「反対したい一番の理由はここで戦争の訓練をしている、ということです。やんばるの森をそういう場所にしたくないんですよね。
訓練を受けた兵士が戦争に行って、人を殺すわけですよね。それを見て見ぬふりをするのは、僕らも戦争に加担しているという気持ちになります。
この豊かな森を戦争の道具にしないで、様々な命があるんだから、命が生まれて巡っていく、そういう森にしたいんです」
こう話してくれたのは、沖縄県東村高江に住む木工職人、伊佐真次さん。
豊かな命を育む「やんばるの森」に位置する沖縄本島北部の高江。140人あまりが自然に寄り添って暮らす、美しい楽園です。
米軍のオスプレイ飛行演習を目的としたヘリパッド(着陸帯)が、高江の集落を囲むように6カ所建設されるという計画がはじまったのは、9年前。
住民の意思を無視した計画に、9年間、住民のみなさんは反対し続けています。高江では、7割が反対、賛成の人は1人もいません。
伊佐さんも、当初から反対の声を上げ続けている1人。
私たちグリーンピース沖縄チームは8月と9月に高江を訪れ、伊佐さんから聞いたお話を、みなさんにもお伝えします。(文責:林)
国に訴えられた高江の人々
みなさんは、ヘリパッド建設に反対する高江の人々が、国に訴えられたことがあるのをご存知でしょうか?
2008年、強行工事への反対行動が「妨害」だとして、15人の住民が訴えられました。そして裁判では、住民の会の共同代表だった伊佐さんが、ただ一人「有罪」とされました。
現場に行ったこともない当時7歳の女の子を含む15人が国に訴えられたこの裁判は、”スラップ裁判”の一つとして数えられています。
写真:建設予定地の入り口では、座り込みや監視が毎日続いている。
7歳の子どもまで訴えられたースラップ裁判
スラップ裁判(SLAPP: Strategic Lawsuit Against Public Participation)とは、力を持つ政府や大企業などが、反対の声を上げている市民など力を持たない相手に対して、威圧することを目的に起こした裁判のこと。日本語では、恫喝裁判(どうかつさいばん)と呼ばれることもあります。
海外では、恫喝目的で訴えることは違法とされている国もありますが、日本ではまだそのような決まりはありません。高江が、全国ではじめてのケースでした。
伊佐さんは、当時を振り返ります。
「あの裁判は弱いものいじめの裁判ですよね。国の言うことを聞け、という裁判だから。
国が一市民を訴える、7歳の子どもまで訴える。非道なことを平気でやるんですよね。個人よりも国のことを尊重しなさい、という空気が流れてきているのを感じます」
批判を受けて、女の子への告訴は取り下げられました。伊佐さんは続けます。
「裁判は多くの方が支援してくれたので、自分ひとりの裁判だったとは思っていません。最後に残ったのは僕だったけど、誰が訴えられてもおかしくありませんでした。
最終的には、15名のうち14名への訴訟は取り下げられました。僕ひとりだけが妨害と認定されましたが、”勝利”に近い裁判だと考えていいと思っています」
「沖縄のひとは誰もあきらめていない」
それでも、6カ所計画されているヘリパッドのうち、2014年までに2カ所が完成。高江の住宅や学校の上をオスプレイが飛び始めています。
「これは長いたたかいですよ。戦後71年ずっと米軍の占領にあってて、誰もあきらめてないんですよ。沖縄の人はあきらめてない。短期決戦じゃないと思うんです。
たとえヘリパッドができてしまっても、これで終わりじゃないですから。今度はそれを現状に戻すたたかいをすればいいのであって、できてしまったって落胆する必要はないですね」
9年間たたかい続けて、スラップ裁判で有罪判決を受けて、それでも声を上げることをやめない伊佐さん。その力が一体どこから来るのか、お聞きしてみると…
「特別なことをしているっていう意識はないんですよ。わかんないな。日が傾いてきたら、そろそろビールでも欲しいなってパッと切り替えるんですよ。また明日考えようって。ほら、もうビールの時間じゃないかな(笑)」
そうふざけて笑う伊佐さんの笑顔に、しなやかな強さを感じました。
いまのたたかいが、未来につながる
伊佐さんの工房には、カラフルな壁画があります。
そこには、高江の豊かな自然と、安心したように眠る赤ちゃんの顔、そして「Your Struggle, Our dreamーあなたたちのたたかい、わたしたちの夢」の文字が。
「この絵を描いたのは、友人の友人で、A.G.SANOさんというフィリピンのアーティストです。今年8月ごろ高江を訪れて、現状を見て、座り込みをした方です。記念に何か描きましょう、ということでここを提供したんです。想像していたより大きい壁だったようで、びっくりしていましたけど(笑)」
私たちグリーンピース沖縄チームは、フィリピンのA.Gさんに連絡を取りました。高江を訪れた時を振り返ってもらい、高江の人々へメッセージをいただきました。
「高江に着いた朝、建設資材の搬入を止めようとする地元住民と機動隊が衝突するシーンに居合わせました。その様子を見て、深いショックを受けました。
同じ日、1歳くらいの赤ちゃんを抱いた女性を見かけました。その瞬間、この子たち世代が、今の時代が選んだものを引き継ぐんだな、と思ったんです。
住民のみなさんが美しい自然を次世代に残すためにたたかっている”いま”を、絵に閉じ込めたいと思いました」
壁画に込められた思い、「Your Struggle, Our Dreamーあなたたちのたたかいが、わたしたちの夢」とは、まさに伊佐さんたち、地元で声を上げ続けている人々へのエールのようです。
「高江の中でさえ、ヘリパッドに近いかそうでないかで、確かに(反対の)温度差はあります。住民のなかには『君たちの行動は迷惑だ』って実は思ってる人もいるかもしれないけど、長い目で考えれば、あの時一生懸命やってた人達は彼らだな、ときっと理解してくれる時が来てくれる、と思ってますから。今は迷惑がられてもやるべきだと思います」
「もしこの森が荒れた時に、未来の子ども達がどうしてこの森はこうなってるの?と聞くかもしれない。でも自然を守りたい、と思って頑張っていた人達もいるよ、ということは、歴史が教えてくれます」
世界が注目している自然がここにある
伊佐さんは、最後におっしゃいました。
「多くの人達に訴えたいんです。世界が注目している自然がここにあるんですよ、ここは本当に大切な場所なんですよ、こういう気持ちで反対しているんですよ、ということをね」
地元のみなさんだけではなく、全国からたくさんの人が応援していること、あなたも一緒に伝えませんか?
参考資料
映画『標的の村』
ヘリパッドいらない高江住民の会「voice of takae」
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