未来は自分たちでつくる。それを気づかせてくれた2年でした。
-- サーフライダー・ファウンデーション・ジャパンとは?
photo by Surfrider Foundation
本部は、アメリカのカリフォルニア州のサンクレメンテという海沿いの町にあります。
サーフィンやボディーボードなど、海を愛するすべての人の立場から海浜環境を提案しようという事で、1984年に立ち上がった国際環境NGOで、日本は1993年にスタートしました。
ヨーロッパや南米、そして海のない地域でも活動しているんですよ。
でも、アジアは日本だけで、200名のサポーターに支えられています。
-- 松原さんが関わったきっかけは?
私は、ボランティアとして2006年に活動に参加しはじめ、六ヶ所村再処理工場の問題で声をあげました。
サーファー目線から、海を汚染する危険性のある原発の反対運動をしようとした事がきっかけですね。
そして、ずっとボランティアとして関わってきて、2011年4月に事務局長になりました。
-- 福島原発事故の直後に事務局長になったんですね?
正直このポジションを引き受けるにあたって、ものすごく悩んだし、不安でしたね。
でも、サーフィンという素晴らしいものに出会えた恩返しのような気持ちで引き受けました。
サーフィンの素晴らしさ、楽しさを1人で享受するだけじゃなくて、それを他者とわかちあい、広め、また海がかかえる問題を発信するために、私に神様が試練を与えたんだなって受け止めました(笑)
-- 3.11をきっかけに何かが変わったんですね?
もちろん、引き受けてかなり後悔した時もありました。
企業のように営利目的という命題がないし、環境保護っていわばその人の価値観や感覚の問題になってくるので、解釈が色々とあるんですよ。
震災が起きた中で、環境NGOの存在意義を一から考えなくてはいけないという壁にもぶち当たりましたね。
-- 原発事故後の活動は?
水と食べ物は、かなり気をつけるようになりましたね。
原発事故は、放射能と汚染水と未だ経験したことのない事だらけだったので、影響や意味がわからない中で、海に入るのが怖かったです。
また津波でなくなった方や被災地に配慮して、サーフィン自粛が呼びかけられていました。
みんな、その当時は何を信じれて、何をすればいいのかわからなかったですね。
-- 原発事故後は世界からのサポートはありましたか?
たくさんのサポ―トが世界中からありました。
海はつながっているんだなぁと、改めて実感しましたね。
ただ世界からは、日本政府の実態と、収束できない原発事故の事実が明らかになるにつれ、日本のNGOは何をやっているのだと、厳しい批判があったのも事実ですね。
-- 原発事故直後から水質調査を行ってきましたよね?
そうですね。サンプリングはサーファーの方や地元の方が手伝ってくれましたよ。
地元の方の協力を得ながら調査をやってきたんですが、正直すごくお金がかかります。
検査は調査機関に出しているので、資金面が厳しくて十分な調査ができていませんが、応援してくれる企業や個人もいるので連携しながら、すすめていきたいとおもっています。
-- 水質調査をするきっかけは?
やっぱり、自分たちが入る大好きな海だから、どれくらい汚染されているのか知りたかったですね。
それと、未来にむけて、データを蓄積していくこと。
ただ、やってみて感じたことは、結局は数値をどうとらえるか、ということです。
専門家でも科学者でもないので。
調査を続けていくのであれば、専門機関と一緒にやって、数値だけを羅列するだけでなく、データをどう読み取るのか、意味合いを持たせたいですね。
たとえ、放射能が検出されなくても、本当に本当に安全なのか、短期的には不検出でも、長期的にみたら……?それはたぶん現時点で推測はできても、本当のところは誰にもわからないですよね。
-- だからこそ政府の調査が必要
私たちの水質調査の結果は一つの判断材料にはなるかもしれません。
でも、つきつめると「政府、ちゃんとやってくれよ」なんですよね。
調査も政府発表だけで、これだけ隠ぺい体質だと、信頼できないんですよ。
政府任せだと何も変わらない。
自分で動かないと、未来は作れない。
それを気づかせてくれた2年でした。
-- 事故をきっかけに成熟した民主主義を考えるようになったのでは?
私たち日本人にはターニングポイントになったと思いますよ。
あの事故が。国任せでは自分たちの未来は作れないと、一部の人がちゃんと気づいて行動を起こしたきっかけになったと思うし。
あと、環境NGOも社会に必要とされるために、結果を見せていかなければならないですしね。
-- 今後の活動の方針は?
放射能汚染に関しては、うちのような小さな環境NGOが続けていけるかどうかは厳しいと思いますね。
でも、グリーンピースなどと協力しながら発信していけたらなと思います。
もっと声を上げていくこと、市民の声を集めて、連携して、そして政府にプレッシャーを与えていくのは必要ですね。
-- 日本の海岸線の70%がコンクリート?
日本ってとっても海岸線が長くて、世界6位の長い海岸線を持つ海洋国家なんですよ。
なんだけど、海岸線を見てみると自然に配慮した街づくりにはなってなくて、海岸線の70%以上はコンクリートで覆われているといわれています。
海とのかかわりあい、海へのアクセスが遮断されるかもしれない、ここへの問題提議もしていきたいですね。
日本は美しい島国でありたいって本当に思います。
コンクリートで覆われた砂浜や海の景観を、今後そのまま子供たちに残していくことが、たとえ防災、減災とはいえ、ほんとうにいいのかどうかって悩みます。
そもそも自然をコントロールすること自体どうなんだろうって考えますね。
-- 結局は自分たちに返ってくる
サーフィンをやっているからこそ思うんですが、自然からの学びや癒しはお金では買えないんですよ。
私たちの世代が搾取して、子どもたちの世代に残せないのは本当にいやです。
お魚が獲れなくなるのもそうですし。
海に携わる人間として、海はみんなのモノ、みんなの資源なので、楽しさや感動を次世代にどうやって引き継いでいくか、暮らしと密着させて提案していきたいですね。
声を荒げて反対って叫ぶより、こっちの方がいいよね! って感じで、開かれた場所でオープンに発信していけば、共鳴、共感してくれる人がつながって、大きなムーブメントになっていくと思うんです。
-- 海の素晴らしさって?
すごく未知の世界で、海ってすぐ情景が変わるんですよ。
自然には逆らえないっていうか、自分が無力だなと海にいると感じますし、海の中では誰もが平等で、肩書とか年齢とか性別とか、海の中では関係ないんですよ。
母なる海ということで、魂と細胞が浄化されますね。
-- 海が好きだからいまこの仕事をしているんです。海を守る仕事を
環境問題に取り組むうえで、大切にしているのは、自分自身も楽しんで、それを人に伝えられることだと思います。
環境保護って暗い悲しい辛い現実の方が多いからこそ、私としては、サーフィンをして気持ちよく満たされた気分になって、日々の暮らしを楽しみながら、バランスよく活動しながら、息切れしないことが大事だと思います。
そして、自分自身が持続可能であるためにも、自分ならではの豊かな暮らし、シンプルで丁寧なライフスタイルをつくっていきたいとおもっています。
-- 環境問題に取り組むことはエライのではなく、当たり前
だれかに頼まれたわけでもなく、情熱や使命にかられてやっている方が多い環境NGO業界ですので、それではマジョリティーの人の暮らしはかわりません。
市民社会の意識の底上げが必要ですよね。
一人一人が自分たちが住みたい未来のビジョンを描いて、自分達で未来をつくる。
そんな風に環境問題に対する考えやアプローチもかっこよく、スマートに、チャーンミングにライフスタイルの一部になっていくといいですね。
2013年5月22日