8月24日、海洋放出が始まった当日、東京電力本社前で抗議の声を上げる人々。
© Ryohei Kataoka / Greenpeace

8月24日の13時ごろ、東京電力が福島第一原発敷地内に貯留されている「ALPS処理汚染水」の海洋放出を開始しました。放出は今後30年程度続くとされています。このニュースは世界を駆け巡り、グリーンピースのもとにも世界各地のメディアから問い合わせや取材依頼が寄せられています。今、海に流されている「汚染水」とはいったいどのようなものなのでしょうか。
(この記事は2023年2月の記事をもとに加筆・編集したものです)

▼この記事を読むとわかること

> 汚染水はどこからくる?
>「トリチウム水」、「処理水」、「汚染水」……どれが正解なの?
> なぜ海洋放出しようとしているの?
> 海洋放出以外に方法はないの?
> 洋放出の問題点って何?
> 誰がどうして、何を心配しているの?
> 原発、汚染水 グリーンピースのこれまでの取り組み
> 原発も、化石燃料も「卒業」するためにできること

汚染水はどこからくる?

8月24日午後1時ごろ、東京電力が、福島第一原子力発電所にたまる放射性物質を含む処理水の海洋放出を開始しました。日本だけでなく世界から問題視されるこの「汚染水」はどのようにして発生したのでしょうか。

福島第一原発。左に6、5号機、中央から右に1、2、 3、4号機
福島第一原発から直線距離で約15km地点の山の上から撮影。左に6、5号機、中央から右に1、2、 3、4号機。 原発敷地内にはおびただしい数の汚染水タンクが並ぶ(2023年1月26日、福島県川内村)©️ Ryohei Kataoka / Greenpeace
©️ Ryohei Kataoka / Greenpeace

現在、廃炉作業中の東京電力福島第一原発では、熱を発し続けている核燃料を冷やすため、崩壊した原子炉建屋内に毎日数百トンの水を注入しています。この水が、核燃料や原子炉構造物が固まったデブリに含まれる放射性物質に触れ、高濃度に汚染された水となります。また、山側から海側に流れている地下水が原子炉建屋に流れ込んでいます。この地下水も建屋の地下の放射性物質に触れて、汚染水になります。

地下水・汚染水の流れ
(国の資料をもとに作成)

1日に発生する汚染水は94〜150トンにものぼります。これを敷地内のタンクに溜めていて、総量は130万トン(2022年)を超えています。廃炉には30〜40年かかるといわれ、その間にも汚染水は発生するため、1日100トンと仮定すると、30年で約100万トン増えます。

「トリチウム水」、「処理水」、「汚染水」……どれが正解なの?

汚染水から多核種除去設備 (ALPS)で放射性物質を分離させた水を、電力会社や政府は「処理水」と呼んでいます。この「処理水」の中には、ALPSで除去できないトリチウムや炭素14が残されています。除去することになっているストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106、テクネチウム99なども基準値を超えて残留しています。

汚染水の処理
(国の資料をもとに作成)

東京電力や政府、大手メディアは「処理水」にはトリチウムしか含まれていないように表現していますが、実際には他にも放射性核種が残されていることを認めています。つまり、いまタンク内にある水は「トリチウム水」などというものではなく、「処理されたけどまだ汚染が残る水(不完全処理水、ALPS処理汚染水)」であるということです。

東電はタンクの水を二次処理してもう一度放射性核種を取り除き、海水で希釈して海に放出するとしていますが、この二次処理が成功したとしても、トリチウムと炭素14は取り除けずに残ってしまいます。

なぜ海洋放出しようとしているの?

政府と東電は「汚染水を貯めておくスペースが足りない」ことを理由に海洋放出を正当化していますが、福島第一原発の敷地内にも近隣地域にも、汚染水を長期的に保管するための十分なスペースがあります。このことは、2018年の時点で東京電力が、2020年の報告書で日本政府が認めています。場所がないなら土地を提供すると申し出た地元の方もおられます。

経済産業省「廃炉の大切な話2019」より
経済産業省「廃炉の大切な話2019」より

それなのに敷地内に「タンクを置く場所がなくなる」のはどうしてでしょう。

政府と東電は、廃炉にはデブリ(溶け落ちた核燃料)を取り出すことが必須で、その作業に必要な施設を設けるスペースが必要だから、敷地内の汚染水タンクを撤去しなくてはならない、としています。でも、デブリの取り出しは暗礁にのり上げています。デブリがある場所は、事故から12年を経た今でも放射線量が高すぎて人間が近づくことはできません。ロボットなど特殊な装置を開発してデブリがどのような状況になっているのかの調査が続いているのが現状です。

いつになるか全く見通せないデブリの取り出しが進んだときの保管場所を確保するためとして、処理汚染水のタンクを取り除くために海洋放出をする……。他に選択肢はなかったのでしょうか?

参考:誰も知らない「廃炉」のゴール

海洋放出以外に方法はないの?

原発近くの元住民の中には「自分が住んでいたところに、あんなタンクが並べられているのは見ていられない。早くなんとかしてほしい」という方もおられるそうです。さまざまな立場の人が、それぞれに異なる意見をもつのは当然のことです。

しかし、この計画については、決定の過程があまりに拙速で非民主的で、科学的な検証も不十分でリスクが高すぎるものでした。陸上保管等の代替案について、ほとんど議論されていなかったことが明らかになっています。

また、様々な処理方法が検討されていた2018年の時点で、海洋放出の費用は17〜34億円とされていました。ところが現在の試算では1200億円になっています。処理にかかる期間も52〜88ヶ月程度と書かれていますが、現在は少なくとも30年以上といわれています。

グリーンピースは、欧米で運用されているより高精度な多核種除去設備で限界まで放射性物質を取り除いた汚染水を、現行のタンクより堅牢で大型のタンクに移し、さらに高度な除去技術を開発するのが、現段階では最善の解決策と考えています。

海洋放出の問題点って何?

政府と東電は汚染水に関して「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と住民に説明していました。海洋放出の決定は、原発事故の被害をうけている住民にとって大切な「約束」を破られたことと同じです。

福島には、事故前と同じようには復旧できなくても、福島で獲れた新鮮で美味しい海産物を人々に楽しんでもらえる日が来ることを信じ、諦めずに事業を続けてきた人々がいます。漁業従事者だけでなく、流通業者、水産加工業者、飲食業者、観光業者など多くの人がここまで力をあわせてこられたのです。東電は風評被害による損害は賠償するとしていますが、人々が代々まもり、地域で受け継いできた生業が奪われてしまうことになれば、それをお金で保障することは不可能です。

福島県新地町で漁業を営む小野春雄さん。 © Greenpeace
福島県新地町で漁業を営む小野春雄さん。 © Greenpeace

いったん放出された放射性物質は二度と回収できなくなり、海流にのって世界中の海に散らばっていきます。そうした放射性物質は海水の中で薄まっていくだけでなく、他の化学物質と同じように、海の食物連鎖のなかで起こる生体濃縮によって濃度を高めていく可能性もあります*。

中でも炭素14の半減期は5,730年です。そんな気が遠くなるような未来まで環境を汚染し続けるものを、海に捨てているのです。トリチウム(三重水素)と炭素はすべての生物に基本構成要素として組み込まれることから、長期的に見れば、被ばくの主な要因となります。トリチウムと炭素14は、人間の細胞DNAを損傷する可能性があります。

*政府は「トリチウムは生体濃縮されない」としている。

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誰がどうして、何を心配しているの?

そもそも、放射性廃棄物の海洋投棄は国際条約で禁止されています。1993年にロシア軍による日本近海への核廃棄物の投棄をグリーンピースが暴露したことを契機として、ロンドン条約で全面禁止とされたのです。

福島県など地元の漁業関係者はもちろん、全国漁業協同組合連合会も一貫して海洋放出に反対の立場を明らかにしています。太平洋地域の市民社会組織 (CSOs)を代表する「核問題に関する太平洋共同体」は、「太平洋は核廃棄物の投棄場所ではなく、そうなってはならないもの」と抗議しています。

核実験で汚染された太平洋のロンゲラップ島の住民を避難させるグリーンピース(1985年)
核実験で汚染された太平洋のロンゲラップ島の住民を避難させるグリーンピース(1985年)

オセアニア地域の協力機構「太平洋諸島フォーラム(PIF)」は、漁場が汚染される恐れがあるとして全当事者が安全を確認できるまで延期するよう求めています。全米海洋研究所協会は、「日本の安全宣言を裏付ける十分かつ正確な科学的データが存在しない」、「国境を越え、世代を超えて、海洋生態系の健全性が懸念される問題」として、計画に反対しています。

ALPS処理された水に、トリチウム以外にもストロンチウム90、セシウム137、炭素14などが残留していることは東京電力の資料からもわかります*。トリチウム以外の放射性核種をすべて完全に取り除けるわけではないのです。いくら基準値以下にして放出するとしても、汚染水は今も増え続けており、またすでに一度ALPSで処理された水に合計でどれくらいの量の放射性核種が含まれているかは明らかにされていません。つまり、これから30年続くと言われる海洋放出によって、合計でどの放射性核種がどれくらいの量、海に放出される見込みなのかがわからないまま流し始めたということなのです。

8月24日、海洋放出が始まった当日、東京電力本社前で抗議の声を上げる人々。
8月24日、海洋放出が始まった当日、東京電力本社前で抗議の声を上げる人々。
© Ryohei Kataoka / Greenpeace

原発、汚染水 グリーンピースのこれまでの取り組み

グリーンピース・ジャパンは、東日本大震災前から福島第一原発を含む各地の原発や放射性廃棄物の再処理工場の建設に反対する活動を行ってきました。2011年3月、東京電力福島第一原発事故が発生。余震が続く中、その2週間後に福島県飯舘村へ専門スキルをもった放射線調査のための国際チームを派遣、以来12年間に30回以上の現地調査を実施し、国内外にデータを公表してきました。2011年と2016年には、福島沖にチームを派遣しました。

詳細な独自報告書や委託レポートを日本語と英語で発表しています(一例)。

「東電福島第一原発 汚染水の危機2020」
『福島第一原発 2011-2021年:除染神話と人権侵害の10年』

福島県沖で海水のサンプル調査を行うグリーンピースの船とスタッフ
福島県沖で海水のサンプル調査を行うグリーンピースの船とスタッフ(2011年5月)

福島第一原発からの放射能汚染水については、下記のような活動を行いました。

▶︎2013年に第35回ロンドン条約締約国会議において、早期解決のために国際的な協力を呼びかけ、以来、専門スタッフが働きかけを継続してきました。(リンク
▶︎汚染水の海洋放出の理由とされる福島第一原発の廃炉計画についても、不備を早期から指摘し、専門家に委託して具体的な代替案を提案しています
▶︎専門家に依頼してトリチウムが放出された際の人や環境への影響の文献調査を実施
▶︎東京電力の株主として株主総会に参加し、株主運動グループの一員として株主提案を提出
▶︎G7広島サミットに関連した海外政府への情報提供や海外メディアへの情報共有
▶︎2023年8月17日には直近で集まった汚染水放出反対と脱原発を求める3つの署名、合計約5万5千筆を政府に提出しました(リンク

原発も、化石燃料も「卒業」するためにできること

政府は、この状況においてもなお、気候変動や温暖化の対策を名目に原発を推進しています。しかし、原発は温暖化対策になりません*

一方で、「地球沸騰化」に警鐘が鳴らされ、エネルギーを効率的に利用する技術や持続可能な再生可能エネルギー利用の世界的な革新が進んでいます。いまこそ原発や化石燃料から卒業し、人と自然と地域と調和する再生可能エネルギーによる日本へと進んでいく時です。

持続可能で誰のことも踏みつけにしない、クリーンなエネルギーを望む人たちが集まる集会&パレード「ワタシのミライ NO NUKES & NO FOSSIL 再エネ100%と公正な社会を目指して正な社会を目指して」が、9月18日(月・祝)に開かれます。グリーンピース・ジャパンも運営チームとして携わっています。

2023.9.18 集会 & パレード 全国開催! – ワタシのミライ

9月にニューヨークの国連で開かれる国連気候サミットに合わせて開催されるこのイベントは、世界各地で開かれるアクションと連動しています。現地に来ることができる方は、お友達や大切な人を誘って、ぜひ代々木公園に集まってください。 それ以外にもオンラインや、全国各地でのアクションが開催予定です。チェックしてみてください。

誰のことも踏みつけにしないエネルギーを
実現するために支援する

続けて読む

▶︎汚染水の海洋放出、放射性炭素が人間のDNAに損傷を与える可能性 ーーグリーンピース報告書『東電福島原発汚染水の危機2020』

▶︎2021年4月に決まった海洋放出。放射能汚染水のその後

▶︎100歳まで漁師を続ける。福島の漁業が元に戻るのを見届けなければ

▶︎東京電力福島第一原発事故から12年 〜いまとこれから 

▶︎原発が温暖化対策にならない5つの理由