福島第一原発から直線距離で約15km地点の山の上から撮影。左に6、5号機、中央から右に1、2、 3、4号機。 原発敷地内にはおびただしい数の汚染水タンクが並ぶ(2023年1月26日、福島県川内村)©️ Ryohei Kataoka / Greenpeace

日本政府は、東京電力福島第一原発敷地内に貯留されている「処理水」を今年春〜夏ごろから海に放出するとしています。
でもメディアやSNSでは賛否含めてさまざまな意見が飛び交っていて、ホントのところどうなのか、いけないことなのか、仕方ないことなのか、よくわからないしなんだか難しそう…。
グリーンピースがスパッと解説します。

▼この記事を読むとわかること

> 汚染水はどこからくる?
> 「トリチウム水」とか「処理水」とか「汚染水」とか…結局どれが正解なの?
> なぜ海洋放出しようとしているの?
> 海洋放出の問題点って何?
> 誰がどうして、何を心配しているの?
> 海洋放出以外の処理方法は?

汚染水はどこからくる?

現在、廃炉作業中の東京電力福島第一原発では、熱を発し続けている核燃料を冷やすため、崩壊した原子炉建屋内に毎日数百トンの水を注入しています。この水が、核燃料や原子炉構造物が固まったデブリに含まれる放射性物質に触れ、高濃度に汚染された水となります。

また、山側から海側に流れている地下水が原子炉建屋に流れ込んでいます。この地下水も建屋の地下の放射性物質に触れて、汚染水になります。

(国の資料をもとに作成)

1日に発生する汚染水は94〜150トンにものぼります。これを敷地内のタンクに溜めていて、総量は130万トン(2022年)を超えています。
廃炉には30〜40年かかるといわれ、その間にも汚染水は発生します。1日100トンと仮定すると、30年で約100万トン増えます。

「トリチウム水」とか「処理水」とか「汚染水」とか…結局どれが正解なの?

汚染水から多核種除去設備 (ALPS)で放射性物質を分離させた水を、電力会社や政府は「処理水」と呼んでいます。
この「処理水」の中には、ALPSで除去できないトリチウムや炭素14が残されています。除去することになっているストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106、テクネチウム99、プルトニウムなども基準値を超えて残留しています。

(国の資料をもとに作成)

東京電力や政府、大手メディアは「処理水」にはトリチウムしか含まれていないように表現していますが、実際には他にも放射性核種が残されていることを認めています。

すなわち、いまタンク内にある水は「トリチウム水」などというものではなく、「汚染水」。

東電はタンクの水を二次処理してもう一度放射性核種を取り除き、海水で希釈して海に放出するとしています。
でも、いまの段階ではこの二次処理がうまくいくかどうかわかっていません。
もし二次処理が成功しても、トリチウムと炭素14は取り除けずに残ってしまいます。

なぜ海洋放出しようとしているの?

政府と東電は「汚染水を貯めておくスペースが足りない」ことを理由に海洋放出を正当化していますが、福島第一原発の敷地内にも近隣地域にも、汚染水を長期的に保管するための十分なスペースがあります。
このことは、2018年の時点で東京電力が、2020年の報告書で日本政府が認めています。

場所がないなら土地を提供すると申し出た地元の方もおられます。

経済産業省「廃炉の大切な話2019」より

それなのに敷地内に「タンクを置く場所がなくなる」のはどうしてでしょう。

政府と東電は、廃炉にはデブリを取り出すことが必須で、その作業に必要な施設を設けるスペースが必要だから、敷地内の汚染水タンクを退けなくてはならない、としています。
陸上保管のためのスペースはあるのに「タンクを置く場所がないから海洋放出」。矛盾しています。

参考:誰も知らない「廃炉」のゴール

海洋放出の問題点って何?

政府と東電は汚染水に関して「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と住民に説明していました。
海洋放出の決定は、原発事故の被害をうけている住民にとって「約束」を反故にされたことになります。

福島には、事故前と同じようには復旧できなくても、福島で獲れた新鮮で美味しい海産物を人々に楽しんでもらえる日が来ることを信じて、風評被害に耐え、諦めずに事業を続けてきた人々がいます。

漁業従事者だけでなく、流通業者、水産加工業者、飲食業者、観光業者など多くの人がここまで力をあわせてこられたのです。

福島県新地町で漁業を営む小野春雄さん。 © Greenpeace

汚染水が放出されてしまったら、こうした地元の人々のこれまでの努力はどうなるでしょうか。
東電は風評被害による損害は賠償するとしていますが、人々が代々まもり、地域で受け継いできた生業を奪うことは、お金で解決できるようなことなのでしょうか。

いったん放出された放射性物質は二度と回収されることなく、海流にのって世界中の海に散らばっていきます。
そうした放射性物質は海水の中で薄まっていくだけでなく、他の化学物質と同じように、海の食物連鎖のなかで起こる生体濃縮によって濃度を高めていく可能性もあります。*

中でも炭素14の半減期は5,730年、プルトニウムは2万4,000年です。
そんな気が遠くなるような未来まで環境を汚染し続けるものを、海に捨てようとしているのです。
炭素はすべての生物に基本構成要素として組み込まれることから、長期的に見れば、集団被曝線量の主な要因となります。炭素14は人間の細胞DNAを損傷する可能性があるのです。

誰がどうして、何を心配しているの?

そもそも、放射性廃棄物の海洋投棄は国際条約で禁止されています。
1993年にロシア軍による日本近海への核廃棄物の投棄をグリーンピースが暴露したことを契機として、ロンドン条約で全面禁止とされたのです。

福島県など地元の漁業関係者はもちろん、全国漁業協同組合連合会も一貫して海洋放出に反対の立場を明らかにしています。
太平洋地域の市民社会組織 (CSOs)を代表する「核問題に関する太平洋共同体」は、「太平洋は核廃棄物の投棄場所ではなく、そうなってはならないもの」と抗議しています。

核実験で汚染された太平洋のロンゲラップ島の住民を避難させるグリーンピース(1985年)

オセアニア地域の協力機構「太平洋諸島フォーラム」は、漁場が汚染される恐れがあるとして全当事者が安全を確認できるまで延期するよう求めています。

全米海洋研究所協会は、「日本の安全宣言を裏付ける十分かつ正確な科学的データが存在しない」「この計画は、国境を越え、世代を超えて、海洋生態系の健全性が懸念される問題」などとして、計画に反対しています。

中国や韓国など近隣諸国からも、計画に対する批判の声が寄せられています。

東京電力本社前で海洋放出計画に抗議する市民グループとグリーンピース(2022年5月)

海洋放出以外の処理方法は?

原発近くの元住民の中には「自分が住んでいたところに、あんなタンクが並べられているのは見ていられない。早くなんとかしてほしい」という方もおられるそうです。
汚染水問題に対し、さまざまな立場の人が、それぞれに異なる意見をもつのは当然のことです。

でも、この計画については、決定の過程があまりに拙速で非民主的で、科学的な検証も不十分でリスクが高く、海洋放出以外の処理方法も十分に検討されたとはいえません。
グリーンピースは、欧米で運用されているより高精度な多核種除去設備で限界まで放射性物質を取り除いた汚染水を、現行のタンクより堅牢で大型のタンクに移し、さらに高度な除去技術を開発するのが、現段階では最善の解決策と考えています。

グリーンピースは今後も、地域住民の方々や国際社会と連携して行動を続けていきます。

【署名】放射能汚染水を
海洋放出しないで

続けて読む

▶︎汚染水の海洋放出、放射性炭素が人間のDNAに損傷を与える可能性 ーーグリーンピース報告書『東電福島原発汚染水の危機2020』

▶︎2021年4月に決まった海洋放出。放射能汚染水のその後

▶︎100歳まで漁師を続ける。福島の漁業が元に戻るのを見届けなければ

*政府は「トリチウムは生体濃縮されない」としている。