ユニクロ、ZARA、H&M 世界の80ブランドが汚染物質ゼロを目指した10年
この投稿を読むとわかること
みなさんは知っていましたか? 2020年は「ファッションと環境」というテーマにとって、特別な意味のある年だということを。
それは、世界の80ものファッションブランドが、2020年までに有害化学物質の排出をゼロにすることを目指してきたからです。その流れの大きなきっかけを作ったのは、2011年から10年間に渡って、今このブログを読んでいるみなさんのような、世界中の何十万人ものファッション好きの人々と展開した、グリーンピースの『デトックス・キャンペーン』でした。
このキャンペーンの成功の最大の要因こそ、お一人おひとりの声の力でした。ファッション業界から有害化学物質を減らすことに成功したこのキャンペーンを、今、振り返りたいと思います。
ファッションと環境汚染の隠れたつながり
身近な大手ブランドの衣服は、多くの場合、途上国の繊維工場に外注して作られています。
今から約10年前、そうした地域は規制が不十分で、繊維工場の有害化学物質を含む排水が河川を汚染し、人々の健康を脅かしていました。
中には、発がん性や人や動物のホルモンを撹乱する物質が含まれることも分かっていたのですが、工場排水と発注元の大手ブランドとのつながりは明らかではなく、企業がその責任をとることはありませんでした。
グリーンピースの『デトックス・キャンペーン』の目的は、こうした不条理に起きている汚染から、人々の健康と自然環境を守るため、製造工程からすべての有害化学物質の使用をゼロにすることをファッション業界へ働きかけることでした。
中国の繊維工場の排水から有害化学物質を発見
まず、実際にどんな汚染が起こっているのか、どのブランドが関わっているのか、調査することから始めました。
中国の大手繊維工場の排水口で調査をした結果、集めたサンプルからヨーロッパでは禁止されているアルキルフェノール類や有機フッ素化合物などの幅広い有害化学物質が見つかり、地域の排水処理施設の設備では処理が不十分なことが明らかになりました。
そしてアディダス、ナイキ、プーマといった世界的なスポーツブランドが、これらの工場に製品を外注していることを突き止めました。
世界的なブランドがキャンペーンに参加
調査結果をもとに、グリーンピースは大手スポーツブランドに対してキャンペーンを開始しました。約2週間後には、プーマが2020年までに有害化学物質ゼロを目指す「デトックス宣言」を行い、最初の宣言ブランドになりました。
世界中の人々に呼びかけ、ナイキやアディダスも続くように求めて各地の店舗でアクションを行うと、約1カ月後にはナイキやアディダス、そしてH&Mなどのファストファッションブランドも、「デトックス」を宣言。2011年の終わりには、宣言した企業を中心に「有害化学物質排出ゼログループ」が設立され、企業が協働してデトックスを進めるという新たな流れが生まれたのです。
キャンペーンが起こした変化
グリーンピースは、その後も、世界中のサポーターからの支援のもと、調査対象のブランドや地域を拡大し、子ども服や高級ブランドからも有害化学物質を発見しました。
メキシコで行った調査では、デニムの有名ブランドであるリーバイスが有害化学物質を排出している工場とつながっていることが分かり、世界中の何十万人もの人々がデトックス宣言を同ブランドに求めたことで、世界最大手のデニムブランドがデトックス宣言に加わりました。
次に、キャンペーンは汚染が少ない人里離れた山岳地帯に視点を移し、アウトドア製品やレインコートの撥水加工剤に含まれる有害な有機フッ素化合物が、製品を通じてスイスのアルプス山脈などにまで広がっていることを発見しました。
アウトドアを愛する何十万人もの人々がキャンペーンに参加したことで、アウトドアブランド3社がデトックスを宣言しました。
さらには、ゴアテックス製品のメーカーで、ザ・ノース・フェイスやマムートなどのアウトドアブランドに撥水コーティングなどを提供するゴアファブリックスがデトックス宣言。有機フッ素化合物を使用しない新しい防水技術が、多くのアウトドアブランドによって採用されることにつながりました。
日本のユニクロも!
変化の波は日本にも届きます。
グリーンピース・ジャパンは、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正社長と直接会って話し合いを行い、その後経営陣と数時間にわたって議論を重ね、製品の製造工程から有害化学物質をなくすように交渉しました。そして、同社は2013年の初め、全ての有害化学物質の使用と排出を2020年までに全廃すると発表したのです。
ファーストリテイリングが使用をやめると約束した化学物質の中には、メーカー側としては、代替することにかなりの労力とコストがかかる可能性のある物質も含まれました。また、海外(特に中国)の工場における有害化学物質の使用状況をウェブサイトで公開すると約束してくれました。同規模のアパレルメーカーと比べても、同社は、世界でトップレベルの取り組み宣言を行いました。
グリーンピースは、宣言後もファーストリテイリングと継続して進捗のやりとりを行ってきました。同社は、2019年時点で、99%以上のデトックスを達成したと発表しています。
ファーストリテイリングが、このように業界のリーディング企業として責任ある製造へ切り替えたのは、みなさんがグリーンピースと一緒に声をあげたり、買い物を通して「投票」することで、サステナブルな企業を支持する考え方が広まったりしたことが後押しになったはずです。
一人ひとりの声がファッション業界を動かした
ユニクロを含め、アディダス、ベネトン、バーバリー、H&M、Levis、ナイキ、プーマ、ヴァレンティなどのブランドや、ALDI、TESCOなどの小売業者など、世界中のたくさんのアパレル企業が有害化学物質ゼロにむけた取り組みをはじめたのは、ファッションが大好きで、海や川も守りたいというみなさんの声があったからです。
このキャンペーンを通して、このブログを読んでくださっているみなさんのようなたくさんの人が、周りの人と衣服と環境汚染について話したり、署名をしたりして、ファッションブランドに声を届けたからこそ、これだけ多くの大手ブランドが、行動することにつながったのです。みなさんの力がなければ、こうしたポジティブな変化を起こすことはできませんでした。本当にありがとうございます!
最初にデトックス宣言をしたプーマのヘッド・オブ・コーポレート・サステナビリティ Stefan Seidel 氏はこう話しています。
2011年のデトックス・キャンペーンの開始は、業界全体に対する明確な警鐘だった。キャンペーン当初の対象は、業界サプライチェーンの二次サプライヤーにおける化学物質の管理と環境コンプライアンスに限定されていたが、これらのサプライヤーの社会コンプライアンスや環境パフォーマンスの取り組みの拡大にもつながった。
ファストファッションが気候危機を加速する?
有害化学物質から人々の健康と自然環境をまもる活動は、確実な成果を上げています。しかし、私たちの取り組みはここでは終わりません。
なぜなら、ファストファッションの爆発的な拡大により「より大量に、より安い服を」という消費文化が加速し、その勢いはデトックス・キャンペーンによる進展を追い越してしまうかもしれないのです。
例えば、2000年から2014年までに衣料品の生産量は倍増しました。その分、大量の原料やエネルギーが使われました。しかしその一方で、買った服を手元に置いておく期間は平均で半分に縮まったとされます。*
さらにファストファッションの台頭で、他の素材に比べて安いポリエステル素材の使用が増えましました。2016年に衣料品に使われたポリエステルは約2130万トンで、約830万トンだった2000年に比べると2.5倍に増加しています。**
ポリエステルの生産には化石燃料が使われていて、また、洗濯するたびに放出されるマイクロファイバーが川や海に流出し、その分解には何十年もかかる可能性があります。
服はリユース・リサイクルされるという神話
古着として再利用すればいいではないか、と思うかもしれません。
けれど、簡単なことではありません。
一般廃棄物として捨てられる衣服の95%は、古着または別の用途で再利用できる可能性があります。*** でも実際には、ほとんどが再利用されずに廃棄されていると推定され、ファッション業界も正確に衣服の廃棄量を把握できていません。
古着として再販売可能なのはごく一部で、ファストファッションの品質の悪さがその一因となっています。
素材としてのリサイクルにも技術的な課題が残っていて、克服できたとしても、リユース・リサイクルを前提とした低品質の衣服の大量生産・大量消費は、たくさんの原材料を必要とし続けます。
私たちに必要なのは、ファストファッションの消費を後押ししかねないリユース・リサイクル神話ではなく、必要な服を大切に長く使って、消費のペースを落とすことです。
ファッションをサステナブルにするためにできること
服を長く着るだけで、環境へのあらゆる影響が軽減されます。私たちがまず手軽にできるのは、手持ちの服を長く着ること。手入れをして、修理すること。着こなし方を工夫したり、別の物にリメイクすること。友人と交換したり、譲ったりするのもいいですね。
詳しく読む:「ファッションと気候変動 - おしゃれしながら地球を守るには?」
この10年間で私たちは、ファッション業界を「デトックス」することに成功しました。世界中の人々が力を合わせれば、ファッションをさらにサステナブルにすることができるはずです。まずはこのブログをシェアしたり、ファッションの環境へのインパクトについて友達と話してみたりすることから始めませんか?
参考資料
グリーンピース 報告書「ファッションをデトックス 有害化学物質ゼロを目指した7年間の歩み」、「ファストファッションを、もっとスローに」
* Muthu (2014), op.cit.
** Textile World (2015), op.cit.
*** Lu JJ & Hamouda H (2014), Current Status of Fiber Waste Recycling and its Future. Advanced Materials Research (Volume 878), pp. 122-131, 2014