけるのは、私が生態学者として直面してきた問題の中でも、最も難しい課題の1つです。

なぜなら、この話題を不快に思う人が多く存在するからです。
多くの人は、人間が持つ創造力、運命、人権、そして特別性という考えと、なるべく衝突を避けて生きようと考えています。

たとえ、驚異的な技術力を持っていても、私たちも動物であり、生態学的にも物理的にも、生息地に制限があります。しかし、その事実を受け入れることは難しいと感じます。

現代の生態学者たちは、1972年に発表された『成長の限界』の研究で強調されたように、何十年もの間、エコシステムの限界を理解し説明してきました。 それにも関わらず、資本主義の経済学者たちは、人間の経済成長には限界があるという考えを嘲笑しています。

1980年当時、レーガン米大統領は 「人間の知性や想像力や才能、そして優れた能力には限界がないので、人間の成長には限界などありません」と主張しました。

それは市民にとっても魅力的に感じる言葉です。

しかし、長年の間タブーとされていた、人間の成長の限界は、主要なメディアの中でさえも語られ始めています。

ファイナンシャルタイムズ紙は8月、Harry Haysom氏が執筆した『The Myth of Green Growth(グリーンな成長という神話)』を掲載しました。

そこでは「グリーン成長はおそらく存在しない」と語られています。 この記事では、再生可能エネルギーのインフラを整備するとともに、経済を縮小し、地球の資源とエネルギーの使用量を減らす必要があると主張しています。

最近では、ニューズウィーク誌がニューヨーク大学で、持続可能な開発学を教えるMichael Shank氏執筆の、『気候変動と闘うには、物議を醸すこの方法が最も効果的かもしれない』というエッセイを掲載しました。

カナダ・マニトバ大学のVaclav Smil環境名誉教授は、世界のエネルギー転換の専門家と言われています。
彼の最近の著書である『成長:微生物から巨大都市へ』は、 「持続的な経済成長の追求と生物圏の限られたキャパシティーの間に存在する葛藤」 を書いています。

地球上の生物の生息地は有限であり、すべての動植物は個体として、そして集団としても成長します。

捕食者は、獲物を狩りながら成長し、その後は死を迎えます。湖の藻類は、利用可能な栄養素が無くなるまで成長し、その後死滅します。生態系は “クライマックス状態” に到達し、何らかの原因でバランスが崩れるまで “ホメオダイナミックス” に耐えます。

Piles of electronic parts, including computer keyboards and monitors line the streets of Guiyu, China. China is quickly becoming the world’s trash bin. As much as 4,000 tonnes of toxic e-waste is discarded every hour. Many electronic products are routinely, and often illegally, shipped from Europe, Japan and the US to China. Dumping them there is cheaper than taking proper care of them at home. Because mobile phones, computers and other electronic products are made using toxic ingredients, workers at yards such as this one in Guiyu, China, risk exposure when they break the products apart by hand, under appalling conditions.

成長という沼の効率

カナダ・マニトバ大学のVaclav Smil環境名誉教授は、経済成長と資源量の限界を切り離せるとする”デカップリング”という考え方を、「まったくばかげている」としています。

歴史が示しているように、人間の活動が資源により効率的になっても、私たちはその資源を節約するのではなく、より多く使うようになります。経済学では “リバウンド効果” 、機械工学では “ジェボンズのパラドックス” と呼ばれる現象です。

19世紀に、より効率的になった機械は石炭消費量を削減するのではなく、消費量を増加させました。

20世紀には、一部の技術楽観論者が予想していたように、コンピューターは資源を節約したのではなく、経済を加速させ、資源消費の拡大につながりました。リバウンド効果が予測しているように、近代的な効率化が無数に行われているにもかかわらず、私たちは最高品質の石炭と石油を燃やし続けてきました。

そして現在は、低品質のシェールオイルとタールサンドを掘り返しています。

ヨーロッパの人が最初に北アメリカに上陸した時、川床からスイカ大の銅の塊を拾うことができました。今では、電子機器を供給するために、幅4キロメートル・深さ1キロメートルの巨大な穴を掘り、0.2%の銅を含む低品質の鉱石を掘り出しています。

限界を迎えるということは、必ずしも資源を使い切ることを意味するのではなく、品質が低下し、それに伴ってコストと生態系への影響が増大することを意味します。 Smil氏は、人口爆発が限界に直面しつつあると強調しています。
「規模こそが、地球上の最大の問題です」 と彼は書いています。

現在、人間と家畜は地球上の全哺乳類の96%を占めています。これは規模の問題です。気候変動、生物多様性、枯渇した土壌、人道、全ての危機は、非現実的な規模の人間活動によって生じているのです。

Smil氏は、文明を長期的に残していくには、”成長の終わり” を受け入れなければならないと主張しています。私たちはここから抜け出す方法を模索したり、地球上で抑制のきかない人間の願望を調和させることはできません。

一歩ずつ解決できるという考えを捨てなければいけません。「抜本的な(中略)大胆なビジョン、(中略)根本的な変化と前例のない調整」 が必要です。 Smil氏は、途方もない “システムのたるみ” こそがこの変化を達成させてくれると考えています。豊かな世界では、エネルギー、資源、食品が大量に浪費されているため、廃棄物を無くすだけで、資源とエネルギーの使用量を大幅に削減することができます。

例えば、工業型農業のシステムは、大量の化学農薬を土壌にまき、何百万ガロンものディーゼル燃料を燃やし、アンモニアと肥料で地球の栄養循環環境を破壊し、収穫物の40%を無駄にしています。これはシステムの中の “たるみ” であり、私たちが消費量を減らすのに利用 する事ができます。

小さな家やシェアオフィスの流行は、個人と公共の建物の多くを無駄にしているという現状に対して、前向きな反応です。 Smil氏の計算によると、すべての建物が最適な大きさで断熱性が高ければ、二酸化炭素排出量を約20%削減できます。

しかし、彼は警告しています。

「人々はそれをやりたがりません。’多くの人は、適切に断熱されていない螺旋階段のある豪邸やSUV車を所有したり、季節外れのくだものを食べたいと思っています。それが問題です」 。

さらには、家庭内のエネルギー消費量は、家の大きさが大きくなっているため、単純に省エネするだけでは、エネルギーを削減をすることはできません。

ブリティッシュ・コロンビア大学のWilliam Rees氏によると、1950年以降、米国の新築住宅は約1,000フィートから2,500フィート以上に増えていますが、一世帯当たりの人口は3.4人から2.5人に減少しています。70年で一人当たりの床面積は240%増加しています。

一方、1950年以降、アメリカの人口は倍増加し、世界の人口も3倍になりました。エネルギー効率のわずかな向上は、この成長によって水の泡となりました。

「断熱改修や(中略)家庭の小型化、複数世帯住宅への切り替えに補助金を出したり、公共交通機関の増加と自家用車の制限を行ったりなど、現在のシステムのたゆみは改善の余地が大きく」。

それを利用することで、人類は生態学的危機に対処できるとSmil氏は考えています。

Traffic in Zurich Verkehr in Zürich

人口:最後のタブー

ニューズウィーク誌のエッセイの中でMichael Shank氏は、人口の安定と減少は 「避けて通れない必要な会話」 だと述べています。

9年前にマザー・ジョーンズ誌に掲載された『最後のタブー』で、Julia Whitty氏は「地球上には70億人の人間がいますが、なぜ人口について語れないのでしょうか」と疑問を投げかけています。

人口問題に取り組む科学者は嫌がらせを受けることがあると報告されています。しかし、Whitty氏は「声を上げても、上げなくても、人口爆発の問題はまだ解決していない」と語っています。

Whitty氏は、
「生態系の限界を解決できる唯一の解決方法は、人口増加を減速させることです。そして徐々に地球の資源を消費する割合を減らし、最終的に逆転させます。この2つの取り組みが成功すれば、気候変動、食糧不足、水供給、移民、医療、生物多様性、さらには戦争といった、緊迫した地球規模の問題にも対処できるだろう」 と書いています。

幸いなことに、人口増加を食い止めるために厳しい法律に頼る必要はありません。

データを研究している科学者たちによると、最も効果的なのは、女性の権利と利用可能な避妊法を確立することです。その目標が達成されるたびに、出生率は急落します。 人口増加を遅らせたり逆転させたりすることは、人道的課題の緩和にも役立ちます「’少数の人とニーズを持つ多くの人との間で絶妙な妥協点を探す事です」とWhitty氏は語っています。

前出の『The Myth of Green Growth(グリーン成長という神話)』 の中で、Harry Haysom氏は、

社会が消費からグリーンインフラの構築にお金を回すことを提案していますが、これはグレタ・トゥーンベリの主張の一つであると指摘しています。 基本的なニーズが満たされた後は、より多くの収入や消費が必ずしもさらなる幸福につながるわけではなく、逆にストレスや不安を生み出すことを示す研究はたくさんあります。

ディープ・エコロジー運動を50年前に立ち上げたArne Naess氏は”豊かな生活、シンプルな方法”’ を主張しています。

私たちが生態学的危機を解決するために他に何を提案するにしても、今こそ地球上の人類のフットプリントを縮小する時です。

選択肢C「:私たちの生活と経済システムを変える」ことを選ぶ時なのです。

The Tapajós National Forest, a Brazilian conservation area, created by Federal Law on 19 February 1974, totalling approximately 545 thousand hectares. Located in the west of Pará state in Brazil.


<終>
Vaclav Smil, “Growth: From Microorganisms to Megacities,” MIT Press, 2019. 

Vaclav Smil, “The Long-Term Survival of Our Civilization Cannot Be Assured,” New York Magazine, Sept. 2019. 

David Wallace-Wellsinterview with Vaclav Smil, “We Must Leave Growth Behind, New York Magazine, Sept. 24, 2019.

“The Myth of Green Growth,” Harry Haysom, Financial Times, Oct 23, 2019. 

Jørgen Stig Nørgård, John Peet, Kristín Vala Ragnarsdóttir, “The History of The Limits to Growth, Solutions Journal, March 2010.

William Catton, “Overshoot: The Ecological Basis of Revolutionary Change”, University of Illinois Press, 1982.

Donella Meadows, et. al., “Limits to Growth” (D. H. Meadows, D. L. Meadows, J. Randers, W. Behrens), 1972; New American Library, 1977.

“Renewables 2019: Status Report,” Renewable Energy Policy Network for the 21st Century (REN21).

Gunders, Dana. “Wasted: How America is Losing Up to 40 Percent of Its Food from Farm to Fork to Landfill.” Natural Resources Defense Council, 2017. 

Chris Huber, “World’s food waste could feed 2 billion people,” World Vision, 2017. 

“Why Is Population Control Such a Radioactive Topic?” Population Forum, Mother Jones, 2010.  

Julia Whitty, “The Last Taboo,” Mother Jones, June 2010.

David Clingingsmith, “Negative Emotions, Income, and Welfare,” Department of Economics, Case Western Reserve University, September 2015


<グリーンピース設立50周年記念コンテンツ>
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