8月25日、東京電力は2022年度内に予定していた福島第一原発原子炉内のデブリ(事故で融け落ちた核燃料や原子炉構造物の塊)を1グラム取り出す試みを、2023年度後半に延期すると発表しました。
一方、ウクライナ戦争の影響によるエネルギー市場の混乱と6月の電力ひっ迫を口実に、岸田総理は、原発の再稼働のみならず新設まで口にし始めました。

迷走する岸田政権のエネルギー政策

首相官邸
Photo AC

8月24日、岸田文雄総理は官邸で開いたGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、7基の原発の再稼働の方針を示し、次世代型原発の開発・建設について検討を指示しました。
根拠とされているのはウクライナ戦争による天然ガスや石油などの燃料市場の混乱と、6月に起きた電力ひっ迫です。

この岸田総理の方針は、どう見ても時代錯誤の上、却って新たな問題を招くほど迷走しているといわざるを得ません。

過酷事故の教訓はどこへ?

まず、原発は計画から建設〜運転開始まで莫大な資金と長い年月がかかり、運転が始まっても、定期点検などでしばしば運転を止めなくてはなりません。その間は予備の石炭火力発電所で電力を補完するので、原発を建てたらそのぶん石炭火力発電所も建てて、二酸化炭素を排出し続けることになります。
そこまでやっても、原発は40年で老朽化し、廃炉には再び巨額の費用を要します。

東京電力福島第一原発。2016年撮影。
東京電力福島第一原発。2016年撮影。

2011年に事故が発生した東京電力福島第一原発は、その廃炉作業の真っ最中です。
廃炉のためにデブリ(事故で融け落ちた核燃料や原子炉構造物の塊)を取り出すことになっていますが、東電は8月25日に再びこの「試み」を2023年度後半に延期しました。事故発生から11年以上かかって、現段階で計画されているのは、デブリの表面を金属ブラシで擦りとった粉末を1グラム吸い出す、という「試み」でしかありません。つまり、この方法がデブリの除去方法として正解かどうかは、いまのところ誰にもわからないのです。
デブリの総量は、600~1,100トン以上とも推定されています。

このデブリがあるために、原子炉を冷やし続ける水や地下から建屋に流れ込む水が、1日平均で150トン(2021年)の「汚染水」となっています。
11年余りの間に汚染水は130万トン溜まり、昨年、政府はこれを海洋放出で処分すると決定、東電はそのための施設を建設中です。

汚染水処理施設概略
東京電力ウェブサイトより

汚染水の中には、多核種除去設備(ALPS)で処理したにも関わらず、トリチウムや炭素14だけでなく、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106、テクネチウム99、プルトニウムなども基準値をこえて残留しています。
海洋放出の前にこれらを二次処理で取り除き、海水で希釈することになっていますが、この二次処理も、うまくいくかまだわかっていません。もしうまくいっても、130万トンの二次処理には何年もの歳月がかかり、かつ、トリチウムと炭素14は除去できずに残ります。

廃炉作業が終わるのは公式には2041年から2051年までとされていますが、計算上では、その間に、汚染水は新たに130万トン溜まります。
そうまでして取り出したデブリを具体的にどうするかは、決められていません。

人権を侵害する原発問題

海洋放出が発表されてから、諸外国からは日本政府の無謀な決定に批判の声が集まっています。

とくに地理的にも直接影響をうける太平洋諸国を代表する8団体は共同で、今年8月29日にも「日本の計画は政府の無知と軽率さを示しており、太平洋の人々の清潔で健康な環境に対する基本的人権の侵害である」という反対声明を発表しました。

国連人権理事会は2021年に、清潔で健康的で持続可能な環境は人権であることを認めています。汚染水の海洋放出は、その影響をうけるすべての人々に対する人権侵害です。

グリーンピースは、汚染水を保管する大型で頑丈なタンクを建設し、より効果的で精密な放射性核種除去技術を開発することを最良の選択肢として提案しています。

チョルノービリ原発30キロ圏内でグリーンピースが実施した放射能調査の模様。2022年7月。
チョルノービリ原発30キロ圏内でグリーンピースが実施した放射能調査の模様。2022年7月。

原発は通常運転時でも、作業員による被ばく労働が不可欠です。定期点検時は、炉内の高線量下で危険な作業を強いられます。原発の下請労働者は、賃金のピンハネなど、搾取され使い捨てにされてきました。労働災害が隠され、ずさんな被ばく管理で、健康被害も認められてきませんでした。

福島原発事故後の収束作業では、多くの作業員が被ばくを強いられながら、現在も困難な廃炉作業を続けています。今後、デブリ取り出しの作業では、さらに危険で高線量の被ばくが予想されます。

原発は、ウラン採掘から発電、廃炉に至るまで、労働者に被ばくのリスクを強いています。気候正義に反する発電システムなのです。

ロシアのウクライナへの侵攻では、36年前の事故後閉鎖されているチョルノービリ(チェルノブイリ)原発や、ヨーロッパで最大規模のザポリージャ原発が軍事攻撃の標的となっています。
もし原発内の施設が攻撃によって損壊して放射性物質が漏洩したら、ウクライナはもちろん、周辺国にも影響が及ぶ危険性があります。
そしてその影響は、数十年〜数万年という、気の遠くなるような未来まで続くのです。
そのために、日本でも、ウクライナを含むヨーロッパでも、事故の被害にあった多くの人が元の生活を取り戻せないままでいます。

原発の電気を使うということは、電気のために、未来に対して、それだけの犠牲と危険をともなうということなのです。

チョルノービリ原発放射能調査

電力は足りている

世界市場の変動から電力需要をまもるためなら、国内にあるエネルギーで発電できる再生可能エネルギーを増やすべきではないでしょうか。
環境省の試算では、日本で発電できる再生可能エネルギー供給量は、現在の電力量の倍にもなるとされています。
再生可能エネルギーなら、原発や化石燃料よりも環境負荷を抑えられるし、国際情勢に左右されることもありません。再生可能エネルギー100%を実現している自治体も、100以上あるのです。

実際のところ、日本では電力のひっ迫が起こる可能性はほとんどありません。
電力会社は天候や時間帯による電力需給の増減を予測し、その予測をもとに効率的に発電量を調整しています。

今年3月の寒波で「電力ひっ迫警報」、6月の猛暑で「電力ひっ迫注意報」が出され節電が呼びかけられました。結果的に”節電の効果”で、停電は回避されました。つまり、今のところ節電によって停電は回避することができ、原発を再稼働させる必要はないのです。

昔から「電気が足りない」というキャンペーンは、電力会社と政府によるプロパガンダで、原発を再稼働させるための口実です。
電力需給の数字は、電力会社や政府によって、意図的に操作可能です。
危機感を煽るための「計画停電」も過去にありました。

ロシアのウクライナ侵攻で原発が攻撃され、原発は核兵器と同等の脅威であることが示されました。
これに対して、世論を巻き返すために、「電力ひっ迫警報」を出したと考えられます。

電力需給を優先して原発を再稼働し新設するのか、原発事故や攻撃のリスクを回避するため廃炉にするのか、どちらが安全かは明白です。

解決策の第一位は再生可能エネルギー

日本の原発で使う核燃料は、ウランの採掘から核燃料の製造まで、ほとんど海外からの輸入に頼っています。原発は国産エネルギーではなく、戦争やエネルギー危機に対して有効な対策とはいえません。

ですから、当面は現存する発電施設だけで日本の電力需要は十分まかなえるし、これからのリスクヘッジを想定するなら、再生可能エネルギーの発電量を計画的に増やすのが得策と考えられます。

一方で、脱炭素という最優先課題を名目に、欧州委員会は今年、天然ガスと原発を「持続可能な投資先」と決めてしまいました。
いったん石炭火力発電をやめ、原発をやめた国も、これ以上の電気料金の値上げを避けようと、化石燃料や原発に再び頼ろうとしています。既存の施設を使えるし、技術も人員の確保も容易だからかもしれません。

しかし、すでに再生可能エネルギー市場は大きく成長し、今後も順調に伸びていくことが予想されます。
化石燃料価格の高騰や原発の危険性にこれ以上怯えなくても済む、気候変動の抑止にも寄与できる再生可能エネルギーへの転換こそ、この危機の決定的な解決策になるはずです。

グリーンピースは行動しています

福島県浪江町でのグリーンピースの放射能調査。2018年。
福島県浪江町でのグリーンピースの放射能調査。2018年。

1日も早く原発をなくし、気候変動をくいとめ、より安全な再生可能エネルギーへの転換を実現するため、グリーンピースは実効的な対策を求めて世界中で活動しています。

  • 2011年3月の事故発生直後から11年以上にわたり、福島をはじめとする日本全国で放射能調査を続け、その結果から導き出された科学的根拠をもとに原発の危険性を明らかにし、事故の影響を受けた方々の人権保護を国際社会・日本政府・電力会社に求めています。
    参考:グリーンピース 放射能測定室 シルベク
  • 温室効果ガスを最も多く排出する石炭火力発電の廃止のため、世界中の石炭火力発電に出資している日本の3大メガバンクと根気強く話しあい、新規の石炭火力事業への投融資を中止させることができました。
  • 日本の基幹産業である大手自動車メーカーに対し、販売台数ではなく移動サービスの提供を主体とする持続可能な産業へのシフトを提案、丁寧な対話を続けています。
  • 日本中の自治体に脱炭素政策を実行してもらうための草の根運動を立ち上げ、地元の人たちが自分の手で我が町のエネルギー政策を転換させるように後押ししています。

グリーンピースはいかなる政府からも企業からも援助を受けず、独立した立場で環境保護活動を実施しています。だからこそ、グリーンピースの調査結果の中立性を維持することができます。
このような放射能調査を含め、グリーンピースの環境保護活動はすべて、ご寄付で支えてくださる個人の皆さまのお力の賜物です。改めて心より感謝申し上げます。

国際社会と世界中のあらゆる国と自治体と企業に対し、グリーンピースは原発なしで実現できる気候変動対策を提示し、行動を求めて交渉を続けています。 
是非この活動を、支援してください。

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グリーンピースは政府や企業からの援助をうけず、独立して環境保護にとりくむ国際NGOです。大切なあなたの寄付が、グリーンピースの明日の活動を支えます。

署名:原発のない世界を日本から実現したい

署名:誰かの犠牲で成り立つ原発を、気候変動対策にしないでください