こんにちは、グリーンピース・ジャパンのインターン、寺倉と高橋です。
自然エネルギーの現場を実際に訪ね、そのしくみや成果、課題を直接うかがう「自然エネルギー現場紀行」。
前回の太陽光に続いて、今回も昨年末に訪れた長野県飯田市での事例をご紹介します。
私たちが訪れたのは飯田市の
今回ご報告するのは、知恵と技術を結集した低価格 中小水力発電機についてです。
私たちのレポート「自然エネルギー現場紀行 小水力発電機 in 長野編」、どうぞご覧ください。
【インターン 高橋のレポートより】――――――
小水力発電機「すいじん3号」の開発を行うのは、株式会社マルヒ。
「すいじん3号」は、精密機械部品加工などを行う地域の企業が中心となって開発を進めており、最大出力3KWで60万円を切る低価格を実現したことで、県内外から注目が集まっています。
(南信州新聞 2012年11月9日付 記事参照)
【写真:「すいじん3号」とその部品。発電機の直径14センチ、プロペラ部分の最大幅は35センチと想像よりもかなり小ぶり】
株式会社マルヒで私たちを迎えてくださったのは、後藤大治社長、そして私たちと株式会社マルヒの方々とを繋いでくださった飯田市の共同受注グループ・ネスクイイダのオーガナイザー木下幸治さんたちでした。
この「すいじん3号」開発プロジェクトは、科学技術振興機構がネスクイイダに「3年で投資金が回収できる機械を」と依頼したことから始まったそうです。
ネスクは飯田市内のマルヒをはじめとする5社の力を結集し、このプロジェクトを成功に導きました。
小水力発電は2010年度のデータを見ると、国内総発電量の1.49%を占める程度に過ぎませんが、これは他の自然エネルギーによる発電量、例えば太陽光発電の0.35%、風力発電の0.37%、地熱発電の0.23%、バイオマス発電の1.03%を上回っています。※
しかし、2010年度末時点で324万キロワットに達した国内の小水力発電設備容量の約9割に当たる305.9万キロワット分の設備は、1990年以前に設置されたもので、それ以降あまり普及していません。(※「自然エネルギー白書」参照)
【写真: 発電には「水力と落差」が必要。小水力発電機の仕組みを説明する後藤社長】
小水力発電は設置場所の地形をほとんど変えることなく、発電するのに必要な水量もあまり必要とせず、安定した電力供給が見込めることから注目を集めていますが、普及が進まない理由のひとつにコスト高さがあるようです。
そこで、その現状を打破すべく開発されたのがこの「すいじん3号」なのです。
このプロジェクトに携わった各社の量産部品と技術を結集したところ、市場価格の200~300万円よりも大幅に安い1基58万円という価格での開発に成功。
市場価格の約5分の1です。
そしてさらにお話を伺うと、発電能力のさらなる改善が可能とのこと。
現在この「すいじん3号」はスリランカなど発展途上国からも関心を寄せられているそうで、小水力発電が世界的に普及する可能性を感じることができました。
今回飯田市で過ごした時間は半日にも満たないわずかな時間でしたが、環境問題を真剣に捕らえ、改善しようと実際に行動している人がこんなにもたくさんいるのだということを肌で感じることができました。
この飯田市で行われているような取り組みが世界各地で行われ、いつか世界全体を覆いつくすほど大きな力になる日も来るのかもしれません。
私が自然環境改善のためにできることは多くないですが、それでも自分に今できることを行い、その大きな力の一部になりたい――学びが多く、充実した飯田市訪問でした。
【インターン 寺倉のレポートより】――――――
「すいじん3号」の開発について、マルヒの後藤社長と、ネスクイイダの木下さんにお話しを伺いました。
Q: 小水力発電機を開発された背景を教えてください。
A: 長野県の信州エリアは精密機械で有名ですが、飯田市もそういった中小の部品メーカーが多数あります。
中小企業それぞれが持っている専門技術や部品製造の設備を合算すると、とても大きなメーカー並みの製品開発力に匹敵します。「すいじん3号」はそういった企業の連携プロジェクトの一つです。
大学で小水力発電機を実験開発していた研究者が「この地域ならできる」と思い、科学技術振興機構を通して発注依頼をしてきたのが始まりです。
「3年で収益がでる発電機」という依頼でしたので、逆算すると、本体は水車付きで60万円以下で製造しなければなりません。
もし発電機を一から作るとなると生産する機器の購入だけで数千万円もかかってしまい、とても無理な注文なのですが、飯田市には量産のモーターやその部品を製造する企業があり、すでに必要な機器を保有していたのです。
「各社の部品や設備を活用することで、コストを抑えた開発が可能になりました。
現在5社が開発に携わっています。
【写真:与えられた厳しい条件をクリアする製品を、限られた工期の中で形にし、実験と改良を重ねる皆様】
Q: どんな環境に小水力発電「すいじん3号」は適していますか?
A: 大きな河川が無くても、数キロワットを発電可能な水が流れるところは日本全国にあります。
有効落差が1メートルあれば1kwの発電が可能です。
例えば農業用水を堰き止めるなどして幅14センチの発電機の中に勢いよく水が流れるようにさえできれば、発電できるのです。
もともとは寒冷地のハウス栽培など農業用の熱源にするなどの目的で研究が始まりました。
しかし今では日本国内だけでなく、まだ電気が普及していない発展途上国からも問い合わせをいただいており、可能性を感じます。
Q: 河川を利用するとなると、水利権や地主さんの許可など、難しい問題がありそうですが。
A: 自治体から使用許可を得るには一級河川だと10年、農業用水は1年かかると言われています。
小水力発電の場合は少ない水量で発電できるので、工場の排水や、水を大量につかう食品産業などでの利用も考えられます。
すでに、ある大手自動車メーカーが自社工場の排水を利用して、この発電機を使うことを検討されています。
Q: 昨年11月に公開実験を行われて、その後の実証実験を重ねていらっしゃるところだと思いますが、いつ頃発売される予定なのでしょうか?
A: 2013年の春を目指しています。本体価格はプロペラ付き58万円で販売予定です。
当面は作った電気をその場で使うシステムですが、パワーコンディショナーの精度が上がってきているので、いずれは売電できるような仕組みにしていきたいと考えています。
(*お話を伺ったのは、2012年12月です)
【写真: わたしたちの質問に丁寧に答えてくださいました】
背景の説明としてネクス‐イイダの木下さんに同市の中小企業の連携プロジェクトのお話しを伺ったのですが、環境モデル都市を掲げる同市だけあって、LED防犯灯を製作し、6年間で12000台販売するなど、興味深い取り組みをされていました。
また、発電機の開発に関わる皆様のお話しは、まるで「プロジェクトX」のようでした。
中小企業がそれぞれ専門の部品や技術を提供して、一つの発電機ができあがる、というストーリーも素晴らしいですが、専門外の部分でさえも「やるしかない」と知恵と工夫で成し遂げて製品化するプロフェッショナルな皆様を見ていると、日本の技術力はこう言った方々が支えているのだなと感じました。
再生可能エネルギー機器の開発では大きく遅れをとってしまった日本ですが、こんな方々の力が発電機の開発へと向かえば、素晴らしい製品が実現するかもしれません。
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【自然エネルギー現場紀行シリーズのブログはこちら】
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