夜、ライトアップされている国会議事堂

2月末に閣議決定されたGX関連法案が国会に提出されています。このままでは、原発の再稼働、運転期間の延長、新増設など、これまでとは完全に真逆の原発政策が実行されてしまうかもしれない…だけじゃないんです。
この法案の危険な矛盾点を解説します。

▼この記事を読むとわかること

>後ろ向きな「変革」
>定義も資金も規制も利用もまるっと経産省任せ
>事故を「真摯に反省」するのに再稼働
>絵に描いた「エネルギー供給の自律性」
>4%の温室効果ガス削減策に7兆円
>何のためのGXなのか
> できること

後ろ向きな「変革」

法案には、省エネ効果の高い断熱窓への改修などの住宅の省エネ化、省エネ家電の買い替えなどに補助金を交付するなどの支援や、革新的技術の開発・導入や生産体制の転換など企業の省エネを促し支援することも盛りこまれています。

趣旨にはこう書かれています。

ロシアのウクライナ侵略に起因する国際エネルギー市場の混乱や国内における電力需給ひっ迫等への対応に加え、 グリーン・トランスフォーメーション(GX)が求められる中、脱炭素電源の利用促進を図りつつ、電気の安定供給を確保するための制度整備が必要です。*

GXとは、経済産業省では「2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けた、経済社会システム全体の変革」と定義されています*

高浜原発3号機・4号機
高浜原発3号機・4号機。いずれも1985年運転開始。(2016年)

経済社会システム全体の変革を追求するのなら、毎年数千億円もの国家予算を費やし、数十年続く事故処理の費用、放射性廃棄物の処理費用などを将来の世代に延々と支払わせる原発を、まず真っ先にやめるのが「国家の責務」ではないでしょうか。
「経済社会システム全体の変革」を、危険性と経済的デメリットが明らかになっている原発に頼ろうというのは、「変革」と呼べるのでしょうか。

定義も資金も規制も利用もまるっと経産省任せ

GX推進法案第六条にはこうあります(読みやすくするためにカッコ書きを省略しています。以下同)。

政府は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための計画を定めなければならない。

ここにある「計画」は、経済産業省がつくって閣議決定されます。
GXの実現のためにGX経済移行債という国債が20兆円規模で発行され、GX推進機構という経産相の認可法人で官民あわせて150兆円規模の資金を調達。使い方は経産省がつくった戦略に基づいて決められます。国会は関われません。
つまり、莫大な資金を集めるのも使うのも経産省次第のブラックボックスになってしまうのです。

経済産業省の外観

しかもこの法案には、脱炭素とは何を指すのかという定義がありません*
極端にいえば、脱炭素の名を借りれば何にでも資金が使われてしまう可能性があります。競争の機会さえ失われます。

核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)からは、原発の運転期間は原則40年、1回に限り、原子力規制委員会が認める場合は20年延長できるという規定が削除され、経産省が原発の運転期間を決められるようになっています。
経産省が決めれば原発が60年稼働することも想定されますが、世界には60年稼働した原発の例がありません。運転延長の推進官庁が運転延長の認可をする国もありません。

茨城県東海村、JCO東海事業所
茨城県東海村、JCO東海事業所。1999年に臨界事故を起こした。(1999年)

美浜原発3号機は、運転開始から28年が経過した2004年に、復水配管が破損して約140度の熱湯と蒸気が噴出、5名が亡くなり6名が重症を負うという事故を起こしています*
今年1月30日には、運転開始から38年が経過した高浜原発4号機が、制御棒の落下によって停止するという重大な事故がありました*。原因は、制御棒を電磁力で保持するコイルのハンダ付け部分が剥離し接触不良を起こしたことにあると推測されています*
長く使えばケーブルも配管もどんな部材も劣化するのは当然です。それでも、点検で異常が見つけられないまま大事故になってしまうリスクがあるのが、老朽原発です。

なのに、お金を集めるのもつぎ込むのも経産省、原発を使うことを決めるのも経産省、運転期間を延長するのも経産省。これでいいんでしょうか。

事故を「真摯に反省」するのに再稼働

福島県、請戸漁港から臨む東京電力福島第一原発
福島県、請戸漁港から東京電力福島第一原発を臨む。(2023年1月)
©︎ Ryohei Kataoka / Greenpeace

GX脱炭素電源法案は「束ね法案」と呼ばれ、電気事業法、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)、原子力基本法、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)の改正が「束ね」られています*

原子力基本法の改正案、第二条3項。

エネルギーとしての原子力利用は、国及び原子力事業者が安全神話に陥り、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を防止することができなかつたことを真摯に反省した上で、原子力事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立つて、これを行うものとする。(国の責務)

「事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力」をするならば、原発を廃止するのがいちばんです。
事故発生を「真摯に反省」するのであれば、事故の教訓によってこれまで進められてきた、原発依存脱却の方針をたった3ヶ月で覆していいはずがありません(*2022年8月24日の岸田総理の「原発活用」の指示があって、GX実行会議の取りまとめが行われたのは同年12月8日*)。

事故後に行われたように、全国の市民参加の上で十分な議論をつくし、原発が運転中に二酸化炭素を排出しないというその一点だけで、「原発が必要」とすることが果たして正しいのかどうか、誰もが納得するだけの議論が必要不可欠です。

絵に描いた「エネルギー供給の自律性」

フランスから高浜原発に運ばれたMOX燃料
フランスから高浜原発に運ばれたMOX燃料(再処理済みの燃料)(1999年)

続きまして第二条の二。

国は 、エネルギ ーとしての原子力利用に当たつては、原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用することによる電気の安定供給の確保、我が国における脱炭素社会の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源の利用の促進及びエネルギーの供給に係る自律性の向上に資することができるよう、必要な措置を講ずる責務を有する。

化石燃料とは、動植物が地中で長い年月をかけて変成した石油・石炭・ガスなどを指しますが*、原発の燃料の原材料・ウランも、限りある地下資源です。
日本は現在、この供給をすべて輸入に頼っているので、原発が「エネルギーの供給に係る自律性の向上に資する」わけではありません。需給が国際情勢の影響を受けることはもちろん、輸送中のトラブルの可能性も無視できません。

こうした条文は使用済み核燃料が再処理できるという前提で書かれているのかもしれませんが、日本は国内で核燃料の再処理を現実に運用できる状態にありません*
このため、日本で出た使用済み燃料を海外に運び、加工してもらった上で戻すという過程が必須ですが、イギリスの工場はすでに閉鎖され、フランスの工場でも製造に遅れが出ています*

青森県、六ヶ所再処理工場
青森県、六ヶ所再処理工場(2002年)

青森県六ヶ所村で建設中の再処理工場は、1993年に建設が始まってから四半世紀も完成が遅れています*今年3月23日には、来年操業開始の予定が再来年に延長されることが発表されました*
今回で延期は通算27回目。これ以上延期されずに、予定通り完成する保証はありません。
総事業費は14兆4,300億円にものぼります*

そして、点検や災害、トラブル、裁判などで頻繁に停止する原発では「電気の安定供給の確保」は不可能なのです。
原発が停止している間は、火力発電所を動かして不足分をカバーしなくてはなりません。火力発電所からは温室効果ガスが排出されます。すなわち、原発を使う限り火力発電所が必要で、温室効果ガスの排出はゼロにはなり得ないのです。

4%の温室効果ガス削減策に7兆円

アンモニア燃料の製造方法を示したイラスト図
アンモニア燃料の製造方法。製造段階で温室効果ガスが発生する。
資源エネルギー庁ウェブサイトより。

原発には年間数千億円の国家予算が投じられていることはすでに述べました。1990年代以降は平均およそ4,000億〜5,000億円かかっています。
火力発電を温存するためのアンモニア燃料には7兆円が投入されようとしています。2030年までに既存の石炭火力発電所で燃料アンモニアを20%混焼することになっていますが、試算では、二酸化炭素排出量は4%程度の削減にしかなりません。
一方で、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金は200億円*。地域脱炭素の推進のための交付金は350億円*。住宅の断熱性能向上のための先進的設備導入促進事業等が1,000億円*

現行の発電所や技術をそのまま使えるのは確かに利点かもしれませんが、国内の既存の火力発電所のうち3割は稼働から40年以上が経過しています*
いずれ廃止しなくてはならない設備を維持するために大量の投資をするなら、初めから、もっと温室効果ガスを大きく削減できる再生可能エネルギーに多くの資金を投入した方が、より効率的に、安全に脱炭素を達成することができます。

何のためのGXなのか

「原発GX関連法案の廃案を求める集会」でスピーチする若者代表
「原発GX関連法案の廃案を求める集会」でスピーチする若者代表。「いまつくられた未来を生きていくのは私たちです」(2023年3月)

そもそも、私たちはなぜいま、脱炭素社会をめざしているのでしょうか。
これ以上の気候危機を回避し、誰もが安全に暮らしていくためではないでしょうか。子どもたちやそれより後の世代に、過酷な気候危機に苦しむことのない社会を残すためではないでしょうか。

それなら、結果的に温室効果ガス排出につながる火力発電や原発にしがみつくのではなく、できるだけその場にある資源(水、風、太陽光、地熱など)を使って、地域のエネルギーをまかなうシステムになるべく早く移行する方が、ずっと現実的ではないでしょうか。

グリーンピースはこれからも、気候危機をくいとめ、あらゆる命が尊重される社会の実現をめざして、国際社会、政府、企業へはたらきかけを続けていきます。

できること

選挙にまつわるイラスト

地元の議員にGX関連法案の公聴会を開くよう、電話やメールやSNSを使ってはたらきかけてみましょう。
おりしも今月には統一地方選挙が行われます。
選挙運動中の候補者や、応援に来る国会議員に、ほんとうに持続可能なエネルギー改革と真の気候変動対策の重要性を訴えかけるチャンスです。
コミュニケーションできたら、TwitterやFacebookやInstagramなどで拡散してみてください。
テレビや動画配信サイトで国会中継をみて、審議の様子も拡散しましょう。
みんなで、一刻も早く温室効果ガス排出ゼロ社会を、実現しましょう。

【署名】原発のない世界を
日本から実現したい

続けて読む

▶︎#選挙でとめる気候危機 アクションガイド ~私たちにできること~

▶︎12年積み上げてきたものを3カ月で覆す─政府が決めたグリーントランスフォーメーションの問題点

▶︎原発の電気を使うということ