プラスチック包装に溢れる日本のスーパーの肉売場
プラスチック包装に溢れる日本のスーパーの肉売場(2026年7月)©️Greenpeace

イランとアメリカが停戦の覚書に合意し、ホルムズ海峡の開放に期待が集まっています。しかし、海峡が開けば事態が「元通り」になるわけではありません。封鎖の影響は数カ月続くとされ、最終合意までの道のりも不透明です。たった一つの海峡の封鎖が、私たちの暮らしがいかに化石燃料と「使い捨て」システムに依存しているかを突きつけました。見慣れた菓子パッケージの白黒化から幅広い商品に波及した値上げまで、ナフサ供給不安の波紋は生活の全域に広がりつつあります。

ホルムズショックで露呈した日本経済の急所

2026年2月の米、イスラエルによるイラン攻撃以降、中東情勢の緊迫化にともない、ホルムズ海峡が事実上閉鎖されました。航行船舶数は急減し、原油価格が急騰、その影響は生活や産業に深刻な打撃を与えています。

ホルムズショックは、化石燃料に依存した世界の経済とエネルギーシステムの脆弱性を浮き彫りにしましたが、日本は特に強く揺さぶられている国の一つです。

日本は原油の90パーセントをホルムズ海峡経由に依存しており、この数字は国際的にも最も高い水準です。また、日本は、プラスチックの原料となるナフサ(粗製ガソリン)*の国内精製の原料の約96%を中東に依存しており、輸入ナフサを含めたナフサ全体の中東依存度は8割を超えます

※ナフサとは、プラスチックや合成繊維など石油化学製品の基礎原料となる石油製品のひとつ

国別ナフサ輸入比率 チャート
国別ナフサ輸入比率(出典:JPEC、農林水産省タスクフォース提出資料

ナフサの調達難は、エチレンの減産やプラスチックその他関連製品の値上げを招き、石油化学製品に強く依存する私たちの暮らしを直撃しました。

停戦後もホルムズショックが「元通り」にはならない可能性

イランとアメリカは戦闘を終結する覚書にオンライン署名で合意し、事実上封鎖されていたホルムズ海峡を開放する方針が示されました。この先に最終合意のための60日の交渉期間(延長可能)で合意に至る必要があります。

しかし、イスラエルがレバノンで進める「軍事作戦」の停止をめぐり、米・イラン間、そしてイスラエルの行動にはすでに齟齬が起きており、依然として予断を許さない状況が続いています。

もっとも、海峡が開かれればすべてが元通りになるというわけでもありません。石油流通システムを専門とする桃山学院大学の小嶌正稔教授は、ホルムズ海峡が開通したとしても、封鎖の影響は短くて3〜4カ月、おそらくは6〜8カ月程度は続くと指摘します。

ナフサ等の供給不安が続けば続くほど、生活に欠かせない品物や物流の価格は今後も上がり、物価高の深刻さは増してゆく見通しです。そして、厳しい経済負担をまともに被るのは市民の家計です。

ナフサ供給不安は暮らしにどう影響したのか

今すでに日本では、たった一つの海峡の閉鎖のために、エネルギーから石油化学製品、製造業、物流、そして家計までが同時に揺さぶられています。

大きな負の連鎖の起点の一つになっているのは、プラスチックや合成繊維の基礎原料となるナフサです。私たちの暮らしのあちこちで​​ナフサの供給不安が具体的な変化となって表れています。

市場に流通する白黒パッケージの「かっぱえびせん」とシリアル類
市場に流通する白黒パッケージの「かっぱえびせん」とシリアル類。ナフサ供給不安によるインク調達の不安定さが日常の買い物の景色を変えている(2026年6月)©Greenpeace

見慣れたパッケージの様変わり

ナフサから作られる素材の供給不安が、ものづくりの現場と見慣れた商品の見た目を変えています。ナフサを原料とするインク調達の不安定さが原因で、企業が相次いでパッケージの変更を発表しました。

石油原料節約パッケージとして2色印刷になったカルビーのポテトチップス
石油原料節約パッケージとして2色印刷になったカルビーのポテトチップス (2026年6月)©️Greenpeace

カルビーは、主力のポテトチップスなど計14商品のパッケージを白黒の2色に変更、日清製粉ウェルナは、パスタや麺の結束テープを無地に切り替え、カゴメはケチャップ3商品のパッケージの印刷部分を減らして透明デザインに変更しました。

容器包装類の相次ぐ値上げ

ナフサ由来の素材を使用する日用品の値上げが続いています。食品トレー容器の大手エフピコは、6月1日出荷分から全ての製品価格を20パーセント以上値上げ、ゴミ袋ポリ袋メーカーの日本サニパックはポリエチレン製品すべてを30パーセント以上値上げ、日本触媒**はペットボトルなどの原料となる酸化エチレンを2カ月連続で値上げしました。

これらは実施された値上げのほんの一部にすぎません。野村総研は3月末時点で、ナフサから作られるエチレン由来の日用品の価格上昇の影響だけで、4人家族で年間1万8,000〜2万5,500円の負担になると試算しています。

食料品への値上げの波及

値上げの波紋はナフサを原料とする商品だけにとどまりませんでした。ナフサ供給不安による包装容器の値上げや原油高による輸送費や電気料金の高騰は、食品や、酒類、菓子、飲料などの嗜好品の値上げを助長しています* *

帝国データバンクによると、2026年の主要な食品メーカー195社の飲食料品の値上げ品目数の累計は、少なくともすでに1万4,902品目に上っています(1〜11月の累計)。今後さらなる飲食料品の値上げが表面化することで、年間にして2万品目台に到達する見通しです。

石油を浪費する「使い捨て」が暮らしを圧迫している

多くの供給混乱や値上げの中心に、当たり前になってきた「使い捨て」の仕組みがあることに目を向ける必要があります。ホルムズショックによる生活への打撃は、大量に生産し、大量に消費し、大量廃棄することを前提とした「リニアエコノミー(直線型経済)」システムの限界を示しているからです。

「資源ごみ」として出されるプラごみ
日本の過剰包装(何重ものプラスチック包装)は海外でも有名になっている。「資源ごみ」として出されるプラごみは、実際には焼却処分され、熱回収はされるものの国内のマテリアルリサイクルはわずか1割程度だ。Photo : Quality Stock Arts / Shutterstock.com

本来なら容器包装を使わない「量り売り」や「はだか売り」などの代替策で販売できる商品の価格にまで、ナフサ供給不安と原油高の煽りを受けた容器包装の値上げが反映されているケースもあります。

必要のない容器包装をカットし、使い捨てを繰り返し使えるリユース容器で代替すれば、リニアエコノミーは「サーキュラーエコノミー(循環型システム)」に近づき、石油の無駄使いを抑制することができます。

リユース容器シェアリングサービス「Megloo(メグルー)」のリユース容器と回収ボックス
リユース容器シェアリングサービス「Megloo(メグルー)」のリユース容器と回収ボックス。現在、利用が急増しているという。加盟店では、専用アプリやLINEを使い、繰り返し使える容器でテイクアウトすることができる。食後に近隣の対応店舗や専用ボックスへ容器を返却し、店舗で洗浄し再利用される。写真提供:Megloo(メグルー)

これは、廃棄物の削減はもちろん、プラスチックがライフサイクル全体で排出している温室効果ガスの削減にもつながり、世界で深刻化するプラスチック汚染を解決するための手段にもなります。

リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーの対比図
リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーの対比。大量に石油などの資源を使い、大量に消費し、大量廃棄に至る「直線型経済(リニアエコノミー)」から、リデュース(発生抑制)とリユース(再利用)を中心に使い捨てない「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」に移行することで、石油の大量消費を抑制できる。 Photo : Shutterstock.com(Greenpeaceが編集)

グリーンピース・ジャパンの調査では、コンビニ大手3社とカフェチェーン3社が、2023年に消費したテイクアウト用飲料の使い捨てカップを、すべて貸し出し式のリユースカップに切り替えた場合、1年で46万5,000立方メートルの水、8,800万キロのCO2換算排出量、そして27万1千バレル以上もの石油を節約できることがわかっています。

国内で容器を循環させるリユースの仕組みの拡大は、廃棄物と石油の消費量を大幅に削減するだけでなく、化石燃料への依存度を下げ、国際情勢などに左右されず、より持続的で安心な社会を築く助けになります。

リサイクルが広まったときと同じように、リユースを推進することで、地域の容器洗浄施設や回収・物流などの地域インフラの整備が進み、それらを支える新たな雇用にもつながります。

今すぐ始められる「マイ容器」「リユース容器」の推進を

一人あたりの使い捨てプラスチック消費量が世界的にみても多い日本。ナフサ供給不安の渦中にあっても、毎日大量のプラスチックが使い捨てられているのが現状です。

しかし、その中で容器包装類を使い捨てずに買い物できる仕組みを取り入れるお店も。「マイ容器」の持参を呼びかける惣菜店や弁当店、食品や洗剤等を量り売りする雑貨店など、使い捨て容器包装を使わないで買い物ができるよう工夫や努力をする企業や個人店が改めて注目を集めています。

宮城県の石巻市のベーカリー「パン工房散歩道」では、容器やタッパーを持参すると、「エコ割引き」として会計から5パーセント値引きになるサービスが行われています。パン袋やレジ袋の入荷が不安定な状況下でも、「値上げはしたくない」という一心で始められた試みです。

利用客にエコバッグや保存容器の持参を呼びかけ、5パーセント割引を実施いしている宮城県石巻市のベーカリー「パン工房散歩道」のインスタグラム投稿
利用客にエコバッグや保存容器の持参を呼びかけ、5パーセント割引を実施いしている宮城県石巻市のベーカリー「パン工房散歩道」Photo : @pankoubousanpomichi(Greenpeaceが一部トリミング、加工)

「マイ容器」や「リユース容器」の使用推進は、消費者との協力で、資材削減と環境負担の軽減が叶い、同時に価格還元にも繋がる方策です。大がかりな社会システムの変容を待たずに取り入れることができ、かつ大幅な石油使用の削減に繋げられる可能性があります。

▶︎リユース、リフィルで使い捨てプラスチックからの脱却が進んだ世界の事例 

しかし、一部の企業や個人の自然発生的な努力だけに任せていても、規模拡大には限界があり、せっかくの取り組みを単なる一過性の経営緊縮へと帰結させてしまうことにもなりかねません。より大規模な脱プラを進めるためには、使い捨て容器包装を大量消費する大手消費財メーカーの参画が不可欠です。

こうした動きを包括的に後押しするには、政府が使い捨てプラスチックの規制を導入し、リユースを推進するための政策を実行することが大切です。そうすることで、当たり前になってしまった使い捨てプラスチックを減らし、ナフサ依存からの脱却を前進させることができます。

より良い持続可能な社会をつくるために

グリーンピースは7月6日、減プラスチック社会を実現するNGOネットワーク他33団体と合同で、使い捨てプラスチックの大幅削減とそれを可能にするリユースの推進、そしてプラスチック中の有害化学物質の規制を求め、日本政府に緊急要請を申し入れました。

▶︎緊急要請についてくわしくはこちら

資源を大量消費しないリユースの仕組みを加速度的に取り入れることができれば、私たちがこれまで主張してきた使い捨てプラスチックの使用量を大幅に削減できる社会の実現に近づき、ホルムズショックのような困難の影響を小さくすることができるでしょう。

現状のような石油備蓄の放出や代替調達、ガソリン補助金といった対症療法だけでは化石燃料やプラスチックに過度に依存した不安定な構造は変わりません。それが意味するのは次に起こるエネルギーショックへのカウントダウンです。

プラスチックのカップに閉じ込められた蟹
環境中に流出したプラスチックは分解に何百年という時間がかかり、徐々に砕けてマイクロプラスチックとして生態系に侵入する場合もある。プラスチックのカップに閉じ込められた蟹。フィリピン、ヴェルデ島海峡(2019年3月7日)

今世界では、資源の大量消費、気候変動、環境汚染、生態系破壊など多くの問題の原因となっているプラスチック汚染に取り組むため、「国際プラスチック条約」の締結に向けた交渉が進んでいます。

実効的な条約が締結されれば、環境と、健康、そしてお財布にも優しい買い物が選べる社会の実現につながります。プラスチックの大量生産を蛇口から止める力強い国際プラスチック条約の実現を求めて、グリーンピースと一緒に政策決定者に声を届けませんか?