アルメニアで開催されるCOP17にあわせ、ガルニの空に飛ばされた「遅れは破壊だ」と書かれたグリーンピースの気球

環境活動家への無罪判決、超富裕層が抱える気候負債の実態、洪水の中の訴えられた富裕税など、10月の環境ニュースをお伝えします。

ライターについて

山根 那津子

ライター 報道系月刊誌の編集者を経て独立。小学館、楽天、国際NGOなどの媒体でフリーランスライターとして活動後、現在は環境、エネルギー、人権を専門領域として執筆。グリーンピース・ジャパンでは、再生可能エネルギー政策、気候変動の社会的影響などの記事執筆を担当。

10月21日、東京都心の最高気温が30度を超え、1875年の統計開始以来もっとも遅い真夏日が観測されました。真夏日の記録は名古屋や大阪、京都でも塗り替えられています。著しい気候の変化が季節の感覚を揺るがせています。不公正な権力勾配とそれに立ち向かう人々の動きが多くあった10月の環境ニュースをお伝えします。

スペイン:活動家全員に無罪判決

スペインの裁判所が化石燃料ガスの輸送に抗議したグリーンピースの活動家全員に無罪判決を言い渡しました。

2021年10月にバレンシア州のサグント港で、アメリカからのLNG(液化天然ガス)タンカーを12時間足止めしたことで、抗議行動に参加した11人が検察から懲役5年を求刑されていた裁判への判決です。

バレンシアの裁判所に入廷する活動家たち
バレンシアの裁判所に入廷する活動家たち(2026年9月23日)

抗議行動は、再生可能エネルギー(以下、再エネ)への移行と、輸入ガス依存の危うさを訴えるもので、非暴力が徹底され、けが人などは一切出ていません。平和的な環境抗議行動に対して重すぎる求刑には、国連の特別報告者たちの注目も集まっていました。

2026年10月6日に下された判決では、「公共の秩序を乱した」とする訴因が退けられ、活動家は11人全員が無罪に。活動家を弁護してきたホセ・マヌエル・マラコ弁護士は、「人々が地球を守るために身を挺するとき、それは犯罪ではなく気高い行いだ」と語っています。

アフリカ:石油メジャーは掘らずに支払え

10月13日に南アフリカのケープタウンで開催された化石燃料業界の国際会議「アフリカ・エネルギー・ウィーク」の会場前に、「Pay Baby Pay(ちゃんと払え)」と書かれた巨大なワインボトルが現れました。グリーンピース・アフリカによる抗議です。

石油やガス企業と関係者が化石燃料への投資促進について議論する「アフリカ・エネルギー・ウィーク」の会場に、「ちゃんと払え」とラベルされた巨大なボトルを持ち込み、抗議するグリーンピースの活動家たち
石油やガス企業と関係者が化石燃料への投資促進について議論する「アフリカ・エネルギー・ウィーク」の会場に、「ちゃんと払え」とラベルされた巨大なボトルを持ち込み、抗議するグリーンピースの活動家たち。南アフリカ、ケープタウン(2026年10月13日)

「ちゃんと払え」のスローガンは、会議の主催団体が今年発売したワインの名前「Drill Baby Drill(掘りまくれ)」を揶揄するもの。トランプ米大統領が2025年の就任演説で掲げ、化石燃料増産の象徴となったフレーズです。

主催団体は、業界の投資家やリーダーを称えるためのワインだと説明していますが、ブドウづくりほど安定した気候を必要とする産業はありません。

グリーンピース・アフリカは、化石燃料企業に気候危機への責任を認め、被害の補償と地域の復興に資金を出すこと、アフリカ各国の政府に正しく損害が賠償されるよう法整備を求めています。

EU:超富裕層の気候負債は年3,000億ユーロ

グリーンピースは、10月15日、EUの最富裕層1パーセントが保有する企業や資産から生じる「気候負債」が、1年間で推定3,010億ユーロ(約53兆円)にのぼることを指摘する報告書を発表しました。

世界経済フォーラム(WEF)の参加者が利用するスイス、エンガディン空港で行われた抗議活動
世界経済フォーラム(WEF)の参加者が利用するスイス、エンガディン空港で行われた抗議活動。「贅沢による排出ガスが私たちの地球を破壊している!」と書かれたバナーを掲げるグリーンピースの活動家(2025年1月22日)

気候負債とは、公平な分担を超えて排出された温室効果ガスが引き起こす気候被害を金額に換算したもの。報告書では、これまで国ごとの責任を測るのに使われてきた手法を、ヨーロッパで初めて個人に当てはめました(EU24カ国、2022年のデータ)。

最富裕層1パーセントの一人あたりの気候負債は、上位10パーセントと比べても4倍から8倍以上にのぼります。プライベートジェットやぜいたくな暮らしだけではなく、超富裕層が所有する企業や投資の先にさらなる排出源が隠れていました。

グリーンピースは、気候被害の原因をつくった者が費用を負担する公正な税制を求め、第一歩として、富裕税や化石燃料企業の利益への恒久的な課税などを提案しています。

タイ:洪水の中の訴え「超富裕層に課税を」

バンコクでも、超富裕層への課税を求めるアクションがありました。10月12日から18日にかけてバンコクで開催された国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会に合わせ、グリーンピース・タイの活動家たちが「超富裕層に課税を(Tax The Super Rich)」と書かれたプラカードを掲げてデモに参加し、利益より人と地球を優先するよう訴えました。

「世界銀行・IMFに反対する人民ネットワーク」に所属する700人以上によるIMF・世界銀行年次総会に対する抗議デモ
「世界銀行・IMFに反対する人民ネットワーク」に所属する700人以上によるIMF・世界銀行年次総会に対する抗議デモ。タイ、バンコク(2026年10月15日)

総会が始まったとき、タイの広範囲は洪水に見舞われていました。壊れた家、失われた収入、復興に必要な多額の出費が普通の人々の暮らしに重くのしかかっています。グリーンピース・タイは、これこそが人々の暮らしのなかにあらわれる「気候負債」の姿だと指摘しています。

グリーンピースはIMFに対し、超富裕層と大汚染企業の利益への課税を支持するよう求めています。あわせて各国政府には、国連で交渉が進む「国連租税条約」を通じて公正な国際課税のルールをつくり、汚染者に気候被害の費用を払わせるよう呼びかけています。

国際:生物多様性COP17と守られなかった森

アルメニアの首都エレバンで、国連生物多様性条約の第17回締約国会議(COP17)が開催されました。会議を前に、グリーンピースは「遅れは破壊だ(Delay is Destruction)」と書いた熱気球を飛ばしました。

アルメニアで開催されたCOP17にあわせ、ガルニの空に飛ばされた「遅れは破壊だ」と書かれたグリーンピースの気球
アルメニアで開催されたCOP17にあわせ、ガルニの空に飛ばされた「遅れは破壊だ」と書かれたグリーンピースの気球(2026年10月18日)

2022年、各国は2030年までに陸と海の少なくとも30パーセントを保護するという目標に合意しました。しかし折り返し地点に来たいま、目標の達成は大きく遅れ、その間にも破壊は進んでいます。

ルーマニアでは、厳格な保護区に指定される予定だった貴重な森が、法的な保護が整う前にすべて伐採されました。グリーンピースはこうしたヨーロッパの貴重な森の木材が、世界最大の家具店IKEAの商品に使われていることを突き止めました。

一方、自然保護活動によって破壊を食い止めている場所もあります。フィンランド北部の湿原ヴィーアンキアーパでは、EUとフィンランドの法律で二重に保護されているにもかかわらず鉱山開発が計画され、数千人が抗議の声を上げました。その結果、10月16日には、環境省と欧州委員会が鉱山の許可申請の内容を「不十分」であるとし、追加説明が求められています。

権力は暴走するものだから

今月のニュースはどれも権力の非対称性を示すものでした。気候変動にもっとも寄与してこなかった人たちが、もっとも高い代償を払わされる裏で、裕福な権力者が利益を上げ続ける。この状況はずっと続く仕方のないものではありません。

10月25日、ブラジル大統領選挙の決選投票で、現職のルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ氏が極右候補のフラビオ・ボルソナロ氏を僅差で破り、再選を決めました。ルラ氏は2023年の就任以来、前政権下で進んだアマゾンの森林破壊を観測史上最少の水準まで減らしてきました。

グリーンピース・ブラジルは、この結果を「民主主義の勝利であり、アマゾンを守るという約束を維持するもの」と歓迎し、これからの4年間、環境の後退を防ぐには市民の行動が欠かせないと訴えています。

IMFと世界銀行の年次総会に抗議するデモでマイクを手に訴えるグリーンピースの活動家
IMFと世界銀行の年次総会に抗議するデモでマイクを手に訴えるグリーンピースの活動家(2026年10月15日)

ルラ氏はかつてこのように語りました。「権力者は、1本、2本、100本のバラを刈ることはできても、春の訪れを止めることはできない」。

一人で国や企業を変えることはできません。それでも、不公正に目をつぶらず、協力して自然や暮らしを守る選択を求めて、一人ひとりが自分にできることを行動に移すとき、社会は変わります。