豊田章男氏が定時株主総会でトヨタ自動車会長に再任ーー迅速な脱炭素化の実現に期待
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は6月12日、同日開催されたトヨタ自動車の定時株主総会において、豊田章男氏が代表取締役会長に再任されたことについて、以下のコメントを発表しました。
グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、塩畑真里子
本日開催されたトヨタ自動車の株主総会で、豊田章男氏が同社の代表取締役会長に再任されました。しかし、昨年問題になっていた同社のガバナンスの欠如や取締役会の独立性などの問題が解消されたと考えることが妥当なのか、疑問に感じる株主や投資機関は一定数存在します。直近では、6月はじめの豊田自動織機の株式非公開化に関して、トヨタによる情報開示は不十分、という指摘も出されています(注1)。
会長に再任された豊田章男氏は、販売台数世界一の地位にある自動車会社のリーダーとして、国際的約束である2050年ネットゼロ達成のために、同社の気候変動に関する目標設定や対応の速度を決めることができる立場にあります。しかし、同氏は、電気バッテリー自動車(BEV)よりもハイブリッド車のほうが排出削減効果があると繰り返し主張しているほか、日本では火力発電の割合が高いため、BEVが普及しても温室効果ガスの排出を削減することはできないという発言もしています(注2)。
ホンダ、BMW、フォードなどの有力企業が、乗用車の脱炭素化にあたって最も効果的な手段は電動化であることを明確に打ち出しているのとは対照的に、トヨタは、価格や技術の観点から課題の多い水素や代替燃料を推進しているのが現状です。トヨタが投資する水素やバイオ燃料の技術は、2050年ネットゼロの実現のために果たして有効な手段となりえるのか、多くの科学者・技術者が疑問視しています(注3)。
グリーンピースはこれまで、トヨタによる内燃機関(ICE)車への投資や開発の継続は、同社の目標である2050年のカーボン・ニュートラルと整合性がとれないことを指摘してきました(注4)。特に問題なのは、過去数年間、同社が排出削減効果が高いとしているハイブリッド車販売台数の絶対数と割合が増えているにも関わらず、トヨタが毎年排出する温室効果ガスの総量が増加傾向にあることです。2023年の同社の世界における総排出量は二酸化炭素換算で5億9,389万トンで、日本の総排出量(2023年)の64%に相当する規模でした。
車1台あたりの燃費が改善されても販売総数が増えれば当然ながら排出量も増えます(注5)。トヨタは、2030年まで、2035年まで、2040年までの時間軸を伴った総排出量の削減目標を早期に設定し、世界をリードする自動車会社として、脱炭素に関する技術開発を含め、リーダーシップを発揮すべきです。会長に再任された豊田氏には、トヨタの事業を1.5度目標に整合する方向へ変革させる手腕に期待します。日本を代表する自動車会社の代表取締役会長のもとで、トヨタは最も着実かつ迅速に脱炭素を実現する技術に注力し、将来世代への説明責任を果たすためにも温室効果ガスの総排出量削減目標を打ち出すべきです。
(注1)日本経済新聞「豊田自動織機、株価はTOB価格にさや寄せ 開示不足の声も」(2025年6月4日)
(注2)Automotive News “Q&A: Toyota Chairman Akio Toyoda talks about biggest challenge, top wish for son, Toyota EV sports cars” (2025年4月27日)
(注3)グリーンピース・ジャパン「トヨタ燃料電池車、科学者・技術者120人がIOCに五輪公式車両の撤回求めるーー水素製造過程の炭素排出量や導入コストの高さ疑問視」(2024年7月17日発表)
(注4)グリーンピース・ジャパン「『自動車環境ガイド2023』ーー日本勢 EVシフトへの遅れ埋まらず、ハイブリッドへの過度な依存から脱却なるか」(2023年10月19日発表)(注5)グリーンピース・ジャパン「世界の温室効果ガス排出量の1.5%占めるトヨタ、自動車企業は1.5度目標に整合する削減目標の設定をーー報告資料『日本の自動車会社による温室効果ガス排出量の現状と課題』を発表」(2025年3月12日発表)