猛暑が続き、エアコンなどの使用で電力需要が急激に高まる夏がやってきました。私たちの生活に欠かせないエネルギーですが、その多くは遠く離れた場所で作られ、長い電線を伝って届けられています。そんな中、電力会社任せにせず「自分たちの電気は自分たちで作る」という、地域に根ざした「市民立発電所」が注目を集めています。市民が出資し、運営するこのユニークな仕組みには、エネルギーの未来を変えるヒントが詰まっていました。「太陽光の現場を歩く視察シリーズ」第2弾では電力需要が急増する今だからこそ知りたい、電気の「地産地消」のリアルを取材しました。

暑すぎる夏、高まる電力需要

気象庁によって今年新たに追加された、40℃以上という極めて危険な暑さを示す予報用語「酷暑日」*。7月下旬には酷暑日が5日連続で観測され、最長記録を更新しました*。さらに7月には令和8年熊本地震が発生し、被災地や避難所における連日の猛暑も大きな問題となりました。各地で深刻さを増す夏の暑さ。それと同時に増えるのがエアコンの使用などによる電力需要です。

私たちが使用する電力の多くは未だ化石燃料に依存しています。化石燃料を燃やしてエネルギーを作る過程で排出される大量の二酸化炭素は、気候変動を加速させる最も大きな要因の一つとなっています。暑さに暮らしや健康を脅かされながらも、化石燃料由来のエネルギーを使うことは、さらなる温暖化を招く悪循環となります。解決のためには一刻も早く化石燃料への依存をなくしていくことが非常に重要です。

「市民立発電所」とは何か?—普通の太陽光発電との違い

設備コストの低下や開発期間の短さから、主力電源として極めて重要な太陽光発電。その導入形態は一つではありません。通常、太陽光発電といえば、個人宅の屋根に設置されたものや、企業がビジネスとして広大な土地に設置する大型の発電所を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、市民立発電所はそのどちらとも異なります。

最大の特徴は、「市民が協力して資金を出し合い、建設し、運営する」という点にあります。特定の企業や行政が主導するのではなく、地域住民一人ひとりが主役となり、寄付や出資を通じて「自分たちの発電所」を作り上げています。

市民力発電所「えど・そら2号機」がある建物の入り口。モニターで「現在の発電電力量」を確認できる(2026年7月16日)©Greenpeace Japan

空きスペースを賢く活用した発電所

今回の視察では江戸川区を拠点に活動し、市民参加型の再生可能エネルギーの普及や気候変動対策に取り組むNPO法人、足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ(以下、足温ネット)の発電所を訪れました。

見学したのは2013年に発電を開始した「えど・そら2号機」と2017年に発電を開始した「えど・そら3号機」。発電容量は2号機が11.52キロワット、3号機が28.8キロワットです。市民立発電所は、必ずしも広大な土地を必要としません。2号機は高齢者共同住宅の屋根上への設置、3号機は以前立体駐車場として使用していたスペースに設置し、空いているスペースを有効活用しています。

これらの発電所は住宅近くでの設置ということもあり、近隣住民への配慮は必要不可欠です。足温ネットは、反射光が眩しくないよう光を反射しないタイプの太陽光パネルを採用したり、事前に丁寧な説明を行ったりすることで、地域との良好な関係を築いてこられました。

向かいの建物から見たえど・そら2号機の写真(2026年7月16日)©Greenpeace Japan
えど・そら3号機の写真。立体駐車場の上の部分に太陽光パネルが設置されている(2026年7月16日)©Greenpeace Japan
「えど・そら3号機」の防眩パネルの説明をする山﨑事務局長(2026年7月16日)©Greenpeace Japan

発電した電気をその場で使用するオフグリッドの家

市民立発電所の他に今回訪れたのが、「松江の家」です。江戸川区松江という住所にあるから「松江の家」。様々な活動団体の拠点となっている一軒家です。足温ネットもイベントの会場等で使用しています。そして「松江の家」には、電力会社の送電網(グリッド)から切り離した「オフグリッド」という仕組みが取り入れられています。

オフグリッドの家では、屋根に設置した太陽光パネルで発電した電気をバッテリーに貯めて使用。「以前、夜の会議中に突然電気が切れて笑い話になった」というエピソードもありましたが、工夫次第で快適に過ごすことができます。何より、災害による停電時でも、最低限の電力を確保できる防災拠点としての強みを持っています。蓄電池と太陽光パネルをセットにする電力自給の手法ですが、一般家庭で取り組む場合、完全に「オフグリッド」せずに、雨続きでバッテリーが空になった場合等の万が一に備え、電力会社と最低限(5アンペア程度)の契約を結んでバックアップとする「部分自給」という選択もあります。

松江の家の一階で団体の説明を受ける参加者(2026年7月16日)©Greenpeace Japan

30年の歩みとやりがい

市民立発電所を作る道のりは、決して平坦ではありませんでした。足温ネットの事務局長である山﨑求博さんと代表の奈良由貴さんが、当時の苦労とやりがいを語りました。

山﨑事務局長(左)と奈良代表(右)の写真(2026年7月16日)©Greenpeace Japan

資金集めのハードルを越えて

気候変動対策として再エネは重要ですが、1999年に足温ネットが市民立発電所を建設した目的は、二酸化炭素の削減ではありませんでした。それは、「原子力発電所の開発」に付随する「揚水発電ダム」建設に対する問題意識でした。24時間稼働させなければいけない原発は夜間の電気が余ります。揚水発電ダムは、その電力を使って、下のダムから上のダムに水を汲み上げ、電力の足りない電力が多く必要になる昼間のために下のダムに水を落とすことでエネルギーをつくり出しますが、発電する際などにエネルギーの一部が失われ無駄になってしまう非効率な仕組みです。また、開発により自然環境が破壊され、膨大な事業費も発生します。市民立発電所の建設を突き動かしたのは、「エネルギーを市民の手に取り戻す」、「東京で使う電気を自分たちで作る」という強い思いでした。

今でこそ太陽光発電は普及しましたが、1999年当時は1キロワットあたり100万円超と大変高価なものでした。お寺の屋根に30枚のパネルを載せるのに約590万円が必要でしたが、補助金の活用と設置場所がお寺であったため「太陽かわら寄進」として寄付の募集や「環境価値」を形にした独自の証書を発行して資金を調達しました。

また、3号機の建設時には、NPO法人が出資を募る際の法的な壁を乗り越えるため、「無分配出資」という新しい手法にチャレンジしました。これは、契約書に予め利益の分配は行わないとうたうことで法律上金融商品ではなくなることから、銀行のような金融機関で市民でも出資を募集することができる仕組みで、「市民の助け合い」の形を実現したものです。

続ける秘訣は「ワクワク」と「仲間」

30年もボランティアベースで活動を続けてこられた秘訣について山﨑さんは、自ら資料を作ったり、情報を発信したりすることに「自己実現」としてのやりがいを感じていると話します。また奈良さんは、「都度面白いことをやってきた」、「トラブルが起こったときもアイデアを出す面白くて頼れる仲間が支えとなった」と、一緒にワクワクできる仲間の存在が活動の原動力となってきたと言います。

一人ではなくみんなで作る仕組みへの期待

私たちの多くは未だ大手電力会社が作った電気に依存して生活しています。そんな中、自分たちで使う電気を自分たちで作る、そしてそれを一人ではなく、同じ思いを持つ仲間と一緒に作ることができる発電所の形を学ぶことができました。

視察に参加したボランティアの方々からも、驚きと感動の声が寄せられました。 「環境保護と聞いて多くの人が想像するような反対運動ではなく、市民が中心となって新しい仕組みや選択肢を作ることができるのだと実感した」という声や、「義務感ではなく、楽しみながら取り組む大切さを学んだ」という感想が寄せられました。

山﨑事務局長の話を熱心に聞く参加者(2026年7月16日)©Greenpeace Japan

市民立発電所にはたくさんのメリットがあります。遠くの発電所に頼らず、地域で電気を作り、消費することができるという「電気の地産地消」、大企業に支払う電気代を地域に留め、地域資源を活用し雇用や利益を生み出す「地域資源の循環」、停電時でも自立して電力を確保し、地域を支える「災害時のレジリエンスの向上」など、地域をより豊かにするために、そして災害が多い日本だからこそレジリエンスを高めるために、今後さらに期待が高まります。

「えど・そら3号機」の説明をしている山﨑事務局長。写真右上にあるのが停電時や災害時に非常用として発電した電気を直接取り出すことができるコンセント(2026年7月16日)©Greenpeace Japan

現在、江戸川区では初期費用ゼロで太陽光パネルを設置する「江戸川電力」という新しいビジネスモデルも動き出しています。来年30周年を迎える足温ネットは、さらに活動の幅を広げて多くの人を巻き込み、新しいエネルギーのあり方、可能性を私たちに教えてくれました。「自分たちの使う電気を自分たちで作る」。このシンプルで力強い一歩が、エネルギーの使用を見直すきっかけを与えてくれ、昨今の異常気象を経験し、不安を感じる私たちに希望を与えてくれます。

私たちは視察シリーズを通して、様々な太陽光発電の側面をより多くの人に知ってもらえるようこれからも発信を続けていきます。