金融のプロが選んだ社会貢献のかたち

[スタッフVoice vol.16]
グリーンピース・ジャパンで働くメンバーのご紹介:大口・遺贈寄付 渉外担当 N・Fさんのインタビューをお届けします。長年、金融の世界でキャリアを築いてきたN・Fさん。
その経験の先に見つけたのは、「寄付」という新たな社会とのつながり方でした。

現在のお仕事について教えてください

グリーンピース・ジャパンのファンドレイジング部門で、「遺贈寄付」と「大口寄付」の渉外を担当しています。遺贈寄付は故人の遺志に基づくもので、ご本人はもとより、ご家族の想いを受け止めながら丁寧に対応しています。大口寄付は100万円以上のご支援になりますが、どちらも寄付者との信頼関係を築くことが何よりも重要です。

最初のご相談からフォローアップまで一貫して寄付者と向き合うことで、寄付者の想いに寄り添いながら継続的な関係を育むことを大切にしています。

これまでの歩み・キャリアについて

1987年のブラックマンデー直前、バブル期に入社した証券会社から私のキャリアは始まりました。当時、日本の金融市場は急速に拡大しており、証券会社では国際部門の強化が進む中、私は国際部に配属され、海外業務に携わることになりました。

社内では複数の部署を経験しながら、ニューヨークを拠点とする現地法人の設立にも関わりました。帰国後、アメリカの投資銀行からヘッドハンティングを受けたことが転機となり、専門的な投資に本格的に取り組みました。その後も、海外の投資案件を中心に、日本の投資家の皆様に向けて案件を紹介する仕事を長く続けてきました。

この経験で学んだのは、国際的な視野と、国際的な資金の流れです。資金の流れはその時の社会の動向に深く関わっています。

環境問題に興味を持ったきっかけ・NGOとの出会い

環境問題に具体的な関心を持つようになったのは、2015年に国連で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された頃でした。経済成長が続く中で、地球環境への負荷が高まっていくことに危機感を覚え、「持続可能性」という概念に強く共感したのが直接的なきっかけでした。

大学で法学部に在籍し弁護士を志したのも、「社会的弱者を助けたい」「公平や正義を実現したい」という思いが強く、社会貢献への関心はその頃からありました。一方で、社会を動かす仕組みとして「お金の流れ」を理解することの重要性も感じており、金融の世界へと進む決断をしました。 投資で得た果実を通じて社会に還元することも、自分なりの貢献の形だと考えてきました。

60歳を迎える頃、人道支援を行う国際NGOから声がかかりました。これは特定の人脈があったわけではなく、ヘッドハンティングによるご縁でした。大口寄付の担当として、団体の活動資金を調達する部門だと聞き、これまでの金融業界での経験が活かせるかもしれないと感じ、また社会貢献への関心が重なり、このNGOでの活動を始めました。

寄付で支える」資金調達が私の社会貢献のかたち

NGOが活動を継続・拡大していくには、活動を支える資金面の安定性が不可欠なので、その部分で貢献できるのであれば力を注ぐべきだと感じました。金融・投資の世界で長く仕事をしてきたこともあり、世界的な寄付市場の規模や国際比較に自然と目が向きました。

日本の寄付市場が他国と比べて非常に小さいことに気づいたとき、「これはいけない」と強い使命感のようなものを抱いたのを覚えています。

単に特定の団体の資金調達を担うというだけでなく、社会課題の解決に向けて、資金面からもっと広く支えられる仕組みをつくっていきたいという意識を持っています。現場で活動をすることも大切ですが、自分ができる活動のかたちとして、今の役割に深い意義を感じています。

民間企業から国際NGOへとキャリアチェンジした、一番のきっかけ

一番の決め手は、面接時に受けた英文訳テストの内容でした。中東の子どもたちの現状や被害を伝えるジャーナリストの記事を訳す課題でしたが、それを読んだ瞬間、「世界にはこんなにも過酷な現実があるのか」と衝撃を受けました。そして、「これは何とかしなければ」と強く思ったのです。

遠く離れた場所の話ではなく、今この瞬間、同じ時代を生きる子どもたちに起きている現実だと感じたとき、「この状況を許してはいけない」と心から思いました。その時の感情は、今でも鮮明に覚えています。

それまでは、資金調達という業務的な共通点からNGOに関心を持っていた部分もありましたが、本当に心が動いたのはその瞬間でした。環境問題に関しても、遠くの出来事として捉えるのではなく、「今、同じ時代に起きていること」として向き合い、自分にできることを一つひとつ積み重ねていく。その手段が、たまたま資金調達という分野だった――そんな思いで、今もこの仕事に取り組んでいます。

あの瞬間に芽生えた思いは、今もN・Fさんの原動力となっています。
次章では、環境分野への転身と、グリーンピースとの出会いについてご紹介します。