海洋プラスチック問題とは?原因や影響、解決に向けて私たちにできること
この投稿を読むとわかること
地球の約7割を占める海。最大で30メートル以上にも成長するシロナガスクジラ*からほんの6ミリの微小な魚*まで、知られているだけでも約23万種もの生物が暮らす場所であり、地球温暖化を進めるCO2(二酸化炭素)を大気から吸収し、気候危機から私たちを守ってきた存在でもあります。しかしその海はいまや私たちが排出する大量のごみを抱える場所とも化してしまっており、特に甚大な影響をおよぼしているのがプラスチックごみです。「海洋プラスチック問題」と称される世界的課題の現状や原因、対策、私たちにできることを見ていきましょう。
海洋プラスチック問題とは?
海洋プラスチック問題とは、プラスチックごみが海に行き着くことから生じる環境問題を指します。
プラスチックは自然分解がされにくく、一度海に流出してしまうと波や風などにより徐々に砕けていくものの、長年原型を保ったまま残り続けてしまいます。分解にかかる時間はプラスチックの種類にもよりますが、たとえばペットボトルは分解に400〜450年もの時間がかかると推定されています。
すでに海には3,000万トン*以上のプラスチックごみが流出している可能性があり、このまま何も対策をしなければ2050年にはプラスチックごみが魚の重量を上回ると予測されています。
海に滞留するプラスチックは、海を広範囲にわたり汚すと同時に、海洋生態系をはじめ漁業や観光業などを生業にする人々、私たちの健康にも影響をおよぼします。
マイクロプラスチックとは?
マイクロプラスチックは、直径5ミリ以下の小さなプラスチックです。海には少なくとも5兆個*ものマイクロプラスチックが漂っていると推定されています。
海に行き着いたプラスチックごみは紫外線や波、風により少しづつ砕けていき、やがて微小サイズになりますが、海に流出するのはこの類いのマイクロプラスチックだけではありません。マイクロプラスチックは衣類の化学繊維などにも含まれており、排水溝から下水処理を通り、川から海に流れ込んでいるのです。
小魚がプランクトンと間違えて食べてしまう、有害物質が吸着したり、溶出したりしやすいなどの危険性がありながらも、小ささゆえに回収が非常に困難なことが大きな問題点です。
マイクロプラスチックはいまや空気や食べ物、人間の血液、肺、胎盤、母乳からも発見され*、健康におよぼす影響についての研究が進められています。
海洋プラスチック問題の原因
海洋プラスチック問題の原因には大きく以下が挙げられます。
プラスチック製品の増加
プラスチックは軽く、丈夫で汎用性にも優れていることから、いまや歯ブラシや綿棒、食品トレイなど身近なものから、自動車や家電製品まで、いたるところに使われています。生産量は過去50年で10倍以上にも膨らみ、ここ20年だけ見ても約2倍も増えています*。
陸からの流出
海に流出するプラスチックごみはどこから来ていると思いますか。実は私たちが暮らす陸域から発生し、風や雨などで河川に流れ込み、海に流れ着くものが全体の約8割を占めると推定されています*。
その多くは海岸で捨てられたものではなく、道端にポイ捨てされたものや外に放置されていたもの、さらには災害や事故などで流されてしまったものです。環境省の調査では、私たちの暮らしに非常に身近なペットボトルが主なごみに挙げられていました*。
海洋プラスチック汚染の影響
海洋プラスチックごみがおよぼす影響をより詳しく見ていきましょう。
生態系への影響
私たちのプラスチックごみが海に流れ込むと海洋生物が食べたり、それに絡まったりし、最悪の場合、死に至ることもあります。実際にプラスチックは毎年少なくとも10万もの海洋生物と100万もの海鳥の死を引き起こしており*、ペンギン、イルカ、クジラ、ヤドカリ*、アホウドリと大小さまざまの生物が何かしらの被害に遭っています。
エサと勘違いして摂取したプラスチックが胃に溜まり満腹だと勘違いし、栄養失調を招いてしまうこともあります。過去には英スコットランドの砂浜で見つかったクジラの死体から、ビニール袋を含む100キロほどのプラスチックごみが出てきました*。
さらに化石燃料由来のプラスチックが海に増えることは海洋酸性化の悪化、ひいては貝類、海草の成長阻害にもつながります。
人体への影響
マイクロプラスチックには海に残留する有害物質が吸着しやすく、発がん性が高いことでも知られる「残留性有機汚染物質(POPs)」までもをスポンジのように吸いつけます*。
マイクロプラスチックに吸着した有害物質は魚の体内に入ると高濃度で蓄積される危険性*があり、有害物質を蓄積した魚を人間が食べることで、健康に悪影響が生じるのではないかと研究者のあいだで注視されてきました。まだその影響は明らかになっていないものの、マイクロプラスチックは前述のように発がん性のある有害物質が吸着しやすい*ことから、がんなどの症状を引き起こす可能性が示唆されてきました*。
米海洋自然保護団体の調査では、毎週450グラムほどの魚を食べた場合、年間で平均1,000個弱のマイクロプラスチックを摂取している可能性があるとしています*。
産業への影響
経済協力開発機構(OECD)の報告書によると、海に流出したプラスチックごみは漁業と観光に、年間約1兆4千億円という膨大な損失*をもたらしています。
漁業において問題視されているのは、海洋プラスチックの多くを占めるといわれる漁網などの漁具(※)です。これに絡まる海洋生物のうち、市場価値のある生物は約9割との推定で、地球全体の約3割もの魚が漁具との接触などにより減少してしまっているという衝撃的な結果が出ており*、産業自体にも大きな損失が生まれています。
※何かしらの理由で海に流出した漁具は幽霊のように漂い、人間が操ることなくひとりでに魚を捕まえてしまうことから近年では「ゴーストギア」という名で呼ばれています。
また、海を観光資源とする国もプラスチック汚染による影響を受けます。たとえばフィリピンにはプラスチックごみの処理施設などが十分にない*ことから海のプラスチックごみの流出が多く、その割合は全体の36%におよんでいます*。2018年には、6カ月でおよそ100万人もの観光客が訪れる*ボラカイ島を、清掃作業のために半年間封鎖する事態に追いやられ、その間の損失額は約54億円から67億円にも上り、36,000もの仕事が失われました*。
海洋プラスチック対策として行われている取り組み
海洋プラスチック問題の悪化を抑えるための動きもあります。国や企業、グリーンピースのような国際NGO団体などの取り組みを見ていきましょう。
世界の取り組み
世界では海洋ごみのおおもとである「プラスチック問題」に取り組めるよう、使い捨てプラスチック製品の禁止法を施行する国や州などが少しずつ増えてきました。たとえば2002年には、バングラデッシュが世界で初めて使い捨てプラスチック袋を禁止した国となりました。アフリカ全域では、2020年時点で6割以上の国で使い捨てプラスチック禁止法が成立、あるいは禁止を目的とした法律が成立しており、ケニアでは、企業が使い捨てプラスチック袋を輸入、製造、販売すると、最大4万ドルの罰金が課される法が成立しています*。
一方、プラスチックごみの排出量が世界最多*のアメリカでは2015年にマイクロビーズ入りの洗顔料や歯磨き粉などの販売を禁止する「マイクロビーズ除去海域法」や*、スーパーなどでのレジ袋提供禁止例などはあるものの、規制の範囲はまだまだ狭く、このようにプラスチックを大量に消費している国ほど対策が不十分の傾向にあります。
世界全体でプラスチック問題に取り組むためにも、プラスチックを大量に生産する国にしっかりと責任が課されるためにも、いま最も必要なのは法的拘束力のある国際的なルールです。
そこで特記すべきは歴史的快挙ともいえる「国際プラスチック条約」の制定が、国連で決定したことです。世界が一丸となりプラスチックの生産量を減らし、リユースを社会に定着させられる可能性があるもので、その具体的な内容について約175もの国連加盟国や関係国際機関、NGOなどが議論を進めています。強力な条約が締結されれば、海洋プラスチック問題にも大きな影響を与えることが予想されます。
日本の取り組み
1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量がアメリカに次いで世界で2番目に多い日本。プラスチックごみ全体で見ると近年はどれほど廃棄をし、国としてどのような対策をとってきたのでしょうか。
日本の海洋プラスチックの廃棄量
環境省では2023年に日本の陸域から海に流出したプラスチックごみの総量を1.1万〜2.7万トン*と推計しています。世界の海洋プラスチックごみの年間総量の約1割をたったひとつの国が出していることになり、プラスチック問題における日本の責任は重大です。なかでも約7割以上を占めていたのは回収が困難なマイクロプラスチックでした*。
プラスチック問題の悪化を防ぐために、日本は大きく以下の二つを掲げてきました。
1. プラスチック資源循環戦略
プラスチック資源循環戦略は、海洋プラスチック問題をはじめ、さまざまな環境問題に対応するために政府が2019年に掲げたものです。2035年までに使用済みプラスチックを100%再利用する*などを目指しており、分野別ではなく素材全体を法制化するのは初めて*の試みです。しかし事業者ごとに取り組んだ内容についての報告義務がない*ことから、その実現性が問われます。
2. 海洋プラスチックごみ対策アクションプラン
海洋プラスチックごみ対策アクションプランは、海に新たな汚染を生み出さないために政府が2019年に策定した取り組みです。プランには廃棄物の処理制度が強化されることや、代替素材の開発支援、途上国での廃棄物管理の強化、プラスチックごみの回収処理の促進・流出防止などが含まれています*。ただ具体的な目標値などが設定されていないものが多く*、上記の戦略と同様に実現性が問われます。
企業の取り組み
海洋プラスチック問題に取り組むには、プラスチックごみのそもそもの量を減らすことが必要です。新たなプラスチックごみを出さないことを目指す企業の取り組みを紹介します。
Megloo(メグルー)
Meglooは、使い捨て容器を使わず、繰り返し使えるリユース容器でのテイクアウトを可能にするサービスです。「“捨てる”から“めぐる”へ」をコンセプトに株式会社カマンが2021年10月にスタートし、対象店舗での利用が可能です。購入店舗に限らず対象店舗ならどこでも返却でき、ごみを出さずにテイクアウトが楽しめます。実店舗のほか、イベントなどでもサービス提供をし、さまざまな場で使い捨てプラスチックの削減に取り組んでいます。
斗々屋(トトヤ)
斗々屋は京都・上京区にあるごみを出さない(ゼロ・ウェイスト)ことをコンセプトにしたスーパーマーケットで、プラスチック包装なしで食料品を購入できる日本ではまだまだ珍しいお店です。野菜や果物もプラスチック包装はなし。量り売りコーナーには乾物やパスタ、調味料、そしてなんと納豆までもが並び、自然と使い捨てプラスチックを削減できるように店が設計されています。
グリーンピース・ジャパンの取り組み
国際環境NGOであるグリーンピース・ジャパンでも、以下の方法で海洋プラスチックごみのおおもとである「プラスチック問題」に対して、活動をしてきました。
たとえば近年での企業への働きかけとしては、リユースを求めて大手カフェチェーンのスターバックスと対話を重ねてきました。
当初、スターバックスでの年間の使い捨てカップ消費量は調査したほか8つのカフェチェーンをすべて足してもおよばない2億3,170万個という膨大な数で、リユースカップの使用率はたったの3%でした。
その実情を独自調査によって明らかにし、アクティビストや市民と力をあわせてリユースカップの導入を求めた結果、スターバックスは2023年2月に全国の店舗の8割にあたる1,500店舗にて繰り返し使える店内用グラスの導入を発表しました。
過去にもグリーンピースが市民とともに働きかけた結果、アサヒビールがペットボトルビールの発売を見合わせたことがありました。このように、誰もが意識しなくても環境にいい選択ができるしくみづくりを求めて、グリーンピースは企業や政府の後押しを続けています。
海洋プラスチックごみを減らすために私たちができること
プラスチックを削減できる選択をする
あまりにも生活にプラスチックが溢れていることから、プラスチックを減らすなんて無理……と思うかもしれませんが、いざ取り組んでみると意外とできることがたくさんあることに気づきます。
まずはプラスチック製品を手にするそもそもの回数を減らすこと(リデュース)、そして繰り返し使えるものを選んでいくこと(リユース)です。実際に飲食店でのストローがプラスチックから紙に変わる動きもあり、「素材がプラスチックじゃなければ使い捨てもありかも……?」と思うかもしれませんが、膨大な量のプラスチック製品をたとえば紙に置き換えれば、今度は深刻な森林破壊につながる恐れがあります。リユース、リデュース(削減)できる選択を意識していきたいのはそのためです。
身近なところから早速変化を起こしていきましょう。また実は使い捨て容器なしで買い物できるスポットも少しずつ増えています。「グッバイ・ウェイスト」というマップからぜひ検索してみてください。
システムチェンジに向けてアクションを起こす
一人ひとりができるところから取り組むのも意味のあることですが、それでもなおコンビニやスーパーなどの棚にぎっしりとプラスチック包装の商品が並ぶ光景を目にすると、個人の取り組みに限界があるように感じるかもしれません。
そう思ったら署名や意見箱などを通して、企業や政府にシステムチェンジを求めていくことも一人ひとりができる重要なアクションです。声を上げることで、企業に消費者のニーズを知ってもらえるチャンス、それに向けてアクションを起こしてもらえる可能性が生まれます。
まずはよく利用するお店に連絡をしてみましょう。 以下の画像をクリックすると、テンプレート付きのメール作成画面が開きます。
「よく使うカフェ、コンビニ、スーパー、メーカーに脱使い捨てをお願いしよう!」の記事では、カフェ宛、メーカー宛などさまざまなメールテンプレートを用意しているので、ぜひ活用してみてください。
さらに2024年11月末には、世界的にプラスチックを削減できる可能性を秘めた「国際プラスチック条約」の最も重要な会合が行われます。歴史的快挙ともいえる本条約を強力なものにできれば、プラスチックの生産量を大幅に減らし、リユース社会が世界的に広がる可能性があります。
ただし、プラスチックは99%以上が化石燃料由来のため、石油産業などに支えられてきた国々や企業は、強力な条約が成立しないよう働きかけてきました。こういった国や企業の意見が反映されてしまえば、プラスチックは増加の一途を辿り、2050年にはいまの3倍にも膨らむことが予想されています。
強力な条約を実現するには一人でも多くの声が必要です。さまざまな工夫をしなくても、普通に生きているだけでプラスチックごみが減る社会を実現するためにも、以下の署名で声をあげましょう。
まとめ
海洋プラスチック問題がここまで深刻化しているにもかかわらず、これまで世界が一丸となり海洋プラスチック問題を解決できるような道筋はありませんでした。国際プラスチック条約はまたとない大きなチャンスです。個人の努力だけでなく、企業や政府がプラスチックの生産量を大幅に減らし、リユース中心の社会を広めてくれるよう私たちの声を届けましょう。