イランでの戦争が浮き彫りにしたプラスチックの本当の代償──6つの事実
この投稿を読むとわかること
国際プラスチック条約はなぜ重要なのか
米・イスラエルによるイラン攻撃で最も深刻な被害を受けているのは、イランと周辺地域の人々です。命が失われ、家族が避難を余儀なくされ、重要なインフラが損なわれています。この戦争が引き起こした化石燃料ショックも、戦場をはるかに超えて経済に影響を広げています。
イランでの戦争は原油市場の危機を招き、その衝撃は世界中に広がり、一部の影響は、今も続いています。波及先はエネルギーや輸送にとどまらず、商店やスーパー、薬局、家庭にまで及びました。世界中の人々が、今もその代償を払っています。
シャンプーのボトルからイチゴのパックまで、私たちが買うもののほとんどは、石油化学物質でつくられているか、プラスチックで包まれているか、その両方です。しかし、本来すべてをプラスチック頼みにする必要はありません。そう望んでいる人も、ほとんどいません。
この戦争は、プラスチック経済に潜むリスクを明らかにしました。プラスチックは、化石燃料由来の原料と、世界的な石油化学のサプライチェーンに依存しています。石油やガスの供給が乱れると、容器包装、医療用品、日用品のコストや入手しやすさも影響を受けます。最終的にそのしわ寄せは、家計、公共サービス、地域の暮らしに及びます。

この戦争は、「国際プラスチック条約*」をめぐる議論の前提を変えました。プラスチックのサプライチェーンに縛られていることの本当の代償もはっきりしました。国際プラスチック条約の策定に向けた次回の国際交渉は、将来起こりうる価格や供給のショックに対していっそう脆弱な構造を続けてしまうのか、それとも、ショックに耐えられる強靭な経済を築くのかを、各国政府が選ぶ大きな分岐点です。
*国際プラスチック条約とは プラスチック汚染を終わらせるために、生産から廃棄までを対象に、法的拘束力のある国際ルールを定めようと各国が交渉している条約
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米・イスラエルによるイラン攻撃が私たちに示した6つの事実は以下の通りです。
1. 化石燃料ショックに脆弱なプラスチックのサプライチェーン

この戦争で、プラスチックの生産、輸入、輸出が一度に混乱し、世界中でコストが急騰しました。世界最大級のプラスチック生産企業の一つであるフォルモサ・ペトロケミカル(FPCC)は、「不可抗力(フォースマジュール)」を宣言せざるを得なくなりました。不可抗力とは、自社の力の及ばない事情で契約上の義務を果たせなくなることを指す法律用語です。
日本では、レジ袋や容器包装に広く使われるポリエチレンの生産が、3月に62パーセント減り、品不足は工場からスーパーの棚にまで広がりました。
影響は、サプライチェーンの外にも及びました。韓国では、政府が医療用注射器の買い占めを禁止する事態になりました。家庭の日用品も例外ではなく、ボディソープの価格は数週間で7.7%上がったと報じられています。値上がりの波は、子どものおもちゃ箱にまで押し寄せ、米国のあるぬいぐるみメーカーは、開戦後3週間で、中国の仕入れ先から、材料費の10〜15パーセントの値上げを告げられたといいます。
米国エネルギー省によると、石油化学製品は6,000種類以上の日用品に使われています。問われているのは、そのすべてを一夜で変えられるかどうかではありません。用途のうち、どれだけを減らし、設計し直し、化石燃料に頼らない、より安全な代替品へ置き換えられるかです。
2. この危機が生んだ勝者と敗者

今回の軍事衝突は、プラスチックや石油化学原料への依存が大きい国々の新たな弱点を明らかにしました。韓国メディアによると、ナフサの輸入価格は1か月で68パーセント上昇し、中小の製造業者からは、原材料の不足や、20パーセントを超えるコスト上昇に苦しむ声が上がりました。
一部の生産者が減産に追い込まれる中、中国は中東情勢の緊迫化を、長年続いてきた供給過剰と低採算から抜け出す好機と捉えました。行き過ぎた価格競争や過剰な生産能力を抑えようとする国内の取り組みは、これまで十分な成果を上げていなかったからです。そこで中国は、アジア市場への輸出を増やし、積み上がっていた在庫を売りにまわし、遊休設備を再び動かしました。混乱に陥った競合が応じきれなくなった需要も取り込みました。業界アナリストは、これを市場シェアの長期的な変化になり得る動きと見ています。
一方、米国の石油化学メーカーもまた、同じ危機から思わぬ利益を得ました。化石燃料ガス由来のエタンを原料とする米国のプラントは、ホルムズ海峡の航行混乱の影響を受けにくく、世界的に価格が上がる中でも原料コストを低く抑えることができたからです。市場がひっ迫すると、各社は値上げに踏み切りました。ダウは、北米のポリエチレン価格を、3月に1ポンド(約450グラム)当たり10セント、4月に15セント引き上げ、その数日後には、4月の値上げ幅をさらに倍に広げました。8月分についても、追加の値上げを打ち出しています。
石油化学大手のライオンデルバセルの第2四半期の利益(特殊要因を除く)は、前年同期比で600パーセント近く増え、14億ドルに達しました。ダウも、開戦から数四半期で赤字から黒字に転じました。これは、単なる市場の調整ではありません。ナフサの供給混乱の影響が小さい企業ほど、利益を上げやすい立場にあり、その一方で、ほかの地域の生産者や地域社会が、リスクを負わされたのです。
石油化学に依存する経済の利益と被害は、公平に分配されていません。石油やガスの採掘現場、精製所、石油化学施設の周辺に暮らす人々は、汚染や健康被害を押し付けられることが少なくありません。燃料や原料を輸入に頼る国々は、自国ではコントロールできない価格の変動にさらされています。
3. 負担を負うのは、家計、公共サービス、地域社会

ロイターが報じたニールセンIQのデータによると、開戦から3月28日までの4週間で、米国の食料品価格は前年同期比2.9パーセント上がりました。ペットボトル入り飲料水は5.8パーセントの上昇です。プラスチックポリマーを含むおむつ、生理用ナプキン、タンポンも、2〜6パーセント値上がりしました。小売データでは、学校用のランチボックスが26パーセント超上がり、学用品の中で最大の上げ幅でした。
合成素材の靴も、値上がりする可能性があります。靴の合成素材の約70パーセントは石油化学製品由来です。業界アナリストは、夏の終わりから秋にかけて、価格がさらに1.5〜3パーセント上がると予測しています。
台湾では、ごく普通のポリ袋の価格が2倍超になりました。現地の会員制倉庫型店コストコでは、1人が買える食品保存袋の数を制限せざるを得なかったと伝えられています。
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経済をこのような危機にさらしたのは、企業と政府の判断でした。それでも、ツケを払ったのは一般の人々です。ガソリン代や交通費、食費、日用品や必需品の代金として、負担を強いられました。
影響は、誰にでも等しく及ぶわけではありません。低所得世帯、小規模事業者、雇用契約や社会保障の枠外で働くインフォーマルセクター(非公式部門)の労働者、そして輸入化石燃料や石油化学原料に頼る国々は、値上がりや必需品の不足に持ちこたえる余力が、はるかに小さいのです。
4. リユースとレジリエンスを選ぶ政府もある
3月、紛争の開始からわずか数週間のうちに、韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は閣僚たちに対し、石油化学への依存が深いため、次にどこで混乱が起きるか予測しにくいと述べました。そのうえで、「国民の日常生活への深刻な脅威だ」と警告しました。
4月には、緊急対応から長期的な改革へと軸足を移し、「脱プラスチック経済」を訴えました。台湾政府は、より強靭な経済をつくり、市場変動の影響を減らすために、リユースのインフラを広げました。
ここから得られる学びは、品不足や配給を歓迎すべきだということではありません。公的な支援を受けて計画的に進めるリユースやリデュースの仕組みのほうが、価格変動の大きい化石燃料からプラスチックをつくり続けることに頼る経済より、人々の生活をしっかり守れるということです。
問われているのは、どれだけ多くの政府が、次に起こりうる衝撃に間に合うように動けるかです。
5. リユースとリデュースは、社会規模で実現できる

プラスチックはあまりに便利で、安く、暮らしに深く根づいているため、業界は長い間、大きく減らすことはできないと主張してきました。しかし、台湾ではポリ袋が急に手に入りにくくなっても、社会は機能し続けました。小売業者が対応を変え、政府がリユースの取り組みを広げた結果、エコバッグの持参が広く浸透しました。
新たに生産されるプラスチックの価格が上がる中、フランスの小売大手カルフールは、詰め替え商品や容器包装の削減によって、商品の包装に使うプラスチックを5,000トン減らすと約束しました。節約できた分は、値下げで顧客に還元するとしています。
これは、責任を個人に負わせるという意味ではありません。政府と企業には、誰もが手軽に無理のない価格でリユースや詰め替えを利用でき、包装の少ない商品を選べる仕組みをつくることができる、ということです。
使い捨てプラスチックは小売の仕組みに組み込まれていますが、プラスチック業界が主張するほど欠かせないものではありません。リデュースは十分に可能であり、汚染だけでなく、コストを減らすことにもつながります。
6. 構造的な変革がなければ、次の衝撃は避けられない

米・イスラエルによるイラン攻撃は未だ終結が見えず、たとえ終わったとしても、混乱は再び起きるでしょう。2021年にも、同じことがありました。エバーギブン号がスエズ運河を6日間塞ぎ、世界の貿易が混乱し、すでにひっ迫していたプラスチックのサプライチェーンに、さらに圧力がかかったのです。
今後、こうしたリスクはさらに大きくなると予想されています。国際エネルギー機関(IEA)は、プラスチックなどの石油化学製品が、2050年までの世界の石油需要の伸びの最大の牽引役になる見通しだと予測しています。
プラスチックの生産者は、化石燃料経済と切り離された存在ではありません。石油化学製品は化石燃料を原料とするため、プラスチックの新規生産が増え続けるほど、石油とガスへの需要も膨らみます。その結果、地域社会や経済は、将来の価格ショックにさらされ続ける状態から、抜け出せなくなります。
次回の国際プラスチック条約交渉は、各国政府にとって重要な機会です。化石燃料への依存を減らし、プラスチックによる健康被害を抑え、次の混乱にも耐えられる仕組みをつくることができるからです。
プラスチックの生産を大幅に削減する、法的拘束力のある条約は、公衆衛生、生態系、気候にとっての前進であるだけではありません。経済安全保障や地政学的な安定、そして私たちが頼る社会の仕組みのレジリエンスにとっても、転換点になりえます。
国際プラスチック条約は悪循環を断ち切る助けとなる

イランでの戦争が明確にしたのは、人々が品不足に慣れるべきだということではありません。化石燃料と、増え続けるプラスチックの新規生産に頼る経済は、自分たちでは制御できない衝撃に弱い、ということです。
法的拘束力を持つ強力な「国際プラスチック条約」は、この状況を大きく変えることができます。条約のもとで各国政府がプラスチックの生産を減らし、利用しやすいリユースの仕組みを広げ、化石燃料依存からの公正な移行を後押しすれば、汚染を減らし、次の価格ショックから人々の生活を守ることにつながります。
政府は、今苦しんでいる人々を守りながら、将来の衝撃に対する脆弱性も減らしていく必要があります。そのためには、リユースの仕組みを支え、利用しやすい詰め替えの仕組みや公共サービスに投資し、これまで化石燃料や石油化学の拡大に向けていた公的資金を振り向けるべきです。
既存の仕組みに最も責任の小さい人々や地域社会が、そのツケを払わされてはなりません。政府は、化石燃料・石油化学企業の利益よりも、公共の福祉、危機に揺るがない社会、そして人々が安心して暮らし続けられる未来を優先するべきではないでしょうか。
実効的な条約が締結されれば、環境と、健康、そしてお財布にも優しい買い物が選べる社会の実現につながります。