『御渡り/MIWATARI』上映後に行われたトークイベント(2024年11月20日、長野県諏訪市)

国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は11月20日、長野県諏訪市の駅前交流テラス「すわっチャオ」フリースペースで、気候変動の影響で存続の危機に立つ諏訪湖の伝統神事をテーマにした映像作品『御渡り/MIWATARI』(小野友資監督、注1)の上映会を開催し、地元市民ら約85人が参加しました。上映終了後は、御渡り神事を執り行う八劔神社の宮坂清宮司らによるトークイベントが開かれ、諏訪の暮らしの変化や日本酒・味噌作りで感じる影響などについて、参加者も交えた意見交換が行われました。

本作品はグリーンピース・ジャパンが、昨年11月に開催した気候変動をテーマにした展示会「HELP展」で発表した約11分の映像作品で、昼夜の寒暖差によって諏訪湖の湖面に巨大な氷の筋が現れる自然現象・御渡り(神渡り、御神渡り)が、近年の気候変動でその出現が減少しているさまを映像に収めています。今年2月、バンコクで行われた国際映画祭で、ドキュメンタリー部門審査員大賞を受賞し(注2)、現在アゼルバイジャンで開かれている国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)でも、タイ政府のサイドイベントの一環としてダイジェスト上映されました(注3)。

『御渡り/MIWATARI』の上映が始まると会場はしんと静まり返り、参加者は、諏訪の風景を背景にした宮坂宮司の語りにじっくり聞き入っていました。映像の終わりに「2019年から2024年まで御渡りが出現しない明けの海が宣言されている」と表示され、静かな拍手が沸き起こりました。

続いて行われたトークイベントには、八劔神社の宮坂宮司のほか、諏訪市にある日本酒の蔵元・宮坂醸造の宮坂直孝社長、「タケヤみそ」を製造する竹屋の藤森伝太社長ら地元企業の代表、自然エネルギー信州ネット理事の平島安人氏、地域の古材と古道具の販売を行う金野涼子氏が登壇し、御渡りや気候変動について感じていることや取り組みについて意見を交わしました。宮坂社長は「気候変動の影響で温度管理の問題や米の品質が低下するなど、全国の酒蔵から悲鳴が上がっている」、藤森社長は「暑くなっても蔵を移せば、味噌の味が変わってしまう」と話すなど、発酵食品製造でも気候変動の影響に危機感を持っていると発言。宮坂宮司は「1月から2月が勝負。来年の御渡り出現に期待したい」と話しました。

グリーンピース・ジャパン、プロジェクト・マネジャーの高田久代は、諏訪市での上映会開催について「トークイベントでのお話から、100年以上この地で続く酒や味噌作りもまた、近年の異常気象に大きな影響をすでに受けていることがわかりました。地域の歴史や気候を通して長い年月をかけて育まれてきた暮らしは、気候変動と地続きです。現在進行している気候変動は人間の産業活動が招いたもので、その影響をできるだけ抑えられるかどうかも、今後の人間の行動が左右します。長い伝統があり、土地の風土と人々が作り上げてきた暮らしを繋いでいくために、今の時代を生きる私達ができることをもう一歩踏み込んで考え、取り組んでいくことが必要です。本日の会が、諏訪地域の方が『明けの海と御渡り』と気候変動について感じていることや取り組みを共有し、つながりが広がる場になれば幸いです」と話しています。

(注1)2023年11月にグリーンピース・ジャパンが東京で主催した気候変動をアートで感じる展覧会「HELP展」の展示作品として、クリエイティブユニットHAKUAが制作した映像作品。

(注2)グリーンピース・ジャパン「諏訪湖の神事と気候変動描く映像作品『御渡り』 タイの国際映画祭でドキュメンタリー部門審査員大賞を受賞」(2024年2月18日発表)

(注3)グリーンピース・ジャパン「【COP29】気候変動の影響受ける諏訪湖の映像作品『御渡り』、COPのサイドイベントで上映」(2024年11月18日発表)