毎年のように「過去最も暑い夏」が更新されていく近年。さまざまな気象災害が世界的に見られるようになり、気候危機に対して「アクションを起こしたい」と考える人は増えているかもしれません。

グリーンピース・ジャパンのアンバサダー、四角大輔(よすみ・だいすけ)さんは、幼い頃から環境問題に関心を持ち、長年夢見たニュージーランドでこの15年、サステナブルな自給自足の生活を送ってきた方です。人生を通して、四角さんは変わりゆく環境をどのように見つめてきたのでしょうか。グリーンピース・ジャパンの事務局長サム・アネスリーが聞き手となり、環境問題に興味を持った理由やグリーンピースとの出会い、気候変動の影響を少しでも減らすうえで私たちにできることを聞きました。

グリーンピース・ジャパンのオフィスにて

自然が消えていくことに、強い違和感を抱いた

サム 四角さんがグリーンピース・ジャパンのアンバサダーに就任されたのは2020年のことでしたね。いつもありがとうございます! 四角さんはそもそもどのようにして環境問題に興味を持たれたのでしょうか。

四角 こちらこそいつもありがとうございます。僕は大阪府の端っこにある枚方市で育ちました。幼少期に住んでいた家の周りには田んぼや林、池や川があって、豊かな自然が残ってたんです。70年生まれなので、そこから高度成長期に入り、ある時期からクーラーやテレビが家にやってきました。そうして物が豊かになっていくのと同じスピードで、周りの自然がどんどんと消えていきました。

鮒(ふな)を釣った池やザリガニをとった沼、タケノコをとった山もなくなり、カブトムシやクワガタもみんないなくなって、高校生の時には周りが100パーセント、無機質な住宅街になったんです。そんな光景を目にして、なんでこういうことになったのかと考えるようになりました。

サム 劇的に変わってしまったのですね。80年代の頃はそこに違和感を抱いたり、環境問題に関心を持ったりする人はあまりいなかったのではないでしょうか。

四角 少なかったです。僕は変わり者で、小中高と、そういう世の中に怒りを感じていました。でも怒りは何も解決しないので勉強しようと、大学で映像ジャーナリストを目指して猛勉強しました。

サム 当時は映像ジャーナリストを目指されていたんですね。

四角 そうなんです。それでいろいろな社会問題について知っていくうちに、根がものすごく深いことに気づき、手の打ちようがないかもと絶望していました。そのときにグリーンピースの存在を知ったんです。

インタビューに答える四角さん

グリーンピースは、諦めかけていた自分に希望を与えてくれた

サム 大学生となると90年代頃でしょうか。グリーンピースのどんな活動に興味を持たれたのでしょう。

四角 90年代でしたね。僕が一番感動したのは、グリーンピースの反核運動です。僕の時代でいうと、小学生の頃に、アメリカとソ連のあいだでは核開発競争が繰り広げられ、いずれかのトップがボタンを押したら地球が滅びるかもしれないと習いました。すごい怒りを感じました。大人は何をやってるんだ! 争いに何の意味があるんだ!? って子どもながらに思いました。

サム 冷戦に対しても怒りを抱いていたのですね。

四角 はい。ただ、小中高での刷り込みで「どうしようもないんだな」「政治や国際関係ってこういうものなのかもな」とだんだん思うようになりました。

サム たしかに、ことの大きさに圧倒されてしまいますよね。

四角 そうなんですよね。僕が大学を卒業するちょっと前にベルリンの壁が崩壊して、一気に冷戦は終結に向かったんですけど、核が廃絶されることはなくて。そんななか、グリーンピースはここぞとばかりに核廃絶を訴えていました。みんなお手上げで諦めていたなか、諦めずに本気で闘うグリーンピースの姿が、僕にとって希望だったんです。歴史を辿ると、グリーンピースって反核から始まっているじゃないですか。

サム そうですね。日本に事務所を設立したばかりの頃は核実験に反対したり、ロシアによる日本近海への放射性廃棄物の海洋投棄を告発したりしました。これを契機にロンドン条約の締約国会議で「放射性廃棄物の海洋投棄の全面禁止」という決議が採択、また、フランスの核実験が中止されたりもしましたね。

四角 いやあ、かっこいい大人っているんだ! と希望を感じたことを覚えています。

サム そんな風に言っていただいて、ありがとうございます。ちなみにいまはグリーンピースにどんな印象を持たれていますか。

四角 すごいなと思うのは長年の歴史ですね。半世紀以上、ずっと一貫して活動されてきているからこそ、説得力がある。ブランドって三日三晩ではつくれません。軸がブレない世界観やメッセージを、何十年も変わらず発信し続けてきたブランドこそが、世の中から信頼されるんだと思います。

サム それはあるかもしれないですね。

四角 もちろん時代の変化によって優先すべき社会課題は変わってくるものだと思います。グリーンピースは反核から始まって、いまは危機が迫る気候変動に重きを置いている。時代の変化に合わせながらも、50年以上ずっと変わらず筋を通して活動を続けてきた。それが世界で最も信頼されるNGOというブランドだと思います。

サム ありがとうございます。四角さんのように支持してくださる方々のおかげで、活動を続けることができています。おっしゃるように、いまは気候変動問題を最優先に日々、活動しています。ここに重きを置いているのは、「地球の恵みを100年先の子どもたちに手渡していける社会を実現する」というビジョンを目指しているからこそでもありますね。

グリーンピース・ジャパンの事務局長、サム・アネスリー

消費行動を見直すことで、環境負荷は減らせる

サム 四角さんはご自身で納得のできる、サステナブルな暮らしを送れるようニュージーランドに移住されるほど、環境問題には熱心ですよね。

四角 そうですね。よく活動家と呼ばれることもあるんですけど、僕が掲げているのは「Lifestyle is Activism——ライフスタイルはアクティビズム(社会活動)だ」です。ニュージーランドではなるべく環境負荷をかけないように、人権侵害をしないように、 消費はあまりせず、循環的な暮らしを送っています。昔は「仙人になるんですか?」「ヒッピーになるんですか?」って言われたりもしましたけど(笑)。

サム (笑)なるほど。生活そのものを通して、環境負荷を減らすことを意識されているということですね。

四角 そうですね。最近だと、「買い物も立派な投票だ」と言われるようになりましたよね。1日3回食事を選ぶ行為だけとっても、そうです。暮らしの判断ひとつが環境負荷を最大化したり、最小化したりすることに気づくことは大切だと思いますね。

サム たしかに私たちは暮らしのなかでいろんな選択をしていますよね。食事も、服も、買っているものもみんな私たちが選択して、手にしています。そう考えるとエコバッグやマイボトルを持ち歩くことにとどまらず、環境負荷を減らすうえでできることはたくさんありますよね。

四角 ありますね。なかでも消費行動には圧倒的な影響力があります。ライフスタイルを変えればポジティブなインパクトを与えられるし、逆にネガティブなインパクトを与えてしまうこともある。

サム おっしゃる通りだと思います。生活を見直していくなかで、我慢しているような感覚が芽生えたりすることはありませんでしたか。

四角 我慢は全くしてないんですよ。暮らしを全部我慢して、ストイックにやらなきゃという感覚ではなく、心地よく楽しめています。 正直なことをいうと、環境にいいことをしたほうが、仕事で成果を出してお給料がちょっと増えるよりも、体の芯からじわっと湧いてくる喜びが大きいように思います。お金をもらって喜びを得るというのは、人類にとってみたらここ最近の話ですよね。人類史の9割以上の期間、自然と寄り添った暮らしをしてきたわけで。

サム そうですよね。

四角 自然と十分に寄り添えていないことに対して、実はストレスを感じていると思うんですよ。だからそれをこの暮らし方で解消しているととらえています。「意識高いね」「がんばってるね」なんて言われたりもしますが、人間は本能的に環境負荷が少ない暮らしを望んでいるはずです。それを少しでも実践できると、根源的な心地よさが生まれてくるんです。

サム よくわかります。一方で、気候変動の問題において無力感を感じてしまう人も多いですよね。そう感じている人には、どのような声をかけられていますか。

四角 気候変動でいうと、実はできることっていっぱいあるんです。僕が幼い頃は、できることが限られていました。でもいまって「こうすればCO2の排出量を減らせる」「ここのものを買えば人権侵害になりづらい」とかいろんな方法論がわかってきていますよね。

フェアトレード認証やオーガニック認証は、昔はほとんどありませんでした。それがいまや選べる時代になった。ただ難しいのはコストや手間ですよね。どれだけコストを割けるかは人によって異なるので難しいところですが、手間に関してはゲームのようにとらえると楽しく取り組めます。

サム ゲームという発想はおもしろいですね。

四角 そう。たとえばどこかに出かけるとき、CO2の排出量を最小限におさえようゲーム、とかですね(笑)。そのときタクシーって選択肢はないだろうし。電車バスで比べたら、電車の方がCO2の排出量は少なそうだなとか。最近だとシェアサイクルや電動スクーターに乗る選択肢もありますよね。そういう思考回路から電動スクーターを選んで、「よし、CO2減らせたぞ」って(笑)。

サム なるほど、その考え方はいいですね! たしかに楽しく取り組むのは、意外と重要かもしれないですね。

対談をする二人

寄付は自分への投資

サム 個人でできることもたくさんある一方で、気候変動などの大きな問題に取り組むにはシステムチェンジも必要ですよね。たとえばプラスチックの生産量を国単位で規制できれば、私たちは自主的に選択をしなくても、自然とプラスチックを手に取る機会が減ります。このようなシステムチェンジを実現できるよう私たちは活動していますが、みなさまからの寄付のおかげで活動を続けられているという側面もあります。

四角 そうですよね。先ほどお話ししたように、ジャーナリストを目指した大学時代に、社会課題の多さと根の深さを知れば知るほど、僕ひとりでは無力かも……と諦めかけていたときにグリーンピースの存在を知りました。世界中で法律を変えたり、国を動かしている姿を見て、「この人たちは実際に社会課題を解決している!」という感動して、寄付したこともあるんです。いまはアンバサダーになったので、一緒に活動させていただくというスタンスになりましたけどね。

サム 四角さんも寄付をしてくださっていたのですね。ありがとうございます。

四角 ただ、寄付という言葉は日本だと少し歯が浮いたように聞こえるところもありますよね。グリーンピースへの寄付は、どちらかというと「投資」だと僕は思っています。投資って自分のためにするじゃないですか。リターンを得るために。それぞれができる範囲で、「Lifestyle is Activism」に取り組んでもらいつつ、少額からでも寄付をする。そうすることが、最も効率的な投資になると思うんです。

サム たしかにある意味では投資ですよね。自分のできないことを専門家のプロたちが代わりに取り組んでくれるというような思いで、私も他の団体に寄付させてもらうことがあります。

四角 グリーンピースはまさに専門家のプロ集団ですからね。僕もいつもデータをもらい、勉強させてもらっています。あとグリーンピースのすごく好きなところは、個人からの寄付だけで成り立っているところです。企業から寄付を受け付けると、その企業寄りになる可能性が出てきてしまう。個人からしか受けていないからこそ、本来の活動を全うしやすい。そういう団体をやっぱり応援したいと思います。

サム そう言っていただいて、ありがとうございます。

四角 あと、寄付をすると寄付者向けのメールが届くようになりますよね。僕、グリーンピースの発信がすごく好きなんです。グリーンピースが主体となって実施した科学的調査に基づいて情報を発信されているので、数字に信頼を置けます。メールに目を通すだけで、有益な情報が得られるのはありがたいですよね。メルマガに登録するぐらいの気持ちで、支援していただけたらうれしいなと思います。

インタビュー終了後の二人

対談を終えて

今回の対談では、四角さんの熱意や深い思索に触れ、とても感動しました。幼い頃に自然と触れ合い、環境の変化に対する思いから映像ジャーナリストを目指し、そしてグリーンピースのアンバサダーになった経緯は、四角さん自身の人生が環境問題とどれほど深く結びついているかを感じさせてくれました。

また、四角さんが「Lifestyle is Activism」という理念を大切にしていることにも、とても共感しました。日常の選択が環境に与える影響を意識することは、私たち一人ひとりが持つ力だと再認識しました。そして彼が寄付を「投資」として捉え、環境活動を支援することが自分自身の未来のためにもなるという考え方は、寄付の新しい価値を示していると思います。

この対談を通じて、もっと多くの人が環境問題に関心を持ち、寄付の大切さも知ることで、みなさんが一緒にグリーンピースの活動に参加できることを願っています。

四角大輔さん プロフィール画像

四角大輔(よすみ・だいすけ)
作家/森の生活者/環境保護アンバサダー

ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。レコード会社プロデューサー時代に10回のミリオンヒットを記録。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『人生やらなくていいリスト』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『バックパッキング登山大全』など著書多数。会員制コミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。ポッドキャスト〈‪noiseless‬ world〉ナビゲーター。

グリーンピース・ジャパン事務局長 サム・アネスリー

聞き手:サム・アネスリー(グリーンピース・ジャパン事務局長)
イギリス北アイルランド生まれ。17歳の時、高等学校の交換留学で1年間岡⼭県に滞在。その後英ケンブリッジ大学で日本語を専攻し、その間三重県皇學館⼤学で1年間神道学を学ぶ。 大学卒業後、南米やヨーロッパでの教育経験を経て、2007 年に日本へ。以来11年間、NGO「ピースボート」や親を亡くした⼦どもたちを支援する「あしなが育英会」、自殺予防に取り組むNPO「東京英語いのちの電話」の事務局長を経て2018年12月より現職。趣味は山登り、スキューバダイビング、サイクリングなど自然の中で過ごすこと。好きな場所は南アルプスの甲斐駒ケ岳、八丈島など。