いまそこにある原発のリアルなリスク
日本政府は、気候変動対策として「原発を最大限活用」する方針を明らかにしています。
確かに原発は発電時に温室効果ガスをほとんど放出しません。だから気候変動をくいとめるためには原発に頼るしかない…?
ちょっと待ってください。そんなことありません。
2月25日に開催したグリーンピース・ウェビナー「原発のはなし」でうかがった、国の審議委員でもある松久保肇さんのお話の要点をご紹介します。
▼この記事を読むとわかること > 原発の具体的な危険性 > 行き場のない放射性廃棄物 > 供給ひっ迫の役に立たない原発 > 気候変動対策を遅らせる原発 > お金がかかる原発 > 二酸化炭素を出さなくても気候変動を助長する原発 |
原発の具体的な危険性
原発には事故の危険性があります。東京電力福島第一原発事故では、メルトダウン(炉心溶融)が起きて水素爆発が起こりました。
たとえば、原発で使用した使用済み燃料は非常に熱を持っていますので、使用済み燃料プールで冷やしておかなくてはなりません。停電などで冷やせなくなってしまうと、プールの水温がどんどん上がって水が蒸発して使用済み燃料が露出して溶けてしまって、火災になることもあり得ます。すると施設から放射性物質が漏れ出して環境を汚染します。
昨年始まったロシアのウクライナ侵攻では、チョルノービリ (チェルノブイリ)原発が占拠されました。ヨーロッパ最大のザポリージャ原発はいまもロシア軍に占拠されています。
何が問題かというと、原発は外部電源といって外から電気をとってるんです。送電線が切れたりして停電したら、非常用ディーゼルを使って発電し、その電気で原発を冷やすわけです。
このディーゼル燃料が切れると非常用電源も止まってしまう。(占拠されている原発に外部から)燃料を運びこむのはなかなか大変な話になってきます。
ミサイルがぶつかって原子炉建屋を破壊したり、内側にある格納容器が破壊されることも当然あり得ます。
確率論的リスク評価という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。確率論的リスク評価とは、原子力施設などで発生するあらゆる事故の発生頻度と発生時の影響を定量評価して、その積となる「リスク」がどれほど小さいかで安全性の度合いを表現する方法です。
しかし、それとは別に、いま存在する原発の安全目標というものがあります。
原発1基が1年運転することを1炉年といいます。IAEAの安全基準では、放射性物質が原発の外に出る事故は10万炉年に1度とされています。世界にはだいたい400基の原発がありますから、230年に1度事故が起きる確率です。
ところが実際にはスリーマイル島の2号機、チョルノービリの4号機、福島第一の3基の事故が起きていて、つまり2857炉年に1度発生したことになるわけです。国内に換算すれば10年に1度事故が発生する確率という話になってしまう。
確率論的リスク評価でちゃんとシナリオ分析をして、事故が起きないようにいろんなことをしてるわけですけれども、現実として(安全基準を大幅に超えて)事故が起きてしまっている。
先ほど申し上げた原発への攻撃ですが、ロシアがもしザポリージャ原発を攻撃したら、風向きによってはロシア側が汚染されることになります。
日本の場合は島国で偏西風が吹いています。日本の原発が攻撃されても(放射性物質は)太平洋側に流れていくので、原発を攻撃する心理的障壁が低いということになるわけです。
いま、国防費の大幅増加とかそういった話をしてますけれど、戦争が起こりうる前提で原発を活用していくということがどういうことなのか、考えなきゃいけないときが来てるんじゃないかと思います。
行き場のない放射性廃棄物
原発は運転中のCO2排出量が非常に低いことは事実ですけれども、人体や環境に大きな影響を与えます。
なので、CO2を排出しないというだけで原発を選択することは間違いだと思います。
使用済み燃料の中に入っているウランとプルトニウムを分離して、取り出したプルトニウムをまた原発で使って、残った高レベル放射性廃棄物を処分することになっています。
放射性廃棄物はガラスで固めたものを地中深く埋めることになっているわけですけれども、製造直後のこのガラス固化体から出る放射線量は毎時1500シーベルトです。人間が傍にいると20秒で死んじゃうんです。それをステンレス製の容器に入れて、300メートルより深く埋めて、環境から隔離しなきゃいけない。
日本はユーラシアプレートと北米プレート、太平洋プレート、フィリピンプレートの4つのプレートが合流するところです。そこで、数万年単位で管理しなきゃいけないんです。
数万年後、人間がどうなっているのか、世界がどうなっているのかなんて、誰にもわからない話だと思うんです。
供給ひっ迫の役に立たない原発
2011年に福島第一原発事故に伴う原発の停止によって計画停電がありましたし、その後も節電要請が続きました。
2018年には北海道の胆振(いぶり)東部地震がありました。全道停電という状況になって、長期間電力不足が続いて節電要請も行われました。
こういった形で、大規模電源が停止することによって電力危機が起きた、ということは枚挙に暇がないんです。原発は1基当たり100万キロワットぐらいある。その原発が、地震とか事故でいきなり停止するということは想定できない話じゃない。そのときどうするのか。
火力発電所がどんどん老朽化して、電力需給が逼迫すると電源が足りなくなって、原発再稼働だという話をしてるわけですけれど、かつてはその火力発電所で(電力不足を)カバーできていた。これから先は原発に頼っていくことになると、「大きな地震が来ました、原発止まりました」というときにどうするかという話になるわけです。
なので、大規模電源に依存すること自体がリスクだと考えなきゃいけないと思います。
気候変動対策を遅らせる原発
原発は運転中のCO2排出量はゼロに近いんですけれども、原発自体が気候変動対策を遅らせる原因になってしまうという問題があります。
原発は太陽光や風力より建設期間が長いんです。火力発電所の置き換えとして原発を建てる選択肢と、太陽光と風力を建てる選択肢があるとします。風力であれば40ヶ月後には既存の電源に替わって発電できるわけですけれども、原子力は発電できるようになるまでに90ヶ月かかります。つまりその50ヶ月間はCO2が排出され続けます。
また、近年、原発の建設期間が非常に長くなってきています。なぜかというと、新しい原発になればなるほど巨大化して、安全性を高めるためにシステムが複雑化していく。そうすると工事が難しく、コストが高く、手続きが長くなるわけです。
日本政府は2030年代半ばに原発を建てようと計画を立てています。これでは(CO2の)累積排出を減らすという観点で非常に遅い。原発でCO2排出を削減するのであれば、もっと早いタイミングでどんどん建てていくことも考えなきゃいけないはずですけれども、そうならない。なぜなら原発が高すぎるからです。原発が危なすぎるからということでもあります。またCO2の削減ポテンシャルも、自然エネルギーに比べて大変小さい(下図)。
運転開始までに長期間を要する原発に、このような時間や費用をかける余裕はないと思います。
お金がかかる原発
日本政府がこれまで原発にどれぐらいお金を投じてきたかというと、原発の場合、最近だと年間平均4000億〜5000億円ぐらいが相場になっています。
原発は運転しようがしまいが維持コストっていうのがかかるんです。これを電力会社の有価証券報告書から算出してみますと、だいたい年間1.7兆円ぐらいの費用を原子力に投資しています。2011年からの10年の累積で28.5兆円。福島第一原発事故の対処費用とか、原発の安全対策費とか、ここに含まれていない費用もあります。
原発は稼動していなくても、燃料済みの核燃料を冷やし続ける必要があり、運転停止中に各施設のメンテナンス検査も実施しており、他の電力より高い技術と被ばく防護措置が要求されます。この間に使用した防護用具類も放射性廃棄物になり、放射線漏洩防止措置を要する施設で保管しています。これらにかかるエネルギーやリソースがコストになります。
過去に行った設備投資を按分して計上している減価償却費は、場合によっては年間で数100億円レベルになります。
いま、電気代が高くなってますけれども、福島第一原発事故以降、原発のための費用(賠償負担金および、廃炉円滑化負担金)を私たちが払ってきたんですね。なのでむしろ原発分、電気代が高くなってきたといえるわけです。原発を動かせば短期的に見れば燃料代分は安くなるかもしれませんが、それは非常に短期的な話だと思います。
二酸化炭素を出さなくても気候変動を助長する原発
ここでご紹介したのは松久保さんのお話のごく一部分ですが、それでも、原発があらゆる側面でどれだけ危険なエネルギーか、十分すぎるほどわかります。
次の世代にそのリスクを残さないためにも、原発に頼らないエネルギー社会をめざすのが、私たちの役割ではないでしょうか。