船から見れる小笠原諸島の背景 © Greenpeace
船から見れる小笠原諸島の背景 © Greenpeace

日本の世界自然遺産の一つ:小笠原諸島

日本は数多くの島々からなる島国であり、世界自然遺産の一つに小笠原諸島が登録されています。本州からおよそ1,000キロ南に位置する小笠原諸島は、大小約30の島々からなり、あわせて2,400人くらいが母島と父島で生活しています。トレッキングやクジラ・イルカウォッチング、「ボニンブルー」と呼ばれる澄み切った深い青色の海でダイビングなど豊かな自然を目当てに多くの観光客が訪れる島としても知られています。さらに、島に自生する植物のおよそ半数が固有種であるほか、熱帯と亜熱帯の魚を含む多様で希少な魚が生息しています。地理的に孤立した場所にあることで独自の生態系を進化させている小笠原は、美しい自然の姿を保ち続けています。

だからこそ、母島と父島の住民たちは、観光と保護を両立する「エコツーリズム*」を大切にしながら海と島々の環境を守り、小笠原諸島の自然を次の世代へつないでいます。

*エコツーリズムとは、自然環境や文化などに触れながら学ぶとともに、地域の生態系や文化のあり方の保全に努める観光のありかた。

今回、グリーンピース・ジャパンと台湾事務所のスタッフは、小笠原に暮らす人々の声や地域コミュニティが実施する環境保護の取り組みを詳しく取材するため、現地を訪問しました。

なぜ小笠原諸島へ?

豊かな海と、多くの固有種を育む自然環境がある小笠原は、空港がないためフェリーで約24時間かけなければ訪れることができません。そこで、私たちは、これらの島々の自然の姿や島に住む方々の自然との関わり方を学び、発信することで、より多くの方に小笠原の取り組みを知ってもらい、さらなる自然保護活動に活かしたいと考えました。今回のキャンペーン活動では、住民たちがどのような視点や実践を通して島の環境を守っているのかを理解するため、現地の人々に話を聞きました。

小笠原での活動内容

7日間の滞在中、3日間かけて海での撮影ダイビングを行い、小笠原の海洋生物を記録しました。また、島に暮らす住民10人と、ダイビングのために訪れていた観光客の2人にお話を伺いました。最後には、地元の子どもたちとともに、アーティストの村山大明さんが手掛けた海洋保護をテーマにした作品の塗り絵イベントも行いました。

グリーンピース・東アジア台湾事務所の聰榮。 © Greenpeace
グリーンピース・東アジア台湾事務所の聰榮 © Greenpeace

ダイバーが見た小笠原の海

海中での撮影ダイビングを担当したグリーンピース・東アジア台湾事務所の聰榮(ツォンロン)は、10年の経験があるダイバーですが、小笠原の海は台湾の海とは大きく違ったと語りました。特に、印象的だったのは、健康なサンゴ礁とその周りを泳ぐ豊かな魚の群れです。これは台湾の海では滅多に見られない光景です。また台湾では深く潜らなければ見られない景色も小笠原では浅瀬のシュノーケリングでも目にすることができたことに驚いたといいます。

ダイバーが撮影した小笠原の健康なサンゴ礁と魚群の背景 (左)(右) © Yves Chiu / Greenpeace
ダイバーが撮影した小笠原の健康なサンゴ礁と魚群の背景 (左)(右) © Yves Chiu / Greenpeace

娘さんに海の美しさを見せるために小笠原にダイビングにやってきた親子にもお話を伺いました。30年以上沖縄でダイビングを続けてきたお母さんは、サンゴ礁や魚の数や多様性が大きく減少していく様子を目の当たりにしてきました。30年前に沖縄で見られた光景は今では見ることができなくなってしまいました。しかし、かつての沖縄のような色鮮やかな海の環境が小笠原には残っていると言います。このような健康なサンゴ礁や豊かな生態系を将来世代に残していくためにも、持続的な保護のあり方や人々の環境意識を学ぶことが必要ではないでしょうか。

小笠原の海でダイビングを楽しむために訪れた母娘 © Yves Chiu /Greenpeace
小笠原の海で撮影された生物たち © Yves Chiu /Greenpeace
小笠原の海で撮影された生物たち© Yves Chiu /Greenpeace

小笠原市民の行動と声

小笠原の住民の方々に海洋保護に対する考えや取り組みについて聞くために、さまざまな立場の方にお話を伺いました。インタビューを通じて、一人ひとりが持つ環境保護への責任感や行動への強い意志を感じることができました。また、自然を尊重し、共に生きていくための具体的な取り組みについても、詳しく聞かせていただきました。

小笠原村議会運営委員会委員長を務める宮城ジャイアンさん。小笠原でのこれまでの歩みや、地域での取り組みについて語っていただきました。© Greenpeace
小笠原村議会運営委員会委員長を務める宮城ジャイアンさん。小笠原でのこれまでの歩みや、地域での取り組みについて語っていただきました。© Greenpeace

小笠原諸島に20年以上暮らし、小笠原村議会運営委員会委員長を務める宮城ジャイアンさんは、特に、ゴミ回収活動に力を注ぐようになったきっかけを話してくれました。それは無人地域である母島東側の海で、海に残された漁業用の定置網のロープに絡まって数日間動けずにいる若いクジラを救出した体験でした。

その体験から、たった一体のロープがこれほど大きな生き物の自由を奪ってしまうことに、ジャイアンさんは大きな衝撃を受けたといいます。同年に釣り糸に絡まったオオセグロカモメにも遭遇しましたが、こちらは糸を取り除いた後も命を救うことができませんでした。ジャイアンさんは、この2つの経験を通して、私たち人間にとってはちょっとしたゴミであっても、簡単に動物たちの命を奪ってしまうことを実感したといいます。それ以来、海岸清掃を行うようになり、議会の一員となった今も清掃活動を続けながら、住民たちへの啓蒙活動も行っています。

小笠原で6年暮らしているサトナさん。© Greenpeace
小笠原で6年暮らしているサトナさん。© Greenpeace

小笠原に移り住んで6年になるサトナさんは、「小笠原に暮らすようになってから、人と自然とのかけがえない関係に気付かされた」と話します。特に、人間が地球に与える負の影響を減らす必要性を強く感じるようになったそうです。そのために自分にできることはたくさんあると考え、まず一人ひとりの力を持ち寄れる、豊かなコミュニティづくりから始めたいと話していました。現在は、ペットボトルのゴミを減らすためにマイボトルの活用を促し、地域に給水器の設置を増やす取り組みに力を入れています。

小笠原で子育てをするお母さんや島の大自然の中でのびのびと遊ぶ子どもたちとも交流し、子どもたちに塗り絵をしてもらいました。塗り絵にしたのは、海洋保護区の設置を可能にする国連公海等生物多様性協定(以下、BBNJ協定)の正式発効を記念して、今年の1月にグリーンピース・ジャパンがドローイングアーティストの村山大明さんに描いていただいた海をテーマにしたアート作品です。子どもたちが楽しそうに色を塗り、思い思いに海の生物や情景を描き足していく姿はとても活き活きとしていて、こうした形で地域の方と海をテーマにお話しながら思い出を作れたことは素晴らしい経験でした。

塗り絵体験に参加した子供たちとお母さんたち。作品はドローイングアーティスト村山大明氏の「調和する惑星-Ocean-」
塗り絵体験に参加した子供たちとお母さんたち。作品はドローイングアーティスト村山大明氏の「調和する惑星-Ocean-」

小笠原が直面している環境課題

ダイバーと島に住む人々が語る美しい自然の姿を保ち続けている小笠原諸島においても、深刻な環境課題が進行しています。特に、外来種が生態系に与える大きな影響が主要な問題となっています。繁殖力の強い外来植物が広がることで小笠原の固有植物の生息地が奪われ減少したり、小笠原を象徴するカタマイマイ属などの陸産貝類もネズミやツヤオオズアリといった外来生物による捕食や生息環境の変化によって絶滅のおそれがあると見られています。

こうした課題に対し、環境省を中心に管理および保全の体制の構築が進んでいます。世界自然遺産登録後の環境変化や新たな課題に対応するため、管理計画の改訂や保全拠点となる「小笠原世界遺産センター」の活用など、体制の強化が図られてきました。

現場では、生態系への圧迫を減らすため、計画的な外来生物の防除作業を行い、またすでに野外での生息が危ぶまれている陸産貝類などの希少種については、安全な施設に保護して飼育と繁殖を行い、絶滅をくい止めるなど、多面的な対策が展開されています。

小笠原の美しい自然を次の世代へ引き継ぐためには、今後も息の長い継続的な努力が欠かせません。遠く離れた奇跡の島で繰り広げられているこの保全の取り組みに、私たちも関心を持ち続けていくことが大切です。

なぜ海洋保護は大事なのか

現地で住民の方々からお聞きした話を振り返ると、環境保護とは、一人ひとりが環境に向ける意識や行動、自治体や政府の取り組み、NGOや市民社会の働きかけ、そして国際社会の環境保全に関する枠組みなど、多くの要因が組み合わさって成果を生み出すものだと改めて感じます。小笠原と、そこに暮らす人々の姿は、その1つの成功例といえるでしょう。

一方で、ダイビングに訪れた親子が実体験として語ってくれたように、沖縄をはじめとする多くの海域では、さまざまな要因から海の健康状態が深刻な速さで悪化しています。これは沖縄に限った話ではなく、日本、そして世界中の海が抱える問題です。

日本近海の水温上昇は、世界平均を上回るペースで進んでいます。その結果、2022年に石垣島と西表島の間に広がる日本最大のサンゴ礁域である石西礁湖では記録的な白化現象が確認され、サンゴの63%が白化、14%が白化を原因として死滅しました。サンゴ礁は、多くの生き物のすみかや隠れ場所であると同時に、水質の浄化や高波から陸地を守る防波堤の役割、そして酸素の供給源としても機能しており、海と私たちの生活にとって欠かせない存在です。

日本の沖縄県辺野古湾におけるサンゴ白化。 © Maarten Van Rouveroy / Greenpeace
日本の沖縄県辺野古湾におけるサンゴ白化 © Maarten Van Rouveroy / Greenpeace

また、ジャイアンさんが語ってくれたように、私たちが出したゴミが生物の命を奪う事例は、実は目に見えるゴミに限った話ではありません。JAMSTEC(海洋研究開発機構)の調査によると、日本近海には年間およそ2万8千トンものマイクロプラスチックが流れ込んでいます。多くの場合マイクロプラスチックには有害な化学物質が含まれているため、この目に見えない汚染は海の生き物たちの正常な生理機能を妨げ、魚に取り込まれることでその健康を損ない、海の循環そのものを乱していきます。そして、日本で水揚げされたカタクチイワシの80%からプラスチック粒子が検出されたという調査結果から、私たちが口にする魚介類にも影響が及んでいることが分かっています。私たちの日々の行いが、自然や生き物を傷つけ、やがて私たち自身へと返ってくるのです。

世界の海の約3分の2は、どこの国のものでもない「公海」です。

小笠原諸島は日本の排他的経済水域(以下、EEZ)の南端に位置し、公海に極めて近いという地理的特徴を持っています。公海と聞くと、自分たちの暮らしから遠く感じる人も多いかもしれません。しかし、小笠原の島民たちからは、「自分たちのものかどうか」で保護範囲を線引きすることはないという意見も寄せられました。どこの国のものでもない「公海」は、誰か一人のものではなく、みんなで守っていくものなのだと、改めて気づかされる言葉でした。

こうした思いを実現可能なものにするため、今年発効されたBBNJ協定は、どの国の管轄にも属さない公海や、深海底における海洋生物多様性の保全と持続可能な利用を目的として、海洋保護区の設置や環境影響評価の義務化などを定めています。海洋汚染に国境はありません。プラスチック汚染や水温上昇、化学物質による海洋汚染といった問題は、EEZとは無関係に広がっています。空が誰のものでもない開かれた空間であるように、海も生き物たちが自由に行き来する開かれた場所です。

モーリシャスの海洋をテーマにした壁画:私たちの海を守るための視覚的呼びかけ。© Caleb Mbuvi / Greenpeace
モーリシャスの海洋をテーマにした壁画:私たちの海を守るための視覚的呼びかけ © Caleb Mbuvi / Greenpeace

このように、気候変動や人間活動にともなう脅威への懸念が高まる中、公海の生態系を守るための極めて有効な手段として、BBNJ協定に基づく海洋保護区(MPA)の設置は重要な役割を果たします。

「30×30」とは、2030年までに世界中の陸域および海域の少なくとも30%を保全・保護することを目指す国際的な取り組みです。国連生物多様性条約COP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み(GBF)」における中核的な目標の一つです。

海洋保護区(MPA)の指定は、生息地と生物種を保護し、海洋生物の多様性を再構築し、海洋生態系の回復を助け、健全な生態系サービスを将来へ継承するために不可欠です。だからこそ、「30×30」の実現に近づき、海がダメージから回復できるようにするためにも、公海に海洋保護区の設置を広げていくことが重要です。

グリーンピースは20年以上にわたり、オーシャンキャンペーンを通じて国際的な枠組みの実現に取り組んできました。その重要な成果の一つが、今年発効されたBBNJ協定です。私たちはこれからもオーシャンキャンペーンを通して世界中に認識を高めながら海洋保護区の拡大を目指します。「BBNJ協定」の締約国として、日本における「30×30」の実現に向けた政策化を進めるよう働きかけ続けていきます。

グリーンピースは政府や企業からの資金を受け取れず、個人の方からのみ寄付を集めています。こうした一人一人のご寄付のおかげで、海を守る活動を続けています。私たちはこれからも、実質的な海洋保護区の設置に向けて働きかけ、小笠原のような豊かな海域を増やしていけるよう、取り組みを続けますので、グリーンピースと一緒に海を守っていきませんか?