岬に集まり、水温などを計測する宮坂宮司と氏子総代ら

凍った湖面の氷が昼夜の寒暖差によって割れ、巨大な氷の筋が現れる自然現象・御渡り(神渡り、御神渡り)。長野県の諏訪湖では「神が通った跡」として古くから親しまれていますが、温暖化の影響で湖の結氷が続かない年が増え、2018年を最後に観測されていません。1月5日から始まった2025年の湖面観察期間も終わりに近づくなか、2月2日、国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)のスタッフ3名が観察に参加しました。観察が行われる舟渡川河口(諏訪市豊田)には2日早朝、御渡りの出現を認定する八剱神社の宮坂清宮司と氏子総代ら約50人が集まり、気温や水温、風速などを観測しましたが、この日も御渡りは出現しませんでした。

あたり一面真っ白な雪景色となった朝の諏訪湖。降り積もる雪を踏みしめながら観察地点へ向かいました。午前6時半の気温は0.5度、水温は3.2度。湖畔に集まった人たちは白い息を吐き、世間話をしながら、湖面の様子を観察していました。東京暮らしのグリーンピースのスタッフにとっては極寒に感じられますが、雪が降る日や曇天の場合は寒いように感じられても実際は気温が下がらず、湖が全面結氷するには寒さがまったく足りない、と宮坂宮司は言います。降りしきる雪が波打つ湖面に吸い込まれていく様が印象的でした。

雪混じりの風によってさざ波立つ諏訪湖

観察終了後は認定結果を報告する記者会見がその場で行われ、ホットコーヒーが配られました。小松さんは4年前から毎年観察に参加して手作りのコーヒーを提供しています。「毎日景色の表情が違うので、観察に来れるのが幸せです」と話していました。この日は節分にちなんで手作りの恵方巻きも配られ、受け取った見学者は顔をほころばせていました。

諏訪湖の湖面観察は、例年寒の入りとされる小寒から節分までの約1カ月間行われます。この期間、宮坂宮司や総代らが中心となって、御渡り出現の有無や同年の出来事などが記録され、御渡りが出現しない状態は「明けの海」と呼ばれてきました。室町時代の1443年から続くこの観測は、583年続く観測記録として世界でも例を見ない貴重な資料となっています。今冬は1月13日に氷の厚さが9cmとなったものの、1年で最も寒いとされる大寒の1月20日に3月下旬並みの暖かさを記録したこともあり、湖面は凍っては溶けてを繰り返し、これまで御渡りは出現していません。通常は立春が観測最終日となりますが、宮坂宮司は「立春前には御神渡りの出現はなかったが、2月5日にくる寒波に期待して観察を続ける」と話していました。

宮坂宮司を挟んで談笑する小野友資監督(左)とサム・アネスリー事務局長(右)

グリーンピース・ジャパンは2023年に開催した気候変動をテーマにした展示会「HELP展」で、映像作品『御渡り/MIWATARI』(小野友資監督、注1)を発表し、翌年にはタイの国際映画祭でドキュメンタリー部門審査員大賞を受賞しました。観察に参加したグリーンピース・ジャパン事務局長のサム・アネスリーは、「今回初めて諏訪湖観察に参加し、御渡りの出現を心待ちにする諏訪の皆さんの直向きな姿に、映像の中で宮司が語る『風土の中から生まれた御渡り拝観の文化』を肌で感じました。気候変動は室町時代から続く伝統文化をもじわじわと変えてしまいます。気候変動は天災ではなく、人間が引き起こしているものです。今を生きる私達にできる行動をしていこうと思います」としています。

(注1)グリーンピース・ジャパン「諏訪湖の神事と気候変動描く映像作品『御渡り』 タイの国際映画祭でドキュメンタリー部門審査員大賞を受賞」(2024年2月18日発表)